臨床で感じる疑問のことをそのまま臨床疑問と言いますが、これは後景疑問(Background Question)と前景疑問(Foreground Question)とに分けられます。
そして、前景疑問(Foreground Question)はPICOやPECOに変換することができます。
このPICO・PECOというのは、4つの言葉の頭文字をとったものです。
PはPatient(患者)、IはIntervention(介入)/Exposure(曝露)、CはComparison(比較)、OはOutcome(起結)、です。
例えば「脳卒中患者さんの歩行の自立度を上げたいけど、患者さんをベッドで寝かせてストレッチをするよりもトレッドミルトレーニングをやった方がいいのかな?」という前景疑問(Foreground Question)をPICOに直すとこのようになります。
P: 脳卒中患者さん
I: トレッドミルトレーニング
C: ストレッチ
O: 歩行の自立度
Evidence Based Practiceは5つのステップに分けられますが、最初のステップがこの臨床疑問の抽出とPICO/PECOへの変換、になっていて、ここで躓くとその後のステップの進行が難しくなります。
今回は躓きやすいO、すなわちOutcomeについて2つのキーワードを混ぜながら話をしたいと思います。
PICOで気を付けるべき2つのアウトカム
今回のテーマである「PICOで気を付けるべき2つのアウトカム」というのは、「真のアウトカム」と「代理アウトカム」の2つです。
真のアウトカムというのは「患者さんにとって重要なアウトカム」のことです。
一方で、代理アウトカムというのは「患者さんにとって重要かどうかより、とりあえずそれでしか評価できないという仮のアウトカム」のことです。
基本的にPICO/PECOにするときは真のアウトカムで設定する必要があるのですが、現実にはそうもいかないケースがあり、代理アウトカムの必要性が出てきます。
これらの2つのアウトカムの関係について事例を交えて説明します。
真のアウトカムの代わりに代理アウトカムを立てるが問題が起こる
一度引き起こされると患者さんに多大な影響を与えるようなアウトカムのことで、PTさんの領域だと転倒による骨折とか、OTさんの領域だと患者さんの失職とか、STさんの領域だと誤嚥による死亡とか、そういうものを指します。
今お伝えしたアウトカムはネガティブなものですが、ポジティブなものですとPTさんの領域だとベッドートイレ間の移動を行えるのかとか、OTさんの領域だと職業復帰とか、STさんの領域だと飲み込みで失敗しないとか、そういうものを指します。
患者さんにとってはこの「真のアウトカム」が重要なので、これらの予防や改善を目指したいわけです。
例えば、「転んで骨折したくない」とか「職場に戻りたい」とか「ちゃんと飲み込めるようになりたい」とか、これを目標にリハビリに取り組むことになります。
EBPではこの「真のアウトカム」をPICO/PECOに設定する必要があります。
例えばPTさん領域の例で言うと「担当患者のAさん(脳卒中患者さん、65歳、発症から3ヶ月)に対してバランス練習は何もしない場合と比べて転倒による骨折を防ぐことに役立つか?」となります。
PICOに直すと次のようになります。
P: 脳卒中患者さん、65歳、発症から3ヶ月
I: バランス練習
C: 何もしない
O: 転倒による骨折
しかし、次のEBPのステップ2に進むと、転倒による骨折、というアウトカムをとっている研究がない・少ないというケースがあります。
OTさん領域だと、「職場復帰というアウトカムをとっている研究がない・少ない」、とかです。
この場合、参考にできるエビデンスがなくなってしまいますよね。
Evidence Based Practiceは利用可能な最善のエビデンス 、患者さんの価値観、専門家の経験、資源、の4要素から構成されます。
一番大事なのは患者さんの価値観とされていますが、エビデンスが入手できないことにはEBPを進められません。
ここで「代理アウトカム」という考え方が必要になってきます。
「代理アウトカム」というのは患者さんにとって重要かどうかより、とりあえずそれでしか評価できないという仮のアウトカムのことです。
例えば、さっきのPTさん領域の例で、転倒による骨折、というアウトカムをとっている研究がない・少ないという状況に陥ったケース。
転倒による骨折、というアウトカムでは見つからなかったとしても、”転倒率” をアウトカムにした研究は見つかるかも知れないです。
また、転倒にはバランス能力が関わります。
転倒率、というアウトカムでは見つからなかったとしても、Berg Balance ScaleやBESTest、Dynamic Gait Indexなどのバランス能力をみる検査をアウトカムにした研究は見つかるかも知れないです。
実際、転倒による骨折をアウトカムにした研究は少なく、また、Berg Balance ScaleやBESTest、Dynamic Gait Indexなどのバランス能力をみる検査をアウトカムにした研究は非常に多いです。
そのため、代理アウトカムを立てて引っ張ってきた研究を “利用可能な最善のエビデンス” として利用することが多いです。
しかし問題が起こります。
リハビリをした、例えばエビデンスに基づいてバランス練習をした結果、Berg Balance Scaleの点数はよくなったけど、転倒率は変わらなかった、ということです。
これ、PTさんはよく経験されることではないでしょうか。
また、この転倒によって骨折してしまったら本当に目も当てられません。
代理アウトカムとして立てた検査の結果はよくなったけど、真のアウトカムが引き起こされてしまった、というケースは往々にしてあります。
そうすると、「何のためのリハビリ、何のためのEBPだったの?」ということになりますよね。
これは防ぎたい事態です。
2つのアウトカムの距離を捉えておく
なぜこういうことが起こるかというと、転倒による骨折=BBS成績ではないからです。
当たり前といえば当たり前なのですが、これはよく臨床でみられるケースです。
転倒による骨折、について要素分解すると、バランス能力ももちろん一つの要素ではありますが、生活環境、認知機能、床の硬さ、服薬状況、骨密度、など様々な要素がありますよね。
また、バランス能力も静的なバランスと動的なバランスがあり、BBSは静的なバランスを評価できますが、成績が良い=転倒しない、ではありません。
BBSのカットオフ値についてはよく議論される話ですが、カットオフ値を越えれば転倒しない、ということではありません。
ですので、BBSという代理アウトカムは転倒による骨折という真のアウトカムの一部でしかなく、全てを説明することができません。
真のアウトカムに代理アウトカムを立て、さらに代理アウトカムの代理アウトカムを立て、さらに代理アウトカムの代理アウトカムの代理アウトカムを立てる、というケースがあり、このように代理アウトカムが増えるほど、真のアウトカムとの距離が遠くなります。
代理アウトカムが良くなっても、真のアウトカムはよくならない、という事態に陥ります。
EBPに慣れてくると平気で「転倒予防のケースね、じゃあBBSをアウトカムにして調べるか」のような判断に陥りがちですが、よく考えないといけません。
また、代理アウトカムが良くなっても、真のアウトカムはよくならない、という事態を防ぐためにロジカルシンキングの技術も有用です。
これについてはまた別でお伝えしたいと思います。
基本的には真のアウトカムを立てる、ということを忘れないようにしましょう!
今回は「PICOで気を付けるべき2つのアウトカム」というテーマでお話しさせていただきました。
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2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月ごろから開始する予定です。
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