PubMedを使った文献検索のやりかたをお伝えします。

『文献検索をしたことがない』という初心者の方に向けた内容です。

本記事の内容をざっくり紹介します。

  • 文献検索に必要な『臨床疑問』『PICO』などの基本的な知識
  • PubMedを使った基本的な検索のしかた
  • 検索結果画面から読むべき論文を絞り込む方法

以下の内容は記載していません。

  • PubMedの機能をフル活用する方法(Single Citation Matcher、Clinical Queries検索タグの使いかたなど)
  • スクリーニングを効率化するためのソフト(Rayyanなど)の紹介
  • 文献管理ソフト(Mendeley、Endnoteなど)の紹介

普段から文献検索をされている方にとっては簡単な内容になっています。

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目次
  1. 【取扱説明書】本記事の使いかた
  2. 文献検索全体の流れ
  3. 文献検索の “準備” が大事な理由
  4. STEP1. 臨床疑問を立てる
    1. 臨床疑問とは?
    2. ワークショップ①【臨床疑問を挙げてみよう】
    3. 臨床疑問は後景疑問と前景疑問の2つに分かれる
      1. 後景疑問(Background question)とは?
      2. 前景疑問(Foreground question)とは?
    4. 後景疑問と前景疑問の見分けかた
      1. 本質的に見分ける
      2. キーワードの数で見分ける
    5. 前景疑問の解像度を上げよう
      1. ケース1
      2. ケース2
    6. ワークショップ②【臨床疑問を前景疑問と後景疑問に分けてみよう】
    7. 臨床疑問のカテゴリーを判断しよう
    8. ワークショップ③【臨床疑問のカテゴリーを判断しよう】
  5. STEP2. PICOへ定式化する
    1. PICOとは?
    2. PECOとは?
    3. PICOTとは?
    4. POとは?
    5. 臨床疑問のカテゴリーとの対応
    6. ワークショップ④【臨床疑問のカテゴリーに合わせてPICOに定式化しよう】
  6. 寄り道:研究デザインを知っておこう
    1. 研究デザインとは?
    2. 臨床疑問のカテゴリーに合わせた研究デザイン
    3. ランダム化比較試験
    4. コホート研究
    5. 横断研究
    6. システマティックレビュー
    7. ワークショップ⑤【探すべき研究デザインを判断しよう】
  7. STEP3. 取り込み基準・除外基準の設定
    1. 取り込み基準・除外基準とは?
      1. 取り込み基準
      2. 除外基準
    2. 取り込み基準・除外基準を設ける理由
    3. 取り込み基準・除外基準はPICOに合わせて設定しよう
      1. 取り込み基準
      2. 除外基準
    4. 取り込み基準・除外基準を設定するコツ
    5. ワークショップ⑥【取り込み基準・除外基準を設定しよう】
  8. STEP4. 検索に使用するデータベースの決定
    1. データベースとは?
    2. 代表的なデータベースを解説
      1. PubMed
      2. Cochrane Library
      3. PEDro
    3. まずはPubMedを!
  9. STEP5. 検索式をつくる
    1. 検索式とは?
    2. AND検索
    3. OR検索
    4. () で囲む
    5. “” (クォーテーション)
    6. 検索語を決めよう
    7. 検索語を英語に直そう
    8. PubMedのMesh
      1. Mesh(Medical Subject Headings)とは?
      2. Mesh検索の流れ
    9. 検索式を作ろう
    10. ワークショップ⑦【検索式を作ろう】
  10. STEP6. 検索する
    1. 検索のしかた
    2. 検索にフィルターをかける
      1. 発行年
      2. 研究デザイン
      3. 無料論文
    3. ワークショップ⑧【検索してみよう】
  11. STEP7. スクリーニング
    1. スクリーニングとは?
    2. 一次スクリーニング
    3. ワークショップ⑨【一次スクリーニングをしてみよう】
    4. 二次スクリーニング
    5. ワークショップ⑩【二次スクリーニングをしてみよう】
  12. STEP8. シートにまとめる
  13. まとめ

