本日のテーマは「脳卒中後の歩行速度のMCIDについて簡単に解説 Part.2 〜MCIDの注意点〜」です。

昨日のPart.1ではMCIDの概要を紹介させていただきました。

MCIDはMinimal Clinically Important Differenceの略で、日本語だと臨床的に意義のある最小差、とされています。

簡単にまとめると、MCIDは “対象者、医療者、家族などが改善または悪化したと感じることができる最小差” であり、これを知っておくと臨床判断で役に立つ、という話をさせていただきました。

詳細が気になる方はPart.1の記事をご確認ください。

MCIDは便利な指標ですし、自分の職種に関連する検査のMCIDを把握しておいた方がいいと思います。

例えば理学療法士さんであれば歩行やバランス検査、つまり歩行速度のMCIDや6分間歩行試験のMCID、Berg Balance ScaleのMCIDを知っておいた方がいいですし、作業療法士さんであればAction Research Arm TestやFugl-Meyer Assessment Upper ExtremityのMCIDを知っておいた方がいい、ということです。

MCIDは最近メジャーになってきた指標であり、いろいろなWebサイトやSNSで情報を入手できるようになりましたが、その数値が算出された背景、というのも知っておく必要があると思っています。

今回はMCIDにまつわる注意点を紹介させていただきます。

MCID失敗あるある事例

セラピスト「勉強しよう!…なるほど、歩行速度のMCIDは0.17m/sなんだ!」

臨床にて…

セラピスト「Aさん、0.17m/s 速くなれば効果を実感できますよ!トレッドミル頑張りましょう!」

患者Aさん「じゃあトレッドミルやりましょう!」

リハビリ1ヶ月後

患者Aさん「全然速くなった気がしないんだけど…」

セラピスト(おかしい、0.17m/s以上速くなっているのに…)

MCIDの勉強しはじめは、よくこういうことがあります。

こういう失敗事例の原因について、2つとりあげます。

失敗の原因① 対象者違い

ひとつ目は「対象者違い」です。

MCIDは数値を算出するために患者さんからデータをとって、計算しています。

なので、「○○病を持っている、平均年齢○歳、発症からの期間○ヶ月の患者さんから得られた」MCID、ということになります。

ですので、パーキンソン病の患者さんにおける歩行速度のMCIDの数値と、脳卒中患者さんにおける歩行速度のMCIDの数値は異なるということはよくあります。

脳卒中患者さんの歩行速度の評価を行うのに、パーキンソン病の患者さんから得られたMCIDを適用しようとしてもうまくいきません。

また、同じ疾患の患者さんから得られたMCIDだとしても、病期によって異なることがあったり、障害の程度が大きいか小さいかによっても異なることがあります。

したがって、自分が調べたMCIDの値が、どういう患者さんを対象にして得られた数値なのかというのを把握しておくことが必要です。

失敗の原因② アンカー違い

ふたつ目は「アンカー違い」です。

MCIDを算出する方法として、「アンカー法(anchor-based approach )」と「分布法(distribution-based approaches)」があります。

一般的にはアンカー法が用いられることが多いです。

アンカー法で算出するときは、検査の結果(変化)とアンカーになる指標が存在します。

例えば、「歩行速度」と「患者さんの主観的な改善の程度」などです。

この場合は、”患者さんがよくなったと感じられる最小差” が算出されます。

一方で、「歩行速度」と「医療者の主観的な改善の程度」、あるいは「歩行速度」と「患者ご家族の主観的な改善の程度」という場合もあります。

この場合は、”医療者がよくなったと感じられる最小差” や “ご家族様がよくなったと感じられる最小差” が算出されます。

つまり、自分が調べたMCIDが ”医療者がよくなったと感じられる最小差” だった場合、”患者さんがよくなったと感じられる最小差” とは異なるので、患者さんの検査結果上、自分が調べたMCIDを超えているのに患者さんがよくなったと感じられない、というケースがあります。

ですので、自分が調べたMCIDの値が、どのアンカーをもとに算出されたものかというのを把握しておくことが必要です。

まとめ:MCIDを有効に使おう

最後、ざっくりとした説明になりますがその他としていくつか紹介します。

まず「研究の妥当性」があります。

MCIDを算出した研究の質の問題です。

バイアスリスクの高いセッティングで行われた研究であれば、そもそもMCIDの値の信頼性が低くなります。

また、「感度・特異度」もあります。

MCIDを算出するときはROC曲線というものを使って算出されますが、このとき感度・特異度という指標を使って算出されます。

この感度・特異度を理解しておかないと本質的にMCIDの理解をすることが難しかったりします。

MCIDはサンプル(対象者)、方法、アンカーの3つの要素によって決定づけられるとされています。

ですので研究論文によってMCIDの値はまちまちです。

そもそもの研究論文を読むスキルがないとMCIDを本質的に正しく理解することは難しいです。

とは言え、MCIDを知っているのと知らないのとでは臨床判断の精度が変わってくると思いますので、まずはMCIDに触れることが大事だと思います。

次回は歩行速度のMCIDを紹介しますので、よかったら明日も配信チェックしていただけましたら嬉しいです。

本日は「脳卒中後の歩行速度のMCIDについて簡単に解説 Part.2 〜MCIDの注意点〜」というテーマでお話しさせていただきました。

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2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

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それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!