脳卒中患者さんこそ読むべき『脳卒中治療ガイドライン2021』【読まないと損します】

リハビリメニューはどのように決めていますか?

リハビリテーションは、患者さんを中心に担当セラピスト、医師、看護師、家族、ケアマネジャー、ソーシャルワーカーなどがチームで関わるとされています。

ただ、具体的なリハビリメニューを決めるときは患者さんと担当セラピストとの間で決められることがほとんどです。

そして、患者さんからセラピストへ「リハビリの内容はお任せします」と伝えているケースが多いのではないでしょうか?

本記事では、「リハビリの内容はお任せします」に潜むリスクの説明と、リスクを回避するための脳卒中治療ガイドライン2021の説明をしています。

脳卒中当事者さんに向けた内容です。

脳卒中当事者さんこそ読むべき「脳卒中治療ガイドライン2021」

最初に本記事のまとめです。

  • 「リハビリの内容はお任せします」でリハビリを決めてしまうと患者さんにとって最善のリハビリが選ばれない可能性が高い
  • セラピストと当事者さんとの間の「情報の非対称性」があると「リハビリの内容はお任せします」になりがち
  • 情報の非対称性を少しでもなくすために脳卒中治療ガイドライン2021に目を通す

リハビリの費用を支払っているのは当事者さんであり、リハビリを受けるために貴重な回復期間を削っているのも当事者さんです。

「セラピストが良い人」であることと、「良いリハビリを受けられる」ことは全く別物です。

リハビリがうまくいかない事による損失は全て患者さんが被ることになってしまうので、ご自身の身を守るためにも知識武装をしておくことをお勧めします。

そのために、脳卒中治療ガイドライン2021を読んでおくことをお勧めします。

「リハビリの内容はお任せします」にはリスクが潜む

これは、患者さんが担当セラピストを信頼されている証拠でもあり、担当セラピストにとっては嬉しいことです。

一方、この決め方にはデメリットもあります。

「セラピストの知識・スキル次第で良いリハビリを受けられるか、よくないリハビリを受けることになるか決まる」ということです。

リハビリはたくさんの方法があります。

課題指向型訓練、CI療法、トレッドミルトレーニング、電気刺激療法、ミラーセラピー、運動イメージ療法、運動観察療法、体幹トレーニング、ストレッチ、筋力トレーニング、ボバース・コンセプト、認知神経リハビリテーション、PNF、など、挙げたらキリがありません。

このようにリハビリ方法が複数存在するのは、「万能なリハビリ」がないためです。

患者さんの目標や身体の状態、病期(急性期・回復期・慢性期)などによって、適切なリハビリが変わります。

従って、患者さんが適切なリハビリを受けるためにはセラピスト側に「患者さんの目標や価値観を把握するスキル」や「状態に合わせてリハビリを選択・提供できる豊富なリハビリの知識・スキル」が必要になります。

要は、患者さんの目標や状態に合わせて、複数のリハビリ選択肢の中から最も適したリハビリを選び出す能力が必要ということです。

「リハビリの内容はお任せします」とすると、セラピストが高い知識やスキルと持っていれば良いリハビリを受けることができますが、もしそのようなセラピストでないのであれば、”患者さんにとって” 適切なリハビリを受けることが難しくなります。

豆知識:どれくらい勉強すればいいのか?
ただ、セラピストはどれくらい勉強していればいいのか?について明確な基準を示すことはできません。あくまでも私の経験からですが、知識としては脳卒中リハビリテーション領域だけで数万件の海外のリハビリ研究論文に目を通していたとしても、足りないと思います。セラピストは学生時代に先述した知識やスキルを学ぶ機会がない上に、臨床に出てからも通常業務に忙殺されてしまい、勉強したくても勉強できないという人もいます。

リハビリの費用を支払っているのは患者さんであり、リハビリを受けるために貴重な回復期間を削っているのも患者さんです。

「セラピストが良い人」であることと、「良いリハビリを受けられる」ことは全く別物です。

リハビリがうまくいかない事による損失は全て患者さんが被ることになってしまうので、ご自身の身を守るためにもリハビリについて知っておき、「お任せします」ではなく、セラピストとディスカッションしながらどのリハビリをすべきか判断することをお勧めします。

