
脳卒中の後遺症を改善させる方法のひとつに「経頭蓋磁気刺激(TMS)」があります。
これは、脳に直接刺激を与えて脳の活動性を調整することで、リハビリ効果を高めようとするものです。
これまで、TMSは脳卒中後の運動障害だけでなく、歩行、失語症を含む高次脳機能障害など、さまざまな後遺症に対して有効であることが報告されてきました。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
しかし、TMSは「なんでもいいのでやればいい」というものではありません。
TMSの刺激条件によって、脳に与えられる刺激が大きく異なります。
この刺激条件を構成する重要な要素のひとつに「刺激タイプ」があります。

もともと、脳卒中リハビリにおけるTMSは「低頻度刺激」の有効性が報告されてきました。
しかし、近年はシータバースト刺激が注目されています。
その理由としては「従来の方法より短時間で終えられる」「脳の可塑性を促進しやすい」といったものが挙げられます。
また、TMSとしても効果は従来の方法と同様に報告されてきています。
例えば、2022年の研究では、間欠的シータバースト刺激を行うことによって、リハビリ効果を高め、上肢の運動障害を改善させる上で役立つことが報告されました。
BRAINにもTMS機器があり、TMSをリハビリで活用していますが、上肢(腕や手)のリハビリをするときは、基本的にシータバースト刺激を活用しています。
今回は、シータバースト刺激の効果について体系的にまとめた2024年のシステマティックレビュー研究を紹介し、シータバースト刺激について解説をさせていただこうと思います。
情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、基本的に信頼性の高いシステマティックレビュー研究から得られたデータを引用しています。
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脳卒中後の上肢運動障害に対するシータバースト刺激4つの効果
最初に本記事のまとめです。
- TBSの効果① 病側運動皮質の活動性を高める
- TBSの効果② 上肢運動障害と運動パフォーマンスをよくする
- TBSの効果③ 皮質下脳卒中患者に効果的
- TBSの効果④ 600発より1200発が効果的
以下、詳しく解説します。
シータバースト刺激とは?

シータバースト刺激とは、50Hzの高頻度パルスを短いバースト(5Hzの間隔)で連続的に用いる比較的新しい形式のTMSです。
低頻度刺激や高頻度刺激に比べてより強力で持続的な神経可塑性の変化を引き起こすことが示唆されており、近年注目されています。
シータバースト刺激には『連続的シータバースト刺激(contentious Theta Burst Stimulation: cTBS)』と『間欠的シータバースト刺激(intermittent Theta Burst Stimulation: iTBS)』の2種類があります。
間欠的シータバースト刺激(intermittent Theta Burst Stimulation: iTBS)
iTBSは、短いバーストの磁気刺激を間欠的に送ります。
通常、数秒間の刺激の後に一定時間の休息期間が続きます(例えば、2秒間の刺激後に8秒間の休息)。
iTBSは神経活動を促進する効果があります。
これにより、脳卒中によって活動が低下している脳領域の機能を高めることができます。

連続的シータバースト刺激(contentious Theta Burst Stimulation: cTBS)
一定の時間(例えば40秒間)連続して刺激を行います。
cTBSは神経活動を抑制する効果があります。
これにより、脳卒中後に過剰に活動してしまっている脳領域の活動を減少させることができます。
特定の脳領域の活動を調整する必要がある際に使用されます。

それでは、脳卒中後の上肢運動障害に対するシータバースト刺激の効果を紹介します。
TBSの効果① 病側運動皮質の活動性を高める

脳卒中を発症すると、一般的には、右脳か左脳のどちらかにダメージを受けます。
そしてダメージを受けた方を「病側」といいます。
脳卒中によって、上肢の運動障害が生じますが、これは「上肢の運動を支配する脳領域や神経の損傷」によってのみ生じるのではありません。
「脳卒中によって運動を支配する脳領域や神経の活動性が低下する」ことによる部分があることが科学的に明らかになっています。
脳卒中後の上肢運動障害の原因についてはこちらの記事にまとめていますのでご興味がある方はご覧ください。
一般的に、脳卒中によって失われてしまった神経細胞などは元に戻りにくいと言われますが、活動性が低下している脳領域の活動を上げることによって、運動機能を一部取り戻すことが可能であると考えられています。
脳の活動性を上げる方法のひとつがTMSであり、シータバースト刺激です。
この研究では、病側の一次運動野をターゲットにした間欠的シータバースト刺激が、一次運動野(運動を支配する脳領域)の活動性を高めたり、皮質脊髄路(大脳と脊髄をつなぐ運動に関わる神経)の活動性を高めることを報告しました。
このように、シータバースト刺激は、直接脳を刺激しその活動性を高める効果があります。
そして、これが次に続く、上肢の運動機能や運動パフォーマンスの改善につながります。
TBSの効果② 上肢運動障害と運動パフォーマンスをよくする

