
FMA(Fugl-Meyer Assessment)は、脳卒中後の感覚運動機能障害を評価する世界標準の評価指標です。
1975年にAxel Fugl-Meyerらが開発して以来、上肢・下肢の運動機能評価として最も広く使用されており、2026年には14名の国際専門家による標準化マニュアルが発表されました。
この記事では、FMAの正しい測定方法から、信頼性・妥当性・反応性(SEM・MDC・MCID)、重症度分類まで、最新エビデンスに基づいて網羅的に解説します。
臨床で「この変化は本当に改善なのか?」と迷ったときの判断基準として、ぜひご活用ください。
情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事は、脳卒中専門リハビリ施設BRAINが運営するBRAINアカデミーアドバンスコース歩行の講義内容をもとに、最新の査読付き論文エビデンスを加えて作成しています。

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概要
FMAは、脳卒中後の運動回復パターン(Brunnstromの回復段階)に基づいて設計された評価指標です。
共同運動パターンから分離運動への回復過程を段階的に評価できる点が特徴です。
上肢(FMA-UE)と下肢(FMA-LE)は独立して使用でき、脳卒中のリハビリテーション研究・臨床試験における中核的評価指標(core outcome measure)として推奨されています(Kwakkel et al., 2017)。
- FMA-UE(上肢運動):66点満点
- FMA-LE(下肢運動):34点満点
公式プロトコル・マニュアル・教育動画は、開発元であるヨーテボリ大学のウェブサイトから無料でダウンロードできます。
16言語以上に翻訳されており、日本語版も利用可能です。
測定方法
以下の手順は、2026年に発表された国際標準化マニュアル(Hervé-Colas et al., 2026; DOI: 10.1177/15459683251412300)に基づいています。
同マニュアルは、3大陸6カ国13研究機関の14名の専門家が反復的合意形成プロセス(最低75%合意閾値)を経て策定したものです。
FMA-UE(上肢)の評価領域
FMA-UEは以下の領域で構成されています(合計66点)。
- A. 肩・肘・前腕(上肢近位):36点
- 反射活動(4点)
- 屈筋・伸筋共同運動(18点)
- 共同運動からの分離運動(6点)
- 正常反射活動(2点)
- 手関節の運動(10点)※ 手関節は「D」に含まれる場合もあり - B. 手関節:10点
- C. 手指:14点
- D. 協調性・速度(2点)
注:上記の小計の構成は文献により表記が異なる場合がありますが、合計は常に66点です。
FMA-LE(下肢)の評価領域
FMA-LEは以下の領域で構成されています(合計34点)。
- A. 反射活動(4点)
- B. 屈筋・伸筋共同運動(14点)
- C. 共同運動からの分離運動(6点)
- D. 正常反射活動(2点)
- E. 協調性・速度(6点)※ 膝屈伸の踵当てテスト
実施上の注意点(国際標準化マニュアル, 2026)
- 各項目は1〜3回の試行で評価する(最良の試行を採用)
- 肘伸展の制限が30°以内であれば、完全伸展を必要とする項目でも「2」の採点が可能
- 肩屈曲の基準角度は180°(理論的最大値)ではなく、160°(集団ベースの受動可動域)を使用する
- 受動可動域の評価は、能動運動と同じ体位で実施する
- 足関節の評価は裸足で実施することが推奨される
- 下肢の膝屈曲は90°を超える能動的屈曲が得られていることを確認する
- 評価順序や体位変換のタイミングは柔軟に対応してよいが、正確な採点を優先する
評価者の要件(国際標準化マニュアル, 2026)
- 神経リハビリテーションの基盤知識を持つ理学療法士・作業療法士、または脳卒中リハビリテーションの訓練を受けた神経内科医
- 初心者は経験豊富な評価者による教育的・実践的トレーニングを受けること
- 動画ベースの学習および患者セッション(様々な回復段階・重症度)での実習を含む
- 最低3回の独立評価(監督付き)を完了すること
- 能力維持のため、定期的な(例:年1回)ピアトレーニングを推奨
- 臨床試験では、担当エキスパートセラピストが施設横断的なトレーニングを監督すること
信頼性
以下のデータは、2026年の国際標準化マニュアル(Hervé-Colas et al., 2026)に含まれるシステマティックレビュー(21研究:FMA-UE 17研究、FMA-LE 10研究)の結果に基づいています。
