脳梗塞や脳出血(以下、脳卒中といいます)を発症すると、歩行障害(ほこうしょうがい)が生じます。
歩行障害に対して、短下肢装具が処方されることがよくあります。
本記事をお読みになられている方は、短下肢装具を作製・装着されている方が多いのではないでしょうか。
装具は作製するのは簡単なのですが、外すのが難しいです。
医師やセラピストから、装具を作製するメリットについては説明されたものの、『いつになったら外せるのか』については説明をされた方はいないのではないかと思います。
最初に結論ですが、装具は『装具の効果を得る必要がなくなったとき』に外すことができます。
▶︎ 装具の効果について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
上記を踏まえ、本記事では、脳卒中患者さんが装具を外すための3つの条件をお伝えします。
情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、基本的に信頼性の高いシステマティックレビュー研究、ランダム化比較試験から得られたデータを引用しています。
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脳卒中患者さんが装具なしで歩けるようになるための3つの条件
3つの条件は以下の通りです。
- 装具がなくてもひとりで歩くことができる
- 装具がなくても速く歩くことができる
- 装具がなくても正常に近い歩行周期で歩くことができる
以下、詳しく説明します。
装具がなくてもひとりで歩くことができる
短下肢装具は、脳卒中患者さんの歩行自立度を上げる効果があります(Tyson SF, 2013; Choo YJ, 2021)。
歩行自立度とは?
どれだけ自立して歩行できるかを評価する指標です。ひとりで歩くことができるようになることを、『歩行自立度が上がる』と表現します。歩行自立度は、Functional Ambulation Categories(FAC)やFunctional Independence Measure(FIM)などを使って評価します。
つまり、『装具がなくてもひとりで歩ける』のであれば、装具を外してもよいと言えます。
しかし、
『ひとりで歩けるかどうかはどうやって判断すればいいの?』
という疑問を持たれる方もいると思います。
ひとりで歩けるようになるための5つの条件をこちらの記事にまとめていますので、よかったらご覧ください。
簡単に説明すると、ひとりで歩けるようになるための5つの条件は下記の通りです。
- 条件① 10mを11.7秒以下で歩ける
- 条件② 6分間に318m以上歩ける
- 条件③ BBSというバランス検査で35点以上とれる
- 条件④ BESTestというバランス検査で70%以上とれる
- 条件⑤ FMALEという運動検査で21点以上とれる
装具なしで歩いたときに、これらの5つの条件が満たされている場合、『装具なしでもひとりで歩ける』と判断できます。
一方で、『装具がないとこれらの5つの条件を満たせない』ということであれば、まだ装具を着用すべきと言えます。
5つの条件を満たしているかどうかは、簡単な検査で判断できますので、担当セラピストさんと一緒に取り組んでみてください。
装具がなくても速く歩くことができる
短下肢装具は、脳卒中患者さんの歩行速度を上げる効果があります(Tyson SF, 2013; Choo YJ, 2021; Wada Y, 2021)。
歩行速度とは?
歩く速さのことです。ある程度の速さで歩けなければ、信号が青のときに横断歩道を渡れなくなるなど、外出に制限が生じます。歩行速度は、10m歩行試験などを使って評価します。
つまり、『装具がなくても速く歩ける』のであれば、装具を外してもよいと言えます。
一般的に、外出をするためには歩行速度は0.61〜0.85m/s必要であると考えられています。
装具を外したときに、これくらいの速さで歩けるのであれば、装具を外してもよいでしょう。
装具がなくても正常に近い歩行周期で歩くことができる
短下肢装具は、脳卒中患者さんの歩きかたを改善する効果があります(Tyson SF, 2013; Choo YJ, 2021; Daryabor A, 2018; Wada Y, 2021)。
短下肢装具のタイプにかかわらず、
足関節を背屈させる
という効果があります。
これによって、
脚を振り出すとき(遊脚期)に足が地面に引っかからない
踵を地面についたとき(立脚期)に膝を曲げて支えられる
といった、正常に近い歩きかたを獲得することができます。
言い換えると、装具を外したときに、
歩行中に足関節背屈を起こすことができる
ことによって
足が地面に引っかからない
膝を曲げて支えられる
という状況であれば、装具を外すことができると言えます。
一旦装具を外した状態で歩いてみて、これらの条件を満たしているか確認してみてください。
電気刺激を使って装具を外す方法
しかし、足関節背屈をご自身の力でコントロールするのは簡単ではありません。
集中的なリハビリを通して、背屈できるように練習する必要があります。
ただし、近年ではセンサー付きの電気刺激装置を使って、歩行中の足関節背屈を起こす方法があります。
フランスベッドさんが販売・レンタルしている『L300』シリーズは、歩行の遊脚期にだけセンサーが反応し、足関節背屈を生じさせる電気刺激です。
L300を装着することによって、ご自身で足関節背屈を行えない方でも、背屈しながら歩行することが可能になります。
患者様個人でもレンタル可能な製品ですので、ご興味がある方はよかったらフランスベッドさんへお問い合わせをされてみてください。
まとめ
脳卒中患者さんが装具なしで歩けるようになるための3つの条件は以下の通りです。
- 装具がなくてもひとりで歩くことができる
- 装具がなくても速く歩くことができる
- 装具がなくても正常に近い歩行周期で歩くことができる
理学療法士であれば簡単に行える検査ですべて判断可能ですので、よかったら担当セラピストさんと相談されてみてください。
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参考文献
Daryabor A, Arazpour M, Aminian G. Effect of different designs of ankle-foot orthoses on gait in patients with stroke: A systematic review. Gait Posture. 2018 May;62:268-279.
Tyson SF, Kent RM. Effects of an ankle-foot orthosis on balance and walking after stroke: a systematic review and pooled meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2013 Jul;94(7):1377-85.
Choo YJ, Chang MC. Effectiveness of an ankle-foot orthosis on walking in patients with stroke: a systematic review and meta-analysis. Sci Rep. 2021 Aug 5;11(1):15879.
Wada Y, Otaka Y, Mukaino M, Tsujimoto Y, Shiroshita A, Kawate N, Taito S. The effect of ankle-foot orthosis on ankle kinematics in individuals after stroke: A systematic review and meta-analysis. PM R. 2021 Aug 9.
Daryabor A, Arazpour M, Aminian G. Effect of different designs of ankle-foot orthoses on gait in patients with stroke: A systematic review. Gait Posture. 2018 May;62:268-279.