
脳梗塞や脳出血(以下、脳卒中と言います)を発症された方は、『再発してしまうのではないか』と不安になられたことがあるのではないでしょうか?
再発の確率と予防方法について知っていれば、不安を和らげることができると思います。
本記事では、脳梗塞再発のリスクと再発予防の方法について紹介します。
情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、基本的に信頼性の高いシステマティックレビュー研究から得られたデータを引用しています。
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脳梗塞再発のリスクと7つの再発予防の方法
最初に本記事の結論です。
- 脳卒中再発リスクは年々高くなっていく
- 高血圧、糖尿病、心房細動などがある人は再発しやすい
- 服薬や生活習慣の改善を通して再発予防に努めましょう
以下、詳しくお伝えします。
脳梗塞の再発リスク

Lin Bら(2021)は、2009年から2019年の10年間のデータをもとに、脳卒中の再発確率について調査しました。
初回脳卒中発症後の再発リスク
3カ月で7.7%,6カ月で9.5%,1年で10.4%,2年で16.1%,3年で16.7%,5年で14.8%,10年で12.9%,そして12年で39.7%と報告されました。
50歳以上の脳卒中患者さんの再発リスク
脳卒中を発症される方は多くの方が50歳以上です。
50歳以上の場合、再発率はやや高くなります。
3ヶ月で7.7%、6ヶ月で9.5%、1年で11.2%、2年で16.1%、3年で19.3%、5年で18.1%と報告されています。
日本人の研究では10年再発率51.3%
上記のデータは、世界中の患者さんを対象にしたデータです。
日本人のみのデータですと、Hata Jら(2005)が脳卒中全体の再発率について、1年で12.8%、5年で35.5%、10年で51.3%だったことを報告しています。
なお、脳梗塞の10年再発率は49.7%、脳出血は55.6%、くも膜下出血は70.0%だったことも報告されています。
日本人のデータだけでみればおよそ2人に1人が、世界のデータでみれば2.5人に1人が、10年以内に再発していることになります。
発症からの経過が長くなるにつれ、累積再発率は上がっていきます。
これらの確率が高いと感じるか低いと感じるかは人によると思いますが、一般的には、再発予防のためにできることはしておいた方がよいでしょう。
再発しやすい人
では、どういう人が再発しやすいのでしょうか?
Zheng Sら(2019)は脳卒中再発の危険因子として
- 高血圧
- 糖尿病
- 心房細動
- 冠動脈疾患
を報告しています。
また、Kolmos Mら(2021)は脳卒中再発の危険因子として
- 高血圧
- 糖尿病
- 心房細動
- 一過性脳虚血発作の既往
- 脳卒中重症度の高さ
を報告しています。
先述のZheng Sら(2019)の報告と重なる部分もあり、これらの疾患・症状をお持ちの方は注意する必要があります。
血圧は130/90mmHg以下に抑えましょう
脳卒中を発症されたことがある方は、医師や看護師、療法士から『血圧には気をつけてください』と言われたことがあると思います。
Katsanos AHら(2017)は、血圧を下げることが脳卒中の再発予防に有効であることを報告しています。
では、どれくらいまで血圧を下げればよいのでしょうか?
Thomopoulos Cら(2014)は脳卒中発症予防の血圧として、収縮期130mmHg、拡張期80mmHg未満にすることが安全であると報告しています。
また、日本脳卒中学会が出版している脳卒中治療ガイドライン2021では、75歳未満の方は収縮期130mmHg、拡張期80mmHg未満に、75歳以上の方は収縮期140mmHg、拡張期90mmHg未満にすることを推奨しています。
これらのことから、血圧は130/90mmHg以下に抑えておくことが必要と言えます。
脳梗塞の再発を予防する方法
基本的には、上記の再発危険因子をコントロールしていく必要があります。
そのための有効な方法として
- 薬物療法(服薬する)
- 生活習慣の改善
が挙げられます。
薬物療法
薬を飲むことは一般的な予防方法です。
注意事項
以下、薬物療法について簡単に言及していますが、発症からの期間などの条件によっては有効ではないケースもあります。主治医の先生と相談の上、服用についてご検討くださいますようお願い申し上げます。
血圧を下げる降圧薬
血圧を下げる薬を降圧薬といいます。
高圧薬について詳しくはこちらをご覧ください。
Boncoraglio Gら(2021)は脳梗塞または一過性脳虚血発作を発症された患者さんに対し、降圧薬が脳卒中の再発予防に有効かどうか調査しました。
結果として、降圧薬の使用は、脳卒中再発のリスクを1.9%ではありますが低下させるという報告をしています。
また、降圧薬には
- ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)
- ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)
- カルシウム拮抗薬
- 利尿薬
- α(アルファ)遮断薬
- β(ベータ)遮断薬
などの種類があります。
Xie Wら(2018)は脳卒中を含めた心血管に関連する疾患を持つ人に対する各降圧薬の効果を調査しました。
結果として、ACE阻害薬が脳卒中の再発予防に有効だったことを報告しています。