【取扱説明書】本記事の使いかた

本記事はワークショップ形式です。

記事を見ながら、ワークショップを行ってください。

実際に手を動かすことで、文献検索がスキルとして身につきます。

ホームページやnoteなどのインターネット上の利用であれば、画像、文章の転載OKです!ただし、その場合は必ず転載するnoteやブログ記事に本記事のリンクを貼り付けてください!

https://brain-lab.net/evidence/ebp-basic/search-pubmed/

文献検索全体の流れ

全体の流れは下記の通りです。

  • STEP1. 臨床疑問を立てる
  • STEP2. PICOへ定式化する
  • STEP3. 取り込み基準・除外基準の設定
  • STEP4. 検索に使用するデータベースの決定
  • STEP5. 検索式をつくる
  • STEP6. 検索する
  • STEP7. スクリーニング
  • STEP8. シートにまとめる

STEP1〜5までが文献検索の準備です。

文献検索は “準備” で成功するかどうか決まります。

ですが、文献検索に悩んでいるほとんどの人が準備をやっていません。

準備よりも『PubMedの機能を使いこなす』情報を得ようとします。

どれだけPubMedを使いこなせても、そもそも自分が何を知りたいのか明確に分かってなければ文献検索はうまくいきません。

どれだけ高性能なカーナビを使っても、目的地が決まってなければ目的地には行けません。

文献検索も同じです。

あなたが目指すのは『必要な情報にアクセスして、臨床の疑問を解決できるセラピスト』ですか?

それとも『PubMedに詳しい人』ですか?

文献検索の “準備” が大事な理由

こういう経験ありませんか?

一方で、こういう経験もありませんか?

このように、『この文献がほしい!』というゴールがあると文献検索はあっという間に完了します。

文献検索の “準備” とは『自分が読むべき論文はこれだ!』とゴールをはっきりさせる作業です。

そして、STEP1〜5を完了することで、文献検索の準備は完了します。

ひとつずつ解説します。

STEP1. 臨床疑問を立てる

臨床疑問とは?

『臨床で感じる疑問』のことです。

リハビリをしている中で感じる疑問ありますよね?

臨床疑問の例

それらは “すべて” 臨床疑問です。

ワークショップ①【臨床疑問を挙げてみよう】

あなたが直近1週間で感じた臨床疑問を5つ挙げてみましょう。

ここで挙げた臨床疑問は次のワークショップでも使いますので、取り組んでみてください。

解答例(タップ/クリックで表示されます)

臨床疑問は後景疑問と前景疑問の2つに分かれる

後景疑問(Background question)とは?

基礎的な疑問です。

後景疑問には、下記のようなものが当てはまります。

  • 脳卒中とは?
  • 運動麻痺とは?
  • 課題指向型訓練とは?
  • トレッドミルとは?
  • 集中的言語聴覚療法とは?

後景疑問は、文献検索ではなく、参考書やGoogle検索で解決することが多いです。

そのため、ほとんどのケースで文献検索が必要ありません。

後景疑問を解決したい場合は、本記事を閉じていただいてOKです。

前景疑問(Foreground question)とは?

臨床的で、患者さんの問題解決につながりやすい疑問です。

前景疑問には、下記のようなものが当てはまります。

  • 脳卒中患者さんの運動麻痺に対して課題指向型訓練は有効か?
  • 脳卒中患者さんの歩行自立度を上げるためにトレッドミルは有効か?
  • 脳卒中患者さんの自然発話を増やすために集中的言語聴覚療法は有効か?

前景疑問を解決するためには文献検索が必要です。

後景疑問と前景疑問の見分けかた

本質的に見分ける

後景疑問は『基礎的な知識を求めるもの』、前景疑問は『臨床的な知識を求めるもの』です。

  • 脳卒中とは?
  • 運動麻痺とは?
  • 課題指向型訓練とは?
  • トレッドミルとは?
  • 集中的言語聴覚療法とは?

後景疑問は基礎的で、教科書とか用語集を調べればわかりそうですよね?

基礎的な疑問なら後景疑問、そうでないなら前景疑問です。

キーワードの数で見分ける

含まれているキーワードが『1つ』か『2つ以上』かで見分ける方法もあります。

含まれるキーワードが1つなら後景疑問、2つ以上なら前景疑問、です。

例えばさっきの後景疑問は全てひとつのキーワードに関する疑問です。

  • 脳卒中とは?
  • 運動麻痺とは?
  • 課題指向型訓練とは?
  • トレッドミルとは?
  • 集中的言語聴覚療法とは?