FMA-UE:検査者内信頼性(Intra-rater reliability)
| 著者(年) | ICC | 対象者 |
|---|---|---|
| See J (2013) | 0.99 | 脳卒中患者 MDC: 3.2点 PMID: 23774125 |
| Kim H (2012) | 0.97 | 脳卒中患者(動画評価) SRD: 9点 |
| Lundquist CB (2016) | 0.95(95%CI: 0.93) | 脳卒中患者 |
FMA-UE:検査者間信頼性(Inter-rater reliability)
| 著者(年) | ICC / 一致率 | 対象者 |
|---|---|---|
| Kim H (2012) | ICC = 1.0 | 脳卒中患者(動画評価) |
| Lundquist CB (2016) | ICC = 0.95(95%CI: 0.93) | 脳卒中患者 |
| Hernandez ED (2019) | 項目一致率: 90〜100% 合計±1点一致率: 80〜83% | 脳卒中患者 |
| Hochleitner SE (2023) | 項目一致率: 72〜100% 合計±2点一致率: 88〜92% | 脳卒中患者 |
FMA-LE:信頼性
| 著者(年) | 種別 | ICC | 対象者 |
|---|---|---|---|
| Hiengkaew V (2012) | 検査者内 | 0.94(95%CI: 0.89) | 脳卒中患者 MDC: 3.6点 |
| Kim H (2012) | 検査者内 | 0.87 | 脳卒中患者(動画評価) SRD: 8点 |
| Kim H (2012) | 検査者間 | 0.93 | 脳卒中患者(動画評価) SRD: 6点 |
| Hernandez ED (2019) | 検査者間 | 項目一致率: 88〜100% 合計一致率: 75〜80% | 脳卒中患者 |
・FMA-UEは検査者内ICC 0.95〜0.99、検査者間ICC 0.93〜1.0と非常に高い信頼性が報告されています。FMA-LEも検査者内ICC 0.87〜0.94、検査者間ICC 0.85〜0.95と高い信頼性を示しています
・合計スコアでの検査者間一致は、±1〜3点の差で70〜92%の一致率です(Hervé-Colas et al., 2026)
項目レベルの注意点
Wiesner et al.(2024)の亜急性期動画評価研究では、項目レベルの一致率の中央値は77%(範囲: 44〜100%)であり、特定の項目(手関節・手指の微細運動)では評価者間で解釈が異なる場合があります。
重み付きカッパ ≥ 0.75が十分な項目レベル信頼性の目安とされています。
妥当性
FMA-UE:構成概念妥当性(Construct validity)
FMA-UEは、上肢機能に関する主要な評価指標と強い相関を示しています。
| 比較指標 | 相関係数 | 著者(年) |
|---|---|---|
| ARAT(Action Research Arm Test) | r = 0.77〜0.96 | Platz T (2005) Rabadi MH (2006) Wei XJ (2011) |
| WMFT(Wolf Motor Function Test) | r = 0.57〜0.76 | Hsieh YW (2009) PMID: 19228851 |
| BBT(Box and Block Test) | r = 0.86〜0.95 | Hervé-Colas et al. (2026) |
| 9HPT(9-Hole Peg Test) | r = 0.75 | Hervé-Colas et al. (2026) |
| MAL(Motor Activity Log) | r = 0.93 | Hervé-Colas et al. (2026) |
| 握力 | r = 0.72〜0.88 | Hervé-Colas et al. (2026) |
| SIS Hand(Stroke Impact Scale 手の項目) | r = 0.86 | Hervé-Colas et al. (2026) |
| NIHSS | r = 0.79 | Hervé-Colas et al. (2026) |
| FIM(機能的自立度評価法) | r = 0.70 | Hervé-Colas et al. (2026) |
FMA-LE:構成概念妥当性
| 比較指標 | 相関係数 | 著者(年) |
