
脳卒中患者さんのリハビリの一つに、エアロバイクがあります。
エアロバイクとはいわゆる自転車型の運動マシンのことで、スポーツジムに置かれている一般的なタイプから、リラックスした姿勢で取り組めるリハビリ専用タイプまで、さまざまな種類があります。
有酸素運動として広く行われている方法であり、このチャンネルをご覧いただいている方の中にも、実際に試したことがある方が多いのではないでしょうか。
ただし、「エアロバイクが具体的に何に有効なのか」をしっかりと説明を受けたことは、意外と少ないかもしれません。
実は近年、エアロバイクの有効性に疑問を投げかける研究データも複数報告されています。
そこで今回は、エアロバイクの効果について、科学的なデータをもとにご紹介していきます。
また、エアロバイクが有効でないとすれば、どのようなリハビリを行うべきなのか、具体的な例を交えながらお伝えします。
情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、信頼性の高いシステマティックレビュー研究から得られたデータを引用しています。
リハビリの無料体験を実施中!
といった方から選ばれています!

BRAINアカデミー
エビデンスに基づく脳卒中リハビリテーションを体系的・網羅的に学ぶ、6ヶ月間のオンライン学習プログラムです。①動画教材 ②課題 ③フィードバックを通じて、EBMを身に付けましょう!
詳細はこちら

文献検索CAMP
PubMedを使った文献検索を2日でマスターするセラピスト向けオンライン学習プログラムです。AIを活用し、経験1年目の方でも文献検索を行えるレベルまでスキルアップできます。
詳細はこちら
脳卒中リハビリにおけるエアロバイクの効果とは?
現時点で、エアロバイクは次のようなエビデンスが得られています。
- バランス向上には有効とは言えない
- 体力(有酸素能力)向上には有効とは言えない
- 歩行距離を延ばすのに有効とは言えない
つまり、「脳卒中リハビリとして有効とは言えない」と結論づけられています。
以下、詳しく解説します。
エアロバイクの有効性を検証した2022年研究

今回ご紹介する2021年の研究は、「脳卒中の患者さんにエアロバイク(サイクルマシン)を使ったリハビリが、どれくらい役に立つのか?」を調べた研究です。
脳卒中のあとは、歩くときのふらつきや体力の低下がよく問題になります。
そこで「座ったままできるエアロバイクなら安全だし、体力アップや歩行の改善につながるのでは?」と考えられてきました。
この研究では、過去に行われた複数の実験をまとめて分析しました。
対象となったのは、脳卒中から数か月〜1年以上たった258人の方々です。
エアロバイク運動を続けたグループと、ストレッチや通常のリハビリをしたグループを比べて、その効果を調べています。
結果としては、次のようなことがわかりました。
- バランスについて
エアロバイクをしても、「立ったときの安定感」や「ふらつきの改善」には大きな効果はない - 体力について
「どれくらい息が切れるまで体を動かせるか」という体力の指標も、特に変化なし - 歩ける距離について
6分間で歩ける距離を測ったテストでも、エアロバイクをした人とそうでない人の間に大きな差なし
つまり、現時点では、エアロバイクは「リハビリとして有効とは言えない」という結論に至りました。
ではどうすればいい? -有効なリハビリを紹介-
今回の研究では、エアロバイクだけではバランスや体力、歩ける距離を伸ばすのに十分な効果が出にくいことがわかりました。
では、代わりにどんなリハビリが役立つのでしょうか? ここでは研究で効果が示された方法をご紹介します。
バランスを向上させるためのリハビリ

バランスをよくするために効果があるとされているのが 「立ち上がり動作の練習」 です。
単純に立ち座り動作を繰り返すだけでも効果はあるのですが、ここに一工夫入れると、さらに効果が高くなることがわかっています。
ポイントは、麻痺している足にもできるだけ体重をのせて、左右のバランスをよくしていくことです。
2016年の研究では、この練習を行った脳卒中患者さんのバランス能力が大きく改善したと報告されています。
それでは、実際にご紹介します。
YouTubeでは動画で解説していますので、よかったらこちらもご覧ください。
手順1. 椅子に座る

