2015年の研究によると、脳梗塞や脳出血を発症された方の歩きかたは、次の3つのパターンに大別されます。
一つ目が『High Knee Hyper-extension パターン』、二つ目が『High Knee Flexion パターン』、三つ目が『Moderate Knee Alteration パターン』です。
今回、焦点を当てるのは『High Knee Hyper-extension パターン』です。
これは、歩いているときに膝が完全に伸展する(0°)かそれ以上になり膝関節が逆方向に曲がってしまう歩きかたです。
研究データによって差がありますが、最大で68%の患者さんが有する歩きかたであると報告されています。
日本ではよく『ロッキング』『膝関節の過伸展』と言われています。
このロッキング歩行ですが、
- 歩行速度の低下
- 歩行効率の低下
- 歩行時のエネルギー消費の増大
- 膝の痛み
などの現象、症状を引き起こすと報告されています。
- 『スムーズに歩けるようになりたい』
- 『きれいに歩けるようになりたい』
- 『病前のように歩けるようになりたい』
とお考えの患者さんは多いと思います。
ロッキング歩行を改善することであなたの目標達成に近づけるかもしれません。
今回は、ロッキング歩行を改善させるためのエビデンスに基づくリハビリ方法を紹介させていただきます。
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【2022年研究】脳卒中後のロッキングに有効なリハビリとは?
今回取り上げる研究論文は、2022年にオランダの研究チームが報告したものです。
この研究では、2021年5月までに世界中で報告された『脳卒中患者さんのロッキングに対する効果を調べた研究』を集めました。
結果としてロッキングに対して有効性が報告されていたリハビリはこちらの2つでした。
- プロプリオセプティブ・トレーニング(Proprioceptive Training)
- 膝装具を使った装具療法
今回はプロプリオセプティブ・トレーニングに焦点を当て、ロッキングに対するリハビリについて詳しく説明していきます。
プロプリオセプティブ・トレーニング(Proprioceptive Training)
それでは、プロプリオセプティブ・トレーニングの紹介をさせていただきます。
世界的にもっとも研究数が多く、有効性が報告されていたのがこちらのプロプリオセプティブ・トレーニングでした。
現時点ではロッキングを改善させるリハビリの第一選択になると言えます。
プロプリオセプティブ・トレーニングは『セラピストの指示や機械からのフィードバックを受けながら、膝を曲げた状態で立つ・歩く練習をするリハビリ』です。
具体的な方法について、2018年にインドの研究チームが報告した方法を参考に紹介させていただきます。
この研究では、脳卒中患者さんに対して
● 理学療法(45〜60分)
● プロプリオセプティブ・トレーニング(15〜20分)
を実施しました。
なお、プロプリオセプティブ・トレーニングの内容はこちらの通りです。
- パーシャルスクワット(Partial squats)
- 片足立ち
- フォームマット(柔らかいマット)の上で片足立ちパーシャルスクワット
- 床の上で片足立ちパーシャルスクワット
- 最小15°から最大45°の両側の膝を曲げた状態で歩く練習
このプログラムを6セッション実施することで、歩行中の膝関節角度が4〜5°改善したことを報告しています。
ロッキングを改善させたい患者さんにとって、試す価値のあるリハビリプログラムだと思います。
今回紹介した方法以外にも、プロプリオセプティブ・トレーニングはありますが、このように膝を曲げた状態で立ったり歩くリハビリプログラム、というイメージで差し支えないです。
脳卒中後の反張膝における5つの原因
注意点としては、これはあくまでもリハビリプログラムのひながたのようなものであるということです。
ロッキング歩行になってしまう原因があり、患者さんひとりひとり、ロッキング歩行になってしまう原因は異なります。
そういった患者さん固有の問題点を無視してプロプリオセプティブ・トレーニングをすればよいというわけではありません。
