歩きのリハビリの目的は、2つに大別されます。

  • ひとりで歩けるようになる(歩行の自立)
  • 歩きをよくする(歩きのパフォーマンスの改善)
脳梗塞・脳出血後の歩きのリハビリ

ひとりで歩けるようになる

車いすで移動されている方や、寝たきりの方が、ひとりで歩けるようになることを目指します。

あなたが歩けない理由を分析

脳梗塞や脳出血を発症されてから6ヶ月でおよそ87%の方がひとりで歩けるようになります。

つまり、ご自宅に退院されているころにはほとんどの方が歩けるようになっています。

発症6ヶ月以降もひとりで歩けない場合、他の方には見られない、何か特有の問題を抱えている可能性が高いです。

歩けない原因はひとりひとり異なりますが、一般的には下記のものが挙げられます。

  • 脚・足の筋力低下(特に膝関節を伸ばす、つま先を上げる筋力)
  • 固有感覚の低下(関節が動いていることがわかる感覚)
  • バランスが悪く、立っていられない
  • バランスに自信がない
  • 高次脳機能障害(半側空間無視、認知機能低下など)

あなたが歩けない原因は何でしょうか?

BRAINのセラピストはあなたが歩けない原因を分析し、原因に合わせたリハビリを提供することができます。

ひとりで歩けるようになるためのリハビリ

歩行が自立するために有効とされているリハビリをエビデンスに基づき紹介します。

これらのリハビリを行うことによって、ひとりで歩けるようになる可能性が高くなります。

ひとりで歩けるようになるためのリハビリ①

歩行練習

セラピストがお身体を支えながら、歩く練習を行います。

セラピストのフィードバックを受けながら行われる “歩行練習”

軽く支えながら歩ける方もちろんですが寝たきりの方もセラピストが介助しながら歩く練習を行うことができます。

ひとりで歩けるようになるためのリハビリ②

課題指向型訓練

ベッドから立ち上がる、立ったまま扉を開ける、階段の上り下りをするなどご自宅の実践的な環境で歩きの練習をします。

発症から6ヶ月以上経過された方に向いています(French B, 2012)

ひとりで歩けるようになるためのリハビリ③

バランス練習

バランス練習には色々なものが含まれますが、バランス練習の中でも『Functional Task Training』の効果が高いことが知られています(Hugues A, 2019)。

さらに、Functional Task Trainingには色々なリハビリ方法が含まれます。

その中で、バランスがよくない方に対するリハビリとしては『体幹トレーニング』『立ち上がり動作練習』の効果が高いです。

ベッドがあれば実施できる “体幹トレーニング”

体幹トレーニングは発症から3ヶ月以内の方、立ち上がり動作練習は発症から3ヶ月以上の方に向いています(Saeys W, 2012; Farqalit R, 2013)。

ひとりで歩けるようになるためのリハビリ④

高次脳機能トレーニング

歩けない原因が半側空間無視や認知機能の低下など高次脳機能障害である場合、これらに対するリハビリを行います。

例えば半側空間無視に対しては『アイパッチ』(Bowen A, 2013)、認知機能低下に対しては『有酸素運動』(Zheng G, 2016)や『認知リハビリテーション』が有効(Sun R, 2021)であることが知られています。

認知機能低下に対して推奨されている “有酸素運動”

リハビリは『やればなんでもいい』わけではなく、有効性が実証されているものを行うことが改善への近道です。

脳梗塞・脳出血後の歩きのリハビリ

歩きをよくする

主に、ひとりで歩けている方が対象です。

よりよい歩きを獲得することを目指します。

『歩きをよくする』には下記のものが含まれます。

  • 速く・長く歩けるようになる
  • バランスよく歩けるようになる
  • 杖や装具を外して歩けるようになる

速く・長く歩けるようになる

健康な人の歩行速度は1.1〜1.3m/s(10秒で11〜13mあるく速さ)とされています(Chui KK, 2013)。

脳梗塞や脳出血を発症すると、歩く速さが低下したり、歩ける距離が短くなってしまうことが知られています。

ひとりで歩ける方も、歩く速さを上げたり、長く歩けるようにすることで、健康な人と同じような歩行能力を獲得することが可能です。

これによって、『お友達と一緒に出かける』『通勤時間帯でも電車に乗る』ことができるようになります。

速く・長く歩けない原因を分析

一般的に、下記のようなものが挙げられます。

  • 脚・足の筋力低下(特に脚を前に持ち上げる、つま先を上げる、つま先を伸ばす筋力)
  • 麻痺している脚が後ろに伸びない(Trailing Limb Angleの低下)
  • 心肺機能の低下

