
10m歩行試験(10-Meter Walk Test: 10MWT)は、脳卒中リハビリテーションで最も基本的な歩行能力の評価指標です。
歩行速度は「第6のバイタルサイン」とも呼ばれ、機能予後や生命予後までも予測する強力な指標として注目されています。
この記事では、10MWTの正しい測定方法から、信頼性・妥当性・反応性(SEM・MDC・MCID)、機能的歩行分類のカットオフ値、健常高齢者と脳卒中患者の規範的データまでを、2026年時点の最新エビデンスに基づいて網羅的に解説します。
臨床で「この変化は本当に改善なのか?」「退院後に地域で歩けるのか?」と迷ったときの判断基準として、ぜひご活用ください。
情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事は、脳卒中専門リハビリ施設BRAINが運営するBRAINアカデミーアドバンスコース歩行の講義内容をもとに、最新の査読付き論文エビデンスを加えて作成しています。

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概要
| 正式名称 | 10-Meter Walk Test(10MWT)/ 10m歩行試験 |
| 開発の背景 | 歩行速度測定は古くから用いられてきたが、10MWTの脳卒中患者における信頼性を初めて体系的に検証したのはCollen et al.(1990)である。その後、Perry et al.(1995)が歩行速度に基づく機能的歩行分類を確立し、10MWTの臨床的意義を大きく高めた |
| 測定対象 | 短距離歩行速度(m/s)— 機能的移動能力の基本指標 |
| ICF分類 | 活動(Activity) |
| スコアリング | 歩行速度(m/s)を記録。値が大きいほど歩行能力が高い。10m区間の所要時間(秒)から算出(歩行速度 = 10 ÷ 所要時間) |
| 所要時間 | 2〜5分(快適・最大の2条件、各2試行の場合) |
| 必要器具 | ストップウォッチ、14mの歩行路(加速2m + 計測10m + 減速2m)、マーキングテープ |
10MWTは、日常生活における歩行能力を「速度」という客観的な数値で評価する検査です。
測定される歩行速度は、地域での自立歩行の可否、転倒リスク、さらには生命予後の予測にまで関連することが大規模研究で示されています(Studenski et al., 2011)。
脳卒中リハビリテーションにおいて、TUGと並んで最も頻繁に使用される評価指標の一つです。
測定方法
以下の手順は、10MWTの標準プロトコルに基づいています。
ANPT(Academy of Neurologic Physical Therapy)のポケットガイドおよびRehabMeasures Databaseの推奨に準拠しています。
検査手順
① 14m以上の直線歩行路を確保し、開始地点から2m、12mの位置にテープで印をつける(中間10mが計測区間、最初の2mが加速区間、最後の2mが減速区間)
② 患者は開始地点に立ち、つま先をスタートラインに合わせる
③ 快適歩行速度(CGS)の測定:「いつもの楽なペースで歩いてください」と指示する
④ 検査者は計測区間の開始ライン(2m地点)付近に立ち、患者の足先がラインを越えた瞬間にストップウォッチをスタートする
⑤ 患者の足先が計測区間の終了ライン(12m地点)を越えた瞬間にストップウォッチを止める
⑥ 患者には減速区間(残り2m)を歩ききってから止まるよう伝える
⑦ 快適歩行速度で2試行を実施し、平均値を記録する
⑧ 最大歩行速度(FGS/MGS)の測定:「できるだけ速く、安全に歩いてください」と指示する
⑨ 最大歩行速度でも2試行を実施し、平均値を記録する
⑩ 歩行速度の算出:歩行速度(m/s)= 10(m)÷ 所要時間(秒)
実施上の注意点
・歩行補助具(杖・歩行器・装具)の使用は許可する。ただし毎回同じ補助具を使用し、種類を記録すること
・通常の靴を着用して実施する
・加速区間と減速区間を設けることで、定常速度を正確に測定できる
・タイマーの開始・停止は、計測区間のラインを足先が越えた瞬間とする
・転倒リスクに十分配慮し、必要に応じてガードバンドを確保する
・検査中に身体的介助は行わない(介助が必要な場合は「歩行不能」と記録)
快適歩行速度と最大歩行速度の使い分け点
・快適歩行速度(CGS: Comfortable Gait Speed):日常的な歩行能力を反映。機能的歩行分類(Perry分類)に用いるのはこちら
