杖 卒業のタイミングは、歩行バランスと筋力を客観的な指標で評価して判断します。

「そろそろ杖なしで歩けるのでは?」
脳卒中のあと、杖を使いながらリハビリを続けるなかで、こう感じる方は多いです。
しかし、杖を外すタイミングを間違えると転倒のリスクが高まります。
杖の卒業は「できるかどうか」ではなく「安全にできるかどうか」で判断します。
この記事では、杖を卒業できるかどうかの判断基準、段階的な練習メニュー、やってはいけないことまで、脳卒中専門リハビリ施設BRAINの代表で理学療法士の針谷が、研究論文と臨床経験に基づいて解説します。
・本記事の情報は、信頼性の高い研究論文から得られたデータを中心に引用しています。
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・顔のゆがみ(片側が下がる)
・片腕の脱力(腕が上がらない)
・言葉のもつれ(ろれつが回らない)
また、杖なし歩行の練習中に以下の症状が出た場合は、練習を中止してください。
・強いめまいやふらつき
・麻痺側の手足のしびれが急に強くなった
・激しい頭痛
杖を卒業するとは?|まず知っておきたいこと
杖の卒業とは、「安全に、実用的に、杖なしで歩ける状態になること」です。
単に杖を持たずに歩くことではありません。
「杖を使わない」と「杖を卒業する」の違い
「杖を使わない」は、杖を置いて歩くという行動です。
「杖を卒業する」は、杖がなくても安全に歩ける能力が備わった状態です。
能力が十分でないまま杖を外すと、転倒のリスクが高まります。
杖を卒業した直後は、杖ありの歩行よりも注意力を多く使うことが研究で示されています(Chen, 2021)。
つまり、「歩ける」だけでは不十分で、「余裕を持って歩ける」ことが大切です。
BRAINでは、杖を外したいという気持ちを大切にしつつ、「外しても安全かどうか」を客観的に評価してからお伝えしています。
杖の卒業はゴールではなく通過点
杖が外れたら「歩行のリハビリは終わり」ではありません。
杖なし歩行ができても、歩くスピードや持久力はまだ改善の余地があることが多いです。
脳卒中後の歩行回復について研究をまとめたレビューでも、安全性・自立性・効率性のすべてを高めることが重要であると述べられています(Moore, 2022)。
BRAINでは、杖の卒業を「通過点」として位置づけ、その先の生活の質の向上を一緒に目指しています。
こんな場面で「杖を手放したい」と感じていませんか?
以下に当てはまるものがないか、チェックしてみてください。
- 家の中では杖なしで歩けるのに、外出時だけ杖を使っている
- 杖を持っていると「障害がある人」に見られるのが気になる
- 買い物で杖を持っていると荷物が持てなくて不便
- 旅行や外食のとき、杖が邪魔になると感じる
- リハビリでは杖なしで歩けているのに、普段はまだ杖を使っている
- 家族から「もう杖なしでいけるのでは?」と言われる
- 杖を持たずに歩いてみたいが、転ぶのが怖い
1つでも当てはまる方は、杖の卒業を検討する時期かもしれません。
ただし、自己判断で杖を外すのは危険です。
次のセクションで、専門家が使う判断基準を解説します。
杖を使うことに対する思いは人それぞれです。
研究でも、杖に対する心理的な抵抗感が大きい方がいる一方、安心感を得るために積極的に使いたい方もいることがわかっています(Nascimento, 2019)。
杖を卒業できるかどうかの判断基準
杖を安全に外せるかどうかは、「バランス」「歩行スピード」「持久力」の3つで判断します。
自己判断ではなく、専門家による評価が必要です。
臨床研究に基づく5つの数値基準
上記の判断基準をより具体的にすると、以下の5つの数値基準で整理できます。
これらは過去の研究論文で報告された、脳卒中後の方が杖なしで安全に歩ける目安です。
以下の通りです。
- 歩行速度が0.8m/s以上である
- バランス検査BESTestで70%以上のスコアをとれる
- 脚の運動機能検査FMALEで25点以上をとれる
- 杖がなくても目的地まで楽に歩ける
- 杖があるときとないときとを比べ歩きかたに差がない
以下、詳しく解説します。

Point① 歩行速度が0.8m/以上である(10mを12.5秒以下で歩ける)
