私たちは、ご利用者様のお困りごとの原因について徹底的に分析し、ご利用者様の価値観とリハビリ内容に合わせた具体的な目標を設定します。問題分析と目標設定の具体例について説明します。

ご利用者様の想いや価値観を確認

EBP東京自費リハビリでは、Goal-Based Shared Decision Makingという手法を用い、ご利用者様の想いや価値観を差し支えない範囲で最初にお教えいただいています。

想いや価値観をお教えいただくことで、ご利用者様がどのような生活をおくれるようになりたいのかを確認し、その「なりたい姿」に向かってリハビリを進めていくことが可能になります。

これは、○○様(架空のご利用者様)の想いや価値観の例です。

GOAL BOARDを用いた想いや価値観の把握

このように “見える化” することによって、それぞれの目標がどのように繋がっているのか、そしてどのような目標が優先されるべきなのか把握できます。そして、これが適切なリハビリプログラムを選択することにつながります。

お困りごとの原因を分析【生活編】

「リハビリ室ではできるようになったけど、生活ではできるようにならなかった」という経験はないでしょうか?

このような現象は日本の中だけではなく、海外でも確認されています。せっかくリハビリを行ったのですから、ご自身の生活が楽になったり、生活の中できることを増やせるようになりたいですよね。

私たちは、「リハビリ室ではできるようになったけど、生活ではできるようにならなかった」ということを防ぐために、最初に徹底的なヒアリングを行い、ご利用者様が何を目標にされているのかを5W1Hに沿って確認します。例えば、「外出できるようになりたい」というご希望がある場合、「どこを外出できるようになりたいのか?」「どういうふうに外出できるようになりたいのか?」などをおうかがいします。

下の図は、その例です。○○様にとっての「外出ができるようになりたい」をヒアリングした結果、「隣町まで奥様と杖をつかずに歩けるようになりたい」というご希望であることがわかりました。

行動分析の例

一般的に外出できるようになるためには、筋力やバランス、高次脳機能の改善を図る必要がありますが、本ご利用者様の場合は、隣町へ行くために「電車に乗る」という行為が必要であることがわかりました。

リハビリを行ってご自宅の周りだけ歩けるようになったとしても、電車に乗れるようにならなければ、本ご利用者様にとっては目標の達成には至りません。ですので、本ご利用者様の場合は、電車に乗る練習や、なぜ電車に乗ることが難しいのか?といったさらなる問題分析が必要になります。

事前にこのような分析をしておくことで、「リハビリ室ではできるようになったけど、生活ではできるようにならなかった」という現象を防ぎ、効率的なリハビリを行うことが可能になります。

お困りごとの原因分析【お身体編】

「バランスをよくしたい」と希望される方に対し、バランス練習をすぐに始めてしまうのは効率的ではありません。

「なぜバランスが低下しているのか?」といった原因分析を行うことが必要になります。例えば、下の図のように、バランスを構成する要素は多岐にわたっており、ご利用者様ひとりひとり、バランスが低下している原因が異なります。

バランス障害に対する問題分析

バランスが低下している原因が異なれば、アプローチ方法も変わります。原因に合わせたアプローチをする必要があります。これはバランス低下に限らず、運動障害や感覚障害、歩行障害や高次脳機能障害に対しても同様のことが言えます。それぞれの問題点についてさらに深掘りした問題分析が必要です。

私たちは、リハビリ開始前に徹底した問題分析を行うことで、ご利用者様ひとりひとりに合わせた、問題解決のためのリハビリを提案します。

目標設定の必要性と具体例

リハビリの目標設定はあまり有効でないケースが多いです。これは世界的に確認されていることであり(Levack WM, 2015; Smit EB, 2019)、患者様からは目標設定の必要性を感じない、というお声も聞かれます(Plant SE, 2016)。

一方で、これは私見ですが、リハビリの目標設定をすることで、①ご利用者様とセラピストが向かう方向について齟齬をなくす②目標が明らかになれば何が問題なのかわかる③ご利用者様の不安を解消する、というメリットもあると考えています。

ご利用者様とセラピストが向かう方向について齟齬をなくす

ご利用者様とセラピストの向かっている方向が違ってしまうと、ご利用者様が望まない方向へリハビリが進んでしまい、結果としてリハビリが意味なかったということになりかねません。

目標が明らかになれば何が問題なのかわかる

目標(なりたい姿)ー現状=課題なので、目標を明らかにすることで何が課題(問題点)なのか明らかになります。これは、上述した問題分析につながります。

ご利用者様の不安を解消する

「なぜ自分は○○なのか?」「どうすればなりたい姿になれるのか?」を明らかにすることでご利用者様の不安解消につながります。

これらの理由から、私たちはご利用者様が望まない場合を除き、5W1Hに沿ったリハビリの目標設定を行っています。リハビリ終了後、どのような姿になっているか?という具体的な目標を掲げます。以下はその具体例です。

【長期目標】
休日の日中(When)、○○さんと奥様(Who)が隣町を(Where)杖なしで迷惑をかけずに(How)散歩できるようになる(What)→○○さんは奥様になるべく迷惑をかけたくないから(Why)
【短期目標(12週)】
休日の日中(When)、○○さんと奥様(Who)が隣町(階段昇降以外の場面)を(Where)杖なしで転倒の危険なく(How)散歩できるようになる(What)→○○さんは奥様になるべく迷惑をかけたくないから(Why)
【現状(0週)】
休日の日中(When)、○○さんと奥様(Who)は隣町を(Where)杖なしで(How)散歩することができない(What)→外で転倒してしまった経験があり、現状もバランスの問題があるから(Why)

リハビリを受けたことのある患者さんの多くは、5W1Hに沿って目標設定をされた経験がないと思います。あまり具体的すぎる目標を掲げると、達成できなかった時に問題になってしまう可能性があるからです。ですので、多くの場合「歩きをよくしましょう」「腕や手を少しでも使えるようになりましょう」といった抽象的な目標にとどまります。

このような5W1Hに沿った具体的な目標設定が可能になるのは、エビデンスに基づいたリハビリを行っているからです。世界的には、「どのリハビリをどれくらい行えば、これくらいまで改善する」というデータ(エビデンス)があります。私たちはこのエビデンスに基づいたリハビリを行うため、具体的な目標設定が可能になります。

具体的な目標を設定することでリハビリ終了後の具体的なイメージをつくり、高いモチベーションを持ちながら一緒に進んでいきましょう!

参考文献

Levack WM, Weatherall M, Hay-Smith EJ, Dean SG, McPherson K, Siegert RJ. Goal setting and strategies to enhance goal pursuit for adults with acquired disability participating in rehabilitation. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Jul 20;(7):CD009727.

Smit EB, Bouwstra H, Hertogh CM, Wattel EM, van der Wouden JC. Goal-setting in geriatric rehabilitation: a systematic review and meta-analysis. Clin Rehabil. 2019 Mar;33(3):395-407.

Plant SE, Tyson SF, Kirk S, Parsons J. What are the barriers and facilitators to goal-setting during rehabilitation for stroke and other acquired brain injuries? A systematic review and meta-synthesis. Clin Rehabil. 2016
Sep;30(9):921-30.