本日のテーマは「英語論文を読めるようになるための4つのステップ Part.2〜ランダム化比較試験と観察研究編〜」です。
昨日までのおさらいをさせていただきます。
英語論文を読めるようになるための4つのステップとして、「自分が知りたい情報を臨床疑問として整理する」、「情報を得るためにどの英語論文を読むか決める」、「英語論文の中のどの情報を得るべきか知る」、「ひたすら読み続ける」を紹介させていただきました。
前回まで、ステップ1「自分が知りたい情報を臨床疑問として整理する」とステップ2「情報を得るためにどの英語論文を読むか決める」の半分を紹介させていただきました。
今回はステップ2「情報を得るためにどの英語論文を読むか決める」の残り半分を紹介させていただきます。
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ランダム化比較試験の解説
ランダム化比較試験は、介入研究のひとつです。
これは治療の効果について調べるときに使われることが多く、Foreground Questionの解決のために使用されることが多いです。
例えば、「脳卒中患者さんの歩行の自立度を上げたいけど、ストレッチをするよりもトレッドミルトレーニングをやった方がいいのかな?」という前景疑問(Foreground Question)を、次のようにPICOに直しました。
P: 脳卒中患者さん
I: トレッドミルトレーニング
C: ストレッチ
O: 歩行の自立度
こういうタイプの疑問を解決するとき、ランダム化比較試験はとても役に立ちます。
ランダム化比較試験について簡単に説明させていただきます。
先にお伝えした通り、これは治療の効果について調べるときに使われることが多く、リハビリAとリハビリBの効果を比較したいときによく行われます。
脳卒中の患者さんへのトレッドミルの効果を検証するランダム化比較試験を例に挙げて研究の流れを説明します。
まず、脳卒中の患者さんを100人集めます。
その100人を、50人ずつ、2つのグループに分けます。
グループAとグループBです。
その後、患者さんの評価を行います。
現状の身体機能(足がどれくらい動くか、歩行の自立度はどれくらいかなど)について事前に評価しておきます。
そして、グループAの患者さんにはトレッドミルトレーニングを、グループBの患者さんにはストレッチを実施します。
トレッドミルトレーニングもストレッチも、どちらも1回30分、週5回、3ヶ月実施します。
3ヶ月後、また評価を行います。
3ヶ月後の身体機能(足がどれくらい動くか、歩行の自立度はどれくらいかなど)が、3ヶ月前と比べてどれくらい良くなったか、という事後の評価を行います。
この3ヶ月後の身体機能ー3ヶ月前の身体機能(研究開始時の身体機能)の差分が変化した量です。
変化した量がトレッドミルトレーニングを受けた人の方が大きかったのか、ストレッチを受けた患者さんの方が大きかったのかを統計解析を使って調べます。
ざっくりとした説明ですが、これがランダム化比較試験です。
繰り返しになりますが、リハビリの効果を調べるために使われることが多い研究なので、Foreground Questionの解決のために使われることが多いです。
そして、特定のリハビリの効果について知りたい時に読まれることが多いです。
コホート研究の解説
コホート研究は、観察研究のひとつです。
ある時点からある時点まで患者さんを追跡し、特定の疾患や症状の要因などを調べる時によく使われます。
例えば、脳卒中後の痙縮を引き起こす要因について1年間患者さんを追跡して検証したコホート研究の例を挙げます。
まず、研究者は、脳卒中発症直後の重度運動麻痺があると痙縮を引き起こす、という仮説を立てました。
その仮説を検証するためにコホート研究を使います。
まず発症直後の脳卒中患者さん100人を集めます。
100人のうち、発症直後に重度運動麻痺がある患者さん50名を重度運動麻痺があるグループ、重度運動麻痺がない患者さんを重度運動麻痺がないグループとして分けます。
その後1年間患者さんを追跡し、両グループの患者さんに対して1年後の痙縮の状態を評価します。
重度運動麻痺があるグループの方が、重度運動麻痺がないグループと比べて痙縮の発症率や重症度が高いのかどうかを統計解析をして判断します。
これをPECOに直すと次の通りになります。
P: 脳卒中患者さん
E: 発症直後に重度運動麻痺がある人
C: 発症直後に重度運動麻痺がない人
O: 痙縮の発症率(や重症度)
コホート研究はPECOに直すことができるので、コホート研究はForeground Questionの解決をする時に使用します。
そして、症状や疾患の要因を知りたい、経過を知りたい時に読まれることが多いです。
