こんな質問をいただきました。

「訪問リハビリをやっていますが、訪問ではトレッドミルやミラーセラピーなどのエビデンスのあるリハビリを実施できません。

訪問リハビリでエビデンスに基づくリハビリを行うためにはどうすればいいでしょうか?」

たしかに、訪問リハビリというリハビリの選択肢が制限された環境ではエビデンスに基づくリハビリテーションを行う上で悩みが多いと思います。

大学病院とか、研究が盛んな施設では機器が多くてリハビリの選択肢も多いと思いますし、病院や施設さんの理解も得られやすいと思います。

そういう意味ではそういった病院・施設さんの方が資源が豊富だとは思います。

一方、訪問リハビリというのはセラピストの身体ひとつでリハビリを行うことになりますので、たしかに資源が乏しい環境だと思います。

とは言え、制限された環境でもEvidence Based Practiceは可能です。

今回はこちらのご質問に答える形で話題提供させていただこうと思います。

”エビデンスがレベルが高いリハビリを行えばいい” は誤解

まず大前提として、”エビデンスレベルが高いリハビリを行えばいい” は誤解です。

Evidence Based Health Careには、4つの要素があります。

それは、次の通りです。

①利用可能な最善のエビデンス
②患者さんの価値観
③臨床家の経験
④資源

理想的には、患者さんの価値観を聴取した上でエビデンスレベルの高いリハビリを常に行えたらいいのだと思いますが、実際、そう簡単には行きません。

例えば、CI療法は脳卒中後の上肢リハビリとしてコンセンサスを得ていますが、1回あたり5〜6時間を要することから、日本の多くの病院・施設では実施困難です。

また、トレッドミルは歩行能力の向上に有効なリハビリですが、トレッドミルがない施設や訪問リハビリでは実施困難です。

また、これらの機器が揃っている病院だったとしても、そもそも患者さんがそういったリハビリを望まなければ、実施困難になります。

ですのでこれら4つの要素を踏まえた上で、トータルでどのリハビリが患者さんにとって最善か、というのを考えていきます。

ちなみに、現在、Evidence Based Medicine で最も大事なのは「患者さんの価値観」とされています。

4つの要素の中に「利用可能な最善のエビデンス」が含まれていますが、エビデンスよりも患者さんの価値観の方が大事です。

また、訪問リハビリでは4つ目の要素である「資源」の問題が大きいのではないかと思います。

資源というのは時間的な資源(リハビリ時間など)も、環境的な資源(リハビリ機器の豊富さなど)などが含まれます。

訪問リハビリは、60分/回、週2回もしくは40分/回、週3回が基本になると思うので、こういった時間の資源における制約があります。

バイタルチェックを行う時間もあるので、リハビリの実質的な時間はもう少し少なくなると思われます。

また、訪問リハビリではリハビリ機器の資源も少ないです。

機器を持ち歩くことが難しいので、行えたとしても電気刺激くらいではないかと思います。

したがって、介護保険の時間の制約の中ではCI療法を行うこともできないですし、機器がないのでトレッドミルトレーニングを行うこともできません。

ですので、患者さんの自宅という限られた資源の中でリハビリを実施して行くことになります。

ここで冒頭の説明に戻りますが、CI療法やトレッドミルのようにエビデンスレベルの高い報告があるリハビリをやる=EBP、ではない、ということです。

4つの要素を加味した上で何が最善か決めていきますので、訪問リハビリのように資源の制約がある場合は、制約された資源の中で利用可能な最善のエビデンスを選択し、患者さんの価値観、臨床家の経験と照らし合わせて最善を決めていきます。

ですので、訪問リハビリでは、EBPの文脈の中で平地歩行練習を行うこともありますし、あるいは身体に触れるリハビリをせず、ホームエクササイズの管理を行うこともあります。

それでも上記4つの要素を加味して患者さんと一緒に決めたリハビリであれば、立派なEBPです。

これに関連して、エビデンスレベルの低いリハビリに対する意見、考え方についてひとつ紹介したいと思います。

“実は有効だけどまだエビデンスが確立されていないリハビリ” がある

“エビデンスレベルが低いリハビリ=悪” ではない、というのは大事なポイントだと思います。

まだコンセンサスは得られていないものの、実は有効であるリハビリ方法というのがあります。

例えばCI療法は現在、世界的に有効性についてコンセンサスが得られていますし、脳卒中治療ガイドライン2015でも上肢機能障害に対するリハビリテーションのところで、唯一、推奨グレードAになっています。

ですが、CI療法が提唱され始めて間もなかった頃は、当たり前ですが現在のようにコンセンサスを得ていませんでした。

エビデンスレベルの低い報告から始まり、徐々にエビデンスが集積していって現在の地位を確立したわけです。

CI療法は一例ですが、このように、実は有効だけどまだエビデンスが確立されていないリハビリ、というのが存在します。

この時、エビデンスが豊富にあるような、”コンセンサスが得られているリハビリしかやらない” となると、患者さんにとって本来有益であるリハビリを選択肢から外してしまうことになります。

ですので、エビデンスレベルが低い報告しかないリハビリだったとしても、臨床家の経験などを踏まえて、リハビリの選択肢に含めることは決して間違ったことではありません。

「EBPってガイドラインに載っているリハビリをやるものでしょ」というのはよくある誤解ですが、決してそんなことはないです。

基本的に患者さんのために行うものであって、患者さんのアウトカムの改善を促せるのであれば、エビデンスレベルが低いリハビリであっても、4つの要素を踏まえた上で実施していくのは全然問題ありません。

まとめると、“実は有効だけどまだエビデンスが確立されていないリハビリ” があるので、コンセンサスを得たリハビリしかやらない、というのは避けましょう、ということです。

全ては患者さんのために

EBPというのは ”エビデンス” に焦点が当たりがちで、エビデンスを使う考え方、というイメージが強いと思います。

それは間違いではないのですが、基本的にEBPは患者さんのために行われるものです。

患者さんに対して最善の結果をもたらす可能性を高めることを目的に行うのがEBPであって、エビデンスレベルが高いリハビリを行うということを目的にしてしまうのはEBPの本来の目的からずれてしまっています。

患者さんが最大限よくなるのであれば、あるいは患者さんの価値観を優先して、エビデンスレベルが高くないリハビリを行なっても全然問題ないです。

訪問リハビリなど、資源が限られた環境ではリハビリの選択肢が少なくなってしまうのは止むを得ないですが、その中で最善のリハビリを患者さんとコミュニケーションをとりながら決めていく、というのが大事なプロセスになると思います。

こういう風に、誰でも、どの環境でもEBPは可能なので、患者さんのためになることですし、EBPは現実的じゃないなと思っている先生もぜひ一度勉強するというか、足を踏み入れてみてもいいんじゃないかなと思います。

本日は「”エビデンスがレベルが高いリハビリを行えばいい” という誤解」というテーマでお話しさせていただきました。

BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。

2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!