課題指向型訓練、ってありますよね。
脳卒中患者さんのリハビリでは、PT・OT・STさんすべての職種で使われるリハビリ方法です。
世界的にリハビリの効果が報告されていますし、脳卒中治療ガイドライン2021でも推奨されているリハビリ方法です。
課題指向型訓練の定義は曖昧なのですが、2016年のAlmhdawiさんの定義をお借りすると「課題指向訓練は、集中トレーニング、可変練習、断続的なフィードバックを含む運動学習と運動制御の原則を適用する、高度に個別化されたクライアント中心のリハビリテーションアプローチ」とされています。
課題指向型訓練の難しさはこの曖昧なところにあります。
結局、何をすればいいのかわからない、となりませんか?
トレッドミルトレーニングや電気刺激だとプロトコルが固められるのでやりやすいです。
例えば、トレッドミルなら30分、70%HRmaxでやるとか、電気刺激ならTENSで10mAの強さでやるとか、数値で決められます。
一方で課題指向型訓練というのは数値で決められるものがあまりありません。
患者さんの動作のやり方や成功率などから判断してセラピストが練習内容を決めたり、変えていく必要があるのですね。
とは言え、このようにぼんやりした状態で課題指向型訓練を行うのは不安ですよね。
今回は、脳卒中患者さんの上肢の運動パフォーマンスを改善させるための課題指向型訓練において、運動学習を促進すると思われる15の要素を紹介します。
これらの要素を把握しておくことで、課題指向型訓練の課題設定の仕方やプログラム全体の構成について、ヒントを得られるのではないかと思い余す。
この課題指向型訓練は3回のシリーズにする予定でして、本日が課題指向型訓練における15要素の紹介、明日が2011年以降の課題指向型訓練で使われている要素の実際、明後日が脳卒中患者さんの上肢の運動パフォーマンス向上を報告したランダム化比較試験のプロトコル(課題指向型訓練の設計)について実例を紹介する回にしたいと思っております。
それでは本題に入ります。
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脳卒中後の課題指向型訓練で運動学習を促す15のポイント
2010年に出版されたTimmermans AA(2010)のシステマティックレビューに、課題指向型訓練の15の要素が紹介されています。
先に注意点を2つお伝えします。
ひとつ目の注意点は、これらの要素は、課題指向型訓練における運動学習をサポートする重要な要素として著者らが定めたものです。
ですので、これら15の要素を使えばリハビリの効果が高くなるとか、そういうことを示唆するものではありません。
ふたつ目の注意点は、15の要素をたくさん含めれば良いというわけでないという点です。
2009年までの脳卒中患者さんに対する上肢への課題指向型訓練の効果を検証したランダム化比較試験においては、1つの研究あたり7.8個の要素(下記の要素15個中7.8個)だったそうです。
また、使用している要素の数と効果に相関はありませんでした。
つまり、15の要素が含まれているのが良い課題指向型訓練とか、含む要素が多ければ効果が高くなるということではないということにご注意ください。
そういった注意点を踏まえた上で、これらを順に紹介していきます。
機能的な動き
日常生活動作の明確な活動に向けられていない課題の実行を伴う動き、です。
たとえば、ある場所から別の場所へのブロックの移動、円錐の上にリングを積み重ねる、ペグボードを使う運動課題、などが当てはまります。
明確な機能的目標
日常生活や趣味で設定する目標、です。
食器洗いができるようになる、更衣動作ができるようになる、ゴルフができるようになる、などです。
クライアント中心の目標
患者さん自身が目標を決めること関与することによって設定される目標、です。
患者さんの価値観、好み、ニーズなどを尊重します。
負荷をかける
負荷をかけないと身体はよくなりません。
運動の回数を増やして負荷をかけます。
実際の物品操作
通常のADLで使用される物品を利用する操作、です。
コップを持つとか、洋服を着るとか、そういう操作のことです。
文脈固有の環境
特定の課題を行う上で実際の環境と同等または模倣するトレーニング環境
段階的な練習
患者さんの能力の向上に合わせて練習の難易度を調整することです。
様々な運動
ひとつの運動課題だけではなく、様々な運動課題を行う、ということです。
フィードバック
患者さんのモチベーションを上げたり、運動学習を促進するための患者さんの運動パフォーマンスに対するフィードバックです。
あらゆる運動面での運動
水平面、矢状面、前額面という運動面がありますが、ひとつの運動面における2次元的な運動ではなく、これらの運動面を組み合わせて行う3次元的な運動を行うことです。
総合的なスキル練習
動作練習は全体練習とパート練習があります。
例えばリーチ動作は肩関節屈曲、肘関節伸展、手関節背屈、手指伸展などが関わる動作です。
それぞれの運動を強化するための練習をパート練習と言い、これらの運動を組み合わせてリーチ動作の練習をするものを全体練習、総合的なスキル練習と言います。
患者さんに合わせてカスタマイズしたトレーニング負荷
重錘などを使って運動に抵抗負荷をかけることです。
ランダム練習
運動課題を同じ順番で繰り返すのではなく、順序をランダムにして練習することです。
例えば、課題指向型訓練として課題A、課題B、課題C、課題D、課題E、を用意したとします。
A→Eまでいつも順序よく行うのではなく、A→C→E→B→CやE→D→A→C→Bのように順序をバラバラにしながら進めます。
分散型練習
5分練習して2分休憩、また5分練習して…を繰り返す、などのように、休憩を挟みながら練習することです。
両手練習
左右の上肢が関与する練習です。
以上になります。
これら15の要素を把握しておけば、避けた方がいい課題指向型訓練、やるべき課題指向型訓練というのが見えてくるのではないでしょうか。
避けた方がいい課題指向型訓練というのは
- ひとつの運動課題を繰り返す
- 患者さんが楽にできる運動課題を繰り返す
- 集中してずっとやり続ける など
やるべき課題指向型訓練というのは、
- 様々な運動課題を混ぜる
- 患者さんにとってチャレンジングな運動課題にする
- 適度に休憩を入れながら実施する など
患者さんの目標や課題によって具体的な課題指向型訓練の内容は異なってきますが、大まかな方針を定める上ではこれらの情報を参考に進めていくのが望ましいのではないかと考えます。
これらの15の要素は、あくまでも2010年に提案された要素です。
実際、2011年以降はどのような要素が使われているのでしょうか?
次回の記事でそちらを解説したいと思います。
参考文献
Timmermans AA, Spooren AI, Kingma H, Seelen HA. Influence of task-oriented training content on skilled arm-hand performance in stroke: a systematic review. Neurorehabil Neural Repair. 2010 Nov-Dec;24(9):858-70.