・最大歩行速度(FGS/MGS: Fast/Maximum Gait Speed):運動能力の上限を反映。再テスト信頼性がCGSより高い傾向がある(Flansbjer, 2005)
・臨床では両方を測定し、両者の比率から歩行の余力(reserve capacity)を評価することもできる。慢性期脳卒中患者では「快適歩行速度 × 1.41 ≒ 最大歩行速度」という推定式が報告されている
信頼性
検査者内信頼性(Intra-rater reliability)
| 著者(年) | ICC | 対象者 |
|---|---|---|
| Collen F (1990) | 0.87〜0.88 | 慢性期脳卒中患者 25名 平均年齢72歳 発症後2〜6年 |
| Hayakawa J (2020) | Excellent | 慢性期片麻痺脳卒中患者 30名 平均年齢62.5歳 独歩可能な患者 |
検査者間信頼性(Inter-rater reliability)
| 著者(年) | ICC | 対象者 |
|---|---|---|
| Wolf S (1999) | 0.998 | 慢性期脳卒中患者 28名 平均年齢56歳 発症後約14ヶ月 |
| Busk H (2022) | 0.76 | 急性期脳梗塞患者 40名 平均年齢67.4歳 快適歩行速度、PMID: 35109744 |
再テスト信頼性(Test-retest reliability)
| 著者(年) | ICC | 対象者 |
|---|---|---|
| Collen F (1990) | 0.95〜0.99 | 慢性期脳卒中患者 25名 単一セッション内3試行 |
| Flansbjer UB (2005) | 0.94(CGS)/ 0.97(FGS) | 慢性期脳卒中患者 50名 平均年齢58歳 7日間隔、PMID: 15788341 |
| Fulk GD (2008) | 0.862 | 亜急性期脳卒中患者 35名 入院リハビリ中、PMID: 18463550 |
| Lewek MD (2019) | 0.955(CGS全体)/ 0.979(FGS全体) | 慢性期脳卒中患者 76名 平均年齢58歳 PMID: 30702510 |
| Hosoi Y (2023) | 0.88〜0.95 | 亜急性期脳卒中患者 84名 平均年齢68.5歳 歩行速度群別、PMID: 37538254 |
解釈の目安
ICC 0.75以上 = 優れた信頼性、0.50〜0.74 = 中程度、0.50未満 = 低い信頼性。
10MWTは慢性期においてICC 0.87〜0.998と非常に高い信頼性が確認されています。ただし、急性期では自然回復やストレスの影響で検査者間信頼性がICC 0.76まで低下する場合があります(Busk, 2022)。また、最大歩行速度の方が快適歩行速度より再テスト信頼性が高い傾向があります(Flansbjer, 2005)。
妥当性
歩行・移動能力指標との相関
10MWTの歩行速度は、他の歩行・移動能力指標と強い相関を示しています。
| 比較指標 | 相関係数 | 対象者 | 著者(年) |
|---|---|---|---|
| 6分間歩行試験(6MWT) | r = 0.89(CGS)/ 0.95(FGS) | 慢性期脳卒中患者 50名 | Flansbjer UB (2005) |
| TUG | r = −0.84(CGS)/ −0.91(FGS) | 慢性期脳卒中患者 50名 | Flansbjer UB (2005) |
| Berg Balance Scale(BBS) | r = 0.627〜0.81 | 脳卒中患者 | Wolf S (1999) / 複数研究 |
| Dynamic Gait Index(DGI) | r = −0.68〜−0.87 | 慢性期脳卒中患者 48名 | Lin JH (2010) |
| Barthel Index | r = 0.78 | 脳卒中患者 | Tyson SF (2009) |
| FMA総運動スコア | r = 0.61 | 慢性期脳卒中患者 32名 | 複数研究 |
弁別妥当性(Known-groups validity)
Perry et al.(1995)の機能的歩行分類に基づく3群(家庭内歩行 / 制限付き地域歩行 / 完全地域歩行)の妥当性は、Bowden et al.(2008)によって量的に検証されています。
