脳卒中患者さんに対するリハビリの方法は、たくさんあります。

基本的には、患者さんに対してリハビリの選択肢を豊富に用意できた方がいいです。

理由は、”何にでも効く” というリハビリがないからです。

患者さんの状態や目標に合わせて、リハビリを選択する必要があります。

…という話を昨日させていただきました。

リハビリの選択肢が複数あれば、その中からひとつリハビリを選ぶことになります。

このとき、リハビリの “メリットとデメリット” について理解しておかなければ適切にリハビリを選ぶことができません。

本記事では、絶対的なメリットとデメリット・相対的なメリットとデメリットの2つを、ケーススタディを通して紹介します。

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リハビリの選択で押さえておくべき “メリットとデメリット”

メリットとデメリットは大きく分けて2種類あります。

絶対的なメリットとデメリット
ひとつのリハビリ方法がもともと持っているメリットとデメリット

相対的なメリットとデメリット
他のリハビリと比べたり、特定の状況において生じるメリットとデメリット

この2つを、修正CI療法、ミラーセラピー、電気刺激を例に挙げながら紹介していきます。

絶対的なメリットとデメリット

これは「ひとつのリハビリ方法がもともと持っているメリットとデメリット」を指します。

それぞれのリハビリではこのようになります。

修正CI療法

メリット
①日常生活における麻痺手の使用状況が改善しやすい
②運動課題の練習をするのでできることが増えていく実感がある

デメリット
①集中的なリハビリを要することが多い
②非麻痺側を日常生活で使用できないようにしなければならない
③適応基準があり、一般的に軽度の運動障害を持つ患者さんしか行えない

ミラーセラピー

メリット
①麻痺手の運動機能(単関節運動や分離運動など)の向上を期待できる
②重度の運動障害を持つ患者さんに対しても有効

デメリット
①リハビリをしている感覚が弱い
②視覚と体性感覚の不一致により違和感を感じることがある

電気刺激

メリット
①麻痺手の運動機能(単関節運動や分離運動など)の向上を期待できる
②重度の運動障害を持つ患者さんに対しても有効
③自分で動かせない患者さんの筋肉を収縮させることができる

デメリット
①禁忌に該当する患者さんには実施できない
②筋収縮を伴う場合は筋疲労が起こる可能性がある
③火傷などの有害事象が発生する可能性

これらのメリットとデメリットは、それぞれのリハビリを行う上で理解と説明が必須になります。

相対的なメリットとデメリット

これは「他のリハビリと比べたり、特定の状況において生じるメリットとデメリット」を指します。

患者さんのリハビリプログラムを考えるとき、複数のリハビリの中から選択すると思います。

この選択肢A、選択肢B、選択肢Cをピックアップしたときに生じる、特定の状況におけるメリットとデメリットです。

ケーススタディを通して説明します。

モデルケース
<基本情報>
▶︎基本情報:Aさん 男性 65歳
▶︎診断名:右被殻出血(42病日)
▶︎後遺症:運動障害、歩行障害
▶︎DEMAND:左手をもう少し動かせるようになって、食事の時に左手を使えるようになりたい
<初期評価>
▶︎Motor Activity Log(以下、MAL)
AOU: 2.4点
QOM: 2.4点
▶︎Action Research Arm Test(以下、ARAT)
23点
▶︎Fugl-Meyer Assessment Upper Extremity(以下、FMAUE)
32点

<リハビリプログラム候補>
①修正CI療法(Bang DH, 2016)
②課題指向型訓練(Hsieh YW, 2017)
③ミラーセラピー+筋電トリガー式電気刺激(Schick T, 2017)

<エビデンス>
①修正CI療法(Bang DH, 2016)

FMAUE平均スコア34.7点、MAL-AOU平均スコアが1.88の発症から平均8.9週の回復期脳卒中患者に対し体幹拘束を伴う修正CI療法を60分、週5回、4週間実施した結果、FMAUE平均スコアが49.5点に、MAL-AOU平均スコアが3.01へ向上
②課題指向型訓練(Hsieh YW, 2017)
FMAUE平均スコア29.07点、発症から平均2.21ヶ月の回復期脳卒中患者に対し課題指向型訓練を90分、週5回、4週間実施した結果、FMAUE平均スコアが39.6点に向上
③ミラーセラピー+筋電トリガー式電気刺激(Schick T, 2017)
FMAUE平均スコア28.0点、発症から平均51日の回復期脳卒中患者に対し筋電トリガー式電気刺激を併用したミラーセラピーを30分、週5回、3週間実施した結果、FMAUE平均スコアが41.67点に向上

