脳卒中発症後、日常生活動作の自立度を向上させるとか、そもそも患者さんの主体的な生活を取り戻すためには移動能力が必要不可欠です。
PTさんであれば確実に歩行に関わると思いますし、状況によってはOTさんも歩行に関わることがあると思います。
リハビリをするにあたって、患者さんの希望や目標に向かって前進しているのかどうか、リハビリがうまくいっているのかどうかを効果判定をするために検査を定期的にする必要があります。
歩容(歩き方)の記録も大事なのですが、定量的な検査として、数値に表せる検査も大事です。
今日は「脳卒中の患者さんに対する歩行リハビリではどういう検査をすればいいの?」という方のお悩みにお答えする内容になっています。
脳卒中リハビリで押さえるべき3つの歩行評価
結論ですが、3つの評価(評価というより検査)は「歩行速度」「6分間歩行試験」「Functional Ambulation Categories」の3つです。
これらの検査は海外の脳卒中リハビリテーションのエビデンスで頻繁に出てきます。
これらを理解して臨床で検査できるようにしておくと、患者さんの移動能力の全体像を捉えることができますし、患者さんの予後予測を行う上でも有用です。
これらの3つの検査について紹介させていただきます。
3つの検査を紹介
ひとつ目は「歩行速度」です。
これは、患者さんに10m歩いていただいて、その速度を測定するというものです。
快適な歩行速度(いつも通りの歩く速さ)と最速の歩行速度(最大限早く歩こうとしたときの歩く速さ)、の2種類があります。
日本では5mなり10mなり歩いてもらってその秒数を記録しておくことが多いと思いますが、これを速度(m/s)に直しておくと便利です。
例えば、10m歩いてもらったときに10秒かかったとしたら10/10で1m/s、12秒かかったとしたら10/12で0.83m/s、と直します。
なぜm/sのような速度に直した方がいいかというと、SEM(Standard Error of Measurement、検査で標準的に生じる誤差)、MDC(Minimal Detectable Change、誤差の限界値)、MCID(Minimal Clinically Important Difference、患者さんや家族、医療者が変化したと感じられる最小の変化量)などの検査の特性が、世界的にはm/sのような速度で報告されているからです。
秒数ではなくて、速度です。
例えば、Fulk GD(2011)は、亜急性期の脳卒中患者さんの歩行速度のMCIDが0.175 m/sであると報告しました。
臨床で「患者さんの歩行速度が上がった。この変化はMCIDを超えるほどの変化か?」と判断するとき、10m歩行の秒数でしか把握できていないとMCIDの数値を超えているかを判断できません。
速度に直しておけば、MCIDやSEM、MDCなどの数値とすぐに比較することができ、患者さんの検査結果をより深く捉えることができるようになります。
なお、健常高齢者の方の平均歩行速度は1.3m/s程度だそうです。
脳卒中患者さんの場合、病期によりますが、杖を使って歩くとここまでに至らないことが多いです。
ふたつ目は「6分間歩行試験」です。
これは患者さんに6分間歩いてもらって、何m歩けるかを測定する検査です。
健常高齢者の方(60歳代)であれば、6分間で歩ける距離は540〜570m程度だそうです。
患者さんの場合はこれより短くなるケースが多いです。
みっつ目は「Functional Ambulation Categories」です。
これは歩行の自立度を示すもので、自立度を0, 1, 2, 3, 4, 5の6段階で表記します。
Brunnstrom Recovery Stageのようなものです。
0)「歩行できない、または2人以上の介助が必要」
1)「ひとりの介助者からしっかりした継続的な介助が必要」
2)「バランスや調整を解除するひとりの介助者から継続的または断続的な介助が必要」
3)「介助者からの監視で歩行可能」
4)「平地はひとりで歩くことができるが階段や斜面、凹凸のある地面ではサポートが必要」
5)「どこでもひとりで歩くことができる」
患者さんの歩行の状態がどのレベルかを判断し、記録します。
移動能力の全体像を捉えることができる
これらの検査を押さえておいた方がいい理由は2つあります。
ひとつ目の理由は「移動能力の全体像を把握することができる」です。
これらの検査は、移動に関わる他の検査成績(バランスやADLの自立度など)との相関関係があることが報告されています。
つまり、特に歩行速度が速かったり、歩行距離が長い患者さんは日常生活の自立度が高かったり、バランス能力が高かったりするのですね。
なので、これらを検査しておくと、ある程度、移動に関わる能力の全体像が見える、ということです。
ふたつ目の理由は「予後予測を行う上で有用である」です。
エビデンスに基づいてリハビリテーションを行うとき、エビデンスを参考にして予後予測を行うことができます。
例えば、ランダム化比較試験で、脳卒中の患者さんにトレッドミルトレーニングを1回30分、週3回、4週間実施した研究があったとします。
その研究のトレッドミルグループの変化として歩行速度が0.6m/sだったのが0.8m/sに上がった、とか、歩行距離が400mだったのが500mに伸びた、とかFunctional Ambulation Categoriesのレベルが3だったのが5になったとか、そういう情報をもとに、トレッドミルトレーニングを行うとこれくらい変化する、という予後予測を行うことができます。
逆に言えば、これらの検査をとっていないと予後予測しにくくなります。
どうなるかわからない状態でリハビリを進めるのは患者さんにとっても不安ですよね。
患者さんに説明をするとか、退院時に必要な介護サービスを事前に想定しておくという意味でも予後予測は大事なことです。
まとめると、脳卒中患者さんのリハビリテーションを行う上では移動能力の全体像が見える、またエビデンスに基づいて予後予測を行いやすいという観点から、「歩行速度」「6分間歩行試験」「Functional Ambulation Categories」の検査を行うことが大事、という話でした。
いずれもストップウォッチを歩く場所さえ確保できれば行える検査ですので、ぜひ取り入れることを検討してみてください!
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2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月ごろから開始する予定です。
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それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!