
FAC(Functional Ambulation Categories)は、脳卒中患者の歩行自立度を0〜5の6段階で評価する、世界で最も広く使われている歩行能力分類スケールです。
この記事では、FACの正しいカテゴリ判定方法から、信頼性・併存妥当性・予測妥当性・反応性(SRM)、急性期〜回復期で活用できるカットオフ値、FACレベル別の歩行速度・6MWT距離の対応関係までを、2026年時点の最新エビデンスに基づいて網羅的に解説します。
臨床で「この患者さんの歩行予後をどう説明するか」「現在の歩行自立度をどう数値化するか」と迷ったときの判断基準として、ぜひご活用ください。
情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事は、脳卒中専門リハビリ施設BRAINが運営するBRAINアカデミーアドバンスコース歩行の講義内容をもとに、最新の査読付き論文エビデンスを加えて作成しています。

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概要
FACは、患者が歩行する際にどの程度の介助・監視を必要とするかを観察によって6段階に分類するシンプルな評価指標です。
1984年にマサチューセッツ総合病院のHolden らによって神経学的障害者を対象に開発されました(Holden, 1984)。
検査用具をほぼ必要とせず短時間で評定でき、かつ予測妥当性が極めて高いため、急性期〜回復期脳卒中の歩行リハビリで世界的に最も広く使用されています。
なお、7段階版である mFAC(modified FAC)は別物であり、本記事では原版の6段階FAC(0〜5)について解説します。
測定方法
以下の手順は、FACの原著論文であるHolden et al.(1984)および改訂版Holden et al.(1986)に基づいています。
カテゴリ定義(Holden, 1984; 1986)
| スコア | 分類名 | 定義 |
|---|---|---|
| 0 | 歩行不能 | 歩行困難。または平行棒内のみ歩行可能だが、平行棒外を安全に歩くために2人以上の介助が必要 |
| 1 | 介助歩行レベル2 | 平地歩行において転倒予防のために1人の介助が必要。介助は持続的で、バランス保持・動作の手助けに加えて体重を支える必要がある |
| 2 | 介助歩行レベル1 | 平地歩行において転倒予防のために1人の介助が必要。介助はバランス保持・動作の手助けのための持続的または断続的で触れる程度の介助 |
| 3 | 監視歩行 | 介助なしに平地歩行が可能だが、判断能力の低下や心肺機能の問題、動作遂行のために口頭指示が必要といった理由から、安全のために1人の近位監視が必要 |
| 4 | 平地歩行自立 | 平地では自立して歩行が可能だが、階段や斜面、不整地では口頭指示や介助が必要 |
| 5 | 歩行自立 | 平地や不整地、階段、斜面を問わず、自立して歩行が可能 |
測定手順(Holden, 1984)
- 患者を平地(静かで障害物のない歩行路、約3m以上)で歩行させ、必要な介助・監視レベルを観察する
- 平地歩行が自立している場合は、続いて階段昇降を観察する
- 階段昇降も自立している場合は、屋外(芝、砂利、段差、縁石等の不整地)での歩行を観察する
- 観察結果から、上記カテゴリ定義に最も該当するレベル(0〜5)を1つ判定する
- 補装具・歩行補助具(短下肢装具、T字杖、4点杖、歩行器等)の使用は許可するが、使用した補装具は別途記録する
実施上の注意点(Holden, 1984; Strokengine; RehabMeasures Database)
- 平行棒内のみの歩行はFAC 0と判定する。「平行棒内なら歩ける」患者を1点以上にしないこと
- 補装具・歩行補助具を使用しても良いが、使用した補装具は必ず記録する。装具・杖のあり/なしでスコアの解釈が変わる
- 平地歩行が完全自立でも、階段や不整地で介助・指示が必要であればFAC 4となる。FAC 5の判定には階段・不整地評価を必ず行う
- 特別な検査用紙や測定器具は不要。観察のみで完結する
- 検査者には特別な訓練は不要だが、カテゴリ定義(特に1と2の境界、3と4の境界)を正確に理解しておくこと
派生バージョン
- mFAC(modified FAC):座位保持能力を含む7段階版(I〜VII)。Hong Kongや中国語圏で広く使用されているが、原版の6段階FAC(0〜5)とは別物。本記事のデータ・カットオフは原版FACに基づく
- 日本語版:標準化された公的日本語版は存在しない。本記事掲載の日本語訳は原著(Holden, 1984)の直訳と、群馬県公立藤岡総合病院による訳を参考にしている
信頼性
FACの信頼性は、原著(Holden, 1984)では報告されていません。