| 群 | 歩行速度 | 歩数/日 | 対象者 |
|---|---|---|---|
| 家庭内歩行(<0.4 m/s) | 0.29 m/s | 1,411±803歩 | 慢性期脳卒中 13名 |
| 制限付き地域歩行(0.4〜0.8 m/s) | 0.65 m/s | 2,668±1,193歩 | 慢性期脳卒中 23名 |
| 完全地域歩行(>0.8 m/s) | 1.08 m/s | 3,659±1,447歩 | 慢性期脳卒中 23名 |
3群間で1日あたりの歩数に有意差が認められ、歩行速度に基づく分類が実際の生活における歩行活動量を反映していることが確認されています(Bowden, 2008)。
さらに、Schmid et al.(2007)は、歩行速度分類の1段階上への移行(例:家庭内歩行 → 制限付き地域歩行)が、FIMやSIS(Stroke Impact Scale)の臨床的に意味のある改善と関連していることを報告しています。
予測的妥当性(Predictive validity)
歩行速度は強力な予後予測因子であることが知られています。
・地域歩行の予測:退院時の快適歩行速度0.5 m/s以上で、自立した地域歩行を正確に予測(193名中181名で正確に予測)
・生命予後の予測:Studenski et al.(2011)は、65歳以上の地域在住高齢者34,485名のプール解析で、歩行速度0.1 m/sの増加ごとにハザード比 = 0.88(95%CI: 0.87〜0.90)と、死亡リスクの有意な低下を報告しています。歩行速度に基づく生存予測は、年齢・性別・慢性疾患・喫煙歴・血圧・BMIなどを用いた予測モデルと同等の精度でした。
・歩行速度の改善と生存:Hardy et al.(2007)は、歩行速度が改善した群の8年後死亡率が31.6%であったのに対し、改善しなかった群は49.3%と報告しています
まとめ:10MWTの歩行速度は、6MWT・TUG・BBSなど主要な評価指標と強い相関を示すとともに、機能的歩行分類・地域歩行自立・生命予後を予測する高い妥当性が確認されています。
変化の検出と解釈(SEM・MDC・MCID)
用語解説
・SEM(測定の標準誤差):同じ患者を繰り返し測定したときに生じる測定誤差の大きさ。この値より小さい変化は測定誤差の範囲内と解釈される
・MDC(最小検出可能変化量):「本当に変化した」と95%の確信をもって言える最小の変化量(MDC95 = SEM × 1.96 × √2)
・MCID(臨床的に意味のある最小変化量):患者さんにとって「意味のある改善」と感じられる最小の変化量
重要
10MWTのMDCはベースラインの歩行速度によって大きく異なります。画一的な閾値を全患者に適用するのは不適切であり、患者の歩行速度群に応じた値を使い分ける必要があります(Hosoi, 2023; Lewek, 2019)。
SEM
| 著者(年) | SEM | 対象者 |
|---|---|---|
| Perera S (2006) | 0.04 m/s | 亜急性期脳卒中患者 100名 PMID: 16696738 |
| Flansbjer UB (2005) | 0.07 m/s(CGS)/ 0.08 m/s(FGS) | 慢性期脳卒中患者 50名 PMID: 15788341 |
| Hosoi Y (2023)・低速群 | 0.02 m/s(CGS)/ 0.01 m/s(MGS) | 亜急性期脳卒中、<0.4 m/s PMID: 37538254 |
| Hosoi Y (2023)・中速群 | 0.04 m/s(CGS)/ 0.04 m/s(MGS) | 亜急性期脳卒中、0.4〜0.8 m/s PMID: 37538254 |
| Hosoi Y (2023)・高速群 | 0.08 m/s(CGS)/ 0.07 m/s(MGS) | 亜急性期脳卒中、>0.8 m/s PMID: 37538254 |
臨床のポイント
歩行速度が遅い患者ほどSEM(m/s)は小さく、逆にSEM(秒)は大きくなります。つまり、低速群では小さな速度変化でも「測定誤差ではない」と判断しやすいですが、所要時間での比較は誤差が大きくなるため注意が必要です(Hosoi, 2023)。
MDC95
快適歩行速度(CGS)のMDC95を歩行速度群別に示します。
| 著者(年) | 低速群(<0.4 m/s) | 中速群(0.4〜0.8 m/s) | 高速群(>0.8 m/s) |