さらに、筋力低下の原因、脚が後ろに伸びない原因、心肺機能が低下している原因を掘り下げて考える必要があります。

BRAINのリハビリでは、iPadを使って写真・動画撮影をしたり、筋力検査をすることによって何が原因か調べることができます。

筋力を数値化することができる “POWER GAUGE(パワーゲージ)”(南波製作所)

さて、速く・長く歩けるようになるためにはどのようなリハビリを行えばよいのでしょうか?

世界的に効果があると実証されている(エビデンスのある)リハビリを紹介します。

速く・長く歩けるようになるためのエビデンスのあるリハビリ①

歩行練習

速く・長く歩けるようになるための “歩行練習”
速く・長く歩けるようになるためのエビデンスのあるリハビリ②

サーキットトレーニング

ご利用者様に合ったいくつかの運動課題を繰り返し行うリハビリです。

ご利用者様の目標に合った運動課題を練習する “サーキットトレーニング”

サーキットトレーニングを行うことで、歩く速さや歩ける長さが向上することが報告されています(English C, 2017)。

速く・長く歩けるようになるためのエビデンスのあるリハビリ③

電気刺激

脚・足に対して行われる “電気刺激療法”
速く・長く歩けるようになるためのエビデンスのあるリハビリ④

ミラーセラピー

鏡を使って、麻痺している足が動いているように錯覚を起こさせるリハビリです。

鏡を使って麻痺している側の足が動いているように錯覚させる “ミラーセラピー”

ミラーセラピーを行うことで、歩きの速さや脚・足の動きがよくなることが報告されています(Broderick P, 2018; Li Y, 2018)。

速く・長く歩けるようになるためのエビデンスのあるリハビリ⑤

装具療法

短下肢装具という膝下から足首、つま先までを保護してくれる装具を着用し、歩く練習をします。

麻痺した足に着用して歩く練習をする “装具療法”

BRAINでは、義肢装具士や医師と連携しながら、短下肢装具の作成をお手伝いすることができます。

バランスよく歩けるようになる

一般的に、病院を退院してから1年以内におよそ56%の方が2回以上転倒してしまいます(Ng MM, 2017)。

2人に1人以上の割合で、転んでしまうということです。

転んでしまうと骨折などの怪我につながりますので、バランスをよくして転倒を防ぐ取り組みをするのが望ましいです。

Berg Balance Scale(BBS)やBalance Evaluation Systems Test(BESTest)というバランス検査を行うことで、ご自身が1年以内に転倒する可能性を判断することができます。

BRAINはBBSやBESTestを扱うことができますので、ご利用者様の転倒リスクを判断することが可能です。

バランスが低下している原因を分析

一般的に、下記のようなものが挙げられます。

  • 脚・足の筋力低下
  • 身体の協調性の低下
  • 静的安定性(動いていないときのバランス)の低下
  • 動的安定性(動いているときのバランス)の低下
  • 認知機能の低下
  • 感覚障害、感覚の統合の問題
  • 予測的姿勢制御の低下
  • 反応性姿勢制御の低下

原因がひとつのことは少なく、いくつか重なっていることが多いです。

バランスをよくするためのエビデンスのあるリハビリ

上述の通り、バランスのリハビリはたくさんありますが、『機能的課題トレーニング』の効果が高いことが知られています。

おひとりで歩けている方は、ひとりで歩けない方と比べるとバランスが良好であることが多いです。

バランスが比較的良好な方に対しては『スケーターエクササイズ』『Sit-to-Stand』などのバランス練習が有効とされています。

バランスをよくするためのエビデンスのあるリハビリ①

Sit-to-Stand

椅子の高さや足の位置を調整しながら立ち上がる動作の練習をします。

椅子やベッドを使って行われる “Sit-to-Stand”
バランスをよくするためのエビデンスのあるリハビリ②

課題指向型訓練

歩きのリハビリで有効な課題指向型訓練は、バランスの向上にも有効であることが実証されています(French B, 2016)。

これらのリハビリを軸にしながら、お一人おとりのバランスが低下している原因に合わせたリハビリプログラムを作成します。

杖や装具を外して歩けるようになる

杖や装具など福祉用具を使わないで歩けるようになるためには、それらを使わないときの歩行速度を速くしたり、バランスをよくする必要があります。

したがって、上記のアセスメントやリハビリと重複する部分があります。

一方、杖や装具なしで歩く場合に問題になりやすいのが『痙縮』です。

足に意図しない力が入ってしまう痙縮

裸足で歩くとき、麻痺側の足指が丸まってしまったり、足首が内側に捻れてしまったり、膝が伸びきってしまう経験はありませんか?