|---|---|---|
| Motricity Index | r = 0.86 | Hervé-Colas et al. (2026) |
| Berg Balance Scale | r = 0.32〜0.66 | Hervé-Colas et al. (2026) |
| Modified Rankin Scale | r = 0.69 | Hervé-Colas et al. (2026) |
| NIHSS | r = 0.79 | Hervé-Colas et al. (2026) |
| FIM(機能的自立度評価法) | r = 0.70 | Hervé-Colas et al. (2026) |
床効果・天井効果(Floor and Ceiling Effects)
| 著者(年) | 病期 | 床効果 | 天井効果 |
|---|---|---|---|
| Hsueh IP (2008) | 亜急性期 | 0〜4% | 2〜9% |
| Lin JH (2009) | 亜急性期〜慢性期 | 2〜9% | 6〜17% |
| Hernandez ED (2019) | FMA-UE | 0% | 22% |
| Hernandez ED (2019) | FMA-LE | 0% | 15% |
まとめ
ほとんどの研究で床効果・天井効果は15%以下であり、亜急性期から慢性期まで幅広い重症度で使用可能です。
ただし、慢性期の軽症例ではFMA-UEの天井効果が17〜22%に達する場合があり、軽症例の評価にはARATやWMFTとの併用が推奨されます(Hervé-Colas et al., 2026)。
変化の検出と解釈(SEM・MDC・MCID)
・MDC(最小検出可能変化量):「本当に変化した」と95%の確信をもって言える最小の変化量(MDC95 = SEM × 1.96 × √2)
・MCID(臨床的に意味のある最小変化量):患者さんにとって「意味のある改善」と感じられる最小の変化量
FMA-UE:MDC
| 著者(年) | MDC | 対象者 |
|---|---|---|
| See J (2013) | MDC90: 3.2点 | 脳卒中患者 PMID: 23774125 |
| Lin JH (2009) | 5点(慢性期) 13点(亜急性期) | 脳卒中患者 |
| Hsueh IP (2008) | 7.2点(慢性期) | 脳卒中患者 |
| Kim H (2012) | SRD: 9点(検査者内) | 脳卒中患者(動画評価) |
FMA-LE:MDC
| 著者(年) | MDC | 対象者 |
|---|---|---|
| Hiengkaew V (2012) | 3.6点 | 脳卒中患者 |
| Hsueh IP (2008) | 3.8点(慢性期) | 脳卒中患者 |
| Kim H (2012) | SRD: 6点(検査者間) SRD: 8点(検査者内) | 脳卒中患者(動画評価) |
FMA-UE:MCID
| 著者(年) | MCID | 病期 | 方法 |
|---|---|---|---|
| Arya KN (2011) | 9〜10点 AUC: 0.84〜0.98 | 早期亜急性期 | アンカー法 |
| Huynh K (2023) | 9点(mRS変化、AUC: 0.70) 13点(麻痺自覚改善、AUC: 0.83) | 早期亜急性期 | アンカー法 |
| Pohl J (2025) | 7点(3〜10日目) 4点(10〜28日目) AUC: 0.68〜0.88 | 早期亜急性期 亜急性期 | アンカー法 |
| Page SJ (2012) | 4〜7点 AUC: 0.61〜0.70 | 慢性期 | セラピスト評価アンカー法 |
| Lundquist CB (2016) | 4点 AUC: 0.87 | 慢性期 | GRPC(患者自覚変化) |
FMA-LE:MCID
| 著者(年) | MCID | 病期 | 方法 |
|---|---|---|---|
| Pandian S (2016) | 6点 AUC: 0.93〜0.98 | 慢性期 | アンカー法 |
・早期亜急性期(発症〜2週間):FMA-UEのMCIDは7〜13点。自然回復の影響が大きいため、大きな変化が必要
・亜急性期(2〜4週間):FMA-UEのMCIDは4点。回復速度が安定し始める時期
・慢性期(6ヶ月以降):FMA-UEのMCIDは4〜7点、FMA-LEのMCIDは6点
例