いずれもFMAUEスコアの向上が期待できます。

ただし、このように具体的なリハビリプログラムを並べ他のリハビリと比べてみると、相対的なメリット・デメリットが新たに生まれます。

修正CI療法(Bang DH, 2016)

相対的なメリット
① 他の選択肢よりもMALスコアの向上、つまり麻痺手を日常生活で使用できるようになる可能性が高い
②3つの選択肢の中で、FMAUEスコア、つまり運動機能の向上が最も大きい
③3つの選択肢の中で、研究の対象者が症例Aさんの状態に最も近く、高い再現性を期待できる

相対的なデメリット
①他の選択肢とは異なり、1日5時間の非麻痺側の拘束をしなければならない

課題指向型訓練(Hsieh YW, 2017)

相対的なメリット
(特になし)

相対的なデメリット
①1日あたり90分(4〜5単位)のリハビリ時間を確保する必要があるため、理学療法や言語聴覚療法との調整が必要
②3つの選択肢の中ではFMAUEスコアの改善幅が一番小さい
③運動機能の向上とともにMALスコアの向上も期待できるが、MALスコアの変化が報告されておらず、修正CI療法と比べると不確実性が高い

ミラーセラピー+筋電トリガー式電気刺激(Schick T, 2017)

相対的なメリット
①3つの選択肢の中で1日あたりの時間と期間が最も短く、少ない資源の中で麻痺側上肢機能の向上が期待できる
②1日あたりの時間が30分で済むため、余った時間で自主トレーニングの指導など他のアプローチが行える

相対的なデメリット
①運動機能の向上とともにMALスコアの向上も期待できるが、MALスコアの変化が報告されておらず、修正CI療法と比べると不確実性が高い
②麻痺側上肢の重症度から考えるとAさんの状態に最も遠く、相対的に見たときに再現性に難がある

このように、実際にAさんに対するリハビリプログラムの選択肢を並べたとき、新たに生じるメリットとデメリットがあります。

絶対的なメリット・デメリットはいかなる状況でも押さえておかなければいけないものですが、相対的なメリット・デメリットは、リハビリプログラム候補を並べたとき初めて生まれるものです。

いずれも大事なことなので、リハビリプログラムを選ぶときには考慮しましょう。

絶対的・相対的の2つの側面からメリットとデメリットを整理する

近年ではShared Decision Making(以下、SDM)という言葉もよく聞かれるようになりました。

SDMではセラピストが患者さんにリハビリの選択肢を並べてお伝えし、それぞれのメリットとデメリットを説明するフェーズがあります。

このとき、セラピスト側がメリットとデメリットについて理解しておかないと、患者さんに理解していただけるように説明することができません。

また、状況によりインフォームドコンセントモデルを使った意思決定をする場合もあると思いますが、この時もやはりセラピストがそれぞれの選択肢のメリットとデメリットを理解しておかなければ適切な選択が行えません。

メリットとデメリットを整理する上で、絶対的・相対的の2つの視点を持っておくとまとまりやすいです。

よかったら使ってみてください。

参考文献

Bang DH. Effect of Modified Constraint-Induced Movement Therapy Combined with Auditory Feedback for Trunk Control on Upper Extremity in Subacute Stroke Patients with Moderate Impairment: Randomized Controlled Pilot Trial. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2016 Jul;25(7):1606-1612.

Hsieh YW, Wu CY, Wang WE, Lin KC, Chang KC, Chen CC, Liu CT. Bilateral robotic priming before task-oriented approach in subacute stroke rehabilitation: a pilot randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2017 Feb;31(2):225-233.

Schick T, Schlake HP, Kallusky J, Hohlfeld G, Steinmetz M, Tripp F, Krakow K, Pinter M, Dohle C. Synergy effects of combined multichannel EMG-triggered electrical stimulation and mirror therapy in subacute stroke patients with severe or very severe arm/hand paresis. Restor Neurol Neurosci. 2017;35(3):319-332.