横断研究の解説
横断研究も、観察研究のひとつです。
コホート研究は、ある時点からある時点まで患者さんを追跡するという長期間にわたる研究ですが、横断研究はその時点のみの研究です。
治療効果を調べるというよりも、何かしらの “特性”を調べるために使われることが多いです。
例えば、麻痺側上肢の重症度と麻痺側上肢の使用量について調べた横断研究の例を挙げます。
まず、研究者は、麻痺側上肢に重度な運動障害を有する人ほど、日常生活で麻痺側上肢を使っていない、という仮説を立てました。
その仮説を検証するために横断研究を使います。
まず脳卒中患者さん100人を集めます。
100人を、重度の運動障害がある患者さん50人、重度の運動障害がない患者さん50人、に分けます。
その患者さんたちの麻痺側上肢の日常生活での使用頻度を調べます。
ちなみに最近では腕につける加速度計を使って使用の記録を取り、分析することが多いようです。
その後、全ての患者さんのデータを分析し、運動障害の重症度と麻痺側上肢の日常生活での使用頻度について関係があるかどうか統計解析を使って確認します。
これをPECOに直すと次の通りになります。
P: 脳卒中患者さん
E: 重度運動麻痺がある人
C: 重度運動麻痺がない人
O: 麻痺側上肢の使用頻度
横断研究もPECOに直すことができるので、横断研究はForeground Questionの解決をする時に使用します。
そして、症状や疾患の特性を知りたい、検査との関係性を知りたい時に読まれることが多いです。
ケーススタディ・ケースシリーズの解説
ケーススタディ・ケースシリーズも、観察研究のひとつです。
コホート研究や横断研究は、大勢の患者さんを対象にして行いますが、ケーススタディはひとりの患者さん、ケースシリーズは2〜3人の患者さんを対象に行われることが多いです。
ケーススタディはいわゆる症例発表であり、実習の時に経験するものと同じです。
ただし、研究論文として出版されているケーススタディは論理的にしっかりしたものばかりです。
基本的には希少疾患を持つ患者さんの経過を報告したり、希少疾患でなかったとしても特異的な経過を示した患者さんの経過を報告することに使われることが多いです。
ケーススタディは一人の患者さんを対象にするデザインの都合上、Comparison(比較)をセッティングすることができません。
ケースシリーズは2〜3人の患者さんの経過報告を行いますが、ケーススタディと同様、Comparison(比較)をセッティングすることができません。
PICOに直すと次のようになります。
P: 脳卒中患者さん
I: トレッドミルトレーニング
C: なし
O: 歩行自立度
ケーススタディ・ケースシリーズはForeground Questionの解決をする時にもBackground Questionの解決をする時にも使用します。
そして、希少疾患や症状の経過を知りたい時に読まれることが多いです。
まとめ
それではまとめに入ります。
Background Questionの解決に向いている
・総説論文
Foreground Questionの解決に向いている
・システマティックレビュー
・ランダム化比較試験
・コホート研究
・横断研究
・ケーススタディやケースシリーズ
ただし、どちらかしか解決できないということはありません。
例えば、システマティックレビューを読んでBackground Questionが解決することもあります。
また、Foreground Questionの種類によって次のように向いている研究デザインを選ぶことができます。
リハビリの効果を知りたい
→ランダム化比較試験
症状や疾患の要因を知りたい、経過を知りたい
→コホート研究
症状や疾患の特性を知りたい、検査との関係性を知りたい
→横断研究
希少疾患や症状の経過を知りたい
→ケーススタディやケースシリーズ
このように、臨床疑問に合わせてどの論文を読むかを選べるようになると、適切な英語論文を選択できるようになります!
今回は「英語論文を読めるようになるための4つのステップ Part.2 〜ランダム化比較試験と観察研究編〜」というテーマでお話しさせていただきました。
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2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月ごろから開始する予定です。
ご興味がある方はよかったら覗いてみてください。
それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!ありがとうございました!