慢性期脳卒中患者のFMA-UEが前回30点 → 今回37点(7点改善)の場合、MDC(5〜7.2点)を超えており、かつMCID(4〜7点)の上限に達しているため、「測定誤差ではない、臨床的にも意味のある改善」と判断できます。
重症度分類
FMA-UEの合計スコアによる重症度分類は、複数の研究で提案されています。
ここでは主要な分類を紹介します。
SALGOT研究による3段階分類
臨床試験で最もシンプルに使えるカテゴリです。
| 重症度 | FMA-UEスコア | 臨床的アンカー |
|---|---|---|
| 重度(Severe) | 0〜31点 | コップからの飲水動作が遂行不可 |
| 中等度(Moderate) | 32〜57点 | コップからの飲水動作が遂行可能 |
| 軽度(Mild) | 58〜66点 | 日常生活での上肢の常用が可能 |
出典:SALGOT study; Hussain N, Alt Murphy M, Sunnerhagen KS. Front Neurol. 2018;9:300. PMID: 29867717
Woytowicz et al.(2017)による4段階分類
より詳細な治療計画に有用な分類です。
| 重症度 | FMA-UEスコア |
|---|---|
| 重度(Severe) | 0〜15点 |
| 重度-中等度(Severe-Moderate) | 16〜34点 |
| 中等度-軽度(Moderate-Mild) | 35〜53点 |
| 軽度(Mild) | 54〜66点 |
Hoonhorst et al.(2015)による5段階分類(慢性期)
回復の予後予測に有用な、最も詳細な分類です。
| 回復レベル | FMA-UEスコア |
|---|---|
| 回復なし(No recovery) | 0〜22点 |
| 不良(Poor) | 23〜31点 |
| 限定的(Limited) | 32〜47点 |
| 顕著(Notable) | 48〜52点 |
| 完全(Full) | 53〜66点 |
Valladares et al.(2024)による病期別5段階分類
同じ5段階分類でも、病期によってカットオフ値が異なることが報告されています。
| 回復レベル | 急性期〜 早期亜急性期 | 亜急性期 | 慢性期 |
|---|---|---|---|
| 回復なし(No) | 0〜19 | 0〜19 | 0〜19 |
| 不良(Poor) | 20〜32 | 20〜30 | 20〜28 |
| 限定的(Limited) | 33〜47 | 31〜47 | 29〜45 |
| 顕著(Notable) | 48〜57 | 48〜55 | 46〜53 |
| 完全(Full) | 58〜66 | 56〜66 | 54〜66 |
・患者さんの病期に応じた分類を使い分けてください
・SEM・MDC・MCIDの使い分け(FMA-UE慢性期の場合):MDC(約5〜7点)は「統計的に本当に変化した」と言える最小値、MCID(約4〜7点)は「患者さんにとって意味のある改善」の最小値
・MDCを超える変化があれば「誤差ではない変化」、MCIDを超えれば「臨床的に意味のある改善」と解釈できます
よくある測定ミス TOP5
FMAはTUGなどの単純な計時検査と比べて項目数が多く、採点判断を要する評価指標です。
以下のミスがあると信頼性が低下し、特に多施設間でのデータ比較が困難になります。
- 採点基準の主観的解釈
共同運動パターンの「部分的遂行(1点)」と「完全遂行(2点)」の境界が曖昧なまま採点してしまう。2026年の国際標準化マニュアルでは、各項目について具体的な採点基準が写真付きで明示されています。マニュアルを常に参照してください(Hervé-Colas et al., 2026)。 - 試行回数の不統一
項目によって1回しか試行させなかったり、5回以上試行させたりすると、評価者間で差が出ます。国際マニュアルでは1〜3回の試行と規定されており、最良の試行を採用します。 - 代償動作の見逃し
特に上肢の分離運動テスト(共同運動パターンからの脱却)において、体幹の側屈や回旋による代償を見逃すと過大評価になります。患者の体幹を注意深く観察してください。 - 肘伸展の過度な厳格化
肘の完全伸展が30°以内の制限であれば「2」の採点が可能です(国際マニュアル, 2026)。関節可動域制限のある患者に対して0点と採点すると、運動機能を過小評価してしまいます。 - 下肢評価時の靴の着用
足関節の評価は裸足で実施することが推奨されています(国際マニュアル, 2026)。靴を履いたまま評価すると、足関節の背屈・底屈の正確な評価ができません。
FMA-UE・ARAT・WMFT:どれを選ぶ?
