脳卒中リハビリのひとつに、運動イメージ療法があります。

一般的なリハビリのイメージは『身体を動かす』だと思いますが、運動イメージ療法は身体を動かさないリハビリ方法です。

リハビリっぽくないリハビリですが、世界的に有効性が報告されています。

本記事では、脳卒中当事者さんに向けて、運動イメージ療法について解説します。

情報の信頼性について
・本記事はBRAIN運営責任者/理学療法士の針谷が執筆しています(筆者情報は記事最下部)。
・リハビリの効果や注意点に関しては、信頼性の高いシステマティックレビュー研究、ランダム化比較試験から得られたデータを引用しています。

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脳卒中リハビリにおける運動イメージ療法とは?

最初に本記事のまとめです。

  • 運動イメージ療法とは、頭の中で身体を動かすイメージを繰り返し行うリハビリ
  • 腕や手の運動パフォーマンス、運動機能の向上、脚・足の運動機能の向上などに対し有効とされている
  • ただし、運動イメージ療法は他のリハビリと組み合わせる必要がある

運動イメージ療法というのは、頭の中で身体を動かすイメージを繰り返し行うリハビリです。

身体を動かさないリハビリですが、麻痺した身体の運動障害に対して有効であることが世界的に知られています。

以下、詳細に解説します。

運動イメージ療法の実際のやり方

『頭の中で身体を動かすイメージを繰り返し行うリハビリ』と言われてもわかりにくいと思いますので、最初に、運動イメージ療法のやり方についてお伝えします。

【Pageら(2016)の運動イメージ療法の例】
①課題指向型訓練(30分)
個々の患者の状態に合わせて難易度調整し、課題を行う
②運動イメージ療法
1) リラックス
2) リラックスできる場所にいることを想像する
3) 筋を収縮させて弛緩する
4) 課題指向型訓練で実施した課題を行う運動イメージを実施
5) 今いる部屋に焦点を合わせて終了
※20分1セットとし、1日3回に分けて合計60分実施

合計90分、週3回、10週間

Page SJ, Hade EM, Pang J. Retention of the spacing effect with mental practice in hemiparetic stroke. Exp Brain Res. 2016 Oct;234(10):2841-7.

課題指向型訓練について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

『頭の中で運動をイメージしてください』と言われてもどういう動きをイメージすればいいのかわからないと思います。

実際に運動イメージ療法を行うときは、Pageら(2016)の方法のように、『さっき練習した運動』をイメージするなどの工夫をし、イメージすべき運動を明確にします。

なお、運動イメージ療法は、原則的に他のリハビリ(課題指向型訓練やCI療法など)と組み合わせて使われます。

これは腕・手のリハビリを行うときも、脚・歩行のリハビリを行うときも同様です。

理由は、他のリハビリと組み合わせないと有効と言えないというデータがあるからです(Barclay RE, 2020; Silva S, 2020)。

当然と言えば当然ですが、頭の中で動きをイメージしているだけでは実際に手足を動かせるようにはなりません。

実際に動く練習も必要になります。

こちらの記事では、CI療法と運動イメージ療法を組み合わせた研究を紹介しています。

運動イメージ療法の効果

腕・手への効果

まず、日本脳卒中学会が作成している脳卒中治療ガイドライン2021にて、運動イメージ療法は、上肢機能障害に対するリハビリとして推奨されています。

下記の通り、世界的にも有効性が報告されており、効果の観点からは腕・手のリハビリとしては標準的なリハビリの選択肢と言えるでしょう。

運動パフォーマンスへの効果

リーチ動作(手を前に伸ばす動作)、グラスプ動作(ものを掴む動作)、ピンチ動作(ものをつまむ動作)、などの複数の関節を使う運動を運動パフォーマンスと言います。

運動イメージ療法は、運動パフォーマンスの向上に対して有効であることが報告されています(Barclay RE, 2020)。

注意点として、病期(発症からの時間)によって効果が異なるとされています。

Barclay RE(2020)の研究によると、発症から6ヶ月以降の患者さんに対しては有効であるものの、発症から6ヶ月未満の患者さんに対しては運動パフォーマンスを向上させるとは言えない、という結果になっています。