歩行速度が0.8m/s以上になると、杖を使うことでむしろ歩行速度が低下することが報告されています。
Nascimento LR(2015)は、歩行速度の異なる慢性期脳卒中患者さん24人を
- 歩行速度が遅い(<0.4m/s)グループ
- 歩行速度が普通(0.4〜0.8m/s)グループ
- 歩行速度が速い(>0.8m/s)グループ
に分け、それぞれのグループで杖を持つ/持たない場合で歩行速度がどれくらい変化するか調査しました。
結果として、
- 歩行速度が遅い(<0.4m/s)グループ
- 歩行速度が普通(0.4〜0.8m/s)グループ
は杖を使うことで『歩行速度が速くなる』『歩幅が大きくなる』といったメリットがあったものの、歩行速度が速い(>0.8m/s)グループはむしろ『歩行速度が遅くなる』『歩幅は変化すると言えない』という結果になりました。
つまり、歩行速度が0.8m/s以上になればむしろ杖は歩行にマイナスの影響を及ぼすと言えます。
同様に、Ijmker T(2013)は歩行速度が1.13m/sくらいの回復期脳卒中患者さんが杖を使うことで歩行速度が低下することを報告しました。
これらのことから、歩行速度が一定以上(0.8m/s以上)になれば、杖を外してもよいと言えるでしょう。
一方で、Polese JC(2012)の研究では、普段から杖(T字杖か松葉杖)を使っている慢性期脳卒中患者さんが杖なしで歩くと、いつもよりも歩行速度が低下することが報告されています。
杖ありで0.8m/sだとしても、杖なしでは0.8m/sを下回ってしまうことがあるので、杖なしでの歩行速度をしっかり評価しましょう。
歩行速度を測定する方法は?
10m歩行試験を使用するのが一般的です。10m歩くのに要する時間から歩行速度を算出します。病院でもご自宅でも簡単に検査を行うことができます。
バランス検査BESTestで70%以上のスコアをとれる

Point② バランス検査BESTestで70%以上のスコア(76点以上)をとれる
一般的に、杖を使っている人はバランスが不良であることが知られています。
Hamzat TK(2008)は、脳卒中患者さん50人を対象にし、杖を使用している人のバランスや社会参加について調査しました。
結果として、『杖を使用している人はバランスが低く社会参加度も低い』ことを報告しています。
杖にはバランスを向上させる効果があるので、バランスを補うために杖を使うことは妥当であると言えます。
言い換えると、バランスがよくなれば杖を外してもよいと言えます。
Sahin IE(2019)は、慢性期脳卒中患者さんの転倒を予測する方法を検証しました。
結果として、Balance Evaluation Systems Test(以下、BESTest)という検査で69.44%以下のスコアである場合、1年以内に転倒しやすいことが明らかになりました。
この検査の特長は、カットオフ値の信頼性が他の検査と比べて比較的高いという点です(感度:75%、特異度:85%)。
転倒を予測する方法はいくつかありますが、BESTestで70%以上であることは転倒予防において大事な意味を持ちます。
これらを踏まえて、BRAINでは『BESTestで70%以上』をバランスの基準として設けています。
BESTestとは?
バランス能力を評価する108点満点の検査です。最終的にパーセンテージに直すので、108点をとれると100%と表記します。70%というのは、およそ76点に値します。
脚の運動機能検査FMALEで25点以上をとれる

Point③ 脚の運動機能検査FMALEで25点以上をとれる
杖なしで歩く場合、麻痺側下肢でしっかりとご自身の体重を支えたり、バランスをとるために脚を出さなければならないことがあるため、ある程度の運動機能が必要です。
Boonsinsukh R(2011)は、回復期脳卒中患者さん62人を対象に、タッチコンタクトと呼ばれる『杖を軽く持つこと』ができる人たちの特徴を報告しました。
この中で、Fugl-Meyer Assessment Lower Extremity(以下、FMALE)のスコアが24.6点くらいだったことが報告されています。
FMALEとは?