|---|---|---|---|
| Hosoi Y (2023)・亜急性期 PMID: 37538254 | 0.05 m/s | 0.11 m/s | 0.21 m/s |
| Lewek MD (2019)・慢性期 PMID: 30702510 | 0.10 m/s | 0.15 m/s | 0.18 m/s |
その他のMDC報告値:
| 著者(年) | MDC | 対象者 |
|---|---|---|
| Flansbjer UB (2005) | SRD 23% | 慢性期脳卒中患者 50名 PMID: 15788341 |
| Fulk GD (2008) | 0.07 m/s(介助群)/ 0.36 m/s(自立群) | 亜急性期脳卒中患者 35名 MDC90、PMID: 18463550 |
| Hayakawa J (2020) | 0.16 m/s | 慢性期片麻痺脳卒中患者 30名 独歩可能患者 |
臨床での使いかた
例えば、快適歩行速度0.3 m/s(低速群)の慢性期脳卒中患者が0.42 m/sに改善した場合(0.12 m/s改善)、低速群のMDC95(0.10 m/s)を超えているため「本当に改善した」と判断できます。同時に、Perry分類の閾値0.4 m/sを超えて「家庭内歩行」から「制限付き地域歩行」へ移行しており、この分類移行は機能・QOLの臨床的に意味のある改善と関連しています(Schmid, 2007)。
MCID
| 著者(年) | MCID | 対象者 | 方法 |
|---|---|---|---|
| Tilson JK (2010) | 0.16 m/s | 亜急性期脳卒中患者 283名(LEAPS RCT) 感度0.739、特異度0.570、AUC 0.69 PMID: 20022995 | mRS 1点以上改善をアンカー |
| Perera S (2006) | 0.05 m/s(小さな変化)/ 0.10 m/s(大きな変化) | 高齢者(脳卒中含む)100名 PMID: 16696738 | 分布法+アンカー法 |
MCIDの使い分け
・0.05 m/s:「小さいが意味のある変化」の目安。高齢者を含む混合集団のデータに基づく(Perera, 2006)
・0.10 m/s:「大きな有意義な変化」の目安(Perera, 2006)
・0.16 m/s:脳卒中患者に特化したMCID。亜急性期283名のRCTデータから、mRS 1点以上の改善をアンカーとして算出(Tilson, 2010)。脳卒中リハビリテーションではこの値が最も広く引用されている
SEM・MDC・MCIDの使い分け
・SEM(0.02〜0.08 m/s):測定のばらつきの目安。これ以下の変化は誤差の範囲内
・MDC(0.05〜0.21 m/s):「統計的に本当に変化した」と言える最小値。歩行速度群によって異なる
・MCID(0.16 m/s):「患者さんにとって意味のある改善」の最小値(脳卒中患者)
MDCを超える変化があれば「誤差ではない変化」、MCIDを超えれば「臨床的に意味のある改善」と解釈できます。なお、低速群ではMDC(0.05〜0.10 m/s)がMCID(0.16 m/s)より小さいため、統計的に真の変化であっても臨床的な意味のある改善には達していない場合があります。
カットオフ値
機能的歩行分類(Perry et al., 1995)
脳卒中リハビリテーションで最も広く使用されている歩行速度の分類基準です。
| 歩行速度 | 分類 | 障害レベル | 臨床的意味 |
|---|---|---|---|
| < 0.4 m/s | 家庭内歩行(Household Ambulator) | 重度 | 屋内の移動が中心。屋外での自立歩行は困難 |
| 0.4〜0.8 m/s | 制限付き地域歩行(Limited Community Ambulator) | 中等度 | 近所の移動は可能だが、混雑した環境や長距離歩行は困難 |
| > 0.8 m/s | 完全地域歩行(Full Community Ambulator) | 軽度 | ほとんどの地域活動に参加可能 |
この分類は、Bowden et al.(2008)によって1日あたりの歩数データで量的に検証されており、Schmid et al.(2007)によって分類間の移行が機能・QOLの臨床的に意味のある改善と関連することが確認されています。
