皆さんはリハビリにおける目標設定、どのようにやっていらっしゃいますでしょうか。

リハビリを行うときは基本的に実施計画書を作成すると思うのですが、そこに目標を記入するところがあるので、セラピストの先生であれば必ず目標設定を行うのではないかと思います。

私自身もリハビリをするときは基本的に目標設定を患者さんと一緒に行なって、目標に向かって一緒に進んでいくようにしているのですが、一方で、目標設定の時間対効果を考えると、必ずしもやらなくていいのでは、と思っています。

目標設定ってしっかりやるととても時間がかかります。

患者さんのリハビリ時間もその分削られてしまいますので、その点を患者さんがどう考えるかなんですよね。

「しっかりと目標を整理して目標に向かって進んでいきたい」という患者さんもいれば、「なるようにしかならないから目標立てるのに時間かけなくていいよ」という患者さんもいらっしゃると思います。

実際、Plant SE (2016) のシステマティックレビューでは、目標設定に関する患者さんの意見として、「スタッフからのフィードバックで十分、目標設定の必要性を感じない」とか「目標設定の有無にかかわらず回復する」などの意見をあったことを報告しています。

今回は目標設定について、効果のエビデンスを紹介しつつ、必要性について考えたいと思います。

リハビリにおける目標設定に期待される役割

Levack WM (2006) は、リハビリの目標設定に関するシステマティックレビューを実施し、リハビリにおける目標設定(Goal planningなので “目標計画” の方が適切な用語かもしれません)の目的として次の4つを挙げています。

①患者さんのアウトカムを改善すること
②患者の自律性を高めること
③アウトカムを評価すること
④契約、法律上、または専門家としての要求に応える

おそらく、私たちセラピストが患者さんの目標設定をするときも同じような目的で目標設定をしているのではないかと思います。

まずは実施計画書に書かないといけない、という前提がありますが、目標に向かって進めているのかどうかを評価したり、目標に向かって患者さんに主体的にリハビリに取り組んでいただくことでリハビリ依存を防いだり、目標意識を持ってリハビリに取り組んでいただくことでより良い改善を目指したりするために目標設定をしているのではないでしょうか。

ですが、この4つはあくまでも “目標設定に期待される役割” です。

これが2006年のシステマティックレビューなのですが、2015年に同じ著者の先生が実際に目標設定によってこういった効果が得られるのかどうかを調査していますので、そちらの研究を紹介します。

リハビリにおける目標設定のエビデンス

Levack WM (2015) のコクランレビューでは、目標設定の効果について検証しています。

この研究のリサーチクエスチョンは「リハビリーションが必要な患者さんに対する構造化された目標設定は、目標設定をしない場合や構造化されていない目標設定を行う場合などと比べて、健康関連QOLや患者さんの感情、ICFの心身機能・身体構造面、活動面、参加面などに有益か」でした。

ざっくり説明すると、リハビリにおける目標設定が有益かどうか調べた研究、ということになります。

これはランダム化比較試験、準ランダム化比較試験、クラスターランダム化比較試験を対象にしたシステマティックレビューです。

ケースシリーズなど他の研究デザインによる研究は含まれていません。

また、即時効果を検証した研究も除外されています。

リハビリとして中・長期的にみたときに目標設定が効果的であるか、というのを調べています。

ちなみに、構造化された目標設定というのは、Goal Attainment Scaling (以下、GAS)やCanadian Occupational Performance Measure (以下、COPM)、’SMART’ goal planningなどを用いた目標設定のことです。

なんとなく目標設定をするのではなく、一定のやり方にしたがって目標設定をしているものです。

結果として、「目標設定をしない場合と比べて、構造化された目標設定を行う場合、健康関連QOLと自己効力感を向上させるものの、ICFの心身機能・身体構造面、活動面、参加面などその他のアウトカムの向上に寄与するとはいえない」という結果になりました。

健康関連QOLや自己効力感を向上させる可能性はありますが、一方で、目標設定を行うことで心身機能・身体構造面、活動・参加面に関して有益ではあるとは言えなさそうです。

また、詳細は割愛しますがSmit EB (2019) のシステマティックレビューでも似たような結果を報告しています。

これらを踏まえて、目標設定をどう捉えるかですよね。

健康関連QOLや自己効力感を向上させることを目的に目標設定を実施するというのもアリだと思いますが、QOLや自己効力感を高めるアプローチは他にもあるので、目標設定に拘らなくても…という感じはします。

目標設定をすることで明らかに患者さんのパフォーマンスを向上させるのであれば、目標設定をしっかりやった方がいいと言い切れるのですが、現状のエビデンスからはそこまで言えなさそうです。

一方で、目標設定によって即時的に運動パフォーマンスの向上を報告している研究はあります。

詳細は割愛しますが、これらのエビデンスから、課題指向型訓練などを行う中で、リハビリセッション中の目標設定については効果があると言えそうです。

ただし、GASやCOPM、SMARTなどを用いた中・長期的な目標設定については有効性について疑問が残るところかなと思います。

目標設定をするかどうかを患者さんと話し合おう

GASやCOPM、SMARTなどを用いた構造化された目標設定をされている先生には共感いただけると思うのですが、目標設定はとても時間がかかります。

患者さんのリハビリ時間も削ることになります。

そして健康関連QOLや自己効力感に対しては有益そうですが、目標設定によって心身機能や身体構造面、活動・参加面など患者さんが気になるアウトカムの改善は望めなさそうです。

これは個人的な意見ですが、目標設定については時間対効果が高くはないと思っているので、患者さんに目標設定のメリットとデメリットを伝え、その上で目標設定するかどうかを判断した方が良いのではないかと思います。

ただ、時間対効果については良くないと思ってますが、私は基本的に目標設定を実施しています。

これは患者さんの目標に向かって漏れなく問題点を把握し、見当違いなアプローチをしないようにすることとか、一般的な経過と違う経過になった場合に「なぜそうなったのか」を考えることによって患者さんの個別の問題点に行き着くことがあると感じているからです。

ただ、患者さんに目標設定のメリットとデメリットは説明して、目標設定に時間を割くかどうかを話し合っている、というやり方です。

私のやり方が良いかどうかはわからないですが、セラピストが”目標設定したいから目標設定する” とか、”みんなやっているから目標設定する” とか、そういう意思決定ではなく、こういったエビデンスを踏まえ、患者さんと話し合って目標設定をするかどうか決めていけたら良いのではないかと思います。

本日は「リハビリの “目標設定をしない” という選択肢」というテーマでお話しさせていただきました。

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2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

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それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!

参考文献

Plant SE, Tyson SF, Kirk S, Parsons J. What are the barriers and facilitators to goal-setting during rehabilitation for stroke and other acquired brain injuries? A systematic review and meta-synthesis. Clin Rehabil. 2016 Sep;30(9):921-30.

Levack WM, Dean SG, Siegert RJ, McPherson KM. Purposes and mechanisms of goal
planning in rehabilitation: the need for a critical distinction. Disabil
Rehabil. 2006 Jun 30;28(12):741-9.

Levack WM, Weatherall M, Hay-Smith EJ, Dean SG, McPherson K, Siegert RJ. Goal setting and strategies to enhance goal pursuit for adults with acquired disability participating in rehabilitation. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Jul 20;(7):CD009727.

Smit EB, Bouwstra H, Hertogh CM, Wattel EM, van der Wouden JC. Goal-setting in geriatric rehabilitation: a systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2019 Mar;33(3):395-407.