脳卒中後の下肢の運動機能を数値化する34点満点の検査です。病院でもご自宅でも簡単に検査を行うことができます。
タッチコンタクトなので『杖なし』ではないのですが、杖に依存せずに歩けるということで25点をひとつの基準としています。
また、Kwong PWH(2019)は、脳卒中患者さんの外出可能な高レベルの移動を予測するカットオフ値として21点を報告しています。
これらを踏まえると、杖なしで外出するための基準としてFMALE25点は妥当であると考えています。
杖がなくても目的地まで楽に歩ける

Point④ 杖がなくても目的地まで楽に歩ける
Ijmker T(2013)は、普段から杖を使っている人が杖なしで歩くと、いつもよりエネルギーコストが大きくなる(歩くのが大変になる、疲れる)ことを報告しました。
歩くのが大変になる(疲れる)ことによって、『杖を使っていれば○○(目的地)まで行けていたのに、杖を外したら行けなくなった』ということが起こり得ます。
杖を外すことによって活動範囲が狭くなってしまうのは望ましくないです。
杖がなくても、目的地まで楽に歩ける状態であることが大事です。
杖があるときとないときとを比べ歩きかたに差がない

Point⑤ 杖があるときとないときとを比べ歩きかたに差がない
杖を使うことによって、歩きかた(歩容)がよくなることが報告されています(Kuan TS, 1999; Beauchamp MK, 2009)。
言い換えると、杖を外すことによって歩きかた(歩容)が悪くなってしまう可能性があります。
歩きかたについては気にされない方であれば問題ありませんが、気にされる方であれば、杖なしでの歩きかたをチェックし、問題ないことを確認しましょう。
杖なし歩行のためのテーピング
以上、杖を外すための5つの基準を紹介しました。
なお、杖を外すときは『杖あり→テーピング→杖なし』という手順を踏むとよいかもしれません。
杖を使うデメリットとして『筋活動の低下』があり、日常的に杖を使っている人は筋活動が低下している可能性があります。
筋活動をサポートしてくれるのがテーピングです。
Chen JL(2019)は、日常的に杖を使用している脳卒中患者さん28人を対象にし、テーピングを使用することの有効性を調査しました。
結果として、テーピングを行うことによって、杖なしでの歩行速度、歩行距離、バランスが改善したことを報告しました。
また、Maguire C(2010)は、脳卒中患者さん13人を対象にした研究で、股関節外転筋へのテーピングによって大臀筋の活動が5.8%増加することを報告しており、歩行に有利になると言えます。
5つの基準に加え、テーピングも活用することによって、患者様・ご利用者様の安全な杖なし歩行の獲得に貢献できるでしょう。
5つの条件をすべてクリアする必要はない
5つの条件をまとめます。
- 歩行速度が0.8m/s以上である
- バランス検査BESTestで70%以上のスコアをとれる
- 脚の運動機能検査FMALEで25点以上をとれる
- 杖がなくても目的地まで楽に歩ける
- 杖があるときとないときとを比べ歩きかたに差がない
ただし、5つの判断基準を満たしていなくても、以下に該当する場合は杖なしで歩いてもよいと考えています。
- 杖を持つ非麻痺側の痛みなどが激しい場合
- 転倒、歩きかたの悪化などを気にされない場合
杖を使うメリットよりもデメリットの方が大きい場合、また患者様やご家族様が転倒リスクや歩きかたよりも杖を外すことを重要視されている場合などは5つの条件を満たさずに杖を外すことを検討します。
杖は歩行をサポートするもの、ひいては患者さんの人生をサポートするものなので、患者さんの価値観に合わせて最終決定するのが望ましいと考えています。
理学療法士など専門家にご相談いただき、各種検査(10m歩行試験、BESTest、FMALEなど)を通して5つの基準を満たしているかどうか確認してみてください。
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専門家が確認する3つのポイント
バランス能力(BBS等のカットオフ値)
バランス能力は、Berg Balance Scale(BBS)という評価で数値化できます。