原著は時間距離パラメータ(歩行速度、歩幅、ケイデンス)の信頼性を検証した論文であり、FAC自体のκ値・ICCはその後の研究で報告されています。
検査者間信頼性(Inter-rater reliability)
| 著者(年) | κ値 | 対象者 |
|---|---|---|
| Mehrholz J (2007) | 0.905(非重み付けκ) | 亜急性期脳卒中患者 55名 発症30〜60日 PMID: 17908575 |
| Lundquist CB (2024) | 0.92(重み付けκ) | 後天性脳損傷(脳卒中含む)53名 デンマーク語版 PMID: 37752874 |
| Collen FM (1990) | 0.36(非重み付けκ) | 慢性期脳卒中患者 25名 発症2〜6年 PMID: 2211468 |
再テスト信頼性(Test-retest reliability)
| 著者(年) | κ値 | 対象者・備考 |
|---|---|---|
| Mehrholz J (2007) | 0.950 | 亜急性期脳卒中患者 55名 ※同一ビデオの時間をおいた再評価 PMID: 17908575 |
解釈の目安
κ値 0.81以上 = ほぼ完全な一致、0.61〜0.80 = かなりの一致、0.41〜0.60 = 中等度の一致、0.40以下 = 一致が低い(Landis & Koch, 1977)。
FACは亜急性期では検査者間κ=0.905〜0.950と非常に高い一致度を示します(Mehrholz, 2007)。
一方、慢性期高機能例ではκ=0.36と一致度が低下する報告もあり(Collen, 1990)、FAC 4と5の境界(階段・不整地での自立判定)でばらつきが生じやすい点に注意が必要です。
施設内で評価基準を統一する研修を行うことで一致度は高まります。
妥当性
併存妥当性(亜急性期脳卒中:Mehrholz, 2007)
Mehrholz et al.(2007)は、亜急性期脳卒中患者55名を対象に、FACと他の歩行・移動能力指標との相関を報告しています(全てSpearman順位相関、p<0.001)。
| 比較指標 | 相関係数(ρ) | 対象者 |
|---|---|---|
| 10m歩行速度 | 0.901〜0.952 | 亜急性期脳卒中 55名 4時点(0/2/4週/6か月) |
| 6分間歩行距離(6MWT) | 0.906〜0.949 | 亜急性期脳卒中 55名 |
| 歩幅(step length) | 0.877〜0.952 | 亜急性期脳卒中 55名 |
| Rivermead Mobility Index | 0.686〜0.893 | 亜急性期脳卒中 55名 |
併存妥当性(追加データ)
| 比較指標 | 相関係数 | 対象者 | 著者(年) |
|---|---|---|---|
| 10m歩行速度 | ρ = 0.67 | 亜急性期脳卒中 80名 PMID: 37509020 | Peters DM (2023) |
| 6MWT | ρ = 0.59 | 亜急性期脳卒中 80名 | Peters DM (2023) |
| 10m歩行速度 | r² = 0.87 | 後天性脳損傷 53名 PMID: 37752874 | Lundquist CB (2024) |
既知群妥当性(Known-groups validity)
Peters et al.(2023)は、亜急性期脳卒中患者80名でFAC III/IV/V間に10m歩行速度・6MWT距離・Barthel Index・Rivermead Mobility Indexがすべて有意に異なる(Kruskal-Wallis、p<0.0001)ことを示し、FACが歩行・ADL能力の異なる群を弁別できることを報告しています。
まとめ
FACは歩行速度・6MWT距離と非常に強い相関(ρ=0.90以上)を示し、亜急性期脳卒中における歩行能力の総合指標として高い併存妥当性が確認されています。
順序尺度ながら、定量的な歩行指標と一致した変化を捉えることができます。
反応性(FACでは順序尺度に基づく解釈が必要)
・FACの反応性は、代わりにSRM(Standardized Response Mean、効果量の一種)で評価されます
SRM(Standardized Response Mean)
| 期間 | SRM | 解釈 | 対象者 |
|---|---|---|---|
| 0〜2週 | 1.016 | 大(large) | 亜急性期脳卒中 55名 Mehrholz (2007) PMID: 17908575 |
| 2〜4週 | 0.842 | 大(large) | 同上 |
| 4週〜6か月 | 0.699 | 中(moderate) | 同上 |
SRMの解釈基準
0.20=小、0.50=中、0.80=大(Cohen, 1988)。
臨床のポイント!