脳卒中患者の上肢機能評価指標として、FMA-UE・ARAT・WMFTはそれぞれ異なる特徴を持っています。
対象者の状態や評価の目的に応じて使い分けましょう。
| 項目 | FMA-UE | ARAT | WMFT |
|---|---|---|---|
| 測定対象 | 運動機能障害 (共同運動〜分離運動) | 上肢の活動能力 (把握・握り・つまみ・粗大運動) | 上肢の運動パフォーマンス (速度+質) |
| ICF分類 | 心身機能 | 活動 | 活動 |
| 所要時間 | 20〜30分 | 10〜15分 | 15〜30分 |
| スコア形式 | 0〜66点 | 0〜57点 | 時間 + 機能能力スコア(0〜75点) |
| 天井効果 | 慢性期軽症例でやや高い(17〜22%) | 軽症例で高い | 時間スコアは天井効果が少ない |
| 重度例への適用 | 適(反射〜分離運動まで段階的に評価) | 限定的(0点フロア) | 限定的 |
| 運動回復パターンの評価 | 可能(Brunnstrom段階に基づく) | 不可 | 限定的 |
| 特に有用な場面 | 運動障害の質的評価 回復段階の特定 臨床試験のアウトカム | 日常生活の上肢活動能力 治療効果の短時間評価 | CI療法の効果測定 運動速度の定量評価 |
BRAINでの使い分け
- FMA-UEで運動障害の質を評価:共同運動パターンからの分離がどこまで進んでいるかを段階的に把握。重度例にも適用可能
- ARATで活動レベルの能力を評価:日常生活でどの程度手を使えるかを短時間で把握
- 両方を併用:FMA-UEは「心身機能」、ARATは「活動」というICFの異なるレベルを測定するため、併用することで包括的な評価が可能
※ FMA-UEとARATの相関は r = 0.77〜0.96と高いですが、100%ではありません。
FMA-UEが高くてもARATが低い場合は、運動機能は回復しているが実際の活動に転移できていない可能性を示唆します。
BRAINアカデミーでは、FMA-UE・ARAT・WMFTの使い分けに加え、エビデンスに基づくリハビリプログラムの立案やShared Decision Making(SDM)の実践まで、臨床で即使えるスキルを体系的に学べます。
「評価の数値をどうリハビリに活かすか」を深く学びたい方はぜひご覧ください。

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BRAINの臨床意思決定フロー(BRAINオリジナル)
ここまでの数値の読み方を解説してきましたが、臨床現場で本当に難しいのは「測ったあと、明日のリハビリで何をするか」です。
このセクションでは、BRAINがこの評価指標の結果をどのように臨床判断に翻訳しているかを共有します。
査読付き論文に基づく事実と、BRAIN内部の運用ルール(意見)を分けて記載します。
重症度による分類と、領域別パターンによるボトルネックの特定
事実
Woytowicz EJ(2017)は、FMA-UEを4段階の重症度(重度0〜15/中等度16〜34/軽度35〜53/最軽度54〜66)に分類しました。Page SJ(2012)は亜急性期のMCIDを約4点、Lin KC(2010)は慢性期のMDC95を5〜7.2点と報告しています。
BRAINの判断!