BBSは14項目のバランス動作を0〜56点で採点する検査です。
研究によると、入院リハビリ開始時のBBSが45点以上の方は、退院時に杖なしで地域を歩ける水準(歩行速度0.8 m/s以上)に達する可能性が高いことがわかっています(Louie, 2018)。
また、日本の回復期リハビリ病院での研究では、入院1か月後のBBSが32点以上の方は、3か月後に自立歩行を達成する確率が高かったと報告されています(Makizako, 2015)。
さらに、BBSと歩行速度を組み合わせた予測ルールも開発されており、複数の条件を総合的に評価することでより正確な判断ができます(Tamura, 2024)。
BRAINでは、BBSに加えて、Mini-BESTestやTimed Up and Go(TUG)など複数のバランス評価を組み合わせて判断しています。
歩行スピード(快適歩行速度の基準)
歩行スピードは、杖を卒業できるかどうかの重要な指標です。
1995年にPerryらが発表した研究では、脳卒中後の歩行能力を歩行速度によって以下のように分類しています(Perry, 1995)。
- 0.4 m/s未満:家の中を歩くのが限界(家庭内歩行レベル)
- 0.4〜0.8 m/s:近所への外出が可能だが制限あり(制限付き地域歩行レベル)
- 0.8 m/s以上:地域での自由な移動が可能(地域歩行レベル)
杖なしで0.8 m/s以上の歩行速度を維持できるかどうかが、杖卒業の目安のひとつです。
ただし、歩行スピードだけでなく、歩行距離も重要です。
研究では、歩行スピードと歩行距離のどちらも地域歩行の予測に有用であることが示されています(Bijleveld-Uitman, 2013)。
BRAINでは、10m歩行テストと6分間歩行テストの両方を実施し、スピードと持久力の両面から評価しています。
持久力と屋外歩行の安全性
家の中では杖なしで歩けても、屋外では状況が異なります。
屋外には段差、坂道、人混み、信号の時間制限など、多くの課題があります。
歩行速度と地域歩行の関連を調べた研究では、歩行速度だけでなく、バランスへの自信や転倒への恐怖心も地域での歩行に影響することが報告されています(van de Port, 2008)。
BRAINでは、「屋内で安全に歩ける」だけでなく、「屋外の実際の環境で安全に歩けるか」を確認するために、施設周辺での屋外歩行評価も行っています。
自分で確認できるセルフチェック
以下は、杖なし歩行の準備ができているかどうかの目安です。
すべてを満たす必要はありませんが、参考にしてください。
- 家の中で杖なしで10分以上歩ける
- 片足立ちが5秒以上できる
- 椅子からの立ち上がりに手の支えがいらない
- 家の中の段差をまたげる
- 後ろ向きに3歩以上歩ける
杖卒業に向けた段階別の練習メニュー
杖の卒業は段階的に進めるのが安全です。
「いきなり杖を外す」のではなく、少しずつ杖なしの時間を増やしていきます。
専門的なリハビリで行うこと
バランス訓練
バランス能力の向上は、杖卒業の土台になります。
BBS(Berg Balance Scale)のMCID(臨床的に意味のある最小の変化量)は、歩行補助具が必要な方では6.5点、不要な方では4.3点と報告されています(Tamura, 2022)。
具体的には以下のような訓練を行います。
- 片足立ち練習(支えありから支えなしへ段階的に)
- 不安定な面(マット・バランスディスクなど)での立位保持
- 重心移動練習(前後左右への体重移動)
- 方向転換を含む歩行練習
BRAINでは、BBSやMini-BESTestのスコアをもとに個別のバランス訓練プログラムを組み立てています。
トレッドミル歩行訓練
トレッドミル(歩行用のランニングマシン)を使った歩行訓練は、歩行スピードの向上に効果があることが複数の研究で示されています。
2025年に公開された95の研究をまとめた大規模な分析では、通常のリハビリに電動歩行訓練装置を組み合わせることで、歩行の自立度と歩行速度が向上することが報告されています(Mehrholz, 2025)。
トレッドミルの利点は、安全な環境で速度や距離を少しずつ増やせることです。
杖を使わずにトレッドミル上で安定して歩けるようになることが、杖卒業への自信につながります。
