
脳卒中の費用は、入院・手術・リハビリ・退院後の通院や介護まで含めると、ご家族にとって大きな経済的負担になります。
「医療費はいくらかかるのか」「自己負担はどこまで抑えられるのか」「会社員時代の収入が止まったら生活はどうなるのか」など、心配ごとが尽きません。
この記事では、脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)にかかる費用の平均、高額療養費制度、傷病手当金、医療費控除、介護保険、自立支援医療など、使える制度を1つにまとめて解説します。
脳卒中専門リハビリ施設BRAINの代表で理学療法士の針谷が、臨床現場でご家族からよく受ける質問と、公的制度の最新情報を整理しました。
・制度情報は厚生労働省・全国健康保険協会(協会けんぽ)の公式情報(2026年5月時点)を基にしています。
・実際の自己負担額や申請手続きは、加入している健康保険組合または市町村窓口にご確認ください。
1つでも当てはまれば、すぐに救急車を呼んでください(Time is brain)。
※ 本記事の制度情報は2026年5月時点のものです。最新情報は厚生労働省「高額療養費制度」公式ページでご確認ください。
脳卒中の費用|入院費はいくらかかる?
脳卒中で入院した場合の費用は、病院・治療内容・入院期間によって幅があります。
「実際にいくら払うことになるのか」、おおよその目安を知っておきましょう。
急性期病院の入院費用(10割の総医療費)
脳卒中の急性期入院(発症直後の救急対応とその後2~3週間)にかかる総医療費は、おおむね150万円~300万円です(治療内容により大きく変動)。
- 軽症(点滴治療中心):100万円前後
- tPA(血栓溶解療法)使用:200万円前後
- 血栓回収療法(カテーテル)使用:300万円前後
- 開頭手術(脳出血・くも膜下):300万円超
これは健康保険による「DPC包括支払い制度」で計算される金額です。
自己負担額は3割(または1~2割)
日本の健康保険では、原則として医療費の3割が自己負担です。
- 70歳未満:3割負担
- 70~74歳:2割負担(現役並み所得は3割)
- 75歳以上:1割負担(一定所得以上は2割または3割)
つまり、総医療費200万円なら3割負担で60万円の自己負担となります。
これだけ聞くと「払えない」と感じる金額ですが、ここで「高額療養費制度」が登場します。
高額療養費制度|医療費の自己負担に上限がある
高額療養費制度は、1か月(暦月)の医療費の自己負担が一定額を超えた金額が払い戻される制度です。
所得区分によって限度額が異なります。
70歳未満の自己負担限度額(2026年5月時点)
252,600円 +(総医療費-842,000円)×1% /多数回該当 140,100円
区分イ(標準報酬月額53~79万円=年収約770~1,160万円)
167,400円 +(総医療費-558,000円)×1% /多数回該当 93,000円
区分ウ(標準報酬月額28~50万円=年収約370~770万円)
80,100円 +(総医療費-267,000円)×1% /多数回該当 44,400円
区分エ(標準報酬月額26万円以下=年収約370万円未満)
57,600円 /多数回該当 44,400円
区分オ(住民税非課税世帯)
35,400円 /多数回該当 24,600円
例えば年収500万円の会社員(区分ウ)が脳梗塞で入院し、1か月の医療費が200万円かかった場合:
- 3割負担額:60万円
- 高額療養費の限度額:80,100円 +(200万円-267,000円)×1% = 97,430円
- 払い戻し額:60万円 -97,430円 = 約50万円
つまり、200万円の医療費が、最終的に約10万円の自己負担で済む計算です。
70歳以上の自己負担限度額
252,600円 +(総医療費-842,000円)×1% /多数回該当 140,100円
現役並み所得Ⅱ(標準報酬月額53~79万円)
167,400円 +(総医療費-558,000円)×1% /多数回該当 93,000円
現役並み所得Ⅰ(標準報酬月額28~50万円)
80,100円 +(総医療費-267,000円)×1% /多数回該当 44,400円
一般所得(年収約156~370万円)