地域歩行に関するカットオフ値
| カットオフ値 | 臨床的意味 | 出典 |
|---|---|---|
| 0.4 m/s | 家庭内歩行と制限付き地域歩行の境界 | Perry (1995) |
| 0.5 m/s | 退院後の自立地域歩行を予測する閾値 | 複数研究 |
| 0.8 m/s | 制限付き地域歩行と完全地域歩行の境界 | Perry (1995) |
| 1.0 m/s | この速度未満は罹患率・死亡率増加のリスク指標 | 複数メタ分析 |
| 1.2 m/s | 横断歩道を安全に渡るために必要な速度 | 多国間の基準 |
臨床のポイント
多くの国の横断歩道の信号時間は歩行速度1.2 m/sを基準に設定されています。脳卒中患者の大多数はこの速度を達成できないため、横断歩道の安全な使用に向けたリハビリ目標設定の際に有用な情報です。
転倒予測
| 著者(年) | カットオフ | 対象者 | イベント | 感度 | 特異度 |
|---|---|---|---|---|---|
| 転倒リスク研究 | 0.57 m/s以下 | 脳卒中患者 | 転倒リスク増加 | 0.72 | 0.74 |
注意点
脳卒中患者における転倒リスク予測は、歩行速度単独よりもBBS(AUC: 0.72〜0.81)やTUG(AUC: 0.66〜0.70)の方が研究数が多く確立されています。また、歩行速度と転倒リスクの関係はU字型(非線形)であり、非常に遅い群だけでなく非常に速い群も転倒リスクが高いことが報告されています(Quach, 2011)。単一のカットオフ値での転倒予測には限界があります。
生命予後
| 著者(年) | 知見 | 対象者 |
|---|---|---|
| Studenski S (2011) | 歩行速度0.1 m/s増加ごとにHR = 0.88 | 65歳以上 34,485名 9コホートのプール解析、PMID: 21205966 |
| Hardy SE (2007) | 歩行速度改善群の8年後死亡率31.6% vs 非改善群49.3% | 高齢者 PMID: 17916121 |
Studenski et al.(2011)の研究では、75歳男性の10年生存率が歩行速度によって19%(最低速度群)〜87%(最高速度群)と大きく異なることが報告されています。
歩行速度は年齢・性別・慢性疾患などを含む従来の予測モデルと同等の精度で生存を予測できるとされています。
規範的データ
7-1. 健常高齢者の一般的なスコア
大規模メタ分析:Bohannon & Andrews(2011; 41研究、n = 23,111)からの報告です。
快適歩行速度(CGS):
| 年齢 | 男性(m/s) | 女性(m/s) |
|---|---|---|
| 40〜49歳 | 1.43 | − |
| 60〜69歳 | 1.35 | 1.28 |
| 70〜79歳 | 1.26 | 1.13 |
| 80〜99歳 | 0.97 | 0.94 |
個別研究データ:Bohannon(1997; n = 230)からの報告です。
快適歩行速度(CGS):
| 年齢 | 男性(m/s) | 女性(m/s) |
|---|---|---|
| 20〜29歳 | 1.40 | 1.40 |
| 40〜49歳 | 1.46 | 1.40 |
| 60〜69歳 | 1.35 | 1.30 |
| 70〜79歳 | 1.30 | 1.27 |
主な知見
男性は女性より歩行速度が速い傾向があります(歩幅の差に起因)。70歳以降は10年ごとに12〜16%の速度低下が認められます。1.0 m/s未満は罹患率・死亡率増加のリスク指標とされています(Abellan van Kan, 2009)。
脳卒中患者の一般的なスコア
| 病期 | 歩行速度 | 著者(年) |
|---|---|---|
| 急性期(入院48時間以内) | 67%が0 m/s(歩行不能) | Scrivener K (2014) 190名、退院時26%が歩行不能 PMID: 24934859 |
| 急性〜亜急性期 | 平均 0.36 m/s | Defined AA (2022) メタ分析9研究939名 PMID: 36226075 |
| 亜急性期(発症約20日) | 0.18±0.16 m/s | Tilson JK (2010) LEAPS RCT 283名 |
| 亜急性期(発症約60日) | 0.39±0.22 m/s | Tilson JK (2010) 40日間で0.21 m/s改善 |