シータバースト刺激を行うことによって、脳卒中後の運動障害と運動パフォーマンスが改善することが報告されています。
運動障害、というのは、手や指をバラバラに動かす分離運動や、特定のひとつの関節運動を意味する単関節運動などの障害を指します。
つまり、運動障害がよくなる、というのは、細かい動きができるようになったり、スムーズな動きを獲得できるということを指します。
また、運動パフォーマンスというのは、複数の関節運動を組み合わせることによって行われる目的的な動作のことです。
例えば、私たちは日常生活の中で、
- スマートフォンを操作する
- 料理をする
- パソコンのタイピングをする
などの目的を達成するために手を動かしています。
もしリハビリによって手を動かせるようになったとしても、こういった目的的な動作を行えるようにならなければ、結局生活の中で使えるようになりません。
もちろん、こういった運動パフォーマンスをよくするためには基盤となる運動機能の改善が必要になるので、どちらも重要な要素です。
この研究では、世界中の研究論文をまとめた結果、シータバースト刺激をリハビリに追加することによって、リハビリのみを行う場合よりも、運動障害や運動パフォーマンスをよくする効果が高まることを報告しています。
リハビリだけでも効果はありますが、シータバースト刺激を追加することによってその効果をさらに高めることができるということです。
なお、シータバースト刺激にも2つのタイプがあります。
その中で、間欠的シータバースト刺激というタイプは運動障害や運動パフォーマンスをよくする上で有効だったものの、連続的シータバースト刺激は有効とは言えなかった、というデータが出ています。
このことから、運動障害や運動パフォーマンスをよくするためには、間欠的シータバースト刺激を使うことが大事であると言えます。
TBSの効果③ 皮質下脳卒中患者に効果的

シータバースト刺激は、皮質下脳卒中患者さん対して効果的であることが報告されています。
脳卒中は、病巣によって「皮質脳卒中」や「皮質下脳卒中」といった形で分類されます。
「皮質脳卒中」というのは、大脳皮質に病巣があるタイプの脳卒中です。
一方、「皮質下脳卒中」というのは、大脳皮質の下の部分に病巣があるタイプの脳卒中です。
患者さんがどちらのタイプの脳卒中なのかは、脳画像をみれば簡単に判断できます。
この研究では、世界中の研究データをまとめた結果、皮質下脳卒中患者さんが多く含まれる研究ほど、シータバーストの効果が大きかったことを示しています。
このことから、皮質下脳卒中患者さんの上肢リハビリにおいては、シータバースト刺激がより効果的なのではないかと考えられます。
一応、注意点としてお伝えしておきますが、皮質脳卒中患者さんに対して効果がないというわけではありません。
どちらの脳卒中患者さんに対してもシータバースト刺激は有効ですが、皮質下脳卒中患者さんにおいては、より大きい効果が期待できるのではないか、という話であると捉えていただけますと幸いです。
TBSの効果④ 600発より1200発が効果的
シータバースト刺激は、600発の刺激を行うより、1200発の刺激を行う方が効果的であることが報告されました。
冒頭で、TMSは刺激条件によって脳に与えられる影響が異なるという話をしました。
600発か1200発という話は、その刺激条件に関わる話です。
この研究では、世界中の研究データをまとめた結果、600発の刺激を脳に与えるよりも、1200発の刺激を与える方が効果的であることが報告されました。
まとめ
最後にまとめます。
- TBSの効果① 病側運動皮質の活動性を高める
- TBSの効果② 上肢運動障害と運動パフォーマンスをよくする
- TBSの効果③ 皮質下脳卒中患者に効果的
- TBSの効果④ 600発より1200発が効果的
今回紹介したエビデンスはあくまでも2024年7月時点でのデータであるということにご注意ください。
今後、さらに研究が進んでいくことによって、「実はこういう条件の方が効果的だった」と明らかになる可能性もあります。
BRAINでは、上肢リハビリのためにTMSを使う場合は、基本的に間欠的シータバースト刺激を活用しています。

BRAINは病院ではないため、入院費用や食事代なども不要であり、ご希望をいただければすぐにシータバースト刺激を開始することが可能です。
ご興味のある方は、よかったらお問い合わせいただけますと幸いです。
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参考文献
Zhang JJ, Sui Y, Sack AT, Bai Z, Kwong PWH, Sanchez Vidana DI, Xiong L, Fong KNK. Theta burst stimulation for enhancing upper extremity motor functions after stroke: a systematic review of clinical and mechanistic evidence. Rev Neurosci. 2024 Apr 29;35(6):679-695. doi: 10.1515/revneuro-2024-0030. PMID: 38671584.
Zhang JJ, Bai Z, Fong KNK. Priming Intermittent Theta Burst Stimulation for Hemiparetic Upper Limb After Stroke: A Randomized Controlled Trial. troke. 2022 Jul;53(7):2171-2181. doi: 10.1161/STROKEAHA.121.037870. Epub 2022 Mar 23. PMID: 35317611.