CI療法は、脳卒中患者さんの上肢リハビリとして世界的に知られています。
日本では脳卒中治療ガイドライン2021において、日常生活動作障害において推奨度B(行うことが妥当である)、上肢機能障害に対して推奨度A(行うよう勧められる)とされています。
ただ、CI療法は、どの患者さんに対しても行えるというものではありません。
CI療法には “適応基準” があり、この基準に一致しない患者さんには、一般的には行われません。
今回は、2015年のコクランレビューの情報を元に、CI療法の適応基準を紹介します。
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CI療法の適応 −論文で採用されている7種類の選択基準−
- 運動障害が軽度である
- 認知機能低下がない
- 半側空間無視や理解の問題がない
- 日常生活で麻痺手があまり使用されていない
- 歩行を含むバランスに問題がない
- 重度な痙縮がない
- 強い痛みがない
以下、詳細に解説します。
適応基準を解説
運動障害が軽度である
MP関節とIP関節10°伸展、手関節20°伸展させることができる(21/42件)
MP関節とIP関節10°伸展、手関節10°伸展させることができる(2/42件)
少なくとも2指のMP関節とIP関節10°伸展、手関節10°伸展、母指を10°外転/伸展させることができる(7/42件)
Brunnstrom Recovery StageでStageⅢ以上(5/42件)
その他、独自の基準で適応基準を設けている研究もありましたが、代表的な適応基準は上記の通りで差し支えないかと思います。
認知機能低下がない
Mini Mental State Examination(以下、MMSE)で24点以上、もしくは修正MMSEで70点以上(33/42件)
これはCI療法の研究に限らず、リハビリ研究では一般的に採用されている適応基準です。
認知機能の低下があり、セラピストとコミュニケーションを円滑にとることが難しい状態ですとリハビリ自体をうまく進行させることが難しいので、認知機能の低下が認められる場合は適応になりません。
半側空間無視や理解の問題がない
この適応基準も「認知機能低下がない」と同様の理由です。
42件中、14件の研究で採用されています。
明確な基準値は設けられておらず、担当者が問題ないと判断すれば適応可能です。
半側空間無視があったり、理解の問題があるとリハビリをうまく進めることができないので、CI療法の適応になりません。
日常生活で麻痺手があまり使用されていない
Motor Activity Log(以下、MAL) で2.5点以下(14/42件)
MALは脳卒中患者さんの麻痺手が日常生活でどれくらい使用されているかを測定する検査です。
MALには使用されている量をみるAmount of Use(以下、AOU)と動きの質をみるQuality of Movement(以下、QOM)の2つがあります。
検査項目ひとつひとつを評価していき、最後に平均点を出し、2.5点以下であるかどうか判断します。
歩行を含むバランスに問題がない
42件中、20件の研究で採用されています。
歩行やバランスの評価としてはFunctional Ambulation CategoryやBerg Balance Scaleなどがあります。
研究によってはこれらの評価指標の点数で判断する場合もありますが、基本的には担当者が問題ないと判断すれば問題ないようです。
重度な痙縮がない
Modified Ashworth Scale(以下、MAS)、もしくは修正MASで2以下(15/42件)
痙縮が強いとCI療法で行われる物品操作の課題などが行えなくなってしまうため、痙縮も適応基準に含まれています。
強い痛みがない
Visual Analog Scaleでの上肢の痛みの程度が4cm未満(14/42)件
肩の痛みや腕の痛みがあると運動を行いづらくなるため、痛みが強い患者さんは適応になりません。
以上、CI療法の適応基準を紹介しました。
CI療法の適応基準で難しいところは、電気刺激などと違って、「禁忌」ではないということです。
電気刺激においてはペースメーカーのある患者さんには使用してはいけない、という禁忌が存在します。
一方で、CI療法の適応基準は “禁忌” ではありません。
そのため、適応基準に合致していなかったらCI療法をしてはいけない、というものではありません。
ただ、合致しない場合CI療法がうまく進められず、期待した効果が得られない、という可能性がありますので、その点は患者さんに説明して差し上げながら意思決定を進めていただけたらと思います。
適応基準に満たない患者さんには他のリハビリが勧められる
CI療法は有名なリハビリですので、患者さんから「CI療法をやってほしい」と希望されることがあるかもしれません。
CI療法を実施する上では上記の適応基準がありますので、CI療法を行えるのかどうか、専門家として判断できるようになっておきたいですね。
また、適応基準に合致している患者さんは問題なくCI療法を行えますが、適応しない患者さんの場合はどうすれば良いでしょうか?
選択肢のひとつは、先述の通り、期待した効果が得られない可能性があることを説明した上でCI療法を進めていくということが挙げられます。
別の選択肢としては、CI療法ではなく他のリハビリを進めていくということが挙げられます。
後者の方が一般的です。
脳卒中後の上肢リハビリにはCI療法と同様に世界的にコンセンサスを得ているものがありますので、そちらを中心に進めていけば問題ありません。
例えば、CI療法の適応にならない重度運動障害を持つ患者さんに対しては、ミラーセラピーや電気刺激が適応可能です。
そういった他のリハビリを採用して勧めつつ、麻痺手の運動機能が向上してきたら、CI療法へ移行して行きます。
CI療法を実施するかどうかの判断に迷われた時の参考になれば嬉しいです。
まとめます。
● CI療法は脳卒中の上肢リハビリとして世界的にコンセンサスを得ている
● CI療法には7つの適応基準がある
● 適応基準に合致しない場合は電気刺激やミラーセラピーを実施する
参考文献
Corbetta D, Sirtori V, Castellini G, Moja L, Gatti R. Constraint-induced movement therapy for upper extremities in people with stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Oct 8;(10)