一方、前景疑問は全て2つ以上のキーワードを含む疑問です。

  • 脳卒中患者さんの運動麻痺に対して課題指向型訓練は有効か?
  • 脳卒中患者さんの歩行自立度を上げるためにトレッドミルは有効か?
  • 脳卒中患者さんの自然発話を増やすために集中的言語聴覚療法は有効か?

あなたの臨床疑問はどちらですか?

前景疑問の解像度を上げよう

不慣れな人が陥りやすいポイントとして、『疑問が曖昧』があります。

ケース1

  • 脳卒中患者さんに対して課題指向型訓練は有効か?

『何に対して』有効なのか曖昧です。

あなたが知りたいのはどれですか?

  • 上肢の運動機能への効果
  • 下肢の運動機能への効果
  • 歩行自立度への効果
  • バランスへの効果
  • 痙縮への効果 など

ケース2

  • 脳卒中患者さんの予後は?

『何の予後』を知りたいのか曖昧です。

あなたが知りたいのはどれですか?

  • 発症6ヶ月後の上肢の運動機能の予後
  • 発症3ヶ月後の下肢の運動機能の予後
  • 発症1年後の歩行自立度の予後
  • 発症3年後のADLの予後
  • 10年以内の再発率 など

疑問が曖昧だと、読むべき文献を絞り込むことができません。

まずは『自分が何を知りたいのかはっきりさせる』ことが大事です。

ワークショップ②【臨床疑問を前景疑問と後景疑問に分けてみよう】

さっき挙げたあなたの臨床疑問を、前景疑問か後景疑問かに分けましょう。

解答例(タップ/クリックで表示されます)

臨床疑問のカテゴリーを判断しよう

前景疑問は、評価、治療、予防、予後のいずれかのカテゴリーに分類されることが多いです。

あなたの臨床疑問も、この中のカテゴリーのいずれかに該当するはず。

ワークショップ③【臨床疑問のカテゴリーを判断しよう】

あなたの臨床疑問(前景疑問)をそれぞれカテゴリーごとに分けましょう。

解答例(タップ/クリックで表示されます)

STEP2. PICOへ定式化する

臨床疑問をPICOの形へ変換します。

臨床疑問のうち、前景疑問はPICO/PECO/PICOT/POのいずれかに直すことができます。

PICOとは?

Patients、Intervention、Comparison、Outcomeそれぞれの頭文字をとったものがPICOです。

  • Patients…患者、対象者
  • Intervention…介入、治療、リハビリ方法
  • Comparison…比較
  • Outcome…結果、帰結

PICOは介入の効果を知りたいときによく使われます。

例えば、『脳卒中患者さんに対する課題指向型訓練は上肢の運動機能向上に有効か?』といった臨床疑問は下記のように直せます。

  • Patients…脳卒中患者に対する
  • Intervention…課題指向型訓練は
  • Comparison…課題指向型訓練をしない場合と比べて
  • Outcome…上肢の運動機能向上に有効か?

PECOとは?

Patients、Exposure、Comparison、Outcomeそれぞれの頭文字をとったものがPECOです。

  • Patients…患者、対象者
  • Exposure…曝露
  • Comparison…比較
  • Outcome…結果、帰結

PECOは要因と結果を知りたいときに使います。

例えば、『脳卒中患者さんに認知機能低下があると、ADL自立は下がるか?』といった臨床疑問は下記のように直せます。

  • Patients…脳卒中患者さんに
  • Exposure…認知機能低下があると
  • Comparison…認知機能低下がない場合と比べて
  • Outcome…ADLの自立度が下がるか?

PICOとの違いは『意図的な介入か否か』です。

PICOのIには『課題指向型訓練』『トレッドミル』などセラピストが意図的に行う患者さんへの介入が入ります。

PECOのEには『運動障害』『痙縮』『嚥下障害』など第三者が意図的に与えたものではない『症状』や『状況』などが入ります。

PICOTとは?