BRAINでは、トレッドミル訓練の際に心拍数をモニタリングし、適切な強度で訓練を行っています。
課題指向型訓練
課題指向型訓練とは、実際の生活動作に近い課題を繰り返し練習する方法です。
たとえば、「コップを持って歩く」「障害物をまたいで歩く」「階段を昇り降りする」など、日常生活で必要な動作を安全な環境で練習します。
2016年に公開された33の研究をまとめた大規模な分析では、課題を繰り返し練習することで歩行距離が改善し、下肢の機能が向上することが報告されています(French, 2016)。
また、歩行リハビリの診療ガイドラインでは、慢性期の脳卒中の方に対して、課題に特化した歩行訓練を高い強度で行うことが推奨されています(Hornby, 2020)。
BRAINでは、屋外歩行(段差、坂道、信号のある横断歩道など)を積極的に取り入れた課題指向型訓練を行っています。
自分でできること
専門家の指導のもと、以下の練習を自宅でも行うことができます。
必ず安全な環境で、転倒防止の対策を取ったうえで行ってください。
壁沿い片足立ち練習
壁に手をつけられる位置で片足立ちを行います。
まずは壁に手をついたまま5秒、次に手を離して5秒、最終的には10秒と段階的に延ばします。
目標は手放しで20秒以上です。
椅子立ち上がり練習
椅子から手の支えなしで立ち上がり、ゆっくり座ります。
1セット10回、1日3セットが目安です。
太ももの筋力とバランス能力の向上につながります。
家の中での「杖なしタイム」
家の中で短い時間だけ杖を外して歩く練習を始めます。
最初は5分から始め、安定してきたら10分、15分と延ばします。
必ず家族がいるときに行い、壁や家具に手をつける位置を歩いてください。
後ろ歩き・横歩き練習
廊下などで壁を触れる位置で後ろ歩きや横歩きを行います。
普段使わない方向への移動は、バランス能力の向上に効果的です。
1往復(5m程度)を3回が目安です。
やってはいけないこと・よくある間違い
- いきなり屋外で杖を外す:屋外は段差や人混みなど予測できない状況が多く、転倒リスクが高いです。まずは家の中から始めてください。
- 「歩けたから大丈夫」と判断する:杖を外した直後は、歩くことに注意力が多く使われます。研究でも、杖を外した直後は認知的な負荷が高まることが示されています(Chen, 2021)。「歩けるか」ではなく「歩きながら周囲に注意を払えるか」が大切です。
- 疲れたまま練習を続ける:疲れた状態ではバランスが崩れやすくなります。練習は体調の良いときに、短時間で区切って行ってください。
- 転んでも「練習だから仕方ない」と考える:転倒は骨折のリスクがあります。特に脳卒中後は麻痺側の骨密度が低下している場合があり、通常より骨折しやすいことがわかっています。1回でも転んだ場合は、練習方法を見直してください。
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回復の見通し|杖はどのくらいで卒業できる?
杖の卒業までの期間は、発症からの時期、麻痺の重さ、年齢、体力などによって大きく異なります。
「いつ卒業できるか」よりも「安全に卒業できる状態になったか」が重要です。
2021年に公開された11の研究をまとめた分析では、脳卒中後に歩行ができなかった方が自立歩行を取り戻すまでの予測として、初期の下肢の筋力やバランス能力、座位保持能力などが歩行自立の予測因子であることが報告されています(Preston, 2021)。
また、TWISTという予測ツールを使った研究では、発症1週間の評価から、自立歩行の達成時期を予測できることが示されています。
この研究では、対象者の約80%が発症後6か月以内に自立歩行を達成しました(Smith, 2022)。
ただし、ここでの「自立歩行」には杖歩行も含まれます。
杖なし歩行の達成は、さらに時間がかかる場合があります。
BRAINのリハビリの考え方
BRAINでは、杖の卒業に向けて以下の流れでリハビリを進めています。
- 初回評価:BBSなどのバランス評価、10m歩行テスト、6分間歩行テストなどを実施
- 目標設定:ご本人の希望と評価結果をもとに、杖卒業を目指すかどうかを一緒に決める
- 介入:エビデンスに基づく訓練(バランス訓練、トレッドミル歩行、課題指向型訓練)を実施