FACは亜急性期(発症1〜2か月から数週間)において最も大きな反応性を示し(SRM=1.016)、その後リハビリ期間が進むにつれて反応性は中等度に低下します。
これは「亜急性期に早期介入することで、FACで捉えられる歩行自立度の変化が最も大きく得られる」ことを意味します。
慢性期では1点の変化を捉えにくくなるため、慢性期の効果判定には歩行速度・6MWTなど区間尺度の指標を併用することが推奨されます。
なぜMDC・MCIDが報告されないのか
FACは6段階の順序尺度であり、「FAC 1とFAC 2の差」と「FAC 4とFAC 5の差」は臨床的な意味も統計的な性質も同じではありません。
SEM・MDC95・MCIDはこれらの差を等間隔と仮定する区間尺度向けの指標であるため、FACへの適用は理論的に不適切です。
Thieme et al.(2022)の系統的レビューでも、FACのMCIDは「未確立」と明記されています。
臨床での「変化があったか」の判定は、「カテゴリが1段階以上上がったか」を基準にするのが原則です。
カットオフ値・予後予測
FACの真価は、急性期〜亜急性期の少数の評価から数か月後の歩行転帰を高精度に予測できる「予測妥当性」にあります。
4週時点FAC≧4 → 6か月後の地域歩行予測(Mehrholz, 2007)
| 著者(年) | カットオフ | 対象者 | アウトカム | AUC | 感度 | 特異度 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Mehrholz J (2007) | 4週時点 FAC ≧ 4 | 亜急性期脳卒中 発症30〜60日 55名 PMID: 17908575 | 6か月後の地域内歩行(community ambulation) | 0.89 | 100% | 78% |
臨床的な意味
亜急性期リハビリ開始から4週時点でFACが4以上に到達していれば、6か月後の地域内歩行(屋外を含む実用的な歩行)獲得が感度100%・特異度78%で予測できます。
感度100%は「偽陰性ゼロ」を意味するため、4週時点でFAC≧4の患者には自信を持って地域歩行の見込みを説明できます。
一方、特異度78%なので、4週時点でFAC<4だった患者でも約22%は6か月後に地域歩行を獲得する可能性があり、「見込みなし」と早期に判断しないことが重要です。
発症72時間以内の所見 → 6か月後の歩行自立予測(Veerbeek/EPOS, 2011)
| 発症72時間以内の所見 | 6か月後 FAC≧4 獲得率 | 著者(年) |
|---|---|---|
| 座位30秒保持+麻痺側下肢筋力あり(両方陽性) | 98% | Veerbeek JM (2011) 発症72時間以内 154名 PMID: 21186329 |
| いずれか陰性または両方陰性 | 27% | |
| 9日目時点でなお両方陰性 | 10% |
臨床的な意味
発症72時間以内に「座位30秒保持」と「麻痺側下肢筋力(Motricity Index下肢)」の両方が陽性であれば、6か月後にFAC≧4(自立歩行)に到達する確率は98%と極めて高くなります(Veerbeek, 2011)。
一方、両方陰性の患者でも9日目までに改善すれば予後は変わりうるため、初期評価で「歩行不可能」と決めつけずに再評価する重要性があります。
簡易予測式 R3-Walk・R6-Walk(Smith, 2024)
Smith et al.(2024)は、急性期脳卒中患者を対象に、FACと修正Barthel Indexから3か月後・6か月後のFAC≧4を予測する簡易式を開発・検証しました。
| 予測式 | 構成変数 | 感度 | 特異度 | 対象 |
|---|---|---|---|---|
| R3-Walk(3か月後) | 3.040 + (0.283 × ベースラインFAC) + (0.021 × 修正Barthel) | 91% | 57% | 急性期脳卒中 263名 PMID: 38281578 |
