脳卒中のあとによく見られる歩き方のひとつに、“ぶんまわし歩行” があります。

“ぶんまわし歩行”というのは、足をまっすぐ前に出せずに、外に振り回すようにして歩く状態のことです。患者さんやご家族の方は、実際に見たことがあるかもしれませんね。

この“ぶんまわし歩行”の大きな原因のひとつが、膝が曲がりにくくなることです。専門用語ではStiff Knee Gait(スティッフニーゲイト)といいますが、膝がかたくて曲がらない歩きかたと考えていただければ大丈夫です。

これから、この膝が曲がらなくなる仕組みと、それがどうして“ぶんまわし歩行”につながるのかを、できるだけわかりやすくお伝えしていきます。

情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、信頼性の高い観察研究から得られたデータを引用しています。

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Stiff Knee Gaitとは?

脳卒中のあとに多く見られる歩き方のひとつに「膝がかたくなって曲がらない歩き方」があります。

専門用語で Stiff Knee Gait(スティッフニーゲイト) と呼びます。

これは「遊脚期」、つまり足を前に振り出すときに、膝が十分に曲がらない状態のことを指します。

Stiff Knee Gaitはぶん回し歩行の原因のひとつ

世界中の多くの研究をまとめた2025年のレビューでは、

  • 脳卒中後にみられるSKGの人は、正常な人に比べて膝の曲がりが半分近くに減ること
    (健康な人は約60°曲がるのに対し、脳卒中患者さんは平均約30°)
  • その結果、歩幅が短くなり、歩く速度も4割ほど遅くなること
  • 足を外に回したり、腰を持ち上げたりといった代償が必要になること
  • 代償のせいで歩くときのエネルギー消費が3割以上増えること

が報告されています。

つまり「膝が曲がらない」こと自体が問題なだけでなく、それを補うために体の他の部分を使わなければならず、余計に疲れやすくなるのです。

Stiff Knee Gait、つまり「膝が曲がらない」ことを補うための方法のひとつが「ぶん回し歩行」です。

Stiff Knee Gaitを改善させることでぶん回し歩行が改善する可能性があります。

麻痺側の膝の曲がりが44°未満なら「Stiff Knee Gait」といえる

2024年の研究では「どの基準でSKGと診断するのが一番正確か?」を調べました。

対象は脳卒中患者さん50人で、歩行解析で膝の動きを詳細に測定し、いくつかの基準を比べました。

その結果、

「麻痺側と非麻痺側の膝の曲がり角度の差が17°以上あること」

あるいは

「麻痺側の膝の曲がりが44°未満であること」

が、SKGを一番正確に見分けられる基準であると示されました 。

ご自身の歩いている姿を横からビデオ撮影していただいて、もし上記の2つの基準に該当していたら、あなたはStiff Knee Gaitと言えます。

Stiff Knee Gaitなら、その原因を分析してリハビリをすることでぶん回し歩行がよくなる可能性があります。

Stiff Knee Gaitの重症度

この「膝が曲がらない歩き方」には軽いものから重いものまで、いくつかのタイプがあります。

2025年に発表された研究では、脳卒中患者さん50人と、健康な15人を対象に歩行の詳細なデータをとりました。

具体的には、体にマーカーをつけてモーションキャプチャで歩く様子を撮影し、足や腰の動き、筋肉の働き、地面を蹴る力などを計測しました。

その後、コンピュータで「歩き方のパターンごとの違い」を分析し、膝の曲がり方や腰の持ち上げ方(ヒップハイク)、足の外への振り出し(外転)などから、参加者を3つのグループに分類しました。

結果として、次の3つのタイプが見つかりました。

  1. 重度のStiff Knee Gait(Cluster A)
    膝がほとんど曲がらない
    代わりに腰を持ち上げて足を前に出すことが多い
    歩く速度は一番遅く、左右のバランスの崩れ(推進力の非対称)が大きい
  2. 中等度のStiff Knee Gait(Cluster B)
    膝は少しは曲がるが、まだぎこちない
    腰を持ち上げるだけでなく、ぶん回し歩行も使う
    歩く速度は中間くらい
  3. 軽度のStiff Knee Gait(Cluster C)
    膝はある程度曲がる
    代償動作も少なく、歩行速度も比較的速い
    健常者に近い歩き方

この研究でわかった大事なことは、「膝が曲がらない歩き方」にもいくつかのパターンがあるものの、根本的には重症度の違いで説明できるという点です。

Stiff Knee Gaitの原因:①推進力(地面を蹴る力)

では、なぜ膝が曲がらなくなるのでしょうか?