したがって、この研究からは発症から6ヶ月経過した患者さんであれば、運動パフォーマンスの向上を目的に運動イメージ療法を行うことは有効な選択肢であると言えます。

とは言え、発症から6ヶ月未満、というのは急性期と回復期にさらに分かれます。

Stockley RC(2021)の研究によると、発症3ヶ月〜6ヶ月の患者さんに対しては有効とは言えないものの、発症3ヶ月未満の患者さんに対しては有効という報告をしています。

さらに、この研究では運動障害の重症度別に運動イメージ療法の効果を検証しています。

結果としては運動障害が重度(Action Research Arm Test:以下、ARATという検査で20点未満)および中等度(ARATで21〜40点)の患者さんに対しては有効であるのに対し、軽度(ARATで41〜57点)の患者さんに対しては有効とは言えない、という結果になっています。

ここまでをまとめると、次の通りです。

  • 発症3ヶ月未満の患者さんと6ヶ月以降の患者さんに対しては運動イメージ療法は運動パフォーマンス向上に対して有効である
  • 運動障害が重度および中等度の患者さんに対しては運動イメージ療法は運動パフォーマンス向上に対して有効である

腕・手の運動機能への効果

指を開く・握る、指を1本ずつ動かすなどの細かい動作、単純な動作を行う機能のことを運動機能と言います。

運動イメージ療法は、運動機能の向上に対しても有効であることが報告されています(Barclay RE, 2020)。

なお、運動機能への効果としては、病期(発症からの経過)にかかわらず有効であることが報告されています。

したがって、運動機能の向上を目指す場合は急性期・回復期病院でも退院後の在宅リハビリでもリハビリの選択肢になると言えます。

脚・歩行への効果

脚・足の運動機能への効果

足首を動かす、足首と膝を別々に動かす、といった単純な動作を行う機能のことを運動機能と言います。

Silva S(2020)の研究によると、運動イメージ療法は、慢性期の脳卒中患者さんに対しては脚・足の運動機能に対して有効とされていますが、回復期の患者さんに対しては有効と言えない、という結果になっています。

脚・足のリハビリとして運動イメージ療法を活用する場合は、患者さんの病期に応じて選択肢に入れるかどうかを判断した方がいいと言えます。

まとめると、運動イメージ療法の効果は下記の通りとなります。

  • 発症から3ヶ月未満もしくは6ヶ月以降、運動障害が重度および中等度の患者さんには腕や手の運動パフォーマンスに対して有効
  • 腕や手の運動機能に対して有効
  • 慢性期脳卒中患者さんの脚・足の運動機能向上に対して有効

病期によって若干効果が異なるというのがポイントです。

運動イメージ療法の注意点

以下、運動イメージ療法の注意点についてお伝えします。

他のリハビリに加えて実施する必要がある

運動イメージ療法は、他のリハビリと組み合わせないと有効と言えないというデータがあります(Barclay RE, 2020; Silva S, 2020)。

これは腕・手のリハビリとして使う場合も、脚・歩行のリハビリとして使う場合も同様です。

なお、腕・手のリハビリとして使う場合は、CI療法や電気刺激と組み合わせて実施することの有効性が報告されています(Park SW, 2018)。

自分の視点からの運動イメージを使う必要がある

運動イメージをするとき、『自分で身体を動かしているところをイメージする』やり方と、『誰か別の人が運動しているところをイメージする』やり方があります。

特に脚の運動機能の向上を目指す場合、運動イメージ療法は、『自分で身体を動かしているところをイメージする』やり方であれば有効であるとされています(Silva S, 2020)。

