脳卒中発症後、日常生活動作の自立度を向上させるとか、そもそも患者さんの主体的な生活を取り戻すためには移動能力が必要不可欠です。

移動するための方法は歩行、車椅子、移乗動作、など色々ありますが基本的には移動する場合は重心の移動が起こり、重心移動をコントロールするためのバランス能力が必要になってきます。

バランス能力向上のためのリハビリは主にPTさんが関わることが多いと思いますが、状況によってはOTさんも関わるのではないでしょうか。

バランスのリハビリをするにあたって、患者さんの希望や目標に向かって前進しているのかどうか、リハビリがうまくいっているのかどうかを効果判定をするために検査を定期的にする必要があります。

バランス障害の検査は色々ありますが、世界的に研究で使用されていることが多いものを紹介します。

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脳卒中後のバランス障害で押さえておきたい5つの評価

結論ですが、5つの評価は「Berg Balance Scale(以下、BBS)」、「Dynamic Gait Index(以下、DGI)」、「Timed Up and Go test(以下、TUG)」「Balance Evaluation Systems Test(以下、BESTest)」「Modified Clinical Test of Sensory Interaction in Balance(以下、修正CTSIB)」です。

Evidence Based Practice(以下、EBP)の中でバランスのリハビリを行うときに外せないのはBBS、TUG、DGIの3つです。

これらの検査は海外の脳卒中リハビリテーションのエビデンスで頻繁に出てきます。

これらを理解して臨床で検査できるようにしておくと、患者さんのバランスの全体像を捉えることができますし、患者さんの予後予測を行う上でも有用です。

一方、「なぜバランスが悪いのか?」といったバランスが低下している原因を探る上ではBESTest、修正CTSIBが有効です。

筆者としてはBESTestと修正CTSIBは “必須” ではないと考えますが、患者さん一人ひとりの問題点に合わせてリハビリをカスタマイズする時に役立ちます。

これらの5つの検査について紹介させていただきます。

5つの評価を簡単に紹介

Berg Balance Scale

BBSは静的バランスを評価する、14項目からなる検査です。

14項目についてそれぞれ0〜4点を付け、最低得点が0点、最高得点が56点になる検査です。

簡単な項目ですと「座位保持」、難しい項目ですと「片足立ち」や「タンデム立位」などがあります。

元々高齢者のバランス能力を評価するために作られたもので、最初は38項目あったそうですが、現在は14項目に絞り込まれ、あらゆる疾患の患者さんに使用されています。

検査の良し悪しを判断する基準に信頼性や妥当性、反応性といったものがあります。

BBSは信頼性や妥当性が優れているとされていますが反応性が中等度、と評されることが多かったり、天井効果や床効果の問題があることが報告されています。

ただし、ランダム化比較試験などの介入研究ではBBSが使われていることが多く、EBPの中で非常に使いやすい検査でもあります。

Dynamic Gait Index

DGIは動的なバランスを評価する、8項目からなる検査です。

8項目についてそれぞれ0〜3点を付け、最低得点が0点、最高得点が24点になる検査です。

まっすぐ歩いている途中に左右を見てもらったり、上下を見てもらったり、コーンを回ってもらったりして、歩きの中のバランスを見る検査です。

脳卒中患者さんへの検査の適用については信頼性、妥当性が優れているとされており、反応性もまずまず優れているとされています。

これもBBSやTUGと同様、歩行路とストップウォッチ、コーン、階段があればできる検査です。

なお、BBSと異なり床効果や天井効果の問題も少ないとされています。

Timed Up and Go test

こちらもBBS同様、言わずとしれた検査ではありますが、簡単に紹介させていただきます。

患者さんが椅子に座った状態から始まり、椅子から立ち上がり、3メートル歩き、方向転換してまた3メートル歩き、椅子に着座します。

この一連の動作のタイムを測るものです。

椅子とストップウォッチ、歩行路があればできる簡単な検査です。

BBSやDGIと同様、優れた信頼性や妥当性が報告されています。

また、歩行能力(歩行速度や連続歩行距離)との相関関係も報告されています。

過去の配信でお伝えした通りですが、歩行速度や歩行能力は日常生活の自立度などと相関があることが報告されています。

Balance Evaluation Systems Test

6つの分類、全27項目の課題を通してバランスを評価します。

108点満点になるのですが、最後にこれをパーセンテージ(%)に直します。