| R6-Walk(6か月後) | 3.644 + (-0.014 × 年齢) + (0.014 × 修正Barthel) | 54% | 81% | 急性期脳卒中 212名 PMID: 38281578 |
FACレベル別の歩行速度・6MWT距離(Peters, 2023)
FACのカテゴリと、定量的歩行指標(10MWT・6MWT)の対応関係です。
「FAC 4ってどのくらいの歩行速度?」を数値で説明する際に役立ちます。
| FACレベル | 人数 | 10m歩行速度(m/s) | 6MWT距離(m) |
|---|---|---|---|
| FAC 3(監視歩行) | 24 | 0.45 ± 0.28 | 160.7 ± 101.8 |
| FAC 4(平地自立) | 35 | 0.79 ± 0.31 | 284.4 ± 110.6 |
| FAC 5(完全自立) | 21 | 1.08 ± 0.27 | 367.2 ± 83.4 |
出典:Peters DM et al. Brain Sci. 2023;13(7):1089. 亜急性期脳卒中 80名(PMID: 37509020)
ROC解析によるFACレベル間のカットオフ
- FAC 3 vs 4:10m歩行速度 0.59 m/s(AUC 0.79、感度0.89、特異度0.34)
- FAC 4 vs 5:10m歩行速度 1.02 m/s(AUC 0.79、感度0.85、特異度0.41)
参考:別研究のKollen et al.(2006)でも、急性期脳卒中73名でFAC 3=0.37 m/s、FAC 4=0.70 m/s、FAC 5=1.02 m/sと類似の対応関係が報告されています(PMID: 16649886)。
同じFACレベルでも観察時期で対応速度がわずかに変動するため、一律の換算ではなく「おおよその範囲」として捉えてください。
規範的データ(病期別FAC平均値)
亜急性期〜回復期の経時変化(Mehrholz, 2007)
発症30〜60日に非歩行(FACが平均0.44)だった脳卒中患者55名の、リハビリ期間中のFAC平均値の推移です。
| 時点 | FAC(平均±SD) | 10m歩行速度(m/s) | 6MWT距離(m) |
|---|---|---|---|
| ベースライン (発症30〜60日) | 0.44 ± 0.69 | 0.07 ± 0.14 | 15.9 ± 34.3 |
| 2週後 | 1.22 ± 1.32 | 0.19 ± 0.28 | 50.9 ± 81.1 |
| 4週後 | 1.98 ± 1.50 | 0.33 ± 0.46 | 83.9 ± 107.8 |
| 6か月後 | 2.79 ± 2.12 | 0.38 ± 0.51 | 112.3 ± 143.9 |
出典:Mehrholz J et al. Arch Phys Med Rehabil. 2007;88(10):1314-1319. PMID: 17908575
亜急性期FAC分布(Peters, 2023)
亜急性期脳卒中80名のうちFAC III以上の歩行可能群の分布
- FAC 3(監視歩行):30%(24名)
- FAC 4(平地自立):44%(35名)
- FAC 5(完全自立):26%(21名)
注:健常者ではFAC 5が原則。健常高齢者の規範データは性質上FAC 5に集中するため、本指標では健常群との比較ではなく、患者群内の歩行自立度の分布が臨床的な参考になります。
・「現在FAC 0でも諦めない」というメッセージを患者・家族に伝える根拠として活用できます
よくある測定ミス TOP5
FACはシンプルな指標ですが、以下のミスがあると信頼性・妥当性が低下します。
- 平行棒内歩行をFAC 1以上と判定する
原著(Holden, 1984)の定義では、平行棒内のみで歩行可能な患者は「平行棒外を安全に歩くために2人以上の介助が必要」に該当し、FAC 0と判定します。「歩けるからFAC 1」と誤判定する初学者が多いので注意してください。 - 階段・不整地評価をスキップしてFAC 5と判定する
