脳卒中の患者さんは「手を使えるようになりたい」「手を動かせるようになりたい」と仰いますよね。

どの動作・行為の中で使えるようになりたいかは個人差がありますが、「動かせるようになりたい」「使えるようになりたい」と言う希望に向かってリハビリしていくことはとても多いかと思います。

リハビリをするにあたって、患者さんの希望や目標に向かって前進しているのかどうか、リハビリがうまくいっているのかどうかを効果判定をするために定期的な評価が必要です。

とはいえ、上肢の検査はたくさんありますよね。

SIAS、NIHSS、Stroke Impact Scale、BRS、ROM、筋出力、感覚検査、STEF、Box and Block test、Wolf Motor Function Test 、Modified Ashworth scale・・・挙げるとキリがありません。

今回は「どういう検査をすればいいの?」というPTOTの先生方のお悩みにお答えする内容になっています。

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脳卒中後の上肢リハビリで大事な3つの検査

結論ですが、大事なのはFugl-meyer assessmentの上肢項目(以下、FMAUE)、Action Research Arm Test(以下、ARAT)、Motor activity log(以下、MAL)の3つです。

実際に臨床で評価をするときには網羅的な検査が必要になりますのでこれだけでは足りないのですが、これらの検査はどの患者さんでも使用することになる可能性が高いと判断して、この3つを紹介させていただきます。

FMAUEは運動機能をみる検査です。

運動機能というのは、単純な手の動きや単関節運動、分離運動というイメージで良いかと思います。例えば、麻痺手を握る、開く、肩関節を屈曲して手を頭上へ上げていく、という運動を通して麻痺側上肢の運動機能を調べます。

ARATは運動パフォーマンスをみる検査です。運動パフォーマンスというのは、物品操作など複合的な上肢の動きというイメージで良いかと思います。例えば、麻痺手で物を持って、物を動かすとか。

3つ目のMotor Activity logは、日常生活で麻痺手をどれくらい、どのように使用しているかというのをみる検査です。

YouTubeのURLを貼り付けておくので、よかったらそちらから見てみてください。

FMAUE
https://www.youtube.com/watch?v=urWGkHl-k-4

ARAT
https://www.youtube.com/watch?v=tq1-fsZDiWo&t=64s

MAL
https://www.youtube.com/watch?v=w81C7OGaNh4

手を使えるようになる、について考える

ここで一旦、「手を使えるようになる」ということについて掘り下げて考えたいと思います。

例えば右片麻痺の患者さんでスプーンでご飯を食べられるようになりたいという患者さんがいたとします。

スプーンでご飯をすくって口に持っていくためにはテーブルの上のスプーンを拾う、持つ、ご飯を救う、すくったご飯が乗ったスプーンを口まで持っていく、という動作が必要になります。

あるいは、洗濯物を干せるようになりたいという患者さんがいたとします。

洗濯物を干すためには床に置いてある洗濯物を拾うための下方リーチ動作、洗濯物を掴むためのピンチ動作、物干し竿に洗濯物を干すための上方リーチ動作が必要になります。

つまり、日常生活動作というのは腕や手をの複合的な運動、例えばピンチをしながら上方リーチをしていくとか、ピンチをしながら肘を屈曲してご飯を口に運ぶといった運動がが必要になるということです。

この複合的な運動はよく運動パフォーマンスと言われますが、これをみることができるのがARATになります。

ARATは、Grasp(つかむ)、Grip(握る)、Pinch(つまむ)、Gross movement(粗大運動)の4種類19項目のテストで構成されています。

このテストを通して運動パフォーマンスを見ることが可能です。

そして、複合的な運動を構成しているのが単関節運動や分離運動です。

単関節運動は、手指を屈曲するとか、手関節を背屈・掌屈させるとか、肘関節を屈曲・伸展させるとか、肩関節を屈曲させるとか、そういう運動です。

関節運動の組み合わせで複合的な運動が作られます。

そして、単関節の運動や分離運動を見ることができるのがFMAUEになります。

3つ目のMotor Activity logは、日常生活で手をどれくらい使っているのか、どういう風に使っているかを見る検査になります。

脳卒中の患者さんでよくあるのができるレベルとしているレベルの乖離です。

ADLでもよく言われますが、麻痺惻上肢でもよくあります。

リハビリ室では手を使えるようになったのに日常生活では使われていないということがあります。

でもそれだと患者さんの目標の達成にはならないですよね。

患者さんはご飯を食べるときにスプーンを使って食べられるようになりたいと思っているのにリハビリの中だけでその動作ができてて、日常生活でスプーンを使ってご飯を食べられるようになっていなければ、リハビリの目標が達成されていないことになりますので、患者さんの目標が達成されたのかどうかを判断するために、できるレベルの動作がしているレベルになっているのかを評価する必要があります。

まとめると、できるレベルの検査としてARATとFMAUEをとり、しているレベルの検査としてMALをとる、というイメージになります。

定性的な評価も大事

慢性期の脳卒中患者さんとのリハビリを経験された先生には共感いただけると思うのですが、患者さんは日常生活で麻痺側の手を使わない方が結構いらっしゃいます。

重度運動障害の方であればわかるのですが、軽度の方でも麻痺側の手を使っていない方がいます。
できるレベルとしているレベルの乖離です。

このとき、運動に関することだけ検査をしていても問題解決に至りません。

なぜ日常生活で手が使われないのか、ということを考えていく必要があります。

よく患者さんが仰るのは「麻痺手を使うのは大変だから」です。

私たちは日常生活で何気なく両手動作をやっていますが、例えば右の腕に20kgの重錘をつけることをイメージしてみてください。

重錘をつけていてもリーチ動作をやれなくはないですが、パッと早く動作をしたいときとか、楽に動作をしたいときなんかは重錘をつけていない方を使いたくなりませんか?

それと同じで、患者さんも「手を使えるけど使わない」ということが起こります。

このときFMAUEやARATだけではここまで評価できないので、別に定性的な検査なども必要になります。

手の重さを聞いてみるとか、麻痺手に対する自己効力感(自信)を聞いてみるとか。

またちょっと話が変わりますが、運動機能についても単関節運動ができない原因として筋出力の問題なのか、ROMの問題なのか判断するために筋出力の検査やROMテストを行う必要があると思いますし、患者さんによっては痙縮や感覚の検査も必要になってくるとは思います。

そちらもまた別の記事でお伝えしようと思いますが、今回はどの患者さんにでも主要な検査になる可能性が高いものとしてFMAUE、ARAT、MALの紹介をさせていただきました。

脳卒中の上肢リハビリでどの検査を行うべきか?と悩んでいる方はFMAUE、ARAT、MALの利用を検討してみてください。

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