1つは 「推進力」 の問題です。

「推進力」とは、足の裏で地面をしっかり蹴って体を前に進める力のことです。

しかし脳卒中のあと、この推進力が弱くなることがあり、それが膝の動きに影響します。

推進力(地面を蹴る力)と膝の曲がり

2020年の研究では、脳卒中患者さん29人を対象に、トレッドミル上で歩いてもらい、地面を蹴る力と膝の動きを計測しました。

その結果、足を後ろに蹴り出す力(推進力)が弱い人ほど、膝がうまく曲がらず、代わりに足を外に振り回して歩いてしまうことが分かりました。

特に「蹴り出すべきタイミングで逆にブレーキのような力が出てしまう人」は、膝が曲がらず、ぶんまわし歩行が強く出ていました。

Stiff Knee Gaitの原因:②大腿直筋(太ももの前の筋肉)の筋緊張

2020年の研究では、脳卒中後の10名を対象に、大腿直筋(太ももの前の筋肉)の反射の強さを調べました。

すると、反射が強く出る(過敏になる)ほど、膝の曲がりが小さいことが分かりました。

健康な人では反射と膝の曲がりに関係はなかったので、これは脳卒中の後に特有の現象といえます。

つまり、膝を曲げたいときに太ももの筋肉がガチッとブレーキをかけてしまうのです。これが「膝が固まったようになる」原因のひとつです。

多くの患者さんは推進力が、一部の患者さんは大腿直筋の痙縮が原因

先ほど、「推進力」がStiff Knee Gaitの原因のひとつとお伝えしましたが、推進力とともに大腿直筋の筋緊張の問題も注目されています。

オランダで行われた2025年の大規模研究では、122名の脳卒中患者の歩き方を調べ、健康な人と比較しました。

その結果、脳卒中後の多くの方(約65%)では、足首の蹴り出し(push-off)や股関節の引き上げ(pull-off)が弱いことが、膝の曲がり不足を説明できると分かりました。

一方で、残りの約35%の人たちではこの説明が当てはまらず、その場合は「大腿直筋の痙縮」など別の要因が関わっている可能性が示されました

つまり、膝が曲がらない原因は膝そのものだけでなく、足首・股関節・筋肉のバランスにもあるのです。

膝が曲がらない原因としての推進力と大腿直筋の筋緊張

つまり、膝が曲がらない原因は「膝だけの問題」ではありません。

  • 地面を蹴る力が弱いこと
  • 太ももの筋肉が必要以上に反応してしまうこと
  • 足首や股関節の働きが不足していること

こうした複数の要素が重なって、「膝が曲がらない歩き方(Stiff Knee Gait)」を生み出しているのです。

Stiff Knee Gaitの原因:③シナジー(筋肉のチームワーク)

「シナジー」というのは、筋肉同士のチームワークのことです。

例えば会社をイメージしてください。

上司が『よし、会議の準備だ!』と号令をかけると、ある部署の人たちが一斉に動き出しますよね。

机を並べる人、資料をコピーする人、プロジェクターを準備する人…といった具合に、決まったメンバーがチームとして同時に動きます。これが“シナジー”です。

健康な人の歩行では、筋肉のチームが4つくらいに分かれ、それぞれのチームが役割分担をして歩きを支えています。

ところが脳卒中のあとでは、このチーム分けが崩れてしまうことがあります。

その結果、膝を曲げるべきタイミングで逆に膝を伸ばす筋肉が働いてしまったり、余計な動きが出て「ぶんまわし歩行」のような歩き方につながってしまうのです。

2024年の研究では、実際に脳卒中後のStiff Knee Gait患者さんを対象に筋電図を解析したところ、本来なら遊脚期に働くはずの筋肉チームが、立脚期に異常に働いてしまうといった「シナジーの簡略化・異常化」が確認されました。

シナジーを改善することでStiff Knee Gaitが改善し、ぶん回し歩行の改善につながるかもしれません。

まとめ

「ここまで見ていただいて分かるように、“膝が曲がらない歩き方”にはいろいろな原因があります。

でも、どの原因も“もうどうにもならない”というものではありません。

•   地面を蹴る力を鍛える
•   筋肉のチームワーク(シナジー)を改善する

こうした工夫やリハビリを通して、歩き方は必ず変えていくことができます。

脳卒中のあとでも、歩きかたは変わります。

それは科学で実証されていますし、私たち臨床の現場でも実際に確かめられている事実です。

ぜひ希望を持って、一歩ずつ前に進んでいきましょう。

参考文献

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