最近、嚥下障害に関するシステマティックレビューをいくつか読んでいたのですが、ある論文ではこう言っているのに、もう一方の論文では違うことを言っている、というケースがありました。
具体的には、2018年の嚥下障害に対する介入方法について調査したコクランレビューでは表面神経筋電気刺激(NMES)と反復経頭蓋磁器刺激(rTMS)の有効性については否定的であるのに対し、他のシステマティックレビューでは、NMESとrTMSの有効性に対し肯定的だった、というケースです。
システマティックレビューはエビデンス・ピラミッドで言うと最高峰に位置している研究デザインなので、システマティックレビューの情報を頼りにする人も多いのではないかと思います。
でも、このように “複数のシステマティックレビューで結果・結論が異なっている” 場合、解釈に困ってしまいますよね。
実は、こういうケースは嚥下障害の領域に限らず、他の領域でもよくあります。
今回は、システマティックレビューで結果が異なる時に確認すべきポイントについて紹介します。
システマティックレビューで結果が異なるとき確認すべきポイント
早速、ポイントを紹介します。
①PICOS
②言語バイアス
③最終検索日
④データベース
システマティックレビューの結果が異なる、と言うのはシステマティックレビューに取り込まれた研究が異なるから、なのですが、基本的に上記の理由によって取り込まれる研究が違ってきます。
ですので、これらのポイントを確認し、なぜ取り込まれた研究が異なるのかを把握するのが大事です。
PICOSとシステマティックレビューについて解説
PICOSというのは、Patients(患者)、Intervention(介入)、Comparison(比較)、Outcome(アウトカム)、Study Design(研究デザイン)の5つの用語の頭文字をとったものです。
システマティックレビューを通して、著者が何を知りたいのかによって、このPICOSが変わってきます。
そもそもシステマティックレビューがどういう研究なのか、について簡単に解説します。
システマティックレビューは、特定のテーマについて世界中のエビデンスを体系的・網羅的に収集する研究です。
他の研究デザイン(例えばランダム化比較試験やコホート研究)と違って、対象が患者さんではなく、文献なのが特徴です。
世界中の研究論文を集めてきて、それぞれの研究でどういう結果が報告されているのかをまとめて、ひとつの結論を導き出す、というものです。
システマティックレビューも、ランダム化比較試験などの患者さんを対象にする研究と同様に、取り込み基準と除外基準を設定します。
ヒトを対象にする研究であれば、発症6ヶ月以上の脳卒中患者さんとか、18歳以上の人とか、既往歴がない人、という基準の設定が行われます。
一方で、文献を対象にするシステマティックレビューでは「対象にする研究はランダム化比較試験のみにする」とか「発症6ヶ月以降の患者さんを対象にした研究に限定する」とか「歩行練習といっても免荷装置を使ったものは除く」とか「歩行速度について調べた研究は取り込み対象になるが、運動学的パラメータ(ステップ長とかケイデンスとか)しか調べていない研究は除外する」、のように設定します。
ランダム化比較試験などのヒトを対象にする研究では、よくPICOに要約できると言いますが、システマティックレビューではPICOSに要約します。
PICOSは繰り返しになりますが、Patients(患者)、Intervention(介入)、Comparison(比較)、Outcome(アウトカム)、Study Design(研究デザイン)の5つです。
PICOSは著者がどのように設定するかで変わりますし、このPICOSが違うと取り込まれる研究も異なってくるので、システマティックレビューの結果が変わってきます。
これによって、こちらのシステマティックレビューではこう言っているのに別のシステマティックレビューでは違うことを言っている、ということが生じます。
例えば、「脳卒中患者さんに対する歩行練習は効果があるのか?」というテーマのシステマティックレビューを例に出して紹介します。
著者が「慢性期の脳卒中患者さんに対する歩行練習の効果を知りたい」と思ったときはPICOSのP、Patientsを「慢性期脳卒中患者(発症6ヶ月以降)」、と設定するでしょう。
一方、著者が「急性期の脳卒中患者さんに対する歩行練習の効果を知りたい」と思ったときはPICOSのP、Patientsを「急性期脳卒中患者(発症1ヶ月以内)」、と設定するでしょう。
これによって、前者では「慢性期の脳卒中患者さんを対象にした研究」が取り込まれ、まとめられ、システマティックレビューの結果・結論が導き出されることになりますが、後者では「急性期の脳卒中患者さんを対象にした研究」が取り込まれ、まとめられ、システマティックレビューの結果・結論が導き出されることになります。
もし歩行練習が慢性期の患者さんには効果があるものの、急性期の患者さんには効果があるとは言えない、というものだった場合、前者のシステマティックレビューでは「歩行練習は有効だった」と報告されるのに対し、後者のシステマティックレビューでは「歩行練習は有効であるとは言えない」と報告されるでしょう。
このようにしてシステマティックレビューの結果の違いが生まれます。
システマティックレビューの結果が異なる、という場合はまずPICOSの確認をしてみてください!
本日は「システマティックレビューで結果が異なるとき確認すべきポイント〜PICOS〜」というテーマでお話しさせていただきました。
BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。
2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。
ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。
それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!