プロプリオセプティブ・トレーニングを行いつつ、個別の問題点に対してリハビリを行ったり、あるいはプロプリオセプティブ・トレーニングの中で個別の問題点を改善できるようなアプローチの工夫が必要になります。
つまり、ロッキングを改善させる上ではプロプリオセプティブ・トレーニングをベースにしつつ、患者さん固有の問題を分析し、介入していく必要があります。
以下、反張膝・ロッキング歩行の原因と考えられるものを5つ紹介します。
① 足関節底屈筋の筋力低下
2012年の研究で、足関節底屈筋の筋力低下が反張膝に影響を与えることが報告されました。
足関節底屈筋は腓腹筋、ヒラメ筋を中心としたふくらはぎの筋肉です。
これらの筋力が低下すると、反張膝が生じる可能性があります。
なお、筋力については徒手筋力検査法(Manual Muscle Test:MMT)で測定されるのが国内では一般的です。
MMTの結果をもとに、反張膝への影響があるかどうかを推定することができるでしょう。
② 前脛骨筋や足関節底屈筋の過緊張
2023年の研究で、前脛骨筋の過緊張が反張膝に影響を与えることが報告されました。
前脛骨筋は、すねの外側に位置する筋肉です。
また、2024年の研究では、足関節底屈筋群の痙縮が強いことが反張膝に影響を与えることが報告されました。
これらの筋肉の緊張が高くなると、反張膝が生じる可能性があります。
なお、筋緊張についてはModified Ashworth Scale(MAS)で測定されるのが一般的です。
MASの結果をもとに、反張膝への影響があるのかどうかを推定することができるでしょう。
③ 初期接地時の足関節角度
2006年の研究で、足が地面につく瞬間の足関節角度が反張膝に影響を与えることが報告されました。
足関節には『背屈』と『底屈』という2つの運動があります。
『背屈』は、つま先を上げる方向に足首を動かすこと、『底屈』は、つま先を伸ばす方向へ足首を動かすことです。
足が地面につく瞬間の足関節角度が『底屈』に近い状態であるほど、反張膝が起こりやすいことが示唆されています。
足が地面につく瞬間の足関節角度は、歩行中のビデオを撮影することで把握することが可能です。
スマートフォンを使って、歩いているところのビデオを横から撮影してみてください。
④ 膝関節屈筋群の筋力低下
2024年の研究で、膝関節屈筋群の筋力低下が反張膝に影響を与えることが報告されました。
膝関節屈筋群とは、主にハムストリングスという裏ももにある筋肉のことを指します。
歩いているときに持続的に反張膝が生じてしまうケースでは、膝関節屈筋群の筋力低下が影響している可能性があります。
上述の通り、筋力はMMTで測定することが可能です。
⑤ 体幹機能
2024年の研究で、体幹機能の低下が反張膝に影響を与えることが報告されました。
体幹機能とは、頸部、胸部、腹部及び腰部といった胴体の運動機能を指します。
歩いているときに持続的に反張膝が生じてしまうケースでは、体幹機能の低下が影響している可能性があります。
なお、体幹機能はTrunk Impairment Scale(TIS)という検査で測定することができます。
TISの結果をもとに、反張膝への影響があるのかどうかを推定することができるでしょう。
以上、5つの原因を紹介しました。
ただし、これらの情報はまだ不確実なエビデンスから得られたものであり、原因と断定することはできません。
患者さんひとりひとりの状態をしっかりをアセスメントすることで、総合的に原因を分析する必要があります。
ひとりひとりに合った反張膝リハビリを!
反張膝は多くの脳卒中患者さんのお困りごとであるものの、まだ完全なリハビリ戦略が開発されていません。
現状のベスト・プラクティスとしては
① ひとりひとりの反張膝・ロッキングの原因を分析すること
② プロプリオセプティブ・トレーニングをベースにし、ひとりひとりの原因に合ったプログラムを立案すること
…であるとBRAINは考えています。
担当セラピストさんと相談しながら、反張膝・ロッキングの改善に取り組んでみてください。
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参考文献
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