脳卒中治療における再生医療は、高いレベルの回復を目的とした新しい治療法として注目されています。
「脳卒中 再生医療」と調べると、たくさんのホームページで再生医療の情報が得られると思います。
しかし、それらの情報は『再生医療とは何か?』であることが多く、『再生医療によってどれくらい回復を期待できるのか』という情報は少ないですよね。
本記事では、脳卒中の再生医療の効果について、エビデンスをもとにお伝えします。
情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、基本的に信頼性の高いシステマティックレビュー研究、ランダム化比較試験から得られたデータを引用しています。
リハビリの無料体験を実施中!
といった方から選ばれています!
脳卒中の再生医療は効果ある?
最初に本記事の結論です。
- 脳卒中の重症度(運動機能など)を改善させるため、手足を動かしやすくしたい患者さんには有効な手段となり得る
- 日常生活の自立度(modified Rankin Scale、Barthel Indexスコア)が向上するかどうかははっきりわかっていない
- 再生医療の知見は日進月歩であるため、最新のエビデンスをキャッチアップしているクリニックへ相談することが大事
簡単に言うと、『手や足は動きやすくなるかもしれないが、日常生活の自立度が大きく改善することは期待できない』ということです。
本記事では幹細胞治療を使った再生医療の効果について述べます。
再生医療にはたくさんの種類がある
再生医療にはいくつもの種類があります。
- 幹細胞治療
- 細胞外小胞(エクソソーム)治療
- 神経成長因子の投与
- 遺伝子治療
国内の病院・クリニックで行われている再生医療のほとんどが『幹細胞治療』か『細胞外小胞(エクソソーム)治療』のいずれかです。
幹細胞治療は骨髄や脂肪細胞をもとに幹細胞を培養し、身体に投与する方法で、高額です。一方、細胞外小胞(エクソソーム)治療は点鼻薬などを使って行われる方法で、安価です。
その中で、間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)を使った幹細胞治療は、脳卒中の再生医療において注目されている選択肢の一つです。
本記事では、間葉系幹細胞を使った幹細胞治療の効果を中心に説明します。
間葉系幹細胞とは?
間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:以下、MSC)は、さまざまな組織に存在する多能性幹細胞です。
MSCは、骨、軟骨、筋肉、脂肪、腱、靭帯などの間葉系組織に分化する能力を持っています。
また、炎症を抑える働きや、組織の修復を促進する再生能力も注目されています。
間葉系幹細胞を使った幹細胞治療の効果
結論:2024年時点では『脳卒中の重症度を改善させる上で有効』
2024年に『Efficacy and safety of mesenchymal stem cell therapies for ischemic stroke: a systematic review and meta-analysis』という論文が公開されました。
この論文は “システマティックレビュー研究” の結果をまとめたものです。
簡単に説明すると、2005年から2023年までの間に発表された間葉系幹細胞を使った幹細胞治療の効果を調べた研究を世界中から集め、データを分析し、間葉系幹細胞を使った幹細胞治療が本当に有効なのかどうかを調べました。
結果として、
- 脳卒中の重症度(NIHSSスコア)を改善させる
- 日常生活の自立度(modified Rankin Scaleスコア)を向上させる
- 日常生活の自立度(Barthel Indexスコア)を向上させるとは言えない
…ということを報告しました。
脳卒中の重症度が改善する、ということは手や足の運動機能が改善することを意味しています。
一方で、日常生活の自立度が向上するかどうかについては結果が分かれています。
ざっくりまとめると、『間葉系幹細胞を使った幹細胞治療によって手足の運動機能などの改善は期待できるものの、日常生活の自立度を向上させるかどうかはわからない』ということです。
手や足の動きをよくしたい患者さんにとっては、間葉系幹細胞を使った幹細胞治療が有効な手段となる可能性があります。
ただし劇的な回復を期待できるわけではない
再生医療に対しては高いレベルの回復を期待されている方も多いと思います。
ですが、研究論文で報告されている効果の大きさは、それほど劇的なものではありません。
2022年の研究では、亜急性期の脳卒中患者さんを対象に、間葉系幹細胞の静脈内投与の効果を検証しました。
この研究では54人を①間葉系幹細胞の静脈内投与+リハビリを行うグループと②リハビリのみを行うグループとに分けました。