杖や装具なしでスムーズに歩くためには、痙縮に対してもアプローチしていく必要があります。

痙縮に対して効果のあるリハビリを紹介します。

エビデンスのある痙縮のリハビリ①

電気刺激

麻痺側の筋肉や神経に電気を流しながら手を動かすリハビリです。

電気刺激を与える “ESPURGE(エスパージ)”(伊藤超短波株式会社)

足の痙縮に対しては有効性が報告されています。

エビデンスのある痙縮のリハビリ②

振動刺激

ハンディマッサージャーを使って振動を与えます。

痙縮に対し有効とされる100Hzの振動刺激を与える “THRIVE(スライヴ)” (大東電機工業株式会社)

手足の痙縮に対して有効性が報告されています。

BRAINのリハビリでは、セラピストが電気刺激装置、ハンディマッサージャーを持って移動するため、ご自宅でこれらのリハビリを受けることができます。

参考文献

Bowen A, Hazelton C, Pollock A, Lincoln NB. Cognitive rehabilitation for spatial neglect following stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jul 1;(7):CD003586.

Broderick P, Horgan F, Blake C, Ehrensberger M, Simpson D, Monaghan K. Mirror therapy for improving lower limb motor function and mobility after stroke: A systematic review and meta-analysis. Gait Posture. 2018 Jun 63:208-220.

Chui KK, Lusardi MM. Spatial and temporal parameters of self-selected and fast walking speeds in healthy community-living adults aged 72-98 years. J Geriatr Phys Ther. 2010;33(4):173-83.

English C, Hillier SL, Lynch EA. Circuit class therapy for improving mobility after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Jun 2;6:CD007513.

Farqalit R, Shahnawaz A. Effect of foot position during sit-to-stand training on balance and upright mobility in patients with chronic stroke. Hong Kong Physiotherapy Journal. 2013;31

French B, Thomas LH, Coupe J, McMahon NE, Connell L, Harrison J, Sutton CJ, Tishkovskaya S, Watkins CL. Repetitive task training for improving functional ability after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Nov 14;11(11):CD006073.

Hugues A, Di Marco J, Ribault S, Ardaillon H, Janiaud P, Xue Y, Zhu J, Pires J, Khademi H, Rubio L, Hernandez Bernal P, Bahar Y, Charvat H, Szulc P, Ciumas C, Won H, Cucherat M, Bonan I, Gueyffier F, Rode G. Limited evidence of physical therapy on balance after stroke: A systematic review and meta-analysis. PLoS One. 2019 Aug 29;14(8):e0221700.

Ng MM, Hill KD, Batchelor F, Burton E. Factors Predicting Falls and Mobility Outcomes in Patients With Stroke Returning Home After Rehabilitation Who Are at Risk of Falling. Arch Phys Med Rehabil. 2017 Dec;98(12):2433-2441.

Li Y, Wei Q, Gou W, He C. Effects of mirror therapy on walking ability, balance and lower limb motor recovery after stroke: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Clin Rehabil. 2018 Aug;32(8):1007-1021

Saeys W, Vereeck L, Truijen S, Lafosse C, Wuyts FP, Heyning PV. Randomized controlled trial of truncal exercises early after stroke to improve balance and mobility. Neurorehabil Neural Repair. 2012 Mar-Apr;26(3):231-8.

Stein C, Fritsch CG, Robinson C, Sbruzzi G, Plentz RD. Effects of Electrical Stimulation in Spastic Muscles After Stroke: Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Stroke. 2015 Aug;46(8):2197-205.

Sun R, Li X, Zhu Z, Li T, Li W, Huang P, Gong W. Effects of Combined Cognitive and Exercise Interventions on Poststroke Cognitive Function: A Systematic Review and Meta-Analysis. Biomed Res Int. 2021 Nov 17;2021:4558279.

Zheng G, Zhou W, Xia R, Tao J, Chen L. Aerobic Exercises for Cognition Rehabilitation following Stroke: A Systematic Review. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2016 Nov;25(11):2780-2789.