Population、Index test、Comparison、Outcome、Target conditionそれぞれの頭文字をとったものがPICOTです。

  • Population…セッティング、症状
  • Index test…調べようとしている検査
  • Comparison…比較対象になる他の検査
  • Outcome…診断の結果指標
  • Target condition…診断したい疾患

PICOTは評価指標の性能を調べるときによく使われます。

例えば、『脳卒中患者さんの転倒リスクを推定するにはBerg Balance ScaleとBESTestどっちがいいか?』といった臨床疑問は下記のように直せます。

  • Population…脳卒中患者さんに対して
  • Index test…Berg Balance Scale のカットオフは
  • Comparison…BESTest のカットオフと比べて
  • Outcome…感度・特異度が高いか?
  • Target condition…6ヶ月以内の転倒を予測するために

POとは?

Population、Outcomeそれぞれの頭文字をとったものがPOです。

  • Population…セッティング、症状
  • Outcome…調べようとしている診断

POは診療の実態を知りたいときによく使われます。

例えば、『脳卒中患者さんのうち運動障害を有する人はどれくらいいるんだろう?』といった臨床疑問は下記のように直せます。

  • Population…脳卒中患者さんのうち
  • Outcome…運動障害を有する人の割合は?

臨床疑問のカテゴリーとの対応

臨床疑問のうち、前景疑問は評価、治療、予防、予後のいずれかのカテゴリーに分類されるとお伝えしました。

PICO/PECO/PICOT/POはこのカテゴリーに対応してます。

全てがこの通り当てはまるわけではないですが、ざっくりと

  • 治療…PICO
  • 予後…PECO
  • 予防…PICO
  • 評価…PICOT、PO

の対応のしかたをします。

つまり、あなたの臨床疑問(前景疑問)が治療に関することならPICOに直せます。

また、あなたの臨床疑問(前景疑問)が予後に関することならPECOに直せます。

ワークショップ④【臨床疑問のカテゴリーに合わせてPICOに定式化しよう】

あなたの臨床疑問(前景疑問)のカテゴリーに合わせて、PICO/PECO/PICOT/POのいずれかに直しましょう。

解答例(タップ/クリックで表示されます)

寄り道:研究デザインを知っておこう

寄り道と言っても、とても大事です。

研究デザインとは?

研究の『型』のことです。

ランダム化比較試験とか、コホート研究とか、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

臨床疑問のカテゴリーに合わせた研究デザイン

あなたの臨床疑問のカテゴリーに合わせて、検索すべき研究デザインが変わります。

治療の効果を知りたいならランダム化比較試験、予後について知りたいならコホート研究、など適正があります。

研究デザインを知らないといけない理由はここにあります。

※以下、基本的な研究デザインについてとても簡単にお伝えします。さらに詳しく知りたい方は日本理学療法学会連合のEBPT用語集などをご参照ください。

ランダム化比較試験

治療の効果や予防介入の効果を調べるときに使われます。

つまり、PICOに定式化された臨床疑問はランダム化比較試験を読むことで解決することが多いです。

例えば…

  • 脳卒中患者さんへのCI療法はリハビリをしない場合と比べて手の運動機能の向上に有効かどうか調べる研究
  • 脳卒中患者さんへのトレッドミルトレーニングは屋外歩行練習と比べて歩行距離の向上に有効かどうか調べる研究
  • 脳卒中患者さんへの集中的言語聴覚療法が通常の言語聴覚療法と比べて失語の改善に有効かどうか調べる研究

…などがあります。

コホート研究

予後について調べるときに使われます

つまり、PECOに定式化された臨床疑問は、コホート研究を調べることで解決することが多いです。

例えば…

  • 脳卒中患者さんの発症1週間の痙縮の有無で6ヶ月後の上肢運動機能は違うか?
  • 脳卒中患者さんの発症3日以内の座位保持の可否で6ヶ月後の歩行自立度は違うか?

…などがあります。

横断研究

実態を明らかにする研究で、評価や病態、診療の実態に関することについて調べるときに使われます。

つまり、PICOTやPOに定式化された臨床疑問は、横断研究を調べることで解決することが多いです。

例えば…

  • 運動障害の重症度と痙縮の重症度に関係はあるか?
  • バランス障害の有病率は?
  • 被殻出血の大きさと運動障害の重症度に関係はあるか?

