脳卒中患者さんの上肢のリハビリのひとつにミラーセラピーがあります。

ミラーセラピーは鏡を使ったリハビリです。

まず患者さんが椅子に座ります。

患者さんの目の前にテーブルを置き、テーブルの上に鏡を患者さんに対して垂直に置きます。

このとき、鏡の面は非麻痺側に向けておきます。

患者さんは鏡を挟むようにして両上肢を前方に出し、テーブルに置きます。

そして患者さんは鏡を見ます。

そうすると、非麻痺側の上肢を動かした時に、麻痺側上肢が動いているように見えます。

この錯覚を利用して、あたかも麻痺側上肢が動いているように見せることを通してリハビリを行うのがミラーセラピーです。

ミラーセラピーは2018年のコクランレビューで、麻痺側の運動パフォーマンスや運動機能を向上させる、と報告されています。

なので大局的に見ると有効である事は間違い無いのですが、いくつか問題点(課題)があります。

そのひとつに体性感覚フィードバックの不一致、というものがあります。

ミラーセラピーを行なうと、視覚的には麻痺側の上肢が動いているように見えるのですが、実際は動いていないので体性感覚のフィードバックは得られない、というズレが生じます。

こういったズレがひとつの要因となり運動錯覚が起こらなくなり、期待した効果が得られない、というケースがあります。

今回は、この課題に対して筋電トリガー式電気刺激を使って解決できないか調べたSchick T (2017) のランダム化比較試験を紹介します。

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Schick T (2017) のランダム化比較試験

このランダム化比較試験では、回復期の脳卒中患者さん33人を2グループに分けています。

ひとつ目のグループはミラーセラピー+電気刺激を行うグループです。

この電気刺激なのですが、筋電トリガー式電気刺激、というものを使っています。

一般的な電気刺激は、電気刺激装置から電極を通して身体に電気が流れっぱなしになります。

ですが筋電トリガー式電気刺激、というのは、電極が筋活動の時に生じる筋活動電位をキャッチし、キャッチした時のみ電気刺激を流す、という仕組みです。

ですので、自分で手を動かそうとしたときだけ、電気刺激が起こり、筋肉を収縮させてくれます。

これによって、筋収縮をアシストしてくれるような形になり、小さい関節運動しか起こせない状態だとしても、大きい関節運動にしてくれます。

日本ではIVESがこの筋電トリガー式電気刺激を行うことができる機械です。

https://www.og-wellness.jp/contents/product/gd611-612/

この筋電トリガー式電気刺激を使うことによって、冒頭で説明した視覚フィードバックと体性感覚フィードバックのズレを最小限にすることが可能です。

なお、筋電を拾う電極は、非麻痺側に装着されていました。

ですので、非麻痺側の手指伸展させようとしたときに麻痺側の手指も伸展される、というイメージで両手運動が行われることになります。

先ほど33人の対象者を2グループに分けたと伝えましたが、もうひとつのグループは両側上肢訓練+電気刺激を行うグループ、でした。

こちらも電気刺激の装置は同じで、ミラーセラピーではなく両側上肢訓練が行われていました。

両側上肢訓練の内容は、両手で行う単関節運動です。

こちらも筋電トリガー式電気刺激がついているので、自分が動かそうとしたタイミングで電気刺激が起こり、関節を動かしてくれます。

なので、2つのグループの違いは鏡を使っているかどうか、だけです。

筋電トリガー式電気刺激+ミラーセラピーは超重度の患者さんに有効だった

結果として、運動パフォーマンス(Box and Block Test)や運動機能(FMAUE)の成績は両グループともに向上し、リハビリ終了時のグループ間の統計的な有意差はありませんでした。

これだけ見ると、ミラーセラピー+筋電トリガー式電気刺激は、両側上肢訓練と比べて有効だとは言えなかった、ということになります。

ただ、重症度に応じた分析が行われていまして、そちらが興味深い結果になっています。

論文の中では “very severe” と言われているのですが FMAUEスコアが17点未満の重度の運動障害を有する脳卒中患者さんに対しては、FMAUEのトータルスコア、またサブスケールの「肩/肘/前腕」の項目において、ミラーセラピー+筋電トリガー式電気刺激は、両側上肢訓練よりも良好な結果になっていました。

ですので、重度の運動障害を持つ患者さんに対しては、ミラーセラピー+筋電トリガー式電気刺激がさらに有効であると言えます。

適応を考えて実施しよう

結果をまとめます。

● ミラーセラピーには視覚と体性感覚フィードバックの不一致という問題がある
● ミラーセラピー+筋電トリガー式電気刺激によって不一致を最小限にできる
● ミラーセラピー+筋電トリガー式電気刺激は重度運動障害(FMAUE <17点)の患者さんにも有効

繰り返しになりますが、リハビリ前後で見ると両グループともに大きい変化を示しています。

どちらも脳卒中患者さんに有効なリハビリなのですが、重度運動障害の患者さんに対しては、ミラーセラピー+筋電トリガー式電気刺激の方が、さらに有効だということです。

IVESが病院や施設にある、という方は、IVES単体で使うのではなく、ミラーセラピーを組み合わせて実施してみてはいかがでしょうか!

本日は「上肢のミラーセラピーに筋電トリガー式電気刺激を加えるとどうなる?」というテーマでお話しさせていただきました。

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参考文献

Thieme H, Morkisch N, Mehrholz J, Pohl M, Behrens J, Borgetto B, Dohle C. Mirror therapy for improving motor function after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Jul 11;7:CD008449.

Schick T, Schlake HP, Kallusky J, Hohlfeld G, Steinmetz M, Tripp F, Krakow K, Pinter M, Dohle C. Synergy effects of combined multichannel EMG-triggered electrical stimulation and mirror therapy in subacute stroke patients with severe or very severe arm/hand paresis. Restor Neurol Neurosci. 2017;35(3):319-332.