患者さんのリハビリを行なって、歩行速度や歩行距離が向上したとしても、患者さんの “なりたい姿” に近づければリハビリとしてはあまり意味がありません。

例えば、歩行速度や歩行距離が向上しても、買い物に行けるようにならなければ生活を送れないですし、仕事場まで移動できなければ職業復帰できません。

そのため、リハビリの一環として屋外歩行を行ったり、屋外を想定した練習が必要になってきます。

ただ、脳卒中患者さんへの屋外歩行練習については否定的な意見を持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

現場で実際に歩いてみることで新しい発見があったり、患者さんの不安を解消することにつながる可能性があるものの、目的がない散歩になってしまう場合もあります。

今回は、屋外移動のためのリハビリについてBarclay RE (2015)のコクランレビューをもとに効果を紹介させていただきます。

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Barclay RE (2015)のコクランレビューの概要

この研究では「脳卒中患者さんに対する “地域での移動への介入” は、何もしない場合などと比べてICFの参加をはじめとする各種アウトカムを改善させるか?」を調査しました。

2013年11月までに公表されたランダム化比較試験やランダム化クロスオーバー試験が対象になっています。

地域での移動への介入、というのが屋外歩行にあたるのですが、このレビューで取り込まれた研究を見てみると、具体的には 次のようなものを指しています。

①対象者の近所の公園、ショッピングモールなど複雑な環境下で歩く
②ヴァーチャルリアリティを使用して屋外環境を想定した歩行練習
③交通機関の情報提供
④屋外移動のイメージトレーニング
⑤支援デバイスの使用

また、ICFの参加のアウトカムとしては、”Community Health Activities Model Program for Seniors (CHAMPS) “ や “Reintegration to Normal Living Index(RNLI)” などが想定されています。

これらは参加レベルへの効果を検証するリハビリ研究でもよく用いられるアウトカムです。

▶︎CHAMPS
https://www.sralab.org/rehabilitation-measures/reintegration-normal-living-index
▶︎RNLI
https://www.sralab.org/rehabilitation-measures/community-health-model-activities-program-seniors-physical-activity

取り込まれた研究は5件でとても少なかったのですが、結果を紹介します。

屋外移動のためのリハビリが有効であるとは言えない

結果として、屋外移動のためのリハビリは何もしない場合などと比べて、有効であるとは言えないという結果になりました。

アウトカムとしてはICFの参加レベルや歩行速度、自己効力感などで検証されていますが、いずれも統計的な有意差なしという結果になっています。

取り込まれた5件の研究では週2〜3回、3〜12週間実施されていました。

これくらいしっかりやったとしても、参加レベルや自己効力感など各種アウトカムに有効であると言えなかったというのは残念な結果です。

屋外移動のためのリハビリは最低限にすべきか

今回は、屋外移動のためのリハビリの有効性については否定的な結果になりました。

以前、「トレッドミル vs 屋外歩行のエビデンス」というテーマでLanghammer B (2010)のランダム化比較試験を紹介しました。

この研究では、トレッドミルの方が短い時間だったにもかかわらず、屋外歩行よりも歩行能力が向上したことを報告しています。

今回の結果と併せて考えると、リハビリにおいては屋外歩行は最低限にし、歩行能力を最大限高めるようトレッドミルとはじめとする歩行練習を行うとか、バランスを向上させるバランス練習を行ったほうが効果的なのかもしれません。

ただ、屋外歩行練習をはじめ屋外移動のためのリハビリに意味がないとは言えません。

もし全く屋外歩行練習をせずに退院、となると患者さんはとても不安になると思いますので、状況に合わせて屋外歩行練習は行われるべきでしょう。

私見ですが、目的なく屋外歩行練習をし続けるのは意味がないと思うので、こういったエビデンスを参考にしながら患者さんの価値観や希望を聴取し、屋外歩行のためのリハビリをどれくらい行うか、一緒に意思決定していけたらいいのではないかと思います。

参考文献

Barclay RE, Stevenson TJ, Poluha W, Ripat J, Nett C, Srikesavan CS. Interventions for improving community ambulation in individuals with stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Mar 13;(3):CD010200.

Langhammer B, Stanghelle JK. Exercise on a treadmill or walking outdoors? A randomized controlled trial comparing effectiveness of two walking exercise programmes late after stroke. Clin Rehabil. 2010 Jan;24(1):46-54.