脳卒中患者さんは運動課題と認知課題、例えば歩きながら会話するなどの二重課題では、運動と認知課題のどちらか、あるいは両者のパフォーマンスが低下することが知られています。

脳卒中患者さんへのリハビリ目標として、外出できるようになる、が設定されることがあります。

外出ができるようになるためには長い距離を歩けたり、ある程度速く歩けたりする必要があるのですが、それ以外にも二重課題に対応できる必要があります。

そのため、リハビリの中では二重課題練習をすることがありますが、どのようにされていますでしょうか?

経験的に、話しながら歩く、計算問題を解きながら歩く、障害物歩行練習をする、などが採用されているのではないかと思います。

ただ、自分の経験に基づいて課題設定を行うより、検証するためのデザインがしっかり組まれた研究を通して効果があったと報告した課題にした方が、患者さんが良くなる可能性は高いです。

そこで、今回は、Pang MYC (2018) のランダム化比較試験で行われた二重課題練習のプログラムを紹介します。

ADVANCED COURSE | 歩行
歩行の評価を、
「次の一手を決める根拠」に。
歩行・バランスの評価を点数を出して終わりにせず、脳卒中の歩行障害に対する評価から介入設計までを、査読付きエビデンスと結びつけて体系的に学びます。
動画教材 / 課題 / 講師フィードバック
アドバンス歩行コースを見る →
毎月1日開講・いつでもエントリー可能
オンライン/PT・OT向け/BRAINアカデミー

脳卒中リハビリで有効な二重課題練習のプログラム

二重課題練習の概念図。運動課題(歩く・立つ)と認知課題(計算・会話・記憶)を同時に行うことで、外出に必要な能力が高まることを示す。
二重課題練習とは――運動課題と認知課題を同時に行う

この研究では、運動課題と認知課題の2種類を同時に行う二重課題を実施しています。

二重課題には2つの特徴があります。

ひとつ目の特徴は、”複数の課題が用意されている” ところです。

運動課題も認知課題も、各6種類用意されています。

これらの課題を組み合わせるので、6×6 = 36種類の二重課題を実施することになります。

ふたつ目の特徴は、”難易度調整” です。

運動課題も認知課題も、それぞれで細かい難易度設定ができるようになっています。

患者さんひとりひとりの状態に合わせて難易度が調整される、課題指向型訓練のような要素が含まれています。

それでは、運動課題と認知課題をそれぞれ紹介します。

運動課題

①立ち座り練習
難易度調整:支持基底面の減少(タンデム、ハーフタンデム、片足)、不安定な床面(バランスパッドの使用)
②立位でのリーチ課題
難易度調整:支持基底面の減少、不安定な床面、リーチの距離、速度
③正方形の歩行路(30cm×30cm)を前方に歩く
難易度調整:歩行速度、不安定な床面
④前後方・側方への段差昇降
難易度調整:動作速度、ステッパーの高さ、不安定な床面
⑤障害物歩行(1.5m間隔に置かれた障害物を避ける)
難易度調整:障害物の距離を縮める、前方・側方・後方など歩く方向を変える、歩行速度
⑥ロープラダーのステップ(50cm)
難易度調整:ラダーの幅を狭くする、ラダーの幅を様々にする、歩く方向を変える(前方、側方)、歩行速度

認知課題

①物品の呼称
同じカテゴリーに属する物体を呼称していく
②質問への回答
セラピストからの質問に答える
③物語を話す
ランダムに選ばれた話題で、何らかの物語をセラピストに話す
④数の復唱・逆唱
セラピストが2桁、3桁、5桁の数字を言い、対象者はそれを復唱及び逆称する
⑤アイテムの記憶
複数の買い物リストを記憶する
⑥聴覚識別
CDから聴こえてくる音の識別(例えば、犬の声なのか鳥の声なのか、など)

これらを組み合わせて二重課題を作成するので、例えば「CDから聴こえてくる音が犬の声なのか鳥の声なのか答えながら立ち座りをする」「セラピストの質問に答えながら障害物歩行をする」といった課題になります。

二重課題は、1日あたり30分、週3回、8週間行われました。

Pang(2018)の二重課題プログラム|運動課題・認知課題の一覧

運動課題(6種類)認知課題(6種類)
①立ち座り練習①物品の呼称(同じカテゴリーの物体を呼称)
②立位でのリーチ課題②質問への回答
③正方形の歩行路(30cm×30cm)を前方に歩く③物語を話す
④前後方・側方への段差昇降④数の復唱・逆唱(2・3・5桁)
⑤障害物歩行(1.5m間隔の障害物を避ける)⑤アイテムの記憶(買い物リスト)
⑥ロープラダーのステップ(50cm)⑥聴覚識別(CDの音が犬か鳥かなど)
運動課題6種類×認知課題6種類を組み合わせ、36種類の二重課題を実施します。各課題は難易度調整が可能です(実施量:1日30分・週3回・8週間)。

二重課題歩行練習の効果

ほかのバランス練習とあわせて取り組みたい方は、直近10年で研究されているバランスのリハビリ5選もご覧ください。

二重課題練習の効果は、2024年に公開された複数のランダム化比較試験をまとめた分析でも、歩行とバランスの両方で改善が確認されています(Zhang, 2024)。

この研究では二重課題グループの他にコントロール群として単課題グループ(運動課題と認知課題を別々に行う)、上肢のエクササイズグループが設定され、二重課題の効果が検証されています。

8週間リハビリを実施した結果、二重課題を実施したグループはコントロールグループと比べ、二重課題中の歩行速度が大きく向上しました。

また、リハビリ終了後から6ヶ月以内の転倒において、二重課題を実施したグループの方が発生率が低かったことも報告されました。

これらのことから、二重課題を実施することは、運動課題と認知課題を別々に行ったり、上肢のエクササイズをするよりも二重課題のパフォーマンスや転倒可能性に対して有効であることが示唆されています。

何となく二重課題をやるのではなく、エビデンスに基づいてプログラムを立てよう

二重課題のプログラムを紹介させていただきましたが、いかがでしょうか?

厳密な課題設定、難易度設定に驚かれた方もいるのではないかと思います。

私たちが二重課題トレーニングをするときは、何となく「話しながら歩く」とか「100-7の計算を繰り返しながら歩く」のような、セラピスト考案のプログラムをやりがちですが、効果があったと報告されているプロトコルに基づいて進めることで、患者さんがよくなる可能性が高まります。

二重課題の設定に迷った時は、まず、本日紹介したPang MYC (2018)のプロトコルに基づき、二重課題を進めてみてはいかがでしょうか。

まとめます。

● 脳卒中患者さんは二重課題におけるパフォーマンスが低下する
● 二重課題のプロトコルとしてPang MYC (2018)のプロトコルが参考になる
● 二重課題トレーニングにより、二重課題中の歩行速度や転倒可能性に対し良い結果に

本日は「脳卒中リハビリで有効な二重課題練習のプログラム」というテーマでお話しさせていただきました。

BRAINではBRAINアカデミーというオンライン学習プログラムを運営しております。

くわしいカリキュラムは、記事内のリンク先(BRAINアカデミー アドバンスコース −歩行−)をご覧ください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!

歩行の変化、実際にあった方がいます

リハビリで歩行が変わった方がいます。

BRAINでは、その変化の様子(ビフォーアフター)を公開しています。

▶ 足・歩行の変化事例を見る

参考文献

Pang MYC, Yang L, Ouyang H, Lam FMH, Huang M, Jehu DA. Dual-Task Exercise
Reduces Cognitive-Motor Interference in Walking and Falls After Stroke. Stroke.
2018 Dec;49(12):2990-2998.