BRAINでは総得点を「治療優先度の振り分け」と「サブセクション(A〜D/E〜F)別パターンによるボトルネックの特定」をセットで使います。総得点だけで治療方針を決めることはありません。
FMA-UE の重症度分類
- 0〜15点(重度)→ 重症度優先:共同運動の促通から開始。基本的な肩・肘の運動を積み上げる
- 16〜34点(中等度)→ 構成要素優先:分離運動の獲得が中心。サブセクション別パターンからボトルネック領域を特定
- 35〜53点(軽度)→ 質優先:分離運動の精度・速度を磨く。実用課題への般化
- 54〜66点(最軽度)→ 質優先:日常生活での上肢使用頻度向上。MAL併用評価
サブセクション別のボトルネックの読み方
- A. 肩・肘・前腕(/36) が低い → 近位の共同運動がボトルネック。共同運動からの分離訓練を優先
- B. 手関節(/10) が低い → 手関節の選択的運動がボトルネック。手関節の課題特異的訓練
- C. 手指(/14) が低い → 手指の選択的運動がボトルネック。9HPT・BBT併用で巧緻性も評価
- D. 協調性・速度(/6) が低い → 協調動作がボトルネック。リーチング・ピンチ動作の速度課題
FMA-LE では、運動項目(E /17)の伸びがボトルネックかどうかをまず確認し、必要に応じて10MWT・FACで併行評価します。
MDC/MCIDを「超えた/超えなかった」後の判断
事実
Lundquist CB(2017)は早期亜急性期のFMA-UE MCIDを7〜13点、Page SJ(2012)は亜急性期で約4点、Lin KC(2010)は慢性期のMDC95を5〜7.2点と報告しています。Hervé-Colas(2026)の国際標準化マニュアルが新しい基準として参照可能です。
BRAINの判断!
BRAINでは「MCID/MDCを超えた/超えなかった」を二者択一で判断せず、患者の病期に合ったMCIDを使い、4ステップで確認します。
2. 患者本人に「どのサブセクションが改善したか」を具体的にフィードバック
3. MAL(実生活での使用頻度)と整合しているか確認。FMAは「能力」、MALは「実行」
4. 次の介入で取り組むボトルネック領域をサブセクション別パターンから決める
2. 総得点は変わっていなくても、特定サブセクション(例:D協調性)が改善している可能性をセクション別に確認
3. 共同運動から分離運動への質的変化があるか観察(数値に出ない質的改善)
4. 患者のGROCとMALを聞く
5. 4週連続でMCID未達なら介入ターゲットを見直す
患者への結果説明(Shared Decision Making への接続)
事実
FMAは脳卒中上肢評価のゴールドスタンダード(Kwakkel G, 2017のcore outcome measure推奨)であり、患者への説明根拠として強い裏付けがあります。
BRAINの判断!
FMAの結果を患者本人に説明する際、BRAINは以下の運用ルールを守ります。
- 総得点だけを伝えない。「30点でした」ではなく「肩・肘の運動はある程度回復していますが、手指の選択的運動に課題があり、ボタンかけや細かな作業が難しい状態です」とサブセクションレベルで言語化
- 経時変化はグラフで可視化(総得点とサブセクション別の両方)
- 重症度カテゴリ(Woytowicz, 2017の4段階)と現在の位置を示す
- 「次の4週でC手指セクションを中心に介入し、3点改善を目標にします」と具体目標で合意
なお、重症度カテゴリに基づいてBRAINでは回復の7ステップを独自に考案し、ご利用者さまへの説明に使っています。
BRAINで意図的に「やらない」5つの判断
事実と解釈の境界を明確にするため、BRAINではエビデンスが不十分な以下の判断を意図的に避けています。
これらは「絶対やってはいけない」のではなく、「現時点のエビデンスでは支持できないので、BRAINでは慎重を期して避けている」という運用ルールです。
エビデンスが蓄積されれば見直す可能性があります。
- FMAだけで上肢機能を断定する → 「能力」評価のため、必ずMAL(実生活での使用)と併用
- 病期に合わないMCIDを使う → 早期亜急性期(7〜13点)と慢性期(4〜7点)では基準が大きく異なる
