私は経験11年目になりましたが、”評価” ってとても難しいなと今でも思います。

評価と似たような言葉で検査や測定、などがありますが、これらは違うものを意味しています。

これは玉利先生のセミナーでお教えいただいたことですが、測定は「ある量の大きさを装置・機器を用い、ある単位を基準として直接測ること」、検査は「原因の確定」、そして評価は「患者さんの有する障害の価値づけあるいは意味づけ」、です。

“評価” は患者さんの価値観が関わる領域になりますので、 “検査” “測定” の結果をもとに、患者さんとのコミュニケーションをとりながら “評価” を進める形になります。

ただ、学生時代に教わるような “評価” というのは、実際は “検査” “測定” が多いのではないかと思います。

”検査” “測定” がきちんと行えても、それが患者さんのリハビリテーションに役立たなければ意味ないわけですが、リハビリテーションに役立たせる上では、 “評価” が大事になってきます。

もちろん”検査” “測定” も含めての “評価” になるわけですが、今回は、”評価” において大事だと思う3つの視点について、私もまだまだ勉強の途中ではありますが、紹介させていただきます。

脳卒中リハビリの “評価” に必要な3つの視点

最初に結論ですが、3つの視点として「患者さんの価値観を把握する」「全体を見る」「定性的なデータも定量的なデータもとる」を紹介します。

ざっくり説明すると、「検査と測定をしっかりやって、患者さんとコミュニケーションをとりながら主要な問題点を特定しましょう」ということになります。

それぞれについて紹介させていただきます。

3つの視点について紹介

まず1つ目は「患者さんの価値観を把握する」です。

そもそもリハビリテーションを通してどういうふうになりたいのか、患者さんの「なりたい姿」とはどういうものなのか、というのを把握します。

ありがちなミスですが、歩行が自立していない患者さんに対してPTが「綺麗になるけるようになること」を目指し、監視下ではある程度綺麗に歩けるようになったものの、歩行が自立しなかった、というようなケースです。

患者さんは「綺麗に歩けるようになることよりもまず一人で歩けるようになることが大事」という価値観だったのに、それに気付かず、PTが良いと思うことをやってしまい、患者さんの目標に近づけなかった、という例です。

あるいは、患者さんは「非麻痺側でもいいから、一人で生活できるようになりたい」と思っているのにOTさんが麻痺側上肢の運動機能向上を目指してリハビリし、実際に麻痺側上肢の運動機能は向上したけどADLは自立せず、患者さんひとりで洋服を着るとか整容動作をすることができないまま退院してしまった、というようなケースです。

これらは患者さんの価値観を把握できていないことによるミスです。

上記の例のPTさんもOTさんも、動作分析を行なって動作における問題点を適切に把握していたし、リハビリも適切に行なったものの、そもそもセラピストが考える主要な問題点が患者さんにとっては主要な問題点ではなかった、というケースです。

検査・測定によって問題点はたくさん出てきますが、「何が主要な問題点なのか」を特定する上では患者さんの価値観が大きく関わってきます。

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まずはコミュニケーションを通して患者さんの価値観を把握し、次の「全体をみる」につなげていきます。

2つ目が「全体を見る」です。

患者さんの「なりたい姿」や目標を達成するために必要な要素を網羅的に把握し、全体像の把握に漏れがないようにします。

ありがちなミスとして、患者さんのご希望が「自宅でご飯を食べられるようになりたい」だったときに、PTさんならリビングー自室間の移動の自立を、OTさんは食事動作の自立を、STさんは嚥下障害の改善を目指し、それぞれの目標が達成されたものの、そもそもご飯を作ることができず、自宅でご飯を食べられるようにならなかった、というようなケースがあります。

これは患者さんの希望、「なりたい姿」の達成に必要な要素を網羅的に把握できなかったために生じるエラーです。

なので患者さんの希望や「なりたい姿」を達成するために必要な要素は何かという全体像を把握することが大事になります。

そして全体像を把握するためにはロジカルシンキングのスキルが必要になってきます。

ここではロジカルシンキングのスキルまで言及することはできないですが、全体像を把握するためにロジカルシンキング は有益であるということだけ把握しておいていただけたらと思います。

最後の3つ目は、「定性的なデータも定量的なデータもとる」です。

これは検査・測定に関わるところです。

定性的なデータというのは、数値にはできないデータのことで、例えば患者さんやセラピストの主観的な意見とか、感じ方とか、そういったことが当てはまります。

定量的なデータというのは、数値にできるデータのことで、例えば関節可動域とか、筋出力とか、そういったことが当てはまります。

関節可動域などでは定量的なデータ、例えば足関節背屈 10°、のように数値に表すことが簡単ですが、一方でセラピストが感じるエンドフィールの感覚や、患者さんが感じる硬さなどの定性的なデータは抜け落ちがちです。

また、歩行でいえば患者さんの「転びそうな気がする」という主観的な怖さを記録しておくことがありますが、これは定性的なデータです。

このような転倒への主観的な怖さを転倒恐怖心とか、転倒への自己効力感と言いますが、これはFall Efficacy Scaleといった検査バッテリーで数値にすること、つまり定量的なデータとしてとることが可能です。

このように、一見すると定性的なデータとしてしか取れないようなものでも、実は定量的に記録することができる検査バッテリーというのは存在しています。

というかほとんどの要素について定量的に記録できる検査バッテリーが存在していると思うので、いちど調べてみることをお勧めします。

そして、先に「全体を見る」ことの大事さをお伝えしましたが、全体をみて目標達成の要素を整理した後、それぞれの要素に対して定量的・定性的な検査・測定を行うというイメージです。

患者さん中心のリハビリテーションのために

ここまで「患者さんの価値観を把握する」、「全体を見る」、「定性的なデータも定量的なデータもとる」を紹介させていただきました。

これらを行うと、患者さんがどういうふうになりたいと思っていて、その目標を達成するために何がどれくらい必要なのかという要件が整理されます。

その要件をもとに、「どのリハビリをやるか」を決めていきます。

リハビリのプログラムを決めるときにはまた患者さんとコミュニケーションをとり、価値観を確認しながら進めていく必要がありますが、まず評価の時点で患者さんの価値観とズレるような、見当違いの評価になってしまうとその先に進みようがありません。

ですのでまずは評価が大事ですが、そのために今日紹介した3つの視点「患者さんの価値観を把握する」、「全体を見る」、「定性的なデータも定量的なデータもとる」を意識するというのは、いいのではないかと思います。

本日は「脳卒中リハビリの “評価” に必要な3つの視点」というテーマでお話しさせていただきました。

BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。

2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!