…などがあります。

システマティックレビュー

情報をまとめる研究です。

  • ランダム化比較試験をまとめる研究
  • コホート研究をまとめる研究
  • 横断研究をまとめる研究

…などさまざまなものがあります。

『木を見て森を見ず』という格言がありますが、上記の一つ一つの研究は『木』、システマティックレビューは『森』です。

ワークショップ⑤【探すべき研究デザインを判断しよう】

臨床疑問を解決してくれる研究デザインを判断しましょう。

PICO/PECO/PICOT/POと研究デザインの基本的な対応は以下の通りです。

  • PICO…ランダム化比較試験、システマティックレビュー
  • PECO…コホート研究、システマティックレビュー
  • PICOT…横断研究、システマティックレビュー
  • PO…横断研究、システマティックレビュー
解答例(タップ/クリックで表示されます)

STEP3. 取り込み基準・除外基準の設定

取り込み基準・除外基準とは?

『この論文を読むか読まないか』を判断するために予め定めておく基準です。

まずイメージをつかんでもらうために、例を出します。

取り込み基準

  • 成人脳卒中患者を対象にしている研究
  • 慢性期の患者さんを対象にしている
  • 電気刺激としてTENSを使用している
  • 比較の「何もしない」には研究以外のリハビリを含める
  • FMAUEを使用している など

除外基準

  • リハビリ開始時に重度運動障害(FMAUE 20点以下)がある患者さんを対象にした研究
  • 1セッションしか介入が行われていない
  • 自分の病院で再現不可能なアウトカムを使用している など

取り込み基準・除外基準を設ける理由

PubMedで検索するとたくさんの論文がヒットします。

ヒットした論文を全て読むわけにはいかないので、後で『スクリーニング』という作業を行い、読むべき論文を絞り込みます。

スクリーニングをするときに、『読むべき論文』『読まなくていい論文』を分けるために取り込み基準・除外基準が必要です。

取り込み基準・除外基準はPICOに合わせて設定しよう

最初は『どうやって基準をつくればいいの?』と不安になると思います。

基本的にはPICOに合わせて作ればOKです。

例えばさっきの例だと…

取り込み基準

  • 成人脳卒中患者を対象にしている研究(P)
  • 慢性期の患者さんを対象にしている(P)
  • 電気刺激としてTENSを使用している(I)
  • 比較の「何もしない」には研究以外のリハビリを含める(C)
  • FMAUEを使用している(O) など

除外基準

  • リハビリ開始時に重度運動障害(FMAUE 20点以下)がある患者さんを対象にした研究(P)
  • 1セッションしか介入が行われていない(I)
  • 自分の病院で再現不可能なアウトカムを使用している(O) など

取り込み基準・除外基準を設定するコツ

『自分の臨床疑問を解決できるように絞り込む』イメージです。

例えば、臨床疑問が『急性期の脳卒中患者さんの歩行自立に対し、長下肢装具を使った歩行練習は有効か?』だとします。

急性期で務めている理学療法士さんが、自分の担当患者さんに長下肢装具が有効かどうか知りたいケースです。

このとき、

  • 長下肢装具ではなく短下肢装具を使った研究
  • 自分の病院に置いていない機器(例えばロボットアシストつき長下肢装具)を使って歩行練習をした研究
  • 歩行自立に関するデータをとっていない研究

…を読んでも、臨床疑問の解決にはならないですよね。

このような『臨床疑問を解決できなさそうな研究』を除外するために、除外基準を設けます。

一方、

  • 長下肢装具を使った研究
  • 特殊な機器を使わないで歩行練習をした研究(普通の長下肢装具を使った)
  • 歩行自立に関するデータをとっている研究

…なら臨床疑問の解決につながりそうですよね。

このような『臨床疑問を解決できそうな研究』を取り込むために、取り込み基準を設けます。

ワークショップ⑥【取り込み基準・除外基準を設定しよう】

臨床疑問を解決できそうな取り込み基準・除外基準を設定しましょう。

解答例(タップ/クリックで表示されます)

STEP4. 検索に使用するデータベースの決定

データベースとは?