当事者さんとセラピストの間の “情報の非対称性”

このように、サービスを提供する側(セラピスト)と、サービスを受ける側(当事者さん)の間に情報格差があることを “情報の非対称性” と言います。

以下、Wikipediaから引用します。

情報の非対称性(じょうほうのひたいしょうせい、英: information asymmetry)は、市場における各取引主体が保有する情報に差があるときの、その不均等な情報構造である。「売り手」と「買い手」の間において、「売り手」のみが専門知識と情報を有し、「買い手」はそれを知らないというように、双方で情報と知識の共有ができていない状態のことを指す。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

不動産契約をするときなどでは、物件について不動産屋さんだけが知っているデメリットがあり、お客さんにはそのデメリットを伝えず、よくない物件を購入させるケースがあります。

リハビリではこのような悪質なケースは滅多にありませんが、セラピストと患者さんとの間で情報と知識の共有ができていないケースはとても多いと思います。

このような情報の非対称性があると、患者さんは「専門家にお任せしよう」という考えになり、リハビリメニューを担当セラピストに任せてしまうことにつながります。

ですので、情報の非対称性をなくし、患者さんもセラピストに意見を伝えられるようになることで、ご自身にとっての損失を防ぐことができるようになります。

どのような情報を入手すべきか?

したがって、患者さんご自身もリハビリの情報を収集することが望ましいです。

現代ではブログやYouTubeなど、インターネットで手軽に情報を手に入れることができます。

かく言う私も、『脳卒中リハビリ情報』としてリハビリの情報提供をしています。

ただ、インターネットで入手できる情報は学会や厚生労働省のようなオフィシャルな機関が提供しているものを除き、信頼性に乏しいケースがほとんどです。

2021年に出版された研究論文でも、脳卒中リハビリテーションにおけるYouTube情報は低品質であることが報告されています(荻原ら, 2021)。

▶︎論文詳細はこちら

豆知識:その意思決定は正しい?
最近入手した目立つ情報や、記憶に残りやすい情報を元に意思決定することを『利用可能性ヒューリスティック』と言います。例えば、YouTubeで特定のリハビリ方法を知り、あたかもそれが有効であるかのように紹介されていると、「そのリハビリを受けたい」と思うでしょう。ですが、実はそのリハビリは世界的には有効性が否定されている場合もあります。このように、情報の一部を捉えてその情報に基づいて判断することも、患者さんにとって不利益になる場合があるのです。

「どのリハビリをどのように行うか?」と言うリハビリメニューの決定は、患者さんの人生に大きく関わる大事なものです。

ですので、断片的に・あるいは偏った情報を伝えているものではなく、複数の情報がまとまっていて・かつ信頼できるものから正しく情報を入手する必要があります。

脳卒中治療ガイドライン2021は読んでおきたい

信頼できる情報のひとつに、『脳卒中治療ガイドライン2021』があります。

専門用語も含まれており、患者さんが読むには難しい文章もありますが、このガイドラインは世界中のリハビリデータを収集し、そのデータに基づいて、症状や病期における適切なリハビリの紹介をしてくれています。

この手元に置いておくだけで、ご自身にとって適切なリハビリをある程度絞り込むことができます。

もちろん、ガイドラインに書いてある内容を鵜呑みにするのも良くないのですが、参考になることは間違いありません。

患者さんご自身も、一冊持っておかれると良いのではないかと思います。

患者さんとセラピストのフラットな意思決定を

専門的な言葉になりますが、患者さんとセラピスト(医療者)がフラットに治療方針について意思決定するモデルを『シェアード・ディシジョン・メイキングモデル』と言います。

近年、リハビリ業界でも注目されている意思決定モデルです。

「セラピストにお任せ」を否定しているわけではありませんが、患者さんが有効なリハビリを受けるため、脳卒中治療ガイドライン2021など信頼できる情報源からリハビリ情報を得ておくといいのではないかと思います。

参考文献

荻原 啓文, 浅見 正人, 加茂 智彦, 湯口 聡, 旭 竜馬, 対馬 栄輝, 脳卒中のリハビリテーションに関するYouTube 動画の質, 理学療法学, 論文ID 11981

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』