| 亜急性期(入院リハビリ) | 0.56±0.22 m/s | 複数研究 |
| 慢性期 | 0.84±0.3 m/s | Severinsen K (2011) 48名、健常者の約59% |
| 慢性期(外来リハビリ) | 0.63±0.31 m/s | 複数研究 |
慢性期脳卒中患者の歩行速度分布(Perry分類)です。
| 分類 | 歩行速度 | 歩数/日 | 割合(概算) |
|---|---|---|---|
| 家庭内歩行(重度) | 0.29±0.10 m/s | 1,411±803歩 | 約20〜25% |
| 制限付き地域歩行(中等度) | 0.65±0.12 m/s | 2,668±1,193歩 | 約35〜40% |
| 完全地域歩行(軽度) | 1.08±0.16 m/s | 3,659±1,447歩 | 約30〜35% |
比較のポイント
健常高齢者(60〜69歳)の平均歩行速度は約1.3 m/sですが、急性〜亜急性期の脳卒中患者は平均0.36 m/s(健常者の約28%)、慢性期でも0.63〜0.84 m/s(健常者の約48〜65%)にとどまります。急性期では67%の患者がそもそも歩行不能であり、発症後20日時点でも平均0.18 m/sと家庭内歩行レベルです。発症60日で0.39 m/sまで改善しますが、安全な地域歩行(0.8 m/s)に達する慢性期患者は全体の約30〜35%にすぎません。
よくある測定ミス TOP5
10MWTはシンプルな検査ですが、以下のミスがあると信頼性が低下し、結果の解釈に影響します。
- ① 加速・減速区間を設けていない
14mの歩行路のうち、最初の2mと最後の2mは加速・減速のために必要です。10mの歩行路で端から端まで計測すると、加速と減速が含まれるため定常歩行速度を正確に測定できません。 - ② 計測開始のタイミングが「Go」の合図
よくある誤解ですが、計測は「Go」の合図ではなく、患者の足先が計測区間の開始ライン(2m地点)を越えた瞬間にスタートします。加速区間の時間を含めてしまうと歩行速度を過小評価してしまいます。 - ③ 快適歩行速度と最大歩行速度を片方しか測定しない
MDCの値は速度条件によって異なり(最大歩行速度の方が再テスト信頼性が高い)、両方のデータがあることで歩行の余力を評価できます。プロトコルでは両条件を2試行ずつ測定することが推奨されています。 - ④ 歩行補助具・装具の未記録
杖や装具の使用を記録しないと、前回との正確な比較ができません。同じ条件で測定し、補助具の種類を必ず記録しましょう。 - ⑤ 画一的なMDCを全患者に適用
MDCはベースラインの歩行速度によって大きく異なります(低速群0.05〜0.10 m/s vs 高速群0.18〜0.21 m/s)。「0.16 m/sの改善がないと意味がない」と画一的に判断するのは不適切です。患者の歩行速度群に応じたMDCを使い分けましょう(Hosoi, 2023; Lewek, 2019)。
10MWT・6MWT・TUG:どれを選ぶ?
脳卒中患者の歩行・移動能力の評価指標として、10MWT・6MWT・TUGはそれぞれ異なる特徴を持っています。
対象者の状態や評価の目的に応じて使い分けましょう。
| 項目 | 10MWT | 6MWT | TUG |
|---|---|---|---|
| 測定対象 | 短距離歩行速度 | 歩行持久力 | 機能的移動能力(複合動作) |
| 計測指標 | m/s | 歩行距離(m) | 所要時間(秒) |
| 所要時間 | 2〜5分 | 6〜10分 | 1〜3分 |
| 必要スペース | 14m歩行路 | 30m歩行路 | 3m歩行路+椅子 |
| フロア効果 | 大きい(急性期67%) | 大きい | 中程度 |
| 天井効果 | 小さい | 中程度 | 中程度 |
| 機能的歩行分類 | 可能(Perry分類) | 限定的 | 不可 |
| 生命予後予測 | 強い(HR = 0.88/0.1 m/s) | 中程度 | 限定的 |
| テスト間相関 | — | r = 0.89〜0.95 | r = −0.84〜−0.91 |
| 特に有用な場面 | 歩行速度の基本評価、Perry分類、地域歩行予測、生命予後予測 | 歩行持久力の評価、心肺機能との関連、長距離歩行能力の予測 | バランスを含む総合的移動能力、転倒リスク判定、スクリーニング |
BRAINでの使い分け!
