即時効果というのは、1回、1セッションのリハビリで患者さんに生じる変化を指します。

例えばリハビリ前はうまく歩けなかったけど、リハビリ後にうまく歩けるようになった、とか、リハビリ前はうまく手を動かせなかったけど、リハビリ後にうまく手を動かせるようになった、とかそういう変化です。

セラピストとしては自分のリハビリが効果があったのだと嬉しい瞬間です。

私としても、基本的には即時効果を狙って出せるようなセラピストになるべきだと思っています。

しかし、それが全ての状況において当てはまる訳ではないとも思ってます。

今回は、即時効果にこだわりすぎる事による失敗について紹介します。

即時効果にこだわりすぎなくていい理由

即時効果にこだわりすぎなくていい理由はシンプルに “患者さんに不利益になる可能性があるから” です。

目標に向かってリハビリを進めていく上では、その日、そのリハビリごとに目標に向かって進めたのかどうかを確認したい気持ちもわかります。

ですが、その日、そのリハビリごとに必ずわかりやすい変化が起こるとは限りません。

例えば、上肢に運動障害がある患者さんがリーチ動作の獲得を目標にリハビリをしていて、今日は肩関節が20°屈曲できるようになった、とか今日は手指が自分で10°伸展できるようになった、とか明確な変化があればいいのですが、大抵のケースはそこまでよくなりません。

また、一見大きく動かせるようになったとして、実は代償動作が隠れていて、代償動作によって上肢を大きく動かせているだけ、というケースもあります。

そのため、即時効果に頼ってリハビリを進めていく上ではセラピストの検査・測定力が必要になってきます。

要は、変化を正確に捉える力です。

ですが、この変化を正確に捉える力はそんなにすぐに手に入るものではなく、研鑽が必要です。

この力がない状態で即時効果にこだわり過ぎると、次の2つのパターンに陥ります。

ちなみに、この2つのパターン、私が若い頃に陥ったパターンです。

即時効果にこだわりすぎて失敗する2パターン

パターン①

リハビリをやった→即時効果が出なかった→自分の評価が間違っていたのかもしれない→別の仮説を検証するためにアプローチを変える→即時効果が出なかった→(以下、繰り返し)

即時効果を確認できるまで毎回リハビリを変えてしまうことで、中・長期的な効果を期待できなくなってしまいます。

基本的にはエビデンスに基づいてリハビリをしていくべきだと思うのですが、多くのエビデンスは数週間は概ね同じリハビリを繰り返すことで中・長期的な効果を報告しています。

例えば課題指向型訓練を週5回4週間やるとか、トレッドミルトレーニングを週3回4週間やるとか、です。

この「課題指向型訓練」や「トレッドミル」というリハビリの枠組みの中で難易度調整をしたり課題の選択をしたりするので、細かく言えば毎回リハビリの内容は変わるのですが、大枠は変わりません。

毎回リハビリをころころ変えてしまうと、本来、4週間やればこれくらいの効果を期待できるはずだったのに、そこまで到達しなかった、ということになりかねません。

パターン②

リハビリをやった→即時効果が自分では確認できなかった→患者さんに聞いてみよう→リハビリの成功・失敗を患者さんの感想に委ねる→患者さんが変化を感じやすい症状にしかアプローチしなくなる

セラピストに検査・測定力がないため患者さんに感想を聞き、その感想に合わせてリハビリ内容を変えることで、患者さんが変化したと感じやすい症状にしかアプローチしなくなるという問題です。

多くの場合は「楽になった」「軽くなった」「動かしやすくなった」という患者さんの感想に基づいて意思決定をすることになります。

関節運動をするときには、主動作筋と拮抗筋があります。

例えばリーチ動作で手を前に伸ばしていく時は肩関節の屈筋が主動作筋になり、肩関節の伸筋は拮抗筋になります。

拮抗筋である伸筋が固い状態だと手を前に伸ばすのが大変になり「重い」「大変」と言った感覚になり、拮抗筋が緩むことで「楽になった」「軽くなった」という感想につながります。

ですので、この感想を参考にし過ぎると関節可動域とか痙縮などの筋肉の硬さにしかアプローチしなくなってしまいます。

なお、患者さんの問題点は「一次的な問題点」「一次的な問題点に続いて生じる問題点」「一次的な問題点に対する代償戦略」と分かれています。

患者さんの問題点は複数あり、関節可動域制限や痙縮だけを抑えれば全てが解決するわけではないです。

患者さんの感想も大事なのですが、感想に支配されることのないようにしましょう。

だからエビデンスに基づいたリハビリを

以上、即時効果にこだわりすぎなくていい理由と、自分の過去の失敗談を紹介しました。

繰り返しになりますが、基本的には即時効果も出せるし、中・長期的な効果も出せるセラピストになるべきだと思ってます。

ただ、即時的な効果にこだわり過ぎると、患者さんの感想を得られやすい症状にしかアプローチできなくなり、患者さんの本当の問題点を見落としたり、アプローチできないセラピストになってしまいます。

そうならないため、エビデンスを参考にするのが大事です。

例えば課題指向型訓練を週5回、4週間実施することで上肢機能が○○まで向上する、というエビデンスをもとにリハビリを実施することで、即時的な効果が自分の目では分からなかったとしても、4週間後には改善している可能性が高いです。

そうであれば、患者さんにとっては有益ですよね。

本日は「即時効果にこだわりすぎなくていい理由」というテーマでお話しさせていただきました。

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それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!