本日のテーマは「脳卒中患者さんの動作分析をするときに役立つ問題点の3つの分け方」です。

脳卒中患者さんのリハビリをするとき、動作分析を行うことが多いのではないかと思います。

理学療法士の先生であれば歩行動作をはじめとする基本動作の分析を、作業療法士の先生であればリーチ動作や日常生活動作(Activity of daily Living:以下、ADL)の分析をされると思います。

動作分析を行う理由は、患者さんの動作における問題点を把握したいからだと思います。

分析によって、正常動作と現状の動作との差分が明らかになり、問題点が浮かび上がってきます。

例えば、運動麻痺とか、痙縮とか、関節可動域制限、とかですね。

そういった問題点がたくさん見つかると思うのですが、「何に対してアプローチすればいいの?」と判断に悩むことはないでしょうか?

言ってしまえば、これらの問題点を全て解決することができれば、より正常に近い動作の獲得に繋がるのでしょうが、全ての問題点に対してしっかりアプローチするにはリハビリに多くの時間やお金を割かないといけなくなります。

ですので、実際は「主要な問題点」に絞って、その問題点に対するリハビリプログラムを組むことが多いのではないかと思います。

今回は、この「主要な問題点」を把握するために役立つ3つの視点について、Beyaert C (2015) のレビュー論文に記載されている情報をもとに、紹介させていただきます。

動作分析をするときに役立つ問題点の3つの分け方

最初に3つの分け方について紹介させていただきますが、それは「一次的な問題点」「一次的な問題点に続いて生じる問題点」「一次的な問題点に対する代償戦略」です。

これが提唱されているのは、歩行障害についてまとまっているBeyaert C (2015) のレビュー論文なのですが、上肢の運動障害についてまとめているRaghavan P (2015) のレビュー論文でも似たようなことが書かれていますし、私の個人的な臨床経験も含めて考えると多くの動作分析に転用できる考え方なのではないかと思っています。

それぞれについて紹介します。

ひとつ目は「一次的な問題点」です。

これは、脳卒中の症状そのもののことで、運動麻痺や、感覚障害などがこれに該当します。

例えば、歩行動作において、運動麻痺で足関節が背屈できなくなることによって、脚を振り出すときに爪先が引っかかってしまったり、足がついたときに身体を前に運べなくなってしまいます。

あるいは、リーチ動作において、運動麻痺で上肢を挙上できなくなることによって、リーチ動作が行えなくなるとか、そういうケースです。

ふたつ目は「一次的な問題点に続いて生じる問題点」です。

これは、例えば運動麻痺の後、痙縮が起こり、関節可動域制限が生じてしまうようなことを意味します。

関節可動域制限の出現自体は脳卒中による症状ではないですが、運動麻痺やそれに続く痙縮によって関節可動域制限が発生します。

そして、関節可動域制限は異常な動作につながります。

例えば、歩行動作であれば、股関節伸展制限があると立脚後期に下肢を体幹の後方に位置させることができなくなり、推進力が得られなくなります。

あるいはリーチ動作だと、関節可動域制限によって手指の伸展が行いづらくなり、プレシェーピングやグラスプ動作に影響が出たりします。

みっつ目は「一次的な問題点に対する代償戦略」です。

こちらは、歩行動作であれば、運動麻痺によって足関節背屈ができなくなり、爪先が引っかかってしまうことを代償するためにぶん回し歩行を使うとか、股関節伸展を起こせず推進力が得られなくなるために股関節屈筋を強く使って歩幅やストライド長を大きくしようとするとか、そういうことです。

リーチ動作であれば、何かものをとるときに非麻痺側上肢を使うとか、あるいは麻痺側上肢でリーチするにしても体幹を側屈させ、肩関節を外転させながらリーチ動作を行うとか、そういうケースです。

これはRaghavan P (2015) の「learned non-use(学習された不使用)」や「learned bad-use(学習された代償)」と重なります。

3つの問題点の臨床的な判断と主要な問題点

ここまで3つの問題点について紹介しました。

ここからは私見を交え、3つの問題点の分類の仕方を紹介します。

ステップは2つです。

Step 1. 「一次的な問題点に対する代償戦略」の影響を把握する

これは個人的な臨床経験の話なのですが、代償戦略を使って動作をされている患者さんの場合、代償戦略でない動作(患者さんが理想としている動作とかいわゆる正常動作とか)を患者さんにやってみていただいて、そのときに動作がどのようになるかを観察することで学習の影響を推定できるのではないかと思っています。