背もたれやひじ掛けのない椅子を使い、足の長さに合わせて高さを調整します。
座るときは、太ももの半分くらいが椅子に乗るようにします。
両腕は胸の前で組みます。
手順2. 足の置きかた
ここが工夫のポイントです。
• 麻痺している足を、元気な足よりも少し後ろに置きます。
• 元気な足は、かかとが麻痺側の足の「半分くらい後ろ」にくるように置きます。
• ここから足の位置を少しずつ変えて、難易度を上げていきます。
• レベル1:足を後ろに引いた状態/元気な足の角度が15度になる位置にセットします
• レベル2:足を少し前方へ出した状態/レベル1よりも少し前に出し、元気な足の角度が10度になる位置にセットします
• レベル3:足を前方へ出した状態/レベル2よりもさらに前に出し、元気な足の角度が5度になる位置にセットします
レベル3に近づくほど麻痺している足への負担が大きくなり、バランスをとるのが難しくなります。
手順3. 立ち上がりと繰り返し
椅子から立ち上がる → 座る → また立ち上がる、をくり返します。
ある程度スムーズにできるようになったら、次のレベル(1→2→3)に進みます。
最も難しいレベル3にたどり着いたら、その動作を30分間続けます。
手順4. 指導と工夫
練習中は、セラピストから「今の姿勢いいですよ」「もう少しゆっくり」など、声や見本でアドバイスを受けます。
大事なのは、麻痺している足にも体重をかけ、左右のバランスを意識することです。
目標は「軽く疲れるくらい」です。
無理をせず、休みながら行います。
こうした練習を、専門家の見守りのもとで週5回、4週間行ったところ、バランスが大きく改善しました。
ただし、この練習は 「立ち上がりがある程度できる方」 に向いています。ご自身で試す前に、必ずリハビリの先生にご相談ください。
有酸素能力と歩行距離を同時に向上させるのに有効なリハビリ
有酸素能力と歩行距離を向上させるのに有効とされているリハビリのひとつに「ちょっときつめの運動(高強度トレーニング)」 があります。
「高強度」とは、
- 息が少し弾んで会話がしづらくなるくらい
- でも全力疾走ではなく「ちょっと頑張る」程度
の運動のことです。
2017年の研究で、世界中の598人分のデータをまとめて調べたところ、運動の強度が高いほど「心臓や肺のスタミナ(心肺機能)」がよくなることがわかりました。
さらに2019年の研究では、777人のデータを分析し、高強度の運動は、低強度の運動に比べて歩ける距離を伸ばす効果が大きいことが示されています。
つまり、「楽すぎる運動」よりも「少しきつい運動」を続けた方が、体力や歩行の改善が期待できる、ということです。
もちろん、強めの運動は人によって向き不向きがあります。体調や主治医の判断を必ず確認してから、無理のない範囲で取り入れることが大切です。
高強度トレーニングのやりかたの例についてはこちらの記事の中で解説していますので、よかったらご覧いただけますと幸いです。
また、高強度トレーニングのメリットについてはこちらの動画で詳しく解説していますので、そちらも併せてご覧いただけますと幸いです。
また、歩行距離を伸ばす3つのリハビリについてはこちらの記事で解説していますのでよかったらご覧ください。
まとめ
今回の研究からわかったことは、エアロバイクだけに取り組んでも、バランスや体力、歩く距離の改善にはつながりにくいということです。
リハビリは目的に応じて方法を選ぶことが大切です。
- バランスを良くしたいなら「立ち上がり動作の練習」
- 体力や歩行距離を伸ばしたいなら「少しきつめの運動」
このように、自分が改善したいポイントに合ったリハビリを取り入れることで、より効果的に回復を目指すことができます。
リハビリは一朝一夕ではなく、続けることで少しずつ変化が積み重なっていきます。焦らず、自分に合った形で取り組むことが何より大切です。
小さな一歩の積み重ねが、やがて大きな変化につながります。あきらめずに続けていきましょう。
絶対に「エアロバイクが意味ない」とは限らない
今回ご紹介した研究では、エアロバイクによる効果ははっきりとは示されませんでした。
ただし、ここで覚えておきたいのは「研究の限界」です。
- 対象となった研究の数が少ない
- 研究ごとに実施期間や方法がバラバラ
- 結果にもばらつきがある
つまり、「エアロバイクは効果がない」と完全に断定できる段階ではないということです。
実際、1回あたり40分、週5回、3ヶ月エアロバイクを続ければ、体力に若干の向上が見られると報告した研究もあります(Jin H 2013)。
今後、より多くの質の高い研究が行われれば、新しい知見が得られる可能性もあります。
そして何より、これまでエアロバイクに一生懸命取り組んでこられた方、その努力は決して無駄ではありません。運動を続けること自体が、体調の維持や生活リズムづくりにつながっています。
ですから、「エアロバイクは全く意味がない」と思い込む必要はありません。現時点では「万能ではないが、今後の研究次第で評価が変わるかもしれない」と考えておくのがよいと思います。
引用文献
Da Campo L, Hauck M, Marcolino MAZ, Pinheiro D, Plentz RDM, Cechetti F. Effects of aerobic exercise using cycle ergometry on balance and functional capacity in post-stroke patients: a systematic review and meta-analysis of randomised clinical trials. Disabil Rehabil. 2021 Jun;43(11):1558-1564. doi: 10.1080/09638288.2019.1670272. Epub 2019 Oct 2. PMID: 31577467.
Liu M, Chen J, Fan W, Mu J, Zhang J, Wang L, Zhuang J, Ni C. Effects of modified sit-to-stand training on balance control in hemiplegic stroke patients: a randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2016 Jul;30(7):627-36.
Boyne P, Welge J, Kissela B, Dunning K. Factors Influencing the Efficacy of Aerobic Exercise for Improving Fitness and Walking Capacity After Stroke: A Meta-Analysis With Meta-Regression. Arch Phys Med Rehabil. 2017 Mar;98(3):581-595. doi: 10.1016/j.apmr.2016.08.484. Epub 2016 Oct 12. PMID: 27744025; PMCID: PMC5868957.
Luo L, Zhu S, Shi L, Wang P, Li M, Yuan S. High Intensity Exercise for Walking Competency in Individuals with Stroke: A Systematic Review and MetaAnalysis. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2019 Dec;28(12):104414. doi: 10.1016/j.jstrokecerebrovasdis.2019.104414. Epub 2019 Sep 27. PMID: 31570262.
Jin H, Jiang Y, Wei Q, Chen L, Ma G. Effects of aerobic cycling training on cardiovascular fitness and heart rate recovery in patients with chronic stroke. NeuroRehabilitation. 2013;32(2):327-35. doi: 10.3233/NRE-130852. PMID: 23535796.