トレッドミルトレーニング、リハビリでやっていらっしゃいますでしょうか。

トレッドミルトレーニングは歩行のリハビリのひとつで、主に理学療法士の先生が取り扱うリハビリになります。

病院さんによっては、トレッドミルとか免荷装置とか、置いてあるけど誰も使っていない状況で、オブジェになってしまっているところもあると聞きます。

トレッドミルトレーニングは有効なリハビリ方法で、患者さんにとってもメリットがあるのですが、効果について知られていないとそもそも「なぜトレッドミルを使う必要があるの?」と思われるのもやむを得ないと思います。

トレッドミルを活用してくれるセラピストの方が増えてほしいという想いもあり、今回はトレッドミルトレーニングの概要とエビデンスについて紹介させていただきます。

脳卒中EBPプログラム【歩行障害コース】
歩行障害やバランス障害に対する検査から、トレッドミルトレーニングや電気刺激療法などのリハビリの実際までを総合的に学ぶオンライン学習プログラムです。週1回、6ヶ月にわたって集中的に学習します。海外の最新エビデンスをもとに脳卒中リハビリテーションを提供できるようになりましょう!
歩行障害コースの詳細はこちら

トレッドミルトレーニングの概要

トレッドミルトレーニングは、トレッドミルマシンを使って歩行練習を行うリハビリです。

トレッドミルマシンというのは、スポーツジムなどにも置いてある、ベルトコンベアの上を歩く機械です。

ベルトコンベアが回転する速度を機器で設定してしまえば、患者さんの歩く速度もそれによって決まるため、平地歩行(床の上を歩く歩行練習)と比べると、一定の運動を繰り返し行えること、また強度の高いトレーニングを行えるというメリットがあります。

また、トレッドミルトレーニングに免荷装置を加えたものを免荷式トレッドミルトレーニング(Body Weight Supported Treadmill Training:BWSTT)と言います。

免荷装置は身体を上から吊り上げることで体重を軽くし、トレッドミルトレーニングを行うことができます。

安全装置としても機能するので、万が一患者さんがトレッドミルトレーニング中につまづいて転倒しそうになっても、免荷装置のおかげで転倒を防ぐことができるというメリットがあります。

それでは、トレッドミルトレーニングのエビデンスについて紹介します。

トレッドミルトレーニングのエビデンス

脳卒中患者さんに対するトレッドミルトレーニングのエビデンスを紹介します。

みなさまご存知のとおりかと思いますが、脳卒中治療ガイドライン2015というものがあります。

これは脳卒中患者さんに対するリハビリテーション含む治療についてのガイドラインで、日本脳卒中学会が作成したものです。

脳卒中治療ガイドライン2015の歩行障害に対するリハビリテーションのところでは、推奨グレードBになっています。

推奨グレードはA、B、C1、C2、Dの5つがあり、Bは「行うよう勧められる」を意味しています。

また、Nascimento LR (2021) のシステマティックレビューも紹介します。

この研究では、脳卒中患者さんに対するトレッドミルトレーニングが、何もしない場合や、平地歩行を行う場合と比べて、歩行能力にどのような影響があるかを調べています。

2021年近くのトレッドミルトレーニングに関するランダム化比較は、ロボットアシストと併用したり、BWSTTと電気刺激を併用したりと応用的な、発展的なトレッドミルトレーニングが多いのですが、このシステマティックレビューでは2020年や2018年に出版されたトレッドミルトレーニングのランダム化比較試験を含めたシステマティックレビューを行ってくれているという点で貴重な研究論文です。

研究の結果としては、トレッドミルトレーニングは何もしない場合や平地歩行練習をする場合と比べると歩行速度や歩行距離を向上させる、という結果を報告しています。

ですので、対極的に見れば脳卒中患者さんに対しては歩行練習をしないよりはトレッドミルトレーニングをした方がいいですし、あるいは平地歩行練習をするよりはトレッドミルトレーニングをした方がいい、ということが言えます。

また、脳卒中患者さんの歩行は大きく3パターンに大別されますが、いずれのパターンにおいても推進力の問題があるとされています。

推進力というのは立脚後期に下肢の伸展と足関節の底屈によって体が前方へ押し出す力のことですが、脳卒中患者さんはこの力が低下することが知られています。

この推進力の低下を補うために代償動作戦略が発生するため、病前の歩き方に近づけたい場合は推進力を改善させることが大事なポイントになります。

Alingh JF (2020) はこの推進力を向上させる上ではどのようなリハビリが有効か、というのを調べたシステマティックレビューを発表していますが、こちらによると、BWSTTで推進力が改善したという報告はなかったものの、トレッドミルトレーニングでは推進力を向上させたという報告があったということでした。

また、推進力を向上させるためには電気刺激+歩行練習が有効であると示されているのですが、電気刺激とトレッドミルトレーニングの併用により推進力が改善したと報告しているランダム化比較試験もあります(Reisman D 2013)。

一方で、Mehrholz J (2017) のコクランレビューでは、トレッドミルトレーニングとBWSTTは、他の治療などと比べるとひとりで歩ける患者さんには歩行能力を向上させる効果があるとするものの、ひとりで歩けない、つまり歩行が自立していない患者さんに対しては他の治療などよりも効果があるとは言えない、と報告しています。

したがって、脳卒中患者さんに対しては誰にでもトレッドミルトレーニングが有効であるという訳ではなく、患者さんの状態によって効果が異なってくる可能性があります。

まとめると、大局的にみると、トレッドミルトレーニングはひとりで歩ける脳卒中患者さんの歩行能力をさらに向上させる上で有効と言えます。

加えて、脳卒中患者さんの歩行動作で問題になる推進力の向上にも概ね有効であると言えるでしょう。

総合的に考えると、トレッドミルトレーニングは優秀なリハビリであると考えられます。

トレッドミルを有効に使いたい

先述の通りトレッドミルの有効性を伝えてきましたが、個々の患者さんに対してトレッドミルをどれくらい行えば歩行能力がどれくらい良くなるか、という解像度の高い判断を行う上ではランダム化比較試験をしっかり読み込んでいくことが大事です。

とは言え、まずは大局的にみて有効かどうかを判断する必要があるので、本日紹介したエビデンスを参考に、トレッドミルトレーニングの有効性についてご判断いただけたらと思います。

冒頭にもお伝えしましたが、トレッドミルマシンがオブジェ化している病院もあるようです。

個人的にはとても勿体ないと思いますので、ぜひ使用を検討してみてください!

参考文献

Nascimento LR, Boening A, Galli A, Polese JC, Ada L. Treadmill walking improves walking speed and distance in ambulatory people after stroke and is not inferior to overground walking: a systematic review. J Physiother. 2021 Apr;67(2):95-104.

Mehrholz J, Thomas S, Elsner B. Treadmill training and body weight support for walking after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Aug 17;8

Alingh JF, Groen BE, Van Asseldonk EHF, Geurts ACH, Weerdesteyn V. Effectiveness of rehabilitation interventions to improve paretic propulsion in individuals with stroke – A systematic review. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2020 Jan;71:176-188.

Reisman D, Kesar T, Perumal R, Roos M, Rudolph K, Higginson J, Helm E, Binder-Macleod S. Time course of functional and biomechanical improvements during a gait training intervention in persons with chronic stroke. J Neurol Phys Ther. 2013 Dec;37(4):159-65.