- 再評価:定期的に評価を繰り返し、杖を外せる状態かどうかを判断
- 段階的移行:屋内から屋外へ、短時間から長時間へと段階的に杖なし歩行を拡大
大切なのは、「杖を外すこと」自体が目的ではなく、「杖なしで安全に生活できること」が目標だということです。
実際にBRAINでリハビリに取り組まれた方の事例
初回評価:BBS 42点、10m歩行(杖なし)0.65 m/s、TUG 15.2秒。
エビデンスに基づく介入:バランス訓練(片足立ち、重心移動)、トレッドミル歩行訓練(杖なし)、課題指向型訓練(段差昇降、障害物歩行、屋外歩行)。
期間:週2回、3か月間。
再評価:BBS 51点(+9点)、10m歩行(杖なし)0.86 m/s(+0.21 m/s)、TUG 11.8秒(-3.4秒)。
生活の変化:屋内は完全に杖なしで生活。近所のスーパーまで杖なしで外出可能に。旅行も杖なしで参加できるようになった。
初回評価:BBS 48点、10m歩行(杖なし)0.72 m/s、TUG 13.5秒。
エビデンスに基づく介入:高強度ステップ訓練、課題指向型訓練(人混み歩行、信号横断)、バランス訓練。
期間:週2回、4か月間。
再評価:BBS 53点(+5点)、10m歩行(杖なし)0.95 m/s(+0.23 m/s)、TUG 10.2秒(-3.3秒)。
生活の変化:通勤時に杖を使わずに電車通勤が可能に。会社内も杖なしで移動できるようになった。
ご家族・介護者の方へ
杖の卒業は、ご本人だけでなく周囲のサポートも大切です。
家族ができる5つのこと
- 1. 本人の「杖を外したい」という気持ちを否定しない:気持ちを受け止めたうえで「一度リハビリの先生に相談してみよう」と伝えましょう。
- 2. 自宅の安全環境を整える:つまずきやすい敷物の撤去、手すりの設置、十分な照明の確保が大切です。
- 3. 練習中は近くで見守る:家の中での「杖なしタイム」は、家族が近くにいるときに行いましょう。
- 4. 転んでも責めない:「だから杖が必要なのに」と言いたくなる気持ちはわかりますが、それは本人の挑戦する気持ちをくじいてしまいます。
- 5. 小さな進歩を一緒に喜ぶ:「昨日より安定してるね」「10分歩けたね」など、具体的に声をかけてください。
周囲への伝え方
杖を使っている方への周囲の理解も大切です。
以下のような声かけが参考になります。
- 「今、杖なしで歩く練習をしているところです」
- 「リハビリの先生と相談しながら少しずつ進めています」
- 「転びそうになったら声をかけてください」
職場復帰の場面では、上司や同僚に状況を説明することで、必要なサポートを得やすくなります。
相談窓口・地域の支援先
杖の卒業について相談できる窓口をご紹介します。
- かかりつけ医:まずは担当の医師に相談してください。必要に応じてリハビリテーション科への紹介状を出してもらえます。
- 地域包括支援センター:お住まいの地域にある相談窓口です。介護保険でのリハビリや福祉用具の相談ができます。
- 介護保険によるリハビリ(通所リハビリ・訪問リハビリ):週1〜2回程度の頻度で理学療法士によるリハビリが受けられます。
- 自費リハビリ施設:介護保険の制限を受けず、集中的にリハビリに取り組みたい方向けです。BRAINもこの自費リハビリ施設のひとつです。
よくある質問(FAQ)
まとめ
杖の卒業は、「安全に、杖なしで生活できる」状態になることです。
大切なポイントを整理します。
- 杖の卒業は自己判断ではなく、専門家の評価に基づいて判断する
- 判断基準は「バランス能力」「歩行スピード」「持久力と屋外の安全性」の3つ
- BBS 45点以上、歩行速度0.8 m/s以上が目安のひとつ(研究に基づく数値)
- 練習は段階的に:屋内から屋外へ、短時間から長時間へと少しずつ進める
- いきなり屋外で杖を外さない、疲れた状態で練習しない
- 杖を卒業しても、状況に応じて杖を使う判断ができることが本当の卒業
杖を卒業したいという気持ちは、リハビリの大きな原動力です。
その気持ちを大切にしながら、安全に一歩ずつ進めていきましょう。
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2026年4月17日:記事公開

