脳卒中のあと、手や腕がまったく動かなくなる「重度片麻痺」に悩む方は少なくありません。

多くの患者さんやご家族が、こう感じます。

  • 「最初から動かないなら、もう一生このままなのでは…」
  • 「リハビリをしても意味がないのでは…」

しかし、最近の研究を見ていくと、「重度でも改善の可能性があることを示すデータが世界中から集まっています。

今日は、その中でも代表的な3つの研究を紹介します。

情報の信頼性について
・本記事はBRAIN代表/理学療法士の針谷が執筆しています(執筆者情報は記事最下部)。
・本記事の情報は、信頼性の高い観察研究から得られたデータを引用しています。

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急性期〜回復期における重度片麻痺の回復

まずご紹介するのは、オーストラリアの研究です。

600人以上の脳卒中患者さんを対象にした大規模な調査で、そのうち「腕がほとんど動かない」という重度の方は226人いました。

研究の結果は次のとおりです。

  • 約7割の患者さんが、リハビリを続けることで「はっきりとした改善」を経験
  • 約半分の患者さんは、「重度」から「中等度以上」へと回復

「はっきりとした改善」については、論文の中で「Motor Assessment Scale 1レベル以上の改善」と定義されています。

イメージしやすくお伝えすると、「上向に寝た状態でも麻痺した腕を少し持ち上げるのがやっと」だった患者さんが「上向に寝た状態であれば麻痺した腕を天井へ向かって持ち上げ、麻痺した手で額を触れる」くらいに改善したことを示します。

これはつまり、「最初に手が全然動かなくても、諦める必要はない」という証拠です。

この変化が、脳卒中発症18日から60日くらいの1ヶ月半で生じたことが報告されています。

一般的には、急性期と回復期を合わせると入院期間は3〜5ヶ月くらいですから、入院中にさらによくなることが考えられます。

慢性期における重度片麻痺の回復

6ヶ月プラトー説

リハビリテーションの分野では、かつて「脳卒中の回復は6ヶ月で頭打ちになる」という考え方が広く信じられていました。これを「6ヶ月プラトー説」あるいは「6ヶ月の壁」などと呼びます。

この背景には、発症直後から半年間にかけて多くの患者さんに「自然回復」と呼ばれる改善が見られることがあります。

自然回復とは、リハビリをしなくても脳や身体の機能が一定程度戻ってくる現象で、この時期に特に大きな変化が起きやすいとされます。

そのため、6ヶ月を過ぎると回復は止まる、あるいは非常に小さくなると考えられてきました。

実際、教科書や臨床現場でも長くそのように説明されてきた歴史があります。

ただし、この「6ヶ月プラトー説」は、近年の研究では必ずしも正しいとは言えないことが分かってきています。

6ヶ月経過していても回復は起こる!

アメリカの研究をご紹介します。対象は「発症から半年以上経っている慢性期の患者さん」。つまり「もう良くならない」と言われやすい時期の方々です。

この研究では、1日5時間、週5日、合計300時間というとても集中的なリハビリを行いました。

結果は以下のとおりです。

  • 患者さんの腕や手の動きが大きく改善
  • しかも、その効果はリハビリをやめた3ヶ月後も維持されていた

これはとても重要な発見です。

「半年を過ぎたら回復しない」という定説を覆し、正しい方法で十分な量のリハビリをすれば、慢性期でも改善できることを証明しました。

とはいえ、現実的には1日5時間、週5回ものリハビリを受けるのは容易ではありません。

病院を退院されたあとのリハビリは

  • 医療保険による外来リハビリ
  • 介護保険による訪問看護リハビリ

がセラピストとのマンツーマンでリハビリを受けられる一般的な機会です。

ただし、これらの保険制度下のリハビリでは1日あたり40〜60分、週2〜3回までしか行えません。

そこで、自費リハビリ自主トレーニングが有用な選択肢になります。

自費リハビリは保険が使えず、自己負担額が高いというデメリットがありますが、マンツーマンリハビリを無制限に受けることが可能です。

自費リハビリ施設の選び方について知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

自費リハビリの利用が難しい場合は、外来リハビリや訪問看護リハビリに自主トレーニングを加えて対応しましょう。

また、重度片麻痺に対しては科学的に有効性が示されたリハビリ方法があります。

リハビリをする場合は、基本的にはこれらの中からどのリハビリを行うか選択していただいた方がよいでしょう。

詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

“回復しない” と断言することはできない

最後に台湾の研究をご紹介します。重度の片麻痺を持つ140人の患者さんを調べて、「どんな人が回復するのか」を予測しようとしたものです。

年齢や脳卒中の病巣の大きさなど、19もの指標を使い、「年齢が高いと回復しづらい」「病巣が小さいと回復しやすい」などの見解を導き出そうとしました。

ところが、結果として、「この人は回復する、この人は難しい」と、はっきり予測できる要因は見つからなかったのです。

つまり、高齢でも大きく回復する患者さんもいるし、病巣が大きくても大きく回復する患者さんもいるということであり、「回復しないと決まっている人はいない」ということです。

研究者たちは「回復の可能性は一人ひとり違い、”この患者さんは回復しない” と事前に線を引くことはできない」と結論づけています。

まとめ:あなたの努力は必ず意味がある

3つの研究からわかることは

  • 発症直後の重度片麻痺でも、多くの方が改善できる
  • 半年をすぎても、リハビリ次第で回復する可能性がある
  • “よくならない”なんて決めつけられない

ということです。

ですから、「もう無理」とあきらめる必要はありません。

どんなに小さな進歩でも、それはあなた自身の努力の証であり、日常生活を少しずつ変える大切な一歩です。

あなたの重度片麻痺が回復しないと決まったわけではありません。

リハビリを続けることで、まだ眠っている回復の力が目を覚ますかもしれません。

医師やセラピストと相談しながら、あなたに合ったリハビリを進めてください。

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参考文献

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Daly JJ, McCabe JP, Holcomb J, Monkiewicz M, Gansen J, Pundik S. Long-Dose Intensive Therapy Is Necessary for Strong, Clinically Significant, Upper Limb Functional Gains and Retained Gains in Severe/Moderate Chronic Stroke. Neurorehabil Neural Repair. 2019 Jul;33(7):523-537. doi: 10.1177/1545968319846120. Epub 2019 May 25. PMID: 31131743; PMCID: PMC6625035.

Koh CL, Pan SL, Jeng JS, Chen BB, Wang YH, Hsueh IP, Hsieh CL. Predicting recovery of voluntary upper extremity movement in subacute stroke patients with severe upper extremity paresis. PLoS One. 2015 May 14;10(5):e0126857. doi: 10.1371/journal.pone.0126857. PMID: 25973919; PMCID: PMC4431803.