平地歩行が完全自立でも、階段・斜面・不整地(屋外路面)での評価をしないとFAC 4とFAC 5の区別ができません。FAC 5を判定するには階段・不整地での歩行観察が必須です(Holden, 1984)。 - 補装具・歩行補助具の使用記録漏れ
FACは補装具・杖の使用を許可しますが、使用した補装具は必ず別途記録する必要があります。「装具なしでFAC 4」と「装具ありでFAC 4」では臨床的意味が大きく異なります。次回測定との比較や予後予測の精度に直結します。 - mFAC(7段階版)と原版FAC(6段階版)の混同
mFACはI〜VIIの7段階版で、Hong Kongや中国語圏で使われていますが原版とは別物です。論文・文献を読む際、本記事のカットオフ値(4週時点FAC≧4等)はすべて原版FAC(0〜5)に基づきます。mFACのIVと原版FAC 4は同じではない点に注意してください。 - FAC 4とFAC 5の境界判定のばらつき
慢性期高機能例では、検査者間信頼性が低下するという報告があります(Collen, 1990; κ=0.36)。「平地は完全に自立、階段は手すりがあれば自立」のような曖昧なケースで判断が分かれやすいので、施設内で「手すりを使えば自立とみなすか」等の運用ルールを統一しておきましょう。
FAC・10MWT・6MWT:どれを選ぶ?
脳卒中患者の歩行能力評価では、FAC・10m歩行試験(10MWT)・6分間歩行試験(6MWT)が代表的です。
それぞれ測定する側面が異なるため、目的に応じて使い分けます。
| 項目 | FAC | 10MWT | 6MWT |
|---|---|---|---|
| 測定対象 | 歩行自立度(介助量・監視レベル) | 歩行速度 | 歩行持久力 |
| スコア形式 | 0〜5の6段階順序尺度 | m/s(区間尺度) | m(区間尺度) |
| 所要時間 | 1〜5分(観察のみ) | 2〜5分 | 6分+準備 |
| 必要器具 | 平地・階段・不整地(特別な器具不要) | 10m歩行路、ストップウォッチ | 30m歩行路、ストップウォッチ |
| 非歩行患者の評価 | 可能(FAC 0、1、2を割り当て) | 不可(測定困難) | 不可(測定困難) |
| 予測妥当性 | 4週時FAC≧4で6か月後地域歩行をAUC 0.89で予測 | 慢性期で地域歩行レベルを予測(Fulk, 2017) | 無制限地域歩行を距離で予測 |
| 細かな変化の検出 | 苦手(順序尺度・天井効果あり) | 得意(MDC・MCID確立) | 得意(MDC・MCID確立) |
| 特に有用な場面 | 急性期〜亜急性期の歩行予後予測、非歩行例の評価 | 歩行速度の改善追跡、地域歩行レベルの判定 | 歩行持久力の評価、地域生活能力の予測 |
BRAINでの使い分け!
- 亜急性期で平地歩行自立(FAC 4)を達成した患者:10MWTで定量的な歩行速度を測定し、地域歩行レベル(0.4 m/s未満=家庭内、0.4〜0.8=限定的地域歩行、0.8以上=無制限地域歩行)を判定する
- 回復期〜慢性期で歩行能力の細かな変化を追う:10MWTと6MWTを併用し、MDC95を超える変化を「本当の改善」として判定する
- FAC単独で経時変化を追う場合は、亜急性期の数週間に絞り、慢性期では区間尺度の指標を主として用いる
BRAINアカデミーでは、FAC・10MWT・6MWTの使い分けに加え、エビデンスに基づくリハビリプログラムの立案やShared Decision Making(SDM)の実践まで、臨床で即使えるスキルを体系的に学べます。
「歩行自立度を数値化し、患者・家族に予後を説明するスキル」を深く学びたい方はぜひご覧ください。

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エビデンスに基づく脳卒中リハビリテーションを体系的・網羅的に学ぶ、3ヶ月間のオンライン学習プログラムです。①動画教材 ②課題 ③フィードバックを通じて、EBMを身に付けましょう!
