本記事では、脳卒中後の歩行障害に対する高強度トレーニングの大局的に見たときの効果について、システマティックレビューの論文をもとに記載しています。
最初に本記事のまとめです。
● 高強度トレーニングとは70%HRmax以上の歩行・エルゴメーター
● 歩行速度や歩行距離、ストライド長向上を目指すのであれば高強度
● 左右非対称性、バランスの向上を目指すのであれば低強度でも
高強度トレーニングとは
本記事における高強度トレーニングとは、70%HRmax以上、Borg scale 14以上で行われるトレッドミルトレーニング、エルゴメータートレーニングなどを指します。
一方で、低強度トレーニングとは、70%HRmax未満、Borg scale 14未満で行われる有酸素運動、運動療法を指します。
70%HRmaxでの運動は結構ハードで、患者さんも”リハビリしてる感” があり、満足してもらいやすいかもしれません。
ですが高強度トレーニングが何に効果があるのかわからないまま”リハビリしてる感” だけ得て満足しても、結果「思った通りにならなかった」となってしまっては本末転倒です。
高強度トレーニングを患者さんに実施してもらうかどうか判断するためにも、何に効果があって、何に効果があるとは言えないのかを整理しておくことが必要だと思います。
脳卒中後の歩行障害に対する高強度トレーニングの効果
Luo Lら(2019)のシステマティックレビューでは、脳卒中患者さんに対する高強度トレーニングは、低強度トレーニングと比べると歩行距離や歩行速度、ストライド長の向上に有益であることが報告されています。
【歩行距離】
Luo Lら(2019)
SMD = .32, 95% CI, .17-.46
【快適歩行速度/固定効果モデル】
SMD = .28, 95% CI, .06-.49
【ストライド長】
SMD = .51, 95% CI, .13-.88
したがって、長く歩けるようになりたい、速く歩けるようになりたい、大股で歩けるようになりたい、という患者さんには高強度トレーニングはリハビリの選択肢として挙げて良いのではないでしょうか。
歩容やバランスの改善を期待するなら低強度でも
一方で、歩行の左右非対称性、バランス能力などに対しては低強度トレーニングと比べて効果があるとは言えないという結果になっています。
【TUG】
Luo Lら(2019)
SMD = .36, 95% CI, -0.72 to .01
【ケイデンス】
SMD = .27, 95% CI, -0.32 to .85
【歩行左右対称性】
SMD = .74, 95% CI, -0.04 to 1.52
【BBS】
SMD = .10, 95% CI, -0.10 to .31
したがって、きれいに歩けるようになりたい、バランスをよくしたい、という患者さんに対しては低強度トレーニングを選択肢として挙げても良いでしょう。
注意しなければならないのは、低強度トレーニングの方が効果的、ということではないという点です。
上記の結果から言えるのは「高強度トレーニングも低強度トレーニングもどちらに対して優位性があるとは言えない」ということなので、決して低強度トレーニングの方が良いということではありません。
高強度トレーニングを行っても良いでしょう。
“リハビリしてる感” の有無で条件を決めない
まとめると次のとおりです。
● 高強度トレーニングとは70%HRmax以上の歩行・エルゴメーター
● 歩行速度や歩行距離、ストライド長向上を目指すのであれば高強度
● 左右非対称性、バランスの向上を目指すのであれば低強度でも
高強度トレーニングは、きつい運動を行うので “リハビリしてる感” “頑張っている感” が生じやすいトレーニングです。
一方で、モチベーションを高く維持できない患者さんにとっては途中でリハビリを諦めてしまう可能性もあります。
モチベーションを維持できて、かつ循環器系、呼吸器系にリスクの少ない方に対して、歩行距離・歩行速度、ストライド長の向上を目的にリハビリを行うのであれば高強度トレーニングはリハビリの選択肢として患者さんへ提案して良いのではないでしょうか。
参考文献
Luo L, Zhu S, Shi L, Wang P, Li M, Yuan S. High Intensity Exercise for Walking Competency in Individuals with Stroke: A Systematic Review and Meta Analysis. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2019 Dec;28(12):104414.