インターネット上に存在する図書館のようなものです。

データベースに『こういう文献をください』とお願いすると『1,000件ヒットしました』のように該当する文献情報を教えてくれます。

代表的なデータベースを解説

以下、リハビリに関する文献がたくさんあるデータベースです。

PubMed

米国国立医学図書館に搭載されている、医学、歯学、薬学、介護、ヘルスケア、生物学など広範囲にわたる分野を取り扱う。リハビリの文献を調べるならPubMedが第一選択。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/

Cochrane Library

治療・予防・診断など、医療上の介入の有効性に関する質の高いシステマティックレビュー(コクランレビュー)を検索できる。システマティックレビューを調べるときにとても有効。

https://www.cochranelibrary.com/

PEDro

理学療法に関するランダム化比較試験、システマティックレビュー、ガイドラインなど、厳密な研究手法を用いた研究のみが登録されている。PEDro scaleを用いたバイアスチェックがある。

https://pedro.org.au

まずはPubMedを!

3つ紹介しましたが、まずPubMedが使えればOKです。

PubMedで文献検索の練習をしましょう。


STEP5. 検索式をつくる

検索式とは?

検索するときのキーワードの組み合わせのことです。

何か調べものをするとき『脳卒中 リハビリ』とか『沖縄 観光 オススメ』とかで調べますよね?

それです。

以下、検索式を作るときに役立つ基本的な知識です。

その他にもいろいろありますが、ひとまずこれを知ってればOKです。

AND検索

『脳卒中 AND リハビリ』のような形です。

“脳卒中” という用語と “リハビリ” という用語を含んだ文献がヒットします。

ちなみに『脳卒中 リハビリ』のようにANDではなくスペースで区切った場合もAND検索になります。

OR検索

『脳卒中 OR リハビリ』のような形です。

“脳卒中” という用語か “リハビリ” という用語を含んだ文献がヒットします。

() で囲む

『(脳卒中 OR 脳梗塞) AND 歩行練習』のような形です。

() で囲むとひとつのまとまりを作れます。

上記の検索式だと、『脳卒中 AND 歩行練習』でヒットする文献も、『脳梗塞 AND 歩行練習』でヒットする文献もどちらも見つけてくれます。

“” (クォーテーション)

『脳卒中 AND “Treadmill Training”』のような形です。

英語論文の検索ではよく使います。

“”で囲った複数の単語は、ひとつのフレーズとして認識されます。

『Treadmill Training』だと『Treadmill』と『Training』の2つの単語だと認識されます。

『”Treadmill Training”』だと『Treadmill Training』という1つのフレーズだと認識されます。

参考
その他、『NOT検索』『*(アスタリスク)』、『?』、『$』などを使って検索する方法がありますが、まずは上記のものを使いこなせるようになってください。

検索語を決めよう

まずは検索式に入れる検索語を決めます。

  • 脳卒中
  • 運動障害
  • 短下肢装具
  • トレッドミル
  • 課題指向型訓練

…など、臨床疑問に関連する用語を思いつく限りたくさん挙げましょう。

参考
類語辞典や既存のシステマティックレビュー研究を参考にすることで検索語を増やせます。学びはじめの方にとっては難しいと思うので、まずは自分の頭の中で思い浮かぶ用語を入れられればOKです。

検索語を英語に直そう

まずGoogle翻訳やDeepL翻訳を使って、日本語を英語に直してください。

▶︎ Google翻訳

https://translate.google.co.jp/

▶︎ DeepL翻訳

https://www.deepl.com/translator

PubMedのMesh

検索語を洗練させます。

Mesh(Medical Subject Headings)とは?