- サブセクション別分析を省略する → ボトルネック領域の特定にはサブセクション別データが必須
- 総得点だけで重症度を断定する → Woytowicz(2017)の4段階分類と併用
- Hervé-Colas(2026)国際標準化マニュアル以前の手順で実施する → 最新標準に従って実施・採点
FMA-UE 重症度かんたん判定ツール
FMA-UE 重症度かんたん判定ツール
FMA-UEの合計スコアと病期を入力すると、エビデンスに基づく重症度分類とMDC・MCIDの目安を表示します。
※ この判定ツールは参考情報であり、臨床判断を代替するものではありません。患者個々の状態を総合的に評価してください。
※ 重症度分類の出典は記事本文の「6. 重症度分類」セクションをご参照ください。
ワークショップ:臨床判断トレーニング
以下の症例を読んで、FMAの結果をどのように解釈すべきか考えてみましょう。「回答を見る」をクリックすると解説が表示されます。
変化の解釈(慢性期)
慢性期脳卒中患者(58歳男性、発症後10ヶ月)のFMA-UEが、先月28点 → 今月36点(8点改善)でした。これは測定誤差ではない「本当の改善」と言えますか?
回答:はい、本当の改善と言えます。
慢性期脳卒中患者のFMA-UEのMDCは5〜7.2点(Lin, 2009; Hsueh, 2008)です。今回の変化量は8点でMDCの上限(7.2点)を超えているため、95%の確信をもって「測定誤差ではない変化」と判断できます。
さらに、慢性期のMCID(4〜7点)も超えているため、臨床的にも意味のある改善と解釈できます。
重症度分類の変化も確認しましょう:Woytowicz分類では「重度-中等度(16〜34点)」から「中等度-軽度(35〜53点)」へカテゴリが変わっています。共同運動パターンからの分離運動が進んでいる可能性があります。
亜急性期の変化をどう解釈するか
亜急性期の脳卒中患者(65歳女性、発症後3週間)のFMA-UEが、先週20点 → 今週28点(8点改善)でした。慢性期と同じように「臨床的に意味のある改善」と言えますか?
回答:慎重な解釈が必要です。
- 亜急性期のMDCは約13点(Lin, 2009)と慢性期(5〜7点)よりかなり大きいです。8点の変化はMDCに達していないため、自然回復や測定誤差の影響を排除できません
- ただし、Pohl(2025)が報告した亜急性期(10〜28日目)のMCIDは4点(AUC: 0.68〜0.88)であり、これは超えています
- 亜急性期は自然回復の影響が大きいため、「改善があった」ことは間違いありませんが、それがリハビリの効果なのか自然回復なのかを区別するのは困難です
- 複数回の評価で回復曲線を追跡し、回復速度の変化を見ることが重要です
重症度分類の活用
慢性期脳卒中患者(70歳男性)のFMA-UEが45点でした。Hoonhorst分類では「限定的(Limited: 32〜47点)」ですが、SALGOT分類では「中等度(Moderate: 32〜57点)」です。どちらの分類を使って患者さんに説明すればよいでしょうか?
回答:目的に応じて使い分けましょう。
- SALGOT 3段階分類は臨床的アンカー(「コップからの飲水動作ができるか」)が明確で、患者さんや家族への説明に適しています。45点は「中等度」で、コップから飲む動作は遂行可能なレベルです
- Hoonhorst 5段階分類は治療計画の立案に有用です。45点は「限定的(Limited)」で、分離運動はある程度獲得しているが、日常生活での常用にはまだ距離がある段階です
- Valladares分類(慢性期)では「顕著(Notable: 46〜53点)」に近いボーダーラインです。あと1点で次のカテゴリに入ることを、リハビリの目標設定に活用できます
- いずれの分類でも、数値だけでなく実際の活動能力(ARATなど)と合わせて総合的に評価することが大切です
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参考文献
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最終更新:2026年4月