外来(個人):18,000円 /世帯:57,600円 /多数回該当 44,400円
低所得Ⅱ(住民税非課税)
外来:8,000円 /世帯:24,600円
低所得Ⅰ(所得なし)
外来:8,000円 /世帯:15,000円
多数回該当|4か月目から自己負担がさらに下がる
直近12か月のうち、すでに3回以上高額療養費を受けている場合、4回目以降は限度額がさらに引き下げられます(多数回該当)。
脳卒中後に入院・リハビリ・通院を続けるケースでは、この多数回該当が適用されやすいです。
高額療養費に含まれないもの
・差額ベッド代(個室・特別室の追加料金)
・先進医療の技術料
・自由診療
・おむつ代・日用品代
・テレビカード・コインランドリー代
つまり、高額療養費で医療費自体は抑えられても、食事代・差額ベッド代で月10万円以上の自費が発生することがあるので注意が必要です。
限度額適用認定証|窓口での立替えをなくす
高額療養費は本来「いったん窓口で全額(3割)を支払い、後日払い戻しを受ける」仕組みです。
しかし、「限度額適用認定証」を事前に取得して病院窓口に提示すれば、最初から自己負担限度額までの支払いで済みます。
取得方法
- 会社員(協会けんぽ・健保組合):勤務先または健保組合に申請
- 自営業(国民健康保険):市区町村の役所に申請
- 75歳以上(後期高齢者医療制度):市区町村の役所に申請
申請から発行まで1週間程度です。
マイナンバーカードを保険証として利用している場合は、限度額適用認定証の申請が不要になりました(病院がオンラインで確認)。
入院が決まったら、すぐに限度額適用認定証の手続きを進めるか、マイナンバーカードを病院に提示することで、立替金額を大きく減らせます。
ご家族が動ける場合は、入院翌日にでも勤務先または市役所へ連絡することをおすすめします。
傷病手当金|会社員が働けない間の生活費補償
会社員(協会けんぽ・健保組合の加入者)が脳卒中で働けなくなった場合、健康保険から傷病手当金を受け取れます。
支給期間:休業開始から通算1年6か月(2022年改正で「通算」になり、復職→再休業した場合の通算が可能)
支給条件:
・業務外の病気・けがで療養中であること
・労務不能であること(医師の意見書が必要)
・連続する3日間(待期期間)を含み4日以上仕事を休んでいること
・休んだ期間について給与の支払いがない(または傷病手当金より少ない)こと
例えば、月給30万円の会社員(標準報酬月額30万円)の場合:
- 標準報酬日額:30万円 ÷ 30日 = 10,000円
- 傷病手当金(日額):10,000円 × 2/3 = 約6,667円
- 1か月(30日):約20万円
- 最長18か月で:約360万円
脳卒中で休職した会社員にとって、生活を守る大きな柱になります。
傷病手当金と障害厚生年金との関係
傷病手当金の支給期間中に障害厚生年金を受給するようになった場合、原則として障害厚生年金が優先されます。
ただし、傷病手当金の日額のほうが障害厚生年金より高い場合は、差額が支給されます。
障害年金については脳梗塞の障害年金|受給できる条件・申請手続き(公開後)で詳しく解説します。
国民健康保険には傷病手当金がない
自営業・フリーランスなど国民健康保険の方には、原則として傷病手当金の制度はありません。
所得補償保険・就業不能保険などの民間保険でカバーしている方が多いです。
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医療費控除|年間10万円超で確定申告
1年間(1月~12月)にかかった医療費が10万円を超えると、確定申告で医療費控除を受けられます(所得200万円未満の場合は所得の5%超)。
医療費控除の対象になるもの
- 診察・治療費・手術代
- 入院費(食事代を含む)
- 処方薬代
- 通院の交通費(公共交通機関)
- 装具代(医師の指示によるもの)
- はり・きゅう・あんま・マッサージ(治療目的)
- 訪問看護・在宅介護にかかる医療費
- おむつ代(医師の「おむつ使用証明書」が必要)
計算式
医療費控除額=(年間医療費-保険金などで補てんされた金額)-10万円
※高額療養費・生命保険給付金などで補てんされた金額は差し引きます。
確定申告時に税務署に提出するか、e-Taxでオンライン申告できます。