3ヶ月のリハビリを行った後、2つのグループについて運動機能がどのように変化したか調べました。
結果として、どちらのグループも、実施前後で上肢(腕や手)、下肢(脚・足)の運動機能がそれぞれ改善したことが報告されました。
ただし、この研究では①間葉系幹細胞の静脈内投与+リハビリを行うグループは、②リハビリのみを行うグループよりも特別に大きい改善を示さなかったことを報告しています。
つまり、間葉系幹細胞の静脈内投与をしてもしなくても、3ヶ月後の改善の度合いは同じくらいだったということです。
また、改善の度合いについてはFMAUE(Fugl-Meyer Assessment Upper Extremity)という検査を使い、3ヶ月で平均7点ほど改善していたことが報告されています。
エビデンスに基づいてリハビリを行う場合、1ヶ月〜1ヶ月半で平均5点ほど改善するという報告が多いです。
そのため、3ヶ月で平均7点という改善度合いは、常識的な範囲の改善であると言えます。
エビデンスに基づく上肢リハビリについてはこちらの記事をご覧ください。
2020年の研究では、亜急性期の脳卒中患者さんを対象に、間葉系幹細胞の静脈内投与+リハビリを3〜6ヶ月行いました。
間葉系幹細胞の静脈内投与をしたグループは、間葉系幹細胞の静脈内投与をしなかったグループと比べて、運動機能(NIHSS運動項目、FMA運動項目)が6ヶ月後や2年後に改善していたことが報告されました。
ただし、NIHSSやFMAという評価はかなり広い範囲の評価であり、
- 「上肢がよくなったのか?下肢がよくなったのか?」
- 「肩の動きがよくなったのか?指先の動きがよくなったのか?」
…など、具体的に何の運動機能が改善したのかはまでは断定できません。
つまり、『間葉系幹細胞の静脈内投与によって運動機能はよりよくなるものの、何がよくなったのかがわからない』ということです。
2021年の研究では、回復期の脳卒中患者さんを対象に、間葉系幹細胞の静脈内投与の効果を検証しました。
この研究では、脳卒中患者さんを間葉系幹細胞の静脈内投与をしたグループとしなかったグループの2つに分け、3ヶ月後のデータをとりました。
結果として、下肢(脚・足)の筋力は間葉系幹細胞の静脈内投与をしたグループの方が高くなっていました。
つまり、間葉系幹細胞の静脈内投与によって、下肢筋力の向上を期待することができるということです。
ただし、この研究においても改善の度合いは常識的な範囲に留まっており、劇的に改善したとは言い難いです。
有効性が実証されている脳卒中後の歩行練習についてはこちらの記事をご覧ください。
このように、間葉系幹細胞を使った幹細胞治療は、脳卒中の後遺症を劇的に改善させる魔法ではなく、あくまでも+αの効果をもたらしてくれるものであると理解しておくのが大事です。
幹細胞治療全体の効果
上で紹介したのは間葉系幹細胞を使った幹細胞治療のエビデンスです。
幹細胞治療には、間葉系幹細胞の他、末梢血幹細胞、多能性成体前駆細胞など、他の細胞が使われることもあります。
これら幹細胞治療全体の効果を報告した研究を2つ紹介します。
2019年の研究では、幹細胞治療の効果を検証した研究を世界中から集め、幹細胞治療が有効な治療なのかどうか、データを分析しました。
結果として、
- 脳卒中の重症度(NIHSSスコア)は改善する
- 日常生活の自立度(modified Rankin Scale、Barthel Indexスコア)は向上するとは言えない
…と報告されています。
つまり、幹細胞治療は脳卒中の重症度を改善させることが期待されます(例えば、手足の動きや言葉の出やすさが良くなるかもしれません)。
ただし、日常生活の自立度や介助の必要性については、幹細胞治療では大きな改善が見込まれない可能性があります。そのため、症状が軽くなっても、完全に自立できるかどうかは別の問題となることがあります。
一方で、2024年の研究では、
- 脳卒中の重症度(NIHSSスコア)は改善する
- 日常生活の自立度(Barthel Indexスコア)は向上する
- 日常生活の自立度(modified Rankin Scaleスコア)は向上するとは言えない
…という結果になっています。
modified Rankin Scaleは粗目の評価であるのに対し、Barthel Indexは細目の評価です。
『modified Rankin Scaleスコアで見たときには向上すると言えないのに対し、Barthel Indexスコアで見たときには向上すると言える』というのは、日常生活の自立度が細かいレベルで改善するということを意味します。
5年を経て、徐々に幹細胞治療の効果が明らかになってきています。
信頼できるクリニックを探すことが大事!