「リーチ動作をするとき、本当は手を真っ直ぐ伸ばせるのに楽だから非麻痺側の上肢を使ってしまう」とか、「歩くときに本当は真っ直ぐに下肢を振り出すことができるのにぶん回し歩行をしている」という、完全に代償の学習の問題だけの患者さんの場合は、代償動作を押さえることで正常動作真っ直ぐ手が伸びたり、下肢を振り出せたりします。

そういう場合は「一次的な問題点」(運動麻痺や感覚障害など)や「一次的な問題点に続いて生じる問題点」(関節可動域制限など)を改善させたとしても動作が良くならないので、それらの要素にアプローチするよりも正しい動作を再獲得させる、運動学習を促すリハビリプログラムを組んだ方が良いのではないかと思います。

Step 2. 「一次的な問題点」と「一次的な問題点に続いて生じる問題点」を整理する

一方で、代償動作を押さえ込んだ場合に、歩行であれば爪先が引っかかるとか、リーチ動作であれば手が伸ばせなくなるとか、そういう現象が観察される場合は「一次的な問題点」(運動麻痺や感覚障害など)や「一次的な問題点に続いて生じる問題点」(関節可動域制限など)に問題がある可能性が高いので、そちらにアプローチしていきます。

この場合、本質的な問題点はやはり「一次的な問題点」に集約されることが多いです。

例えば足関節背屈の関節可動域制限を改善させたとしても、関節可動域制限が痙縮によって生じている場合、痙縮を改善させなければまたすぐに関節可動域制限が再発してしまうでしょう。

ですので、「一次的な問題点」や「一次的な問題点に続いて生じる問題点」に絞られた場合は、「一次的な問題点」の改善を目指すプログラムが基本になると思います。

このように問題点を3つに分け、判断の仕方を整理しておくことで、「主要な問題点」の把握がしやすくなります。

「主要な問題点」の把握を行うことができれば自然にリハビリプログラムも固まっていくことが多いです。

ただ、問題点を3つに分けた後、「これが主要な問題点である」と断定するためには患者さんの価値観が関わってきます。

チャプター3では、患者さんの価値観が関わる状況を例を出して紹介させていただきます。

3つの問題点の重み付けは患者さんの価値観によって異なる

ここまで問題点の3つの分け方を紹介させていただきました。

パッと見る感じだと、「一次的な問題点」が主要な問題点だよね、と思われる方もいらっしゃると思うのですが、そういうわけでもないです。

“患者さんの価値観” が大きく関わってきます。

例えば、チャプター2の最後の例で出した、「一次的な問題点」や「一次的な問題点に続いて生じる問題点」に絞られた場合、です。

基本的には「一次的な問題点」の改善を目指すプログラムを組むべきだとは思うのですが、一次的な問題は改善に時間がかかることが多いです。

例えば、運動麻痺などはそんなにすぐには改善しないですよね。

ですので、こちらにアプローチするのは、回復期病院でリハビリの時間がたっぷりあるとか、慢性期だとしても患者さんが本質的な改善を希望されている時とか、そういう状況かと思います。

一方で、「一次的な問題点に続いて生じる問題点」については「一次的な問題点」(運動麻痺や感覚障害など)と比べるとしぶとくないことが多いので、「これから大事なイベントがあるのでその場で楽に動けるようにしてほしい」とか「もう根本的な改善は諦めているから、リハビリのあとだけ少し歩きやすくなればいい」という患者さんの場合は、「一次的な問題点に続いて生じる問題点」にアプローチすることが正解であることもあると思います。

このように、患者さんの動作の状態を整理して差し上げて、それを説明した上で、患者さんの価値観を把握し、問題点の重み付けを行った結果、主要な問題点が判断できる、ということになります。

まとめると、①まず動作分析で問題点をピックアップする②問題点を「一次的な問題点」「一次的な問題点に続いて生じる問題点」「一次的な問題点に対する代償戦略」に分類する③患者さんに動作の状態を説明し、患者さんの価値観を聴取した上で「主要な問題点」を特定する、という流れになります。

動作分析にお悩みの先生は、ぜひこの3つの視点を分析に取り入れることを検討してみてください。

本日は「脳卒中患者さんの動作分析をするときに役立つ問題点の3つの分け方」というテーマでお話しさせていただきました。

BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。

2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!

参考文献

Beyaert C, Vasa R, Frykberg GE. Gait post-stroke: Pathophysiology and rehabilitation strategies. Neurophysiol Clin. 2015 Nov;45(4-5):335-55.

Raghavan P. Upper Limb Motor Impairment After Stroke. Phys Med Rehabil Clin N Am. 2015 Nov;26(4):599-610.