5W1Hというのは一般的にもよく使われているもので、意味は次の通りです。

Who: 誰が
When: いつ
Where: どこで
What: 何を
Why: なぜ
How: どのように

リハビリにおける目標においても、この5W1Hに沿って設定することでメリットがあります。

本日はこちらについて事例を交えながら紹介させていただきます。

目標設定における外的な妥当性と目標設定の失敗例

昨日の朝ラジオで、目標設定の妥当性について2つ紹介させていただきました。

そのうちの1つが “外的な妥当性” 、つまり患者さんのニーズを反映させた目標にすることが大切です、とお伝えしました。

見当違いな目標を設定してしまうと、目標が達成されたのに患者さんのなりたい姿に近づけなかった、ということになりかねません。

例えば、裁縫動作をやれるようになりたいと思っている、左手に運動障害がある脳卒中の患者さんがいたとします。

裁縫動作をできるようになるために左上肢の運動障害を改善させていきましょうということで合意したとします。

でも、ここで「裁縫動作ができるようになる」という目標にしてしまうのは少々危険です。

裁縫動作には色々なやり方があります。

また、どういった針を使うのか、どういった布を使うのか、といった課題・環境設定の違いもあります。

例えば、患者さんは布を左手で持ち上げて、摘んでキープし、右手の針の動きに合わせて左手も布を細かく動かすような、高いレベルの裁縫動作をイメージしているかもしれません。

このレベルの裁縫動作を行う場合、左手のつまみ動作だけでなく、肘関節を屈曲位、肩関節を外転位でキープしつつ、布を細かく動かすための上肢の細かい動きが必要になってきますし、感覚も必要になってきます。

一方で、セラピストのイメージとしては、左手をテーブルに押しつけ、左手とテーブルの間で布を押さえられるようになればOK、と思っているかもしれません。

裁縫動作を行うためには右手で針を操作して、左手で布を固定する必要がありますが、この固定を左手とテーブルの間の圧力で行おうというやり方です。

このレベルの裁縫動作を行う場合、左手のつまみ動作は必要なく、肘関節の伸展や肩関節の伸展の動きが行えればOKです。

このように、「裁縫動作ができるようになる」という目標にしてしまうとセラピストと患者さんの間にイメージのズレが生まれてしまいます。

イメージしている動作が違うのであれば、獲得しないといけない運動・感覚の機能も異なりますし、リハビリの中で練習する課題も違います。

つまり、患者さんの問題点とリハビリプログラムが変わってくることになります。

そして、リハビリをやって左手とテーブルの間に布を押さえて裁縫動作ができるようになったとしても、患者さんとしては「裁縫動作ができるようにならなかった」と思うでしょう。

患者さんにとっては時間とお金を無駄にした、という感覚になるかもしれません。

なので、目標のイメージにズレがないようにすること(=目標設定における外的な妥当性を高めること)はとても大事なことなのですが、ズレをなくすための工夫として5W1Hの目標設定が有効です。

5W1Hの目標設定の事例

重複しますが、5W1Hというのは次のことを意味します。

Who: 誰が
When: いつ
Where: どこで
What: 何を
Why: なぜ
How: どのように

さっきの裁縫動作で具体例を挙げると、次の通りになります。

【ケース1】
Aさんが(Who)日中(When)自宅のリビングテーブルで(Where)、左手で布を摘んで右手の動きに合わせて細かく布を動かしながら(How)お裁縫をできるようになる(What)
理由:Aさんにとってお裁縫が生きがいだから(Why)

また、セラピスト側が考えていた目標を5W1Hに直すと次のようになります。

【ケース2】
Aさんが(Who)日中(When)自宅のリビングテーブルで(Where)、左手で押さえることでとテーブルの間で布を固定して(How)お裁縫をできるようになる(What)
理由:Aさんにとってお裁縫が生きがいだから(Why)

同じ「裁縫動作ができるようになる」ことを意味していますが、内容に違いがあることを確認することができます。

このように5W1Hに沿って目標設定をすることで得られるメリットがもうひとつあります。

具体的な課題・環境をイメージできるという点です。

例えば今回はWhereのところで「自宅のリビングテーブルで」としていますが、リビングテーブルの高さはどれくらいなのでしょうか?

また、リビングテーブルの椅子は高さはどうなのでしょうか?

この高さによって上肢に求められる運動機能が変わってきます。

また、リビングまで安全に移動できるのでしょうか?

歩いて移動するなら安全に歩く能力が求められますし、車椅子で移動するなら自宅の中を車椅子で移動する操作能力が求められます。

この点は理学療法士の先生と意思疎通する必要があり、チームでの連携が求められるところになるでしょう。

また、車椅子がリビングテーブルのしたに入れるのか、といった課題があります。

リハビリ室のテーブルで練習して、裁縫動作ができるようになったとしても、患者さんがご自宅に帰った後に裁縫動作ができなかった、というケースも考えられます。

このように、5W1Hに沿って目標設定をすることで色々な問題を解決することが可能になります。

ちゃんと患者さんとコミュニケーションをとる

まとめると、5W1Hの目標設定を行うことで

①セラピストと患者さんの目標に対するイメージのズレをなくすことができる
②目標を達成するために必要な具体的な課題・環境を確認することができる

といったメリットがあります。

いずれも患者さんの問題点、リハビリのプログラムに影響を及ぼすものになりますので、目標設定の時点、リハビリが始まる前に確認できたら良いのではないでしょうか。

5W1Hに沿って具体的に聴取するためにも、日頃から患者さんとしっかりコミュニケーションをとっておく必要があります。

なんでも話せる関係性になっておくことで、目標設定も円滑に行きます。

ご自身が設定された目標について、5W1Hになっているか、患者さんと目標のズレがないか確認してみてはいかがでしょうか!

本日は「5W1Hの目標設定について簡単に解説」というテーマでお話しさせていただきました。

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それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!