運動イメージのやり方を間違えてしまうと効果的に使うことができませんので、注意が必要です。

運動イメージ療法のメリットとデメリット

メリットとデメリットは患者さんの状況や価値観などによって異なりますが、一般的なメリットとデメリットを紹介します。

メリット

  • 運動障害が重度の患者さんでも実施できる
  • 脚・足の運動機能の向上を期待できる
  • ホームエクササイズとして実施可能

運動イメージ療法は、頭の中でイメージを行うリハビリなので、身体を動かす必要がありません。

したがって、運動障害があって身体をご自身で動かすことが難しい患者さんでも行うことが可能です。

また、特別な機器を使わないので、集中できる環境を用意できるのであればホームエクササイズとしても実施可能です。

デメリット

  • やり方を間違えたら効果が出ない可能性が高い
  • 脚・足のリハビリとしての効果が不安定

実際に身体を動かす課題指向型訓練やCI療法、歩行練習などでは、患者さんの動きに対してセラピストが『それで合ってます』あるいは『そのやり方ではありません』といった声かけをできるので、正しい運動を行うことができます。

一方、運動イメージ療法は正しいやり方ができているのかどうかが患者さんしかわからないため、セラピストの修正が難しいです。

もしやり方を間違えてしまうと効果を期待できなくなります。

また、腕や手のリハビリとしての有効性は世界中で数多くの研究から報告されていますが、脚・足のリハビリとしては研究がまだ少なく、効果が不安定です。

もしかしたら今後の研究次第で、『実は効果があるとは言えなかった』と結果が変わるかもしれません。

ですので、一般的には、運動イメージ療法をリハビリプログラムのメインに据えることは避けた方が良さそうです。

また、これは私見も混ざりますが、運動イメージ療法はどのような患者さんにも有効であるわけではなく、運動をイメージすることが苦手な患者さんに有効なのではないかと考えています。

運動イメージ療法はどこで受けられる?

運動イメージ療法は、担当セラピストが運動イメージ療法の使い方を知っていれば、比較的どこでも受けることが可能です。

これは私見ですが、運動イメージ療法は課題指向型訓練や歩行練習などと比べると、国内では利用されることが少ないです。

そのため、下記の場所で運動イメージ療法を受けることは可能ですが、担当セラピストによる部分が大きいです。

病院

入院リハビリを提供している病院では、運動イメージ療法を受けられる可能性があります。

また、外来リハビリでも受けられる可能性はあります。

訪問看護リハビリ

訪問看護リハビリでも受けることは可能です。

特に、発症から6ヶ月以降の慢性期の患者さんに対して有効とされているので、訪問看護リハビリで運動イメージ療法を使うことは有意義だと思います。

自費リハビリ

自費リハビリを提供している施設でも運動イメージ療法を受けられることがあります。

施設へ予め確認しておくことをお勧めします。

運動イメージ療法を有効活用しよう!

運動イメージ療法は特殊なリハビリですが、特に腕や手のリハビリとしては世界的に有効性が報告されているリハビリです。

運動イメージ療法は他のリハビリと組み合わせて実施する必要がある、やり方を間違えると効果が得られない、という問題があります。

そういった点に注意しつつ、お困りごとに合わせて運動イメージ療法を有効活用しましょう!

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参考文献

Page SJ, Hade EM, Pang J. Retention of the spacing effect with mental practice in hemiparetic stroke. Exp Brain Res. 2016 Oct;234(10):2841-7.

Barclay RE, Stevenson TJ, Poluha W, Semenko B, Schubert J. Mental practice for treating upper extremity deficits in individuals with hemiparesis after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2020 May 25;5(5):CD005950.

Silva S, Borges LR, Santiago L, Lucena L, Lindquist AR, Ribeiro T. Motor imagery for gait rehabilitation after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2020 Sep 24;9(9):CD013019.

Stockley RC, Jarvis K, Boland P, Clegg AJ. Systematic Review and Meta-Analysis of the Effectiveness of Mental Practice for the Upper Limb After
Stroke: Imagined or Real Benefit? Arch Phys Med Rehabil. 2021 May;102(5):1011-1027.

Park SW, Kim JH, Yang YJ. Mental practice for upper limb rehabilitation after stroke: a systematic review and meta-analysis. Int J Rehabil Res. 2018 Sep;41(3):197-203.