介護保険|40歳以上の脳卒中は対象
介護保険は、原則として65歳以上の方が対象ですが、脳血管疾患(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)は「特定疾病」に該当するため、40歳以上65歳未満の方(第2号被保険者)でも申請可能です。
介護保険でできること
- 訪問リハビリ・訪問看護・訪問介護
- 通所リハビリ(デイケア)・通所介護(デイサービス)
- 福祉用具レンタル(介護ベッド・車いす・歩行器・手すりなど)
- 住宅改修(手すり設置・段差解消など、上限20万円)
- ショートステイ(短期入所)
- 介護老人保健施設(老健)への入所
自己負担額
介護保険サービスの自己負担は1割(所得により2割・3割)です。
要介護度別に、月の利用上限額(区分支給限度額)が設定されています。
- 要支援1:50,320円/月(自己負担5,032円)
- 要支援2:105,310円/月
- 要介護1:167,650円/月
- 要介護2:197,050円/月
- 要介護3:270,480円/月
- 要介護4:309,380円/月
- 要介護5:362,170円/月
※2025年4月時点の額。地域単価により若干変動します。
身体障害者手帳・自立支援医療・障害者控除
身体障害者手帳の福祉サービス
脳卒中の後遺症で身体障害者手帳を取得すると、自治体の福祉サービスを受けられます。
- 医療費助成(重度心身障害者医療費助成制度など、自治体により)
- 所得税・住民税の障害者控除
- 自動車税の減免
- 公共交通機関の割引(JR・バス・タクシー)
- NHK受信料の減免
- ETC割引・有料道路料金の割引
自立支援医療(更生医療)
18歳以上で身体障害者手帳を持っている方が、障害の軽減や除去を目的とした医療を受ける場合に、医療費の自己負担を1割に軽減する制度です。
脳卒中の場合、関節拘縮を改善する手術・ボツリヌス療法・装具製作などで利用できる可能性があります。
所得税・住民税の障害者控除
身体障害者手帳を持つ方(またはその扶養者)は、確定申告で障害者控除を受けられます。
- 一般の障害者:所得税27万円・住民税26万円控除
- 特別障害者(手帳1~2級):所得税40万円・住民税30万円控除
- 同居特別障害者:所得税75万円・住民税53万円控除
2026年8月からの高額療養費 制度改正
厚生労働省は、2026年8月から高額療養費制度を改正する方針を示しています。
- 所得区分ごとの月額自己負担限度額の引き上げ
- 新たに「年間上限額」を新設(8月~翌年7月の12か月累計)
- 2027年8月からは所得区分のさらなる細分化と、年収200万円未満世帯の多数回該当の25%引き下げ
2025年8月の改正は患者団体・医療関係者からの反対で全面凍結となりましたが、2026年夏以降に段階的に施行される見込みです。
長期治療が必要な脳卒中の方には影響が大きい改正なので、最新情報は厚生労働省の公式サイトで確認しましょう。
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退院後にも続く費用|長期的な経済設計
脳卒中の費用は、入院・手術だけで終わりません。
退院後も以下のような費用が継続します。
- 再発予防のための定期通院・薬代
- 外来リハビリ・訪問リハビリ・通所リハビリ
- 装具のメンテナンス・買い替え(5~6年ごと)
- 福祉用具の維持費
- 住宅改修費(手すり・段差解消など)
- 家族の介護負担に伴う収入減少
退院後の生活全般については、退院後の脳卒中リハビリ完全ガイドもあわせてご覧ください。
再発予防にかかる薬剤費・通院費を抑える方法は、脳卒中の再発予防|食事・運動・薬で何ができるかでも詳しく解説しています。
大切なのは、入院中の早い段階から病院のソーシャルワーカー(医療相談員)に相談することです。
各種申請(高額療養費・限度額認定・障害者手帳・介護保険・障害年金)は、申請のタイミングが遅れると遡及が効かないものもあります。
入院後2週間以内には、ソーシャルワーカー面談を依頼しておくことを強くおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 脳梗塞の入院費用はいくらかかりますか?