各論文に与えられたハッシュタグのようなものです。

『Strokeなど』というのがポイントで、Strokeと同じような用語、そしてStrokeに包括される用語を一緒に検索してくれます。

例えば『Cerebrovascular Accident(脳血管疾患)』も脳卒中と同じような用語です。

Meshを使うと、『Stroke』で検索しているのに『Cerebrovascular Accident』と記載されている文献も引っ張ってきてくれます。

また、『Stroke(脳卒中)』 は『Brain Infarction(脳梗塞)』や『Hemorrhagic Stroke(脳出血)』を含んだ用語ですよね。

Meshを使うと、『Stroke』で検索しているのに『Brain Infarction』や『Hemorrhagic Stroke』と記載されている文献も引っ張ってきてくれます。

つまり、『Stroke』という用語でMesh検索を行うと、同じような意味を持つ言葉(Cerebrovascular Accidentなど)も包括される言葉(Brain InfarctionやHemorrhagic Stroke)も合わせて検索してくれます。

参考
その他にもMeshには色々な役割がありますが、そちらについてはまた別の記事で紹介します。

Mesh検索の流れ

まず、下記のWebページからMesh用語を確認します。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/mesh/

英語に翻訳した検索語を入力し、検索します。

検索結果画面が表示されます。

適当そうな言葉を選んでリンクからMesh用語のWebページへジャンプします。

定義が示されているので、自分の調べたい用語と一致しているか確認します。

Mesh用語の同義語・類義語を確認します。

そのMesh用語を使って検索した場合、ここに記載されている同義語・類義語で書かれた論文も引っ張ってきてくれます。

Mesh用語に含まれる用語を確認します。

そのMesh用語を使って検索した場合、ここに記載されている含まれる用語で書かれた論文も引っ張ってきてくれます。

このMesh用語を採用するなら、このボタンを押します。

検索できる形になって出てくるので、これをコピーしておきましょう。

これを繰り返して、さっき挙げた検索語をMesh用語に直します。

ただし、全ての検索語がMesh用語になるわけではありませんので注意してください。

例えば、『脳卒中(Stroke)』は『”Stroke”[Mesh]』になりますが、評価のひとつである『Fugl-Meyer Assessment』はMesh用語になりません。

Mesh用語にならないものは検索式にそのまま入れます。

検索式を作ろう

上記の知識を全て使いながら検索式を作っていきます。

下記のように複雑な検索式になるのが普通です。

“Stroke”[Mesh] AND “Upper Extremity”[Mesh] AND (“task oriented training” OR “task related training” OR “task specific training”) AND (“fugl-meyer assessment” OR “action research arm test” OR “box and block test”)

ワークショップ⑦【検索式を作ろう】

臨床疑問を解決してくれる文献を探すための検索式を作りましょう。

解答例(タップ/クリックで表示されます)

初めてちゃんと文献検索する人は、ここまで1時間くらいかかったかもしれません。

でも、慣れてくると5分くらいでここまで書き出せます。

頭の中でまとめるだけなら30秒でできちゃいます。

早くできるようになるまで繰り返し練習してみてください。


STEP6. 検索する

検索のしかた

PubMedの検索窓にコピペするだけ。

簡単ですね。

検索にフィルターをかける

フィルターをかけると、欲しい情報に効率よくたどり着くことができます。

発行年

左上のつまみを移動させれば絞り込めます。

研究デザイン

ARTICLE TYPEのチェックボックスにチェックを入れます。

例えば、『Randomized Controlled Trial』にチェックを入れると、ランダム化比較試験の論文だけに絞り込んでくれます。

無料論文

無料で入手できる論文に絞り込むこともできます。

TEXT AVAILABILITYの『Free full text』にチェックを入れると、PMC(オンラインジャーナル公開プラットフォーム・データベース)で無料公開されている論文だけに絞り込むことができます。

また、チェックボックスは追加することができます。

ヒット件数が多すぎて絞り込みたい人は、フィルターを追加してみましょう。

ワークショップ⑧【検索してみよう】

検索式を検索窓に入れ、検索してみましょう。

状況に合わせて、検索にフィルターをかけてみましょう。

PubMedの検索結果画面が表示されたらOKです。


STEP7. スクリーニング

スクリーニングとは?

