運動イメージ療法は名前の通り、頭の中で運動をイメージするリハビリです。
視覚的イメージ(身体が動いているところを映像でイメージする)、筋感覚的イメージ(身体を動かすことによって筋肉が働く感覚をイメージする)といったイメージの種類があります。
上肢に対しては、運動パフォーマンスを向上させることが報告されています。
ただ、脳卒中治療ガイドライン2015には、上肢機能のリハビリテーションのところで運動イメージ療法の記載がないです。
同様に、歩行に対するリハビリテーションのところで、運動イメージ療法について言及がありません。
なので歩行障害に対しては運動イメージ療法というのはリハビリの選択肢に上がってこない先生も多いのではないかと思います。
でも、効果がないのかといえばそんなことはありません。
本記事では、Silva S (2020) のコクランレビューをもとに、歩行への運動イメージ療法の効果について紹介します。
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Silva S (2020) のコクランレビューの概要
研究のリサーチクエスチョンは「脳卒中患者さんに対する運動イメージ療法は、何もしない場合や他の治療を行う場合などと比べて、歩行能力や下肢の運動機能を向上させるか?」でした。
システマティックレビューなので研究論文が収集されるのですが、今回はランダム化比較試験とランダム化クロスオーバー試験が収集されています。
2020年2月までに公表された研究論文を対象に、複数のデータベースを使って情報収集をしています。
結果として21件の研究が取り込まれました。
取り込まれた研究では色々な運動イメージ療法が行われていたのですが、視覚的イメージを使った運動イメージ、筋感覚的イメージを使った運動イメージ、視覚的イメージと筋感覚的イメージを組み合わせた運動イメージ、また運動イメージと他のリハビリを組み合わせた介入、なども含まれていました。
それらの結果を統合したメタアナリシスの結果を紹介します。
運動イメージ療法は歩行速度を向上させる
結果として、「脳卒中患者さんに対する運動イメージ療法は、何もしない場合や他の治療を行う場合などと比べて、歩行能力を向上させる」という結果になりました。
各種サブグループ解析も行われていて、急性期・回復期・慢性期などの病気によって効果に違いがあるか、とか歩行自立度の違いで効果に違いがあるかとか、運動イメージのやり方によって効果に違いがあるか、など調査されているのですが、いずれもそれらの違いによる効果の違いはない、と報告されています。
ですので、急性期から慢性期まで、歩行障害が重症であっても軽症であっても、視覚的イメージを使っても筋感覚的イメージを使っても、同様に歩行速度を向上させる効果を期待できる、ということになります。
一方、下肢の運動機能については、全体で見ると効果があるとはいえない、という結果になりました。
ただ、慢性期の患者さんを対象にした研究に絞るとか、筋感覚的イメージを使う運動イメージ療法に絞るといった解析を行うことで、下肢の運動機能を向上させるという結果になりました。
また、機能的歩行、Rivermead Mobility IndexやTimed up and go testなどの成績は向上させるとはいえない結果になりました。
まとめると、次の通りです。
①歩行速度を向上させる
②慢性期の患者さん、また筋感覚的イメージを使うなどの工夫をすることによって下肢の運動機能向上を期待できる
③機能的歩行を向上させるとは言えない
運動イメージ療法の導入を検討しましょう
運動イメージ療法は、名前は聞いたことあるけどやったことがない、という方は多いのではないでしょうか。
ただ、上肢に対しても歩行に対しても有効性が報告されています。
運動イメージについては、7月にBRAINの特別セミナーで酒井先生に教えていただきますので、よかったらホームページを覗いてみてください。
運動イメージを活用することを検討してみてはいかがでしょうか!
参考文献
Silva S, Borges LR, Santiago L, Lucena L, Lindquist AR, Ribeiro T. Motor imagery for gait rehabilitation after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2020 Sep 24;9(9):CD013019.