・10MWTで歩行速度を評価:Perry分類で歩行能力のレベルを把握し、地域歩行の可否を予測。リハビリ目標設定の基盤とする
・6MWTで歩行持久力を評価:10MWTと併用することで速度と持久力の両面から歩行能力を評価。長距離歩行が必要な患者で特に有用
・TUGでバランス・転倒リスクを評価:方向転換や立ち上がり動作を含む総合的な移動能力を把握。転倒リスク判定にはBBSとの併用が推奨
BRAINアカデミーでは、10MWT・6MWT・TUGの使い分けに加え、エビデンスに基づくリハビリプログラムの立案やShared Decision Making(SDM)の実践まで、臨床で即使えるスキルを体系的に学べます。「歩行速度の数値をどうリハビリに活かすか」を深く学びたい方はぜひご覧ください。
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エビデンスに基づく脳卒中リハビリテーションを体系的・網羅的に学ぶ、3ヶ月間のオンライン学習プログラムです。①動画教材 ②課題 ③フィードバックを通じて、EBMを身に付けましょう!
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歩行速度かんたん判定ツール
10MWT 歩行速度かんたん判定ツール
歩行速度(m/s)または10m区間の所要時間(秒)を入力すると、エビデンスに基づくカットオフ値と比較した臨床的な解釈を表示します。
― または ―
※ この判定ツールは参考情報であり、臨床判断を代替するものではありません。患者個々の状態を総合的に評価してください。
※ カットオフ値の出典は記事本文の「6. カットオフ値」セクションをご参照ください。
ワークショップ:臨床判断トレーニング
以下の症例を読んで、10MWTの結果をどのように解釈すべきか考えてみましょう。「回答を見る」をクリックすると解説が表示されます。
MDCの使い分け
慢性期脳卒中患者(58歳男性)の快適歩行速度が、先月0.35 m/s → 今月0.46 m/s(0.11 m/s改善)でした。この変化は「本当の改善」と言えますか?
回答:はい、本当の改善と言えます。
ベースライン0.35 m/sは低速群(<0.4 m/s)に該当します。低速群のMDC95は0.10 m/s(Lewek, 2019)です。今回の変化量0.11 m/sはMDCを超えているため、95%の確信をもって「測定誤差ではない変化」と判断できます。
さらに重要なのは、この患者はPerry分類の閾値0.4 m/sを超えて「家庭内歩行」から「制限付き地域歩行」に移行しています。Schmid et al.(2007)はこの分類移行がFIMやQOLの臨床的に意味のある改善と関連していることを報告しています。
ただし、脳卒中に特化したMCID(0.16 m/s、Tilson 2010)にはまだ達していないため、「小さいが有意義な変化(0.10 m/s、Perera 2006)」の範囲と解釈するのが適切です。
歩行速度群によるMDCの違い
慢性期脳卒中患者Aさん(歩行速度0.30 m/s)とBさん(歩行速度0.90 m/s)が、ともに0.12 m/sの改善を示しました。2人とも「本当に改善した」と言えますか?
回答:Aさんは「改善」と言えますが、Bさんは言えません。
- Aさん(低速群 <0.4 m/s):MDC95 = 0.10 m/s(Lewek, 2019)。変化量0.12 m/sはMDCを超えているため、「本当の改善」と判断できます
- Bさん(高速群 >0.8 m/s):MDC95 = 0.18 m/s(Lewek, 2019)。変化量0.12 m/sはMDCに達していないため、測定誤差の範囲内である可能性があります
このように、同じ0.12 m/sの変化でも、ベースラインの歩行速度によって臨床的な意味が全く異なります。10MWTでは画一的なMDCの適用は不適切であり、歩行速度群別のMDCを使い分ける必要があります(Hosoi, 2023; Lewek, 2019)。
カットオフ値の臨床活用
亜急性期脳卒中患者(70歳女性)の退院時の快適歩行速度が0.45 m/sでした。退院後の生活について、歩行速度の観点からどのように説明しますか?
回答:制限付き地域歩行レベルで、近所の移動は可能ですが、課題も残ります。
- Perry分類(1995)では「制限付き地域歩行」(0.4〜0.8 m/s)に該当し、近所への外出は可能なレベルです
- 地域歩行自立の予測閾値0.5 m/sに近いですが、まだ下回っているため、屋外歩行には見守りや環境調整が望ましいです
- 横断歩道の安全横断に必要な1.2 m/sを大幅に下回るため、信号のある横断歩道では時間が不足する可能性があります
- 転倒リスクのカットオフ0.57 m/sを下回っているため、転倒予防に注意が必要です
- 健常同年代女性(70代: 約1.13 m/s)と比較すると約40%の速度であり、継続的なリハビリで0.8 m/s(完全地域歩行)を目指すことが次の目標となります
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引用文献
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