本日のテーマは「脳卒中後の歩行速度のMCIDについて簡単に解説 Part.3 〜歩行速度のMCID〜」です。

今回でPart.3になります。

Part.1とPart.2の概要を紹介させていただきますが、Part.1ではMCIDの概要を、Part.2ではMCIDの注意点を紹介させていただきました。

まず、MCIDはMinimal Clinically Important Differenceの略で、日本語だと臨床的に意義のある最小差、とされています。

MCIDは “対象者、医療者、家族などが改善または悪化したと感じることができる最小差” であり、これを知っておくと臨床判断で役に立ちます。

例えば、100点満点の検査があったとします。

0点が悪い状態で、100点が良い状態を示す検査です。

そして、この検査のMCIDが10点だったとします。

この場合、10点よくなれば患者さんが「よくなった」と感じる、10点悪くなれば患者さんが「悪くなった」と感じる可能性が高いことを示しています。

ただし、MCIDの数値だけ把握していてもきちんと使うことはできない、というのが注意点としてお伝えした内容でした。

MCIDは、研究の方法やサンプル、アンカーが何かによって異なるので、これらが異なれば数値も異なってきます。

したがって、同じアウトカムのMCIDであったとしても、研究論文によって数値が違う、ということはよくあります。

そして方法やサンプル、アンカーがなんだったのかということを知った上でないとMCIDをきちんと臨床で使うことができないので、原著論文で確認しましょうという話もさせていただきました。

詳細が気になる方はPart.1やPart.2の配信をご確認ください。

今回は脳卒中患者さんの歩行速度のMCIDについて3つの研究をもとに紹介させていただきます。

Fulk GD (2011) の報告

まずはFulk GD (2011) が報告した歩行速度のMCIDを紹介します。

こちらの研究では、61.8歳前後の歩行速度 0.56 m/sの亜急性期脳卒中患者さんを対象にしています。

アンカーは15件法質問紙を使って、患者さんが主観的に感じる歩行の変化を捉えています。

ちなみに15件法の質問紙というのは、15の選択肢がある質問紙です。

この研究における15の選択肢は、0を中心に+7から-7まで設定されています。

0が「変化なし」、+7が「とてもいい」、-7が「とても悪い」になっており、0から+7もしくは-7の方向に向かって「少しいい」とか「悪い」とか、段階が刻まれています。

そして、患者さんに「理学療法を開始してから、歩行能力に変化はありましたか?歩行能力に変化があったかどうか、以下の選択肢の中から1つ選んでください」と伝えて、歩行状態の変化について答えてもらう、というやり方です。

この研究では、15件法において5レベル以上の変化をアンカーとし、5レベル以上の改善を実感したグループと5レベル未満だったグループの患者さんのそれぞれに歩行速度を調べ、MCIDを算出しています。

ちなみに+5は「かなり良くなった(a good deal better)」、-5は「かなり悪くなった(a good deal worse)」とされています。

結果として、歩行速度のMCIDは 0.175m/s であると報告されています。

歩行速度は「距離(m)/時間(秒)」で計算できますので、例えば10mを10秒で歩く人の歩行速度は 1.0m/s になります。

0.175m/s の変化というのは、10mを18秒で歩いていた人が10mを13.5秒くらいで歩けるようになることを示しています。

なので、18秒で歩いていた人が13.5秒くらいで歩けるようになった時に「かなり良くなった」と感じる可能性が高いということです。

ちなみに、この研究では患者さんの主観的な歩行の変化だけでなく理学療法士の主観的な歩行の変化も調べています。

理学療法士の方は 0.19m/s でした。

若干ではありますが、理学療法士と患者さんの感じ方にはズレがあるようです。

注意点としては、亜急性期の患者さんが対象であること、歩行速度が元々0.8m/sとか速い患者さんには適さない可能性があるという点です。

Bohannon RW (2013) の報告

続いてBohannon RW (2013)が報告した歩行速度のMCIDを紹介します。

こちらは62歳前後、歩行速度 0.18 m/s 前後、急性期脳卒中患者さんを対象にしています。

この研究ではアンカーが “患者さんの主観的な変化” ではなく、FIM(Functional Independence Measure)の歩行項目における2レベル以上の変化とされています。

このように、主観的な変化ではないアウトカムをアンカーにする場合もあります。

ですので、Part.2の注意点でお伝えしたように、この研究で算出されたMCIDというのは「患者さんが良くなったと感じるMCIDではない」ということになります。

FIMは7段階で全介助から自立までの日常生活動作(Activity of Daily Living: ADL)自立度を判定するものです。

7段階は、全介助、最大介助、一部介助、軽介助、監視・準備、修正自立、自立、です。

2レベル以上の改善というのは、例えば軽介助(4点)から修正自立(6点)に上がるとか、一部介助(3点)から監視・準備に上がることを指します。

2レベル向上した患者さんと、2レベル向上しなかった患者さんのそれぞれの歩行速度を調べ、MCIDを算出しています。

結果として、歩行速度のMCIDは 0.13m/s であると報告されています。

0.13m/s の変化というのは、10mを55秒で歩く人が10mを32秒くらいで歩けるようになることを示しています。

なので、55秒で歩いていた人が32秒くらいで歩けるようになった時、FIMの歩行項目が2レベルくらい向上している可能性が高いことを示しています。

ただし、こちらは急性期で、もともとの歩行速度が 0.18 m/s 前後というゆっくり歩く患者さんを対象にした研究であるということに注意が必要です。

慢性期の患者さんや、歩行速度が速い方には適さないかもしれませんし、そもそもADLがすでに高いレベルにある患者さんにとっては適用が難しくなります。

MCIDを臨床で使うために

歩行速度のMCIDについてパート3に分けて紹介させていただきました。

当初は今回のPart.3部分だけ紹介しようかなと思っていたのですが、MCIDは表面上の数値だけでなく算出プロセスが大事であることも含めて情報共有する必要があると思ったので、3つのパートに分けました。

繰り返しになってしまいますが、MCIDは数値だけでなく、原著論文を読んで、どのようなプロセスを経て算出された数値なのかを把握しておくことが大事なポイントです。

正しくMCIDを把握しておくことが患者さんの評価に活きて、患者さんとのより良いリハビリテーションにつながると思います。

このシリーズで紹介した内容が先生方の臨床に役立てば嬉しいです。

本日は「脳卒中後の歩行速度のMCIDについて簡単に解説 Part.3 〜歩行速度のMCID〜」というテーマでお話しさせていただきました。

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2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!

参考文献

Fulk GD, Ludwig M, Dunning K, Golden S, Boyne P, West T. Estimating clinically important change in gait speed in people with stroke undergoing outpatient rehabilitation. J Neurol Phys Ther. 2011 Jun;35(2):82-9.

Bohannon RW, Andrews AW, Glenney SS. Minimal clinically important difference for comfortable speed as a measure of gait performance in patients undergoing inpatient rehabilitation after stroke. J Phys Ther Sci. 2013 Oct;25(10):1223-5.