予後予測、って経験年数1年目のセラピストも、場合によってはベテランのセラピストも悩むところではないでしょうか。
1ヶ月後、2ヶ月後、3ヶ月後の状態を予測することができれば、患者さんが退院するときにどういうサポートが必要になるか考えて事前に準備しておくことができます。
場合によっては家族への介護指導なども計画的に行うことが可能になります。
でも、そんなに簡単に予測できないですよね。
脳卒中の患者さんは発症後1ヶ月が急激に良くなって、3ヶ月で緩やかによくなって、6ヶ月までにさらに緩やかに良くなって、6ヶ月以降はプラトー、というのが一般的なよくなり方、予後ですよね。
でもこの情報だけをもとに、目の前の患者さんが3ヶ月後や6ヶ月後にどのようになっているかなんて予測できないですよね。
私は病院に勤務していたとき、退院1ヶ月前までは心身機能・身体構造レベル、活動レベルの向上に集中し、退院1ヶ月前から福祉用具の準備など退院調整をしていたと思います。
行き当たりばったりの対応でしたし、患者さんもどこまでよくなるのか不安なままリハビリに取り組ませてしまったと今では反省してます。
経験年数を重ねていくと、患者さんの入院時の状態や、1ヶ月間の変化量から、3ヶ月後や6ヶ月後の状態を何となく予測できるようになり、退院調整に役立ったりします。
なぜ経験年数を重ねると予測できるようになるかというと、それまで似たような患者さんのリハビリを経験して、似たような患者さんが退院時にどういう状態になっていたか、という過去の経験がデータとしてセラピストの中に蓄積されるからです。
経験年数が少ないセラピストは、過去の経験が少ないためデータの蓄積量が少なく、予想することが難しいです。
であれば、データを論文から引っ張ってきてしまいましょう、というのが本日のテーマです。
どの論文情報も予後予測に役立つのですが、今回はランダム化比較試験の情報から予後を予測する方法について紹介したいと思います。
ランダム化比較試験って何?
最初に、ランダム化比較試験について簡単に説明させていただきます。
ランダム化比較試験というのは、リハビリの効果を検証するために行われる研究の一種です。
リハビリAとリハビリBの効果を比較したいときによく行われます。
脳卒中の患者さんへのミラーセラピーの効果を検証するランダム化比較試験を例に挙げて研究の流れを説明します。
まず、脳卒中の患者さんを100人集めます。
その100人を、50人ずつ、2つのグループに分けます。
グループAとグループBです。
その後、患者さんの評価を行います。
現状の身体機能(手がどれくらい動くか、足がどれくらい動くかなど)について事前に評価しておきます。
そして、グループAの患者さんにはミラーセラピーを、グループBの患者さんにはストレッチを実施します。
ミラーセラピーもストレッチも、どちらも1回30分、週5回、3ヶ月実施します。
3ヶ月後、また評価を行います。
3ヶ月後の身体機能(手がどれくらい動くか、足がどれくらい動くかなど)が、3ヶ月前と比べてどれくらい良くなったか、という事後の評価を行います。
この3ヶ月後の身体機能ー3ヶ月前の身体機能(研究開始時の身体機能)の差分が変化した量です。
変化した量がミラーセラピーを受けた人の方が大きかったのか、ストレッチを受けた患者さんの方が大きかったのかを統計解析を使って調べます。
ざっくりとした説明ですが、これがランダム化比較試験です。
ランダム化比較試験を読んで得られる情報はいくつもあるのですが、そのうちのひとつに、リハビリAをやったとき、リハビリBをやったとき、どのような変化が起きたかという変化のデータがあります。
今回の例で言うと、ミラーセラピーを3ヶ月やったとき、3ヶ月後にどうなっていたか(手や足がどれくらい動くようになっていたか)という情報が得られます。
これが予後予測に役立つデータになります。
脳卒中後の予後予測。ランダム化比較試験を参考にする
具体例を出して説明していきます。
今、自分が脳卒中の患者さん、仮にAさんを担当していたとします。
Aさんは、脳卒中発症から1ヶ月の患者さんで、上肢も下肢もBRS2レベルです。
このAさんの上肢機能の3ヶ月後の予後予測をします。
そこで、論文を調べて、次のようなランダム化比較試験を用意しました。
脳卒中発症から1ヶ月の上肢BRSⅡレベルの患者さんに対し、ミラーセラピーを1回30分、週5回、3ヶ月行ったところ、上肢のBRSがⅢになりました。
このエビデンスに基づいてリハビリを行う場合、つまりAさんにミラーセラピーを1回30分、週5回、3ヶ月行えば、3ヶ月後に上肢のBRSがⅢになることが予想されます。
また、論文を調べていたところ、次のようなランダム化比較試験も見つかりました。
脳卒中発症から1ヶ月の上肢BRSⅡレベルの患者さんに対し、課題指向型訓練を1回1時間、週5回、3ヶ月行ったところ、上肢のBRSがⅣになりました。
このエビデンスに基づいてリハビリを行う場合、つまりAさんに課題指向型訓練を1回1時間、週5回、3ヶ月行えば、3ヶ月後に上肢のBRSがⅣになることが予想されます。
また、さらに論文を調べたところ、次のようなランダム化比較試験も見つかりました。
脳卒中発症から1ヶ月の上肢BRSⅡレベルの患者さんに対し、CI療法を1回3時間、週5回、3ヶ月行ったところ、上肢のBRSがⅤになったという研究です。
このエビデンスに基づいてリハビリを行う場合、つまりAさんにCI療法を1回3時間、週5回、3ヶ月行えば、3ヶ月後に上肢のBRSがⅤになることが予想されます。
今回はランダム化比較試験をもとに話をさせていただいておりますが、このようにエビデンスに基づいて予後予測を行うことができます。
エビデンスをならべて、何をするか患者さんと一緒に決めるSDM
なお、この例のように、エビデンスを探しているとミラーセラピー、課題指向型訓練、CI療法、のように複数のリハビリの選択肢が出てくるのが普通です。
これはあくまで例なので、例として聞いていただきたいのですが、今回探してきたエビデンスはミラーセラピーは1回30分で3ヶ月後に上肢のBRSがⅢへ、課題指向型訓練は1回1時間で上肢のBRSがⅣへ、CI療法は1回3時間で上肢のBRSがⅤになるというものでした。
効果を最大に期待するのであればCI療法が良さそうですが、1回3時間拘束されるというデメリットもあります。
リハビリをガツガツやって、とにかくよくしたい、という患者さんなら、このエビデンスを適用してもいいかもしれません。
一方で、ミラーセラピーなら3ヶ月後の上肢BRSはⅢとCI療法や課題指向型訓練と比べると大きい効果は期待できなさそうですが、1回30分の拘束時間で済みそうです。
大変なリハビリをしたくない、という患者さんなら、このエビデンスを適用した方がいいかもしれません。
このように、リハビリの選択肢を並列にならべて、それぞれのメリットやデメリットについて患者さんに理解していただいた上で何をやっていくか決める必要があります。
Shared Decision Making(以下、SDM)です。
本日はSDMの話について深く突っ込んだ話はしませんが、Evidence Based Practiceの上ではSDMもとても大事な要素です。
今回は、「脳卒中後の予後予測。ランダム化比較試験を参考にする」というテーマでお話しさせていただきました。