急性期病院の入院(2~3週間)で、総医療費はおおむね150万円~300万円です。
3割負担で計算すると45万円~90万円ですが、高額療養費制度を利用すれば、年収500万円程度の方なら最終的な自己負担は1か月あたり10万円前後に収まります。
ただし、食事代・差額ベッド代は別途必要です。
Q2. 高額療養費は申請しないともらえませんか?
原則として、加入している健康保険組合・市区町村への申請が必要です。
協会けんぽ・健保組合は2~3か月後に「該当通知」を送ってくる場合がありますが、自分で申請したほうが確実です。
マイナンバーカードを保険証として使っていれば、自動的に限度額までの請求になります。
Q3. 入院が複数月にまたがる場合は?
高額療養費は暦月(月初~月末)単位で計算されます。
例えば、1月20日~2月10日の入院の場合、1月分と2月分でそれぞれ限度額が設定されます。
月をまたぐ入院は自己負担が増えやすいので、入院時期が選べる場合は月初から入院するほうが負担を抑えやすくなります(緊急入院では選べませんが)。
Q4. 民間の医療保険は入っておくべきですか?
高額療養費制度があるため、医療費そのものは大きく抑えられます。
一方で、食事代・差額ベッド代・収入減少・家族の介護負担には民間保険でしか備えられません。
必要かどうかはご家族の収入状況・貯蓄・ライフプランによりますので、ファイナンシャルプランナーへの相談も検討してみてください。
Q5. 確定申告で医療費控除を受けるべきですか?
年間医療費が10万円を超えていれば、確定申告で還付を受けられる可能性が高いです。
脳卒中で入院・通院した年は、ほぼ確実に10万円を超えます。
医療費の領収書・通院交通費の記録を1年分まとめて、翌年の確定申告期間(2月16日~3月15日)に申告しましょう。
まとめ
- 脳卒中の急性期入院費用は総医療費150万円~300万円、3割負担で45万円~90万円。
- 高額療養費制度を使えば、年収500万円程度の方は1か月あたり10万円前後の自己負担で済みます。
- 限度額適用認定証(またはマイナンバーカード)を使えば、最初から限度額までの支払いで済みます。
- 会社員は傷病手当金で、休業1日あたり標準報酬日額の3分の2を最長1年6か月受け取れます。
- 40歳以上で脳血管疾患による要介護状態なら、介護保険を申請できます。
- 身体障害者手帳・自立支援医療・障害者控除など、退院後も使える制度が多数あります。
- 2026年8月から高額療養費制度の改正(限度額引き上げ・年間上限新設)が予定されています。
- 入院後2週間以内に病院のソーシャルワーカーに相談することを強くおすすめします。
実際の自己負担額・申請手続きは、加入している健康保険組合または市町村窓口にご確認ください。
本記事は医学的助言・法的助言・税務助言を代替するものではありません。
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参考文献
- 厚生労働省. 高額療養費制度を利用される皆さまへ. 2026年5月時点. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html
- 全国健康保険協会. 高額療養費・限度額適用認定証. 2026年5月時点. https://www.kyoukaikenpo.or.jp/benefit/high_cost_medical_expenses/002/index.html
- 全国健康保険協会. 傷病手当金. 2026年5月時点. 協会けんぽ公式
- 国税庁. 医療費控除. 2026年5月時点. 国税庁公式
- 厚生労働省. 介護保険制度の概要. 2026年5月時点.
最終医療レビュー日:2026年5月15日