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BRAINの臨床意思決定フロー(BRAINオリジナル)
ここまでの数値の読み方を解説してきましたが、臨床現場で本当に難しいのは「測ったあと、明日のリハビリで何をするか」です。
このセクションでは、BRAINがこの評価指標の結果をどのように臨床判断に翻訳しているかを共有します。
査読付き論文に基づく事実と、BRAIN内部の運用ルール(意見)を分けて記載します。
FACレベル別の介入方針の振り分けと、隣接レベルの差別化
事実
Holden MK(1984)の原著ではFAC 0〜5の6段階分類を提示。Mehrholz J(2007)は発症4週時点のFAC≧4が6か月後の地域歩行を予測する強力なカットオフであることを報告しています。
BRAINの判断!
BRAINではFACを単独の歩行能力指標としてではなく、「リハビリ目標を決定する戦略指標」として使います。
順序尺度のため、レベル間の差は質的な違いとして扱います。
- FAC 0〜1(高度)→ 重症度優先:リハビリ目標は「介助量の軽減」。歩行訓練は安全確保が第一
- FAC 2〜3(中等度)→ 構成要素優先:リハビリ目標は「監視レベルへの到達」。歩行の質と安全性を並行強化
- FAC 4〜5(軽度)→ 質優先:リハビリ目標は「地域歩行への適応」。不整地・段差・二重課題に挑戦
隣接レベル間の差別化(誤認しやすいポイント)
- FAC 2 vs 3 の境界 → 連続的介助 vs 監視だけでよいか。本人の安全感と転倒経験を併せて判断
- FAC 3 vs 4 の境界 → 平地のみ自立 vs 不整地・階段も自立か。実際に環境を変えて評価する必要
- FAC 4 vs 5 の境界 → 介助の有無のみで「完全自立」と判定するのは危険。歩行速度(>0.8 m/s)を併用評価
FACレベルの判定は順序尺度のため、必ず10MWT・6MWT・BBSを併用して定量データで裏付けます。
レベルが上がった/変わらなかった後の判断
事実
FACは順序尺度で粗いため、レベルが変わらない期間が長くても、内部の歩行能力(速度・距離・歩容)は改善している可能性があります。
Mehrholz J(2007)は急性期のFAC変化が予後予測の強力な因子であることを示しています。
BRAINの判断!
BRAINでは「FACレベルが上がった/変わらなかった」を二者択一で判断せず、定量指標(10m歩行・6MWT)と併用して3ステップで確認します。
2. 患者本人に「FACレベルが上がった意味」を生活場面で説明(例:「FAC 4になったので、屋外の段差も自分で越えられるレベルです」)
3. 次の介入で取り組む構成要素(速度・距離・耐久性)を10MWT・6MWTで確認
2. 10m歩行速度・6MWT距離・BBS総得点で定量的な変化を確認(FACが変わらなくても他指標が改善していれば意味のある変化)
3. 患者のGROCを聞く
4. 4週連続でFACも他指標も変化なし → 介入ターゲットを見直す
患者への結果説明(Shared Decision Making への接続)
事実
FACは患者・家族にとって最もわかりやすい「歩行レベル」の表現です。
BRAINの判断!