『情報をふるいにかける』作業です。

検索のヒット件数が1,000件を超えるケースもあると思います。

1,000件の文献全てを読み通すのは無理ですよね。

なので、『自分が読むべき文献』をこの1,000件の中から見つけ出す作業をします。

それがスクリーニングです。

一次スクリーニング

タイトルとアブストラクトを読んで、『自分が読むべき文献』かどうかを判断します。

自分の臨床疑問・PICO(PICO/PECO/PICOT/PO)・取り込み基準/除外基準を使います。

文献のタイトルをクリックします。

文献の詳細ページが表示されます。

タイトルとアブストラクトを読んで、『自分が読むべき文献』かどうかを判断します。

補足【文献はPICO/PECO/PICOT/POに直せる】
基本的に、文献はPICO/PECO/PICOT/POのいずれかにまとめることができます。そして、タイトルとアブストラクトを読むことでその文献のPICO/PECO/PICOT/POを読み取ることができます。一次スクリーニングでは、タイトルとアブストラクトから読み取った文献のPICO/PECO/PICOT/POと、自分の臨床疑問のPICO/PECO/PICOT/POが一致しているか確認します。

ひとつ前のページに戻り、『自分が読むべき論文』もしくは『読むべき文献かもしれない』と判断したらチェックを入れます。

これを繰り返して、ヒットした文献全てのタイトルとアブストラクトを全て確認し、チェックを入れ終わったら、『Save』ボタンを押します。

Create fileボタンを押します。

一次スクリーニングでチェックをつけた文献情報が一括で手に入ります。

なお、Formatのタブを操作し、CSVファイルでダウンロードすることも可能です。

一次スクリーニング後、1,000件あった文献が絞り込まれ、数十〜数百件になっているはずです。

絞り込まれた文献を使って、二次スクリーニングに移ります。

ワークショップ⑨【一次スクリーニングをしてみよう】

一次スクリーニングをしてみてください。

タイトルとアブストラクトを読んで絞り込めたらOKです。


二次スクリーニング

一次スクリーニングで絞り込まれた文献を、さらに絞り込んでいきます。

二次スクリーニングでは、本文を読んで『自分が読むべき文献』かどうかを判断します。

一次スクリーニング後に一括でダウンロードしたファイルのPMIDを入力すれば、文献のページへジャンプできます。

本文の『方法(Methods)』や『結果(Results)』に詳細なPICO/PECO/PICOT/PO情報が記載されているので読んで判断します。

本文はこちらから入手できます。

補足【無料で論文が手に入らない場合】
無料で入手できない場合は、購入しましょう。購入することが難しければ、①大学の図書館に行く②国立国会図書館に行く③著者へ連絡してPDFをいただけないか相談する、などの方法があります。

二次スクリーニングではメモ帳などを活用しながら文献のURLやPMIDをコピペし保存しておいてください。

数十〜数百件になった文献が絞り込まれ、数〜数十件になるはずです。

二次スクリーニング後に残った文献が、あなたが読むべき文献です。

ワークショップ⑩【二次スクリーニングをしてみよう】

二次スクリーニングをしてみてください。

本文を読んで絞り込めたらOKです。


STEP8. シートにまとめる

最後、シートにまとめて完成です。

シートは自作のもので構いません。

よく『文献管理ソフトは何を使った方がいいですか?』と聞かれますが、ExcelやNumbersで十分です(研究論文を書くなら話は別です)。

私も、MendeleyやReadcubeなどいくつかの文献管理ソフトを使用してみましたが、結局Numbers(Appleの表計算ソフト)に落ち着きました。

シートのダウンロードはこちら(期限終了)

BRAINが使用しているランダム化比較試験用のNumbersファイルを置いておきます。

使用するにあたって、個別の許諾申請・使用料などは必要ございません。

ただし、著作権は全てBRAINに帰属しています。

シートの複製・譲渡・配布・販売に該当する行為や、著作権を侵害する行為については、固く禁止されていますので、ご注意ください。

【主な禁止事項】
● ダウンロードデータを販売したり、CD-ROM / DVD等に収録して配布する行為
● ダウンロードデータを再利用できる形でWeb上に公開したり、ダウンロードを可能にするなどの行為
● ダウンロードデータを利用した各種作成サービスでの使用
● ダウンロードデータを利用して商標登録するなどの行為
● ダウンロードデータを主要なコンテンツとした商品の制作・販売


まとめ

文献検索は簡単そうで、実はちゃんと “型” があります。

型に沿った検索をしないと『いい文献が見つからない』…と困ることになります。

まずは型を身につけて、5分くらいで検索できるようになりましょう。

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