例えば108点中108点取得できれば100%ですが、54点しか取得できなければ50%、となります。

BESTestの特徴は、姿勢制御の要素をそれぞれ分けて評価できる、という点です。

BBSやDGI、TUGはバランスを含めた運動のパフォーマンスを評価するものですが、BESTestは「支持基底面の状態」「予測的姿勢制御」「筋力」などを評価します。

BESTestの各項目の点数から、姿勢制御の中で何が問題になっているのかを推定することができます。

つまり病態解釈を行う上で有用な評価です。

一方、世界の研究ではBBSやTUGと比べると使用される頻度が少なく、EBPの中ではやや使いにくい評価になります。

Modified Clinical Test of Sensory Interaction in Balance

4つの条件での立位安定性を評価するものです。

条件1は開眼・硬い床面に立つ、条件2は閉眼・硬い床面に立つ、条件3は開眼・柔らかい床面に立つ、条件4は閉眼・柔らかい床面に立つ、となっています。

姿勢制御における感覚フィードバックは、視覚・前庭感覚・体性感覚の3つから構成されることが知られています。

修正CTSIBは、開眼・閉眼により視覚の影響を、硬い床面・柔らかい床面により体性感覚の影響を調整し、どの感覚が使えなくなった時にj

4つの検査のカットオフ値

BBS、DGI、TUG、BESTestについてはカットオフ値があるので紹介します。

評価対象者
BBS52点(56点満点)慢性期脳卒中患者
DGI16.5点(24点満点)健常高齢者
TUG10.15秒健常高齢者
BESTest69.44%(最高100%)慢性期脳卒中患者

いずれも転倒を予測するためのカットオフ値です。

カットオフ値を下回るとき、転倒する可能性が高いと言えます。

検査を駆使して質の高いEBPを

本記事では、BBS、DGI、TUG、BESTest、修正CTSIBを紹介しました。

繰り返しになりますが、これらの特徴を理解し、組み合わせながら質の高いEBPを進めることが大事です。

まず、バランス障害の重症度を把握するためにはBBS、DGI、TUGを使用することが望ましいです。

そしてこれらの検査はEBPを進める上でとても役立ちます。

ただ、なぜ「なぜバランスが低下しているのか」という原因の推定を行うことは難しいです。

原因を把握するためにはBESTest、修正CTSIBを使用することが望ましいです。

これらの検査をとることで、患者さんに合わせたリハビリを提供できるようになります。

しかし、BESTest、修正CTSIBは世界的にあまり使われておらず(BBSやTUGと比べて)、これらだけではEBPを進める上で難しくなります。

両者はお互いにデメリットを補い合う関係になっています。

これらの検査を組み合わせながら、バランス障害の重症度も原因も把握し、原因にあったリハビリを提供できるようになりましょう!

参考文献

Alzayer L, Beninato M, Portney LG. The accuracy of individual Berg Balance Scale items compared with the total Berg score for classifying people with chronic stroke according to fall history. J Neurol Phys Ther. 2009 Sep;33(3):136-43.

Kang L, Han P, Wang J, Ma Y, Jia L, Fu L, Yu H, Chen X, Niu K, Guo Q. Timed Up and Go Test can predict recurrent falls: a longitudinal study of the community-dwelling elderly in China. Clin Interv Aging. 2017 Nov 28;12:2009-2016.

An SH, Jee YJ, Shin HH, Lee GC. Validity of the Original and Short Versions of the Dynamic Gait Index in Predicting Falls in Stroke Survivors. Rehabil Nurs. 2017 Nov/Dec;42(6):325-332.

Sahin IE, Guclu-Gunduz A, Yazici G, Ozkul C, Volkan-Yazici M, Nazliel B, Tekindal MA. The sensitivity and specificity of the balance evaluation systems test-BESTest in determining risk of fall in stroke patients. NeuroRehabilitation. 2019;44(1):67-77.