幹細胞治療を含む再生医療のエビデンスはまだまだ未完成であると同時に、日進月歩の分野でもあります。
上述のように、再生医療のエビデンスは日進月歩であり、数年前のエビデンスが参考にならないケースもあります。
常に最新のエビデンスを収集し、ベストな方法を考えているクリニックを見つけることが再生医療を成功させるための大事なポイントです。
BRAINは情報収集を行い、首都圏近郊で信頼できるクリニックさんを紹介しています。再生医療(幹細胞治療、細胞外小胞治療)にご興味がある方はよかったらお問い合わせください。
リハビリの無料体験を実施中!
といった方から選ばれています!
参考文献
- Shen Z, Tang X, Zhang Y, Jia Y, Guo X, Guo X, Bao J, Xie X, Xing Y, Xing J, Tian S. Efficacy and safety of mesenchymal stem cell therapies for ischemic stroke: a systematic review and meta-analysis. Stem Cells Transl Med. 2024 Sep 10;13(9):886-897.
- Lee J, Chang WH, Chung JW, Kim SJ, Kim SK, Lee JS, Sohn SI, Kim YH, Bang OY; STARTING-2 Collaborators. Efficacy of Intravenous Mesenchymal Stem Cells for Motor Recovery After Ischemic Stroke: A Neuroimaging Study. Stroke. 2022 Jan;53(1):20-28.
- Jaillard A, Hommel M, Moisan A, Zeffiro TA, Favre-Wiki IM, Barbieux-Guillot M, Vadot W, Marcel S, Lamalle L, Grand S, Detante O; (for the ISIS-HERMES Study Group). Autologous Mesenchymal Stem Cells Improve Motor Recovery in Subacute Ischemic Stroke: a Randomized Clinical Trial. Transl Stroke Res. 2020 Oct;11(5):910-923.
- Chung JW, Chang WH, Bang OY, Moon GJ, Kim SJ, Kim SK, Lee JS, Sohn SI, Kim YH; STARTING-2 Collaborators. Efficacy and Safety of Intravenous Mesenchymal Stem Cells for Ischemic Stroke. Neurology. 2021 Feb 16;96(7):e1012-e1023.
- Levy ML, Crawford JR, Dib N, Verkh L, Tankovich N, Cramer SC. Phase I/II Study of Safety and Preliminary Efficacy of Intravenous Allogeneic Mesenchymal Stem Cells in Chronic Stroke. Stroke. 2019 Oct;50(10):2835-2841.
- Boncoraglio GB, Bersano A, Candelise L, Reynolds BA, Parati EA. Stem cell transplantation for ischemic stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2010 Sep 8;(9):CD007231. doi: 10.1002/14651858.CD007231.pub2. Update in: Cochrane Database Syst Rev. 2019 May 05;5:CD007231.
- Hovhannisyan L, Khachatryan S, Khamperyan A, Matinyan S. A review and metaanalysis of stem cell therapies in stroke patients: effectiveness and safety evaluation. Neurol Sci. 2024 Jan;45(1):65-74.