本記事ではシステマティックレビューの論文をもとに、脳卒中後の歩行障害に対する歩行練習、特にトレッドミルトレーニング、免荷式トレッドミルトレーニングの大局的な効果について記載しています。

最初に本記事のまとめです。

  • トレッドミルトレーニングは脳卒中後の歩行障害へのリハビリテーションのひとつ
  • トレッドミル・免荷式トレッドミルともに歩行速度や距離向上の効果あり
  • 効果を期待するためには週3〜5回、4週間以上実施することが望ましい

脳卒中後の歩行障害に対するリハビリの方法

脳卒中を発症された患者さんの多くは歩行障害に悩まされます。

歩行障害に対するリハビリテーションは世界中で数多く報告されています。

その中で主要な方法になるのが

①平地歩行練習
②トレッドミルトレーニング
③免荷式トレッドミルトレーニング
④課題指向型歩行練習

だと考えています。

これらの他に、バランス練習や筋力増強運動など、あらゆる方法で歩行速度や連続歩行距離といった歩行能力が向上することが報告されていますが、本記事では実際の歩行動作に近いトレーニングとして上記の4つを主要な方法として取り扱います。

トレッドミルトレーニングと免荷式トレッドミルトレーニング

トレッドミルトレーニングというのは、トレッドミルマシンを使って歩行練習をすることです。

トレッドミルマシンは一般的なトレーニングジムなどにも置かれていますし、家電量販店、Amazonや楽天市場などでも手軽に購入できるようになりました。

後述しますが、トレッドミルトレーニングは歩行能力向上へ有効性が報告されていますので、安全性を確保できる機器であれば一施設に一台は置いた方がよいのではないかと思っています。

一方、免荷式トレッドミルトレーニングというのは、トレッドミルマシンに免荷装置をプラスし、脚にかかる荷重を少なくしながらトレッドミルトレーニングを行うものです。

トレッドミルトレーニングと免荷式トレッドミルトレーニングの歩行障害への効果

Mehrholz Jら(2017)のコクランレビューによると、トレッドミルトレーニングと免荷式トレッドミルトレーニングはいずれも脳卒中患者さんの歩行速度や歩行距離を向上させるとされています。

歩行速度や歩行距離は世界的にポピュラーな評価で、歩行の自立度やバランス能力などと強い相関関係があります。

ただし、歩行が自立している患者さんと自立していない患者さんとでは期待できる効果が異なるというのは過去記事のとおりです。

歩行能力が向上するためには、どれくらいの頻度、期間が必要なのでしょうか。

週1回とか、2週間に1回とかの少ない頻度で歩行能力が改善するとは考えにくいですよね。

歩行速度の向上を期待するなら週3回

Mehrholz Jら(2017)のコクランレビューでは、歩行が自立している脳卒中患者さんに対するトレッドミルトレーニングと免荷式トレッドミルトレーニングは、週3回以上実施した場合は他の治療などと比べて歩行速度を向上させるが、週3回未満の場合は他の治療などと比べて歩行速度を向上させるとは言えなくなる、という結果を報告しています。

【週5回以上の場合】
MD 0.04 (95%CI 0.02, 0.07)
【週3〜4回の場合】
MD 0.08 (95%CI 0.03, 0.12)
【週3回未満の場合】
MD 0.02 (95%CI -0.06, 0.10)

Mehrholz Jら(2017)

回復期リハビリ、あるいは保険外リハビリなどで週3回以上トレッドミルトレーニングを行える環境であれば、週3回以上が望ましいようです。

週1〜2回しかリハビリできないのであれば、トレッドミルトレーニング以外のリハビリ方法の提案も重要になるでしょう。

歩行距離の向上を期待するなら週5回、4週間以上

同じくMehrholz Jら(2017)のコクランレビューでは、歩行が自立している脳卒中患者さんに対するトレッドミルトレーニングと免荷式トレッドミルトレーニングは、週5回実施した場合は他の治療などと比べて歩行速度を向上させるものの、週5回未満の場合は他の治療などと比べて歩行速度を向上させるとは言えなくなる、という結果を報告しています。

【週5回の場合】
MD 27.25 (95%CI 5.37, 49.13)
【週3〜4回の場合】
MD 12.41 (95%CI -3.15, 27.97)

Mehrholz Jら(2017)

週5回のトレッドミルトレーニングとなると、回復期リハビリ病院か、保険外リハビリ施設でしかなかなか難しいですね。

また、期間については下記のように報告されています。

【4週間以上の場合】
MD 19.09 (95%CI 2.29, 35.88)
【4週間の場合】
MD 29.40 (95%CI -4.75, 63.54)

Mehrholz Jら(2017)

4週間では効果があると言い切れなくなりますが、4週間以上であれば効果があると言える結果になっています。

個人差はあるので毎週評価した上でトレッドミルトレーニングの継続を判断することが望ましいと思いますが、ひとまず4週間以上を目安にした方が良いかもしれません。

“とりあえず歩いておけばOK” からの脱却

理学療法士は患者さんの基本動作能力の向上が仕事になることが多いです。

歩行練習を行う機会も多いですが、”とりあえず歩いておけばOK” は避けたいところ。

「歩行の○○を、△△に到達させることを目的に、□□を行う」という意思決定ができると良いですね!

参考文献

Mehrholz J, Thomas S, Elsner B. Treadmill training and body weight support for walking after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Aug 17;8