動脈硬化を予防するスタチン系薬
Tramacere Iら(2019)は脳梗塞を発症した患者さんに対し、動脈硬化を予防するスタチン系薬の効果を調査しました。
結果として、脳梗塞の再発に対してスタチン系薬の服用が有効だったことを報告しています。
なお、スタチン系薬としては下記のような商品があります。
- メバロチン
- リポバス
- クレストール
- リバロ
- リピトール
血液をサラサラにするシロスタゾール
McHutchison Cら(2020)は脳卒中を発症した患者さんに対し、抗血小板薬のシロスタゾールの効果を調査しました。
結果として、脳梗塞および脳出血の再発、死亡率を減少させる上で有効であると報告しました。
ただし、頭痛や動悸の副作用も報告しているため注意が必要です。
また、Lin MPら(2021)はシロスタゾールとアスピリンの効果を比較しました。
アスピリンはシロスタゾールと同じく血液をサラサラにする薬ですが、アスピリンの方が歴史が古く、昔から使われてきました。
結果として、アスピリンよりもシロスタゾールの方が脳梗塞および脳出血の再発リスク低減に有効であることを報告しています。
Shi Lら(2014)は急性期か慢性期かでシロスタゾールの効果が異なるかどうか検討しました。
結果として、慢性期の脳卒中患者さんに対する脳梗塞の再発予防としては有効だったものの、急性期では有効とは言えなかったことを報告しています。
その他、シロスタゾールの有効性を報告する研究は多数存在します(Tan CH, 2021; Del Giovane C, 2021)
シロスタゾールの詳しい情報についてはこちらをご参照ください。
高脂血症へのフィブラート系薬
高脂血症の患者さんに対して処方されるフィブラート系の薬です。
フィブラート系薬についてはこちらをご覧ください。
Wang Dら(2015)はフィブラート系薬が脳卒中の再発予防に有効かどうか調査しました。
結果として、フィブラート系薬は脳卒中の再発予防に有効である可能性が示唆されたものの、さらなる検証が必要であると結論付けられています。
服薬を忘れないようにする
薬を飲めば再発予防につながりますが、飲み忘れてしまうと効果は得られません。
Al AlShaikh Sら(2016)は、脳卒中患者さんの非服薬率(薬を飲まない確率)は30.9%に及ぶと報告しています。
そのために『どうすれば継続して飲み続けてもらえるか?』という研究が進んでいます。
Al AlShaikh Sら(2016)は上述とは別の研究を通して、脳卒中患者さんに対する服薬遵守を促す介入の有効性について調査しました。
服薬遵守を促す介入とは、医療者による教育や動機付け、リマインダーなどを指します。
患者さんへ『なぜ薬を服薬しないといけないか』という理解を促したり、服薬する時間にアラームが鳴るなどして服薬を忘れないようにする工夫です。
結果として、これらの服薬遵守のための介入は、継続的な服薬遵守を促す上で有効である可能性が示唆されました。
服薬を忘れないように、『なぜ薬を飲むべきか』理解したり、携帯電話などのリマインダーを使うことは有効かもしれません。
生活習慣の改善
生活習慣の改善とは?
再発予防のために
- 禁煙
- 水分補給
- 禁酒(節酒)
- 塩分・脂質を控える
- 入浴はぬるま湯にする
- ウォーキングなどの身体活動
…を勧められた経験はないでしょうか?
このように生活習慣を改善することは、一般的に再発予防に対して有効とされています。
地中海料理を食べる
生活習慣を改善させる上で食事は大事な要素のひとつです。
脳卒中再発のための食事として、地中海料理が注目されており、脳卒中の再発予防に有効である可能性が示唆されています(Rees K, 2020)。
地中海料理についてはこちらをご参考いただきたいですが、ざっくり説明すると『野菜や果物をたくさん食べる料理』です。
特別な食材は必要なく、日本のスーパーマーケットに売られている食材で作ることができます。
医療者や家族による “生活習慣を改善させるためのかかわり” は有効か?
ご自身で生活習慣を改善させることは難しく、誰かに管理してほしいと思う方もいるかもしれません。
ただ、医療者や家族による “生活習慣を改善させるための介入” の効果は限定的です。
服薬遵守や血圧低下には有効性が報告されているものの、禁煙や禁酒(節酒)、食事・栄養、ウォーキングなどの身体活動の改善に対しては否定的な報告がなされています(Heron N, 2017; Lennon O, 2014; Liljehult J, 2020; Hendrickx W, 2020; Deijle IA, 2017)。
血圧を低下させることは脳卒中の再発に有効であることが報告されていること(Katsanos AH, 2017)、また上述のように薬を飲むことは再発予防に有効であることは事実です。
このことから、医療者や家族による “生活習慣を改善させるためのかかわり” だけに頼るのではなく、ご自身で主体的に再発予防に取り組むことが大事であると言えます。
まとめ
本記事の結論です。
- 脳卒中再発リスクは年々高くなっていく
- 高血圧、糖尿病、心房細動などがある人は再発しやすい
- 服薬や生活習慣の改善を通して再発予防に努めましょう
本記事が脳梗塞や脳出血でお困りの方々にとって少しでもお役に立てましたら幸いです。
参考文献
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