本記事ではシステマティックレビューの論文をもとに、脳卒中後の歩行障害に対する歩行練習、特にトレッドミルトレーニング、免荷式トレッドミルトレーニングの大局的な効果について記載しています。
最初に本記事のまとめです。
● トレッドミルトレーニングは脳卒中後の歩行障害へのリハビリテーションのひとつ
● トレッドミル・免荷式トレッドミルともに歩行速度や距離向上の効果あり
● ただし歩行が自立していない患者さんには効果があるとは言えない
脳卒中後の歩行障害に対するリハビリの方法
脳卒中を発症された患者さんは歩行に悩まされます。
歩行障害に対するリハビリテーションは世界中で数多く報告されています。
その中で主要な方法になるのが
①平地歩行練習
②トレッドミルトレーニング
③免荷式トレッドミルトレーニング
④課題指向型歩行練習
だと考えています。
これらの他に、バランス練習や筋力増強運動など、あらゆる方法で歩行速度や連続歩行距離といった歩行能力が向上することが報告されていますが、本記事では実際の歩行動作に近いトレーニングとして上記の4つを主要な方法として取り扱います。
トレッドミルトレーニングと免荷式トレッドミルトレーニング
トレッドミルトレーニングというのは、トレッドミルマシンを使って歩行練習をすることです。
トレッドミルマシンは一般的なトレーニングジムなどにも置かれていますし、家電量販店、Amazonや楽天市場などでも手軽に購入できるようになりました。
後述しますが、トレッドミルトレーニングは歩行能力向上へ有効性が報告されていますので、安全性を確保できる機器であれば一施設に一台は置いた方がよいのではないかと思っています。
一方、免荷式トレッドミルトレーニングというのは、トレッドミルマシンに免荷装置をプラスし、脚にかかる荷重を少なくしながらトレッドミルトレーニングを行うものです。
トレッドミルトレーニングと免荷式トレッドミルトレーニングの歩行障害への効果
トレッドミルトレーニングと免荷式トレッドミルトレーニングはいずれも歩行能力を向上させることが報告されています。
Mehrholz Jら(2017)のコクランレビューによると、脳卒中患者さんの歩行速度や歩行距離を向上させるとされています。
歩行速度や歩行距離は世界的にポピュラーな評価で、歩行の自立度やバランス能力などと強い相関関係があります。
一方で、脳卒中の患者さん誰にでも効果があるかと言われると、そうではないようです。
歩行が自立していない人への適用は注意を要する
歩行が自立している人、自立していない人の全ての人を含めた解析結果では、トレッドミルトレーニング・免荷式トレッドミルトレーニングは何もしない場合や通常のケア、他の治療をする場合と比べて歩行速度や歩行距離に対して効果的なようです。
歩行自立者の研究を対象にしたサブグループ解析の結果
Mehrholz J, 2017
【歩行速度】
MD 0.08 m/s (95% CI 0.05 to 0.12)
【歩行距離】
MD 19.72 m (95% CI 6.61 to 32.83)
しかし、歩行が自立している人、自立していない人に分けて解析した場合は結果が異なります。
歩行が自立していない脳卒中患者さんに対するトレッドミルトレーニング・免荷式トレッドミルトレーニングは何もしない場合や通常のケア、他の治療をする場合と比べて歩行速度や歩行距離を向上させるとは言えない結果になっています。
歩行非自立者の研究を対象にしたサブグループ解析の結果
Mehrholz J, 2017
【歩行速度】
MD 0.01 m/s (95% CI -0.06 to 0.03)
【歩行距離】
MD -5.09 m (95% CI -23.41 to 13.22)
免荷式トレッドミルは歩行重度介助の患者さんでも歩く練習が行えるという特徴がありますが、歩行能力を向上させる効果はあまり期待できなさそうです。
したがって、 現時点のエビデンスからは、トレッドミルトレーニング・免荷式トレッドミルトレーニングは歩行が自立している人へ適用するのが望ましいと考えます。
では歩行が自立していない患者さんへはどのようなリハビリ方法が望ましいのか?ですが、リカンベントバイクを使ったトレーニング、平地歩行練習、課題指向型訓練などが歩行が自立していない患者さんへの効果を報告しています。
何でもかんでもトレッドミル!ではなく、歩行の自立度に合わせて段階的にプログラムをステップアップする必要がありそうです。
そちらについてはまた別の記事を書こうと思います!
まとめと私見
● トレッドミルトレーニングは脳卒中後の歩行障害へのリハビリテーションのひとつ
● トレッドミル・免荷式トレッドミルともに歩行速度や距離向上の効果あり
● ただし歩行が自立していない患者さんには効果があるとは言えない
近年、トレッドミルトレーニングは手軽に導入できるトレーニングになってきています。
ただ、誰にでも使えばよいというわけではなく、歩行速度や距離向上を目的にするのであれば適応を考えて実践する必要がありそうです!
参考文献
Mehrholz J, Thomas S, Elsner B. Treadmill training and body weight support for walking after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Aug 17;8