FACの結果を患者本人・家族に説明する際、BRAINは以下の運用ルールを守ります。
- レベルだけを伝えない。「FAC 3でした」ではなく「監視があれば歩けるレベルですが、平地のみで、段差や不整地では介助が必要です」と具体的な場面で言語化
- 生活シナリオと紐づける(例:「FAC 4に上がれば、屋外を1人で歩けるようになります」)
- 「次の4週でFAC 4を目指します。そのために段差・坂道での歩行訓練を集中的に行います」と具体目標で合意
- 家族同席で説明し、退院後の介助量・環境調整についても合意
BRAINで意図的に「やらない」5つの判断
事実と解釈の境界を明確にするため、BRAINではエビデンスが不十分な以下の判断を意図的に避けています。
これらは「絶対やってはいけない」のではなく、「現時点のエビデンスでは支持できないので、BRAINでは慎重を期して避けている」という運用ルールです。
エビデンスが蓄積されれば見直す可能性があります。
- FACだけで歩行能力を判定する → 順序尺度のため必ず10m歩行・6MWT・BBSを併用
- FAC 5を「完全自立」と短絡的に判定する → 歩行速度>0.8 m/sを併せて確認
- 実際の環境を変えずにFACレベルを判定する → 不整地・階段で実測しないとFAC 4と5の差別化はできない
- FACが変わらないことを「介入効果なし」と即断する → 10m歩行・6MWTで内部の改善を確認
- 発症早期のFAC値だけで予後を断定する → 発症4週時点が最も予測力が高い(Mehrholz, 2007)
FAC かんたん予後判定ツール
FAC かんたん予後判定ツール
現在のFACレベルと評価時期を選択すると、エビデンスに基づく歩行自立度の解釈・対応する歩行速度・予後の見込みを表示します。
※ この判定ツールは参考情報であり、臨床判断を代替するものではありません。患者個々の状態を総合的に評価してください。
※ カットオフ値・対応データの出典は記事本文の「カットオフ値・予後予測」セクションをご参照ください。
ワークショップ:臨床判断トレーニング
以下の症例を読んで、FACの判定や予後の説明をどうすべきか考えてみましょう。「回答を見る」をクリックすると解説が表示されます。
カテゴリ判定
回復期病院に入院中の脳卒中患者(68歳男性、発症2か月)。短下肢装具とT字杖を使用して、平地は10mを介助なしで歩行できるが、PTが「念のため」と背後で監視しており、患者からは「ちょっと不安だから見ていてほしい」との発言あり。階段昇降は手すりを使えば自力で可能だが、屋外の砂利道や段差では「怖いから手を貸してほしい」と訴える。FACは何点と判定すべきでしょうか?
回答:FAC 3(監視歩行)
判定の根拠:
- 平地歩行で身体接触の介助は必要としないが、安全のために近位監視が必要 → これはFAC 3(監視歩行)の定義に該当します(Holden, 1984)
- FAC 4(平地歩行自立)は「平地では自立して歩行が可能」が条件であり、監視が必要な時点ではFAC 4には至りません
- 不整地で介助が必要なのはFAC 4の人にも該当する条件のため、この情報だけではFAC 4とは判定できません
- 装具・杖の使用はFACのスコアには影響しませんが、必ず別途記録します
記録例:「FAC 3、装具:短下肢装具あり、補助具:T字杖」
予後予測の説明
回復期病棟に入院中の脳卒中患者(72歳女性、発症45日)。入院時はFAC 0だったが、リハビリ開始から4週時点でFAC 4まで改善した。家族から「6か月後にはどのくらい歩けるようになりますか?」と質問されました。エビデンスに基づき、どのように説明しますか?
回答:地域内歩行(屋外を含む実用的な歩行)獲得の可能性が極めて高いことを伝えてよい症例です。
説明の根拠:
- Mehrholz et al.(2007、PMID: 17908575)は、亜急性期脳卒中患者55名を対象に「リハビリ開始4週時点でFAC≧4の患者は、6か月後の地域内歩行獲得を感度100%・特異度78%・AUC 0.89で予測できる」と報告しています
- 感度100%は「偽陰性ゼロ」を意味し、4週時点でFAC≧4に到達した患者で6か月後に地域歩行を獲得できなかった人はいなかったという結果です
- 説明例:「現時点で平地は自立して歩けるレベルに到達されています。同様の経過をたどった患者さんを6か月追跡した研究では、ほぼ全員が屋外を含めた実用的な歩行を獲得されていました。階段や不整地での安全性を高めるリハビリを継続していきましょう」
- 注意:あくまで予測であり、合併症や転倒の発生などで予後は変わりうることも合わせて伝えましょう
急性期の予後判定
急性期病院に入院中の脳卒中患者(65歳男性、発症3日)。現在FAC 0で歩行不能だが、ベッドサイドで30秒間の座位保持は可能、麻痺側下肢のMotricity Index(下肢筋力)は陽性。家族から「リハビリ病院に転院した後、本当に歩けるようになりますか?」と聞かれました。どう答えますか?
