5月6日(木)、国際医療福祉大学大学院の玉利誠先生に御登壇いただき、「解剖的・機能的コネクティビティから考える脳画像の意義と脳卒中リハビリテーション」というテーマでセミナーを開催します。

キーワードは脳のコネクティビティになるのですが、今回はこちらについて基本的なところを事前に予習する回です。

何回かシリーズにする予定ですので、最後までお付き合いいただけましたら嬉しいです。

脳の活動があるからヒトは行為を行える

そもそも、私たちヒトが動いたり、話したりといった行為を行うことができるメカニズムについて、「手を動かす」という行為を例に考えます。

最初にお伝えしますが、なるべくわかりやすくするために簡略化した情報になっています。

いくつか神経経路の話が出てきますが、これから話す神経経路以外にも大事な経路があったりするので、これが全て、というふうに理解しないようにしていただけたらと思います。

まず、手が動くのは、手の筋肉が収縮しているからです。

筋肉を支配しているのは、脊髄の前角から出ているα運動ニューロンです。

α運動ニューロンから電気信号が筋肉に届き、筋肉は収縮してます。

ヒトの身体は基本的に電気信号のやり取りで情報伝達します。

α運動ニューロンはどこから電気刺激を受け取っているかと言うと、主に皮質脊髄路から電気刺激を受け取ってます。

中枢神経の神経線維は起始と停止で名前がついてます。

皮質脊髄路というのは、大脳皮質と脊髄を結んでいるので皮質脊髄路、という名前がついてます。

大脳皮質、というのは大脳半球の表面部分のことです。

この表面部分に神経核(ニューロン)があります。

灰白質、というところですね。

皮質脊髄路はこの広い大脳皮質のどこから出ているかというと、主に一次運動野というところから出ています。

ここまでをまとめると、大脳皮質に一次運動野という脳の領域があり、そこから皮質脊髄路という神経線維が出ています。

皮質脊髄路は脊髄のα運動ニューロンを発火させ、α運動ニューロンは筋肉を収縮させます。

そして手が動く、という流れです。

大事なのは、脳が活動することで私たちの身体が動き、目的としている行為が達成される、という点です。

私たちセラピストは患者さんの目に見える動き、例えば「手の動かし方」は観察して、関節運動や筋肉のレベルで分析(例えばROM制限があるとか筋出力が低下しているとか)することは得意ですが、これらの背景には脳の活動があるというのを捉えておくのが大事です。

脳のコネクティビティとは

脳のコネクティビティというのは、”脳の繋がり” のことです。

実は脳はチームで働いていて、ひとつの脳領域だけではたらくということは私の知る限りですがありません。

大局的に見れば中枢神経系(脳も脊髄も含む)全体をひとつのチームとして捉えられますが、行為の種類によっていくつかのチームに分けられます。

運動に関わるチーム、言語に関わるチーム、記憶に関わるチーム、など、そういったサブグループに分けられます。

そして、チームではたらいているので、チームメンバーがいます。

脳卒中を発症すると、脳領域の一部が損傷します。

視床出血なら視床やその周辺の神経線維が損傷しますし、被殻出血なら被殻やその周辺の神経線維が損傷します。

チームに置き換えて考えると、チームメンバーの一部がダメージを受けるということになります。

そして、チームメンバーがダメージを受けると、チーム全体の働き方が変わります。

脳の活動の仕方が変わるということです。

例としてサッカーのチームで考えてみます。

サッカーは11人でやります。

ゴールキーパー、ディフェンス、オフェンス、と役割がありますよね。

11人いるときはそれぞれのメンバーがそれぞれの本来の役割を果たして、相手のゴールを奪うという目的に向かって活動します。

でも、もしゴールキーパーが退場してしまって、メンバーが10人になったらどうでしょう?

ゴールキーパーがいないとゴールを守れないので、オフェンスかディフェンスの選手をゴールキーパーにせざるを得なくなります。

例えば、オフェンスの選手をひとりゴールキーパーにしたとします。

そうすると、オフェンスの能力が下がりますよね。

この場合、いなくなったオフェンスの選手の分まで頑張ろうとして、他のオフェンスの選手の運動量が上がるかもしれません。

あるいは、いなくなったオフェンスの選手からよくパスを供給されていた選手は、動きが悪くなるかもしれません。

パスの出手がいなくなってしまうので。

また、ディフェンスにおいても、オフェンスの選手が本職ではないゴールキーパーの仕事をするので、本職のゴールキーパーほどうまく役割をこなせないですよね。

そしてその本職でないゴールキーパーを助けようと、ディフェンスの選手も働き方が変わるかもしれません。

例えば、本職のゴールキーパーがいるときはシュートコースを限定させるような守備をしていたけど、本職でないゴールキーパーのときは、そもそもシュートを打たせない守備に切り替えるとか。

このように、11人のメンバーのうち1人が欠けると、その役割を補うためにチームメンバーの役割が変わったり、活動量が上がったり下がったりして、チーム全体に影響を与えることがわかると思います。

脳はチームではたらいている

脳も同じで、脳の一部が損傷すると、他の脳領域の活動や役割が変わります。

脳の活動性が変わることを機能解離(Diaschisis)と言います。

小脳性認知情動症候群(cerebellar cognitive affective syndrome)というのをお聞きになったことはありますでしょうか?

小脳を損傷することで遂行機能障害、視空間認知障害、言語障害、感情障害が表出されるというものです。

本来、小脳の役割は運動の学習や運動の調整ですので、これらの症状が現れるというのは説明がつきません。

なぜこういう症状が表れるかというと、小脳と前頭前野がチームとして働いていて、小脳が損傷することにより前頭前野の活動性が低下してしまうからです。

また別の例を挙げさせていただきますと、Clarke  S(1994)の症例報告ですが、視床の前核(A核)に脳梗塞を呈することによって後部帯状皮質という記憶に関わる領域の血流が低下し全健忘を呈した、という報告もされています。

これは視床の前核と後部帯状皮質がチームとして繋がっていて、視床前核を損傷してしまうことで後部帯状皮質というチームメンバーの機能が低下してしまう例として説明できます。

このように、脳の一部を損傷してしまうことで別の領域の活動性を変化させてしまう、という機能解離の例は私たちセラピストの身近にあります。

脳画像からは説明ができない患者さんの症状ってありますよね。

コネクティビティを理解しておくことで、脳画像からは説明できない症状を理解することができます。

患者さんの病態解釈をする上でとても大事な知識になります。

コネクティビティを学ことで病態解釈がより深いものになると思います。

本日は、「脳のコネクティビティについて勉強する Part.1 〜脳はチームではたらく〜」というテーマでお送りしました。

お知らせですが、5月6日(木)、国際医療福祉大学大学院の玉利誠先生に御登壇いただき、「解剖的・機能的コネクティビティから考える脳画像の意義と脳卒中リハビリテーション」というテーマでセミナーを開催します。

よかったらご参加ください。

また、BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習事業を運営しております。

2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!