先日、電気刺激の3つの刺激パターンについて紹介しました。
電気刺激のパターンの中に感覚閾値での電気刺激、というものがあります。
電気刺激は、スイッチを入れてもすぐには電気を感じられないのですが、徐々に刺激を強くしていく中でピリピリした感覚が得られます。
この電気が流れていることを感じられるレベルの強さを感覚閾値といいます。
今回は、感覚閾値以下(つまり電気刺激が流れているかわからない強さ)での電気刺激でも脳卒中患者さんへのリハビリとして意味があるかどうか調べた研究を紹介します。
感じられないくらい弱いTENSは脳卒中患者さんの痙縮をよくするか?
最初に結論ですが、感覚閾値以下の電気刺激は歩行速度、バランス、痙縮の改善に貢献するというデータがあります。
2014年のPark J (2014) のランダム化比較試験で、感覚閾値の90%に設定したTENSと運動を組み合わせたリハビリを行うことで、運動のみを行う場合と比べて上記のアウトカムに改善が認められたことが報告されています。
このことから、感じられないくらい弱いTENSでも、脳卒中患者さんの身体機能の改善に貢献する、と言えます。
どのようなリハビリが行われたか、詳しく説明します。
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感覚閾値以下のTENSを使ったリハビリプログラム
この研究で対象になったのは、発症から1年半くらい経過した維持期の脳卒中患者さん29人でした。
平均年齢は70歳くらいです。
この29人の方々を2つのグループに分けました。
ひとつ目は「TENS+エクササイズ」グループ、もうひとつは「偽TENS+エクササイズ」グループです。
TENSとエクササイズのリハビリプログラムについては下記の通りです。
TENS
内側広筋、外側広筋、腓腹筋
周波数100Hz、パルス幅0.2ms 感覚閾値の90%
エクササイズ
1) ROMex. 10分
2) マット運動 10分
3) 歩行練習 10分
※TENSを実施しながらエクササイズを実施
時間・頻度・期間
30分 週5回 6週間
なお、「偽TENS+エクササイズ」グループは、電極を装着するものの電気を流していません。
実質、エクササイズのみを行なったと言えます。
そして、6週後、「TENS+エクササイズ」グループでは歩行速度、Timed up and go test(以下、TUG)、バランス、歩容が改善していました。
一方、「偽TENS+エクササイズ」グループは歩行速度、TUGについてはリハビリ後に良くなっていたものの、その他のアウトカムでは改善を認めませんでした。
また、グループ間の統計解析の結果、歩行速度以外のすべてのアウトカムでグループ間の有意差あり、TENS+エクササイズを支持する結果になりました。
このことから、感じられないくらい弱いTENSだとしても、電気刺激を与えないよりは脳卒中患者さんの身体機能の改善に貢献すると言えます。
一方、バイアスリスクがやや高い研究であることには注意が必要です。
今後の研究に期待がかかります。
参考にするエビデンスをもとに電気刺激のパターンを使い分ける
脳卒中リハビリテーションにおける電気刺激のパターンはいくつもあります。
神経筋電気刺激、経皮的電気刺激、筋電トリガー式電気刺激、といった電気刺激のパターンもいくつもありますし、周波数、パルス幅といったパラメータも自由に設定できますし、電極装着部位も色々です。
こういった自由度の高さから、最初は使いづらく感じるかもしれません。
そういう時は、ランダム化比較試験のプロトコルを参考にするのがおすすめです。
ランダム化比較試験には、「○○の患者さんに対して、△△の条件で電気刺激をしたら、□□が××までよくなった」という情報が記載されています。
これがそのままリハビリプログラムに転用できますので、私たちの臨床にも活かせます。
本日お伝えしたプログラムも電気刺激を有効活用するために役立つ情報になりますので、ご活用いただけましたら嬉しいです。
まとめます。
● 脳卒中リハビリにおける電気刺激の強度は3つのパターンがある
● 感じられないくらい弱い電気刺激でも脳卒中患者さんの身体機能の向上に貢献する
● 電気刺激のプログラムで悩んだ時はランダム化比較試験を参考にしよう
参考文献
Park J, Seo D, Choi W, Lee S. The effects of exercise with TENS on spasticity, balance, and gait in patients with chronic stroke: a randomized controlled trial. Med Sci Monit. 2014 Oct 10;20:1890-6.