回答:6か月後にFAC≧4(自立歩行)に到達する確率が98%と非常に高いことを伝えられます。
説明の根拠:
- Veerbeek et al.(2011、PMID: 21186329、EPOS研究、n=154)は、発症72時間以内の脳卒中患者で「座位30秒保持+麻痺側下肢筋力(Motricity Index)」が両方陽性なら、6か月後にFAC≧4に到達する確率は98%と報告しています
- このカットオフは現在の歩行能力ではなく「座位保持と下肢筋力」という単純な2項目の組み合わせで予後を予測できるのが特徴です
- 説明例:「現時点ではまだ歩けませんが、座って30秒以上保てること、麻痺側の足に力が入ること、この2つが揃っている方は、研究上では6か月後にほぼ全員(約98%)が自立して歩けるようになっています。リハビリ病院での集中的な訓練が効果を発揮しやすい状態です」
- 注意:研究はオランダの初発脳卒中コホートに基づくため、日本の臨床現場ではやや控えめに「高い確率で」と伝えるのが安全です
- もし両方陰性だった場合の確率は27%、9日目時点でも陰性なら10%。早期評価で「歩けない」と決めつけず、9日目で再評価することが重要です
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参考文献
- Holden MK, Gill KM, Magliozzi MR, Nathan J, Piehl-Baker L. Clinical gait assessment in the neurologically impaired. Reliability and meaningfulness. Phys Ther. 1984;64(1):35-40. PMID: 6691052
- Holden MK, Gill KM, Magliozzi MR. Gait assessment for neurologically impaired patients. Standards for outcome assessment. Phys Ther. 1986;66(10):1530-1539. PMID: 3763704
- Mehrholz J, Wagner K, Rutte K, Meissner D, Pohl M. Predictive validity and responsiveness of the functional ambulation category in hemiparetic patients after stroke. Arch Phys Med Rehabil. 2007;88(10):1314-1319. PMID: 17908575
- Veerbeek JM, Van Wegen EE, Harmeling-Van der Wel BC, Kwakkel G; EPOS Investigators. Is accurate prediction of gait in nonambulatory stroke patients possible within 72 hours poststroke? The EPOS study. Neurorehabil Neural Repair. 2011;25(3):268-274. PMID: 21186329
- Smith MC, Barber AP, Scrivener BJ, Stinear CM. Predicting Independent Walking After Stroke: R3-Walk and R6-Walk. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2024;33(4):107616. PMID: 38281578
- Peters DM, Cinnera AM, Brunelli S, Iosa M, Paolucci S, Morone G. Five-meter walking test and its derived parameters as predictors of community ambulation in subacute stroke survivors. Brain Sci. 2023;13(7):1089. PMID: 37509020
- Kollen B, Kwakkel G, Lindeman E. Time dependency of walking classification in stroke. Phys Ther. 2006;86(5):618-625. PMID: 16649886
- Collen FM, Wade DT, Bradshaw CM. Mobility after stroke: reliability of measures of impairment and disability. Int Disabil Stud. 1990;12(1):6-9. PMID: 2211468
- Lundquist CB, Brunner I. Measurement Properties of the Functional Ambulation Category Scale in Acquired Brain Injury. Arch Rehabil Res Clin Transl. 2024;5(4):100295. PMID: 37752874
- Thieme H, Morkisch N, Mehrholz J, Pohl M, Behrens J, Borgetto B, Dohle C. Mirror therapy for improving motor function after stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2018;7(7):CD008449. (※レビュー参照:FAC評価特性の最新エビデンス) PMID: 36743203
- Landis JR, Koch GG. The measurement of observer agreement for categorical data. Biometrics. 1977;33(1):159-174.
- Cohen J. Statistical Power Analysis for the Behavioral Sciences. 2nd ed. Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates; 1988.
この記事の内容は、BRAINアカデミーの講義資料および査読付き学術論文に基づいています。
最終更新:2026年4月

