私たち医療従事者が医学文献を検索するときは、基本的にはPubMedを使うべきです。

Google Scholarを推している人の中には、『Google Scholarで検索すればPubMedの検索結果も合わせて表示されるのだから、Google Scholarの方が広い文献検索ができるのでは?』という考えがあると思います。

実際、私も経験3〜4年目の頃はそう思っていました。

たしかにGoogle Scholarの検索結果にはPubMedの検索結果も含まれます。

しかし、そういったメリットがあってもPubMedを使った方がよいです。

今回は、Google ScholarよりもPubMedを使うべき3つの理由を詳しく解説します。

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Google ScholarよりもPubMedを使うべき3つの理由

3つの理由は以下の通りです。

  • MeSH検索が使える
  • 検索フィルターが豊富
  • 質が低いジャーナルや文献がない

詳しく解説します。

理由① MeSH検索が使える

PubMedを使うべき理由の1つ目は、『MeSH検索が使える』ことです。

MeSHとは?

MeSH(Medical Subject Headings)は、PubMedやMEDLINEで使用される医学用語の統制語彙です。

難しい説明ですが、ざっくり説明すると、InstagramやXなどのSNSで使われるハッシュタグのようなものです。

図 MeSHはハッシュタグ

みなさんもSNSで何か投稿をするとき、ハッシュタグをつけることがあると思います。

ハッシュタグをつけることによって、『この投稿は○○に関するものです』ということがSNSのシステムに伝わり、誰かがそのキーワードで検索したときに投稿がヒットしやすくなります。

これを文献に対して行っているのがPubMedやMEDLINEのMeSHです。

文献に対しMeSHをつけることによって、『この文献は○○に関するものです』ということが検索システムに伝わり、誰かがそのキーワードで検索したときに文献がヒットするようになります。

MeSH検索とは?

MeSH検索とは、PubMedやMEDLINEなどのデータベースで、MeSHを使って文献を検索する方法です。

文献ひとつひとつにMeSHがつけられています。

文献検索をするとき、『このMeSH用語で検索してください』とPubMedに指示をすると、そのMeSHがつけられた文献をヒットさせてくれます。

図 MeSH検索

MeSH検索の利点は『検索したときに抜け漏れが少なくなる』ことです。

例えば、脳卒中に関する文献を調べたいとき、『脳卒中』というキーワードで検索をしますよね。

ですが、文献には『脳卒中』という用語が使われているものもあれば、『脳出血』や『脳梗塞』という用語が使われているものもあります。

図 脳卒中以外の用語で文中の記載がある場合、ヒットしない

もし、自分の欲しい情報が『脳梗塞』という用語を使った文献にあった場合、『脳卒中』で検索をするとこの文献に出会えなくなってしまい、自分の欲しい情報が手に入らなくなってしまいます。

そこで、検索をするときには『(脳卒中 OR 脳出血 OR 脳梗塞)』のように、同義語や類義語をORでつないで検索する必要があります。

図 網羅的な検索には網羅的な検索式が必要

ちなみに、脳卒中の同義語や類義語はこれだけではないため、とても多くの用語を検索式に含める必要があります。

(”Strokes” OR “Cerebrovascular Accident” OR “Cerebrovascular Accidents” OR “Cerebral Stroke” OR “Cerebral Strokes” OR “Stroke, Cerebral” OR “Strokes, Cerebral” OR “Cerebrovascular Apoplexy” OR “Apoplexy, Cerebrovascular” OR “Vascular Accident, Brain” OR “Brain Vascular Accident” OR “Brain Vascular Accidents” OR “Vascular Accidents, Brain” OR “Cerebrovascular Stroke” OR “Cerebrovascular Strokes” OR “Stroke, Cerebrovascular” OR “Strokes, Cerebrovascular” OR “Apoplexy” OR “CVA (Cerebrovascular Accident)” OR “CVAs (Cerebrovascular Accident)” OR “Stroke, Acute” OR “Acute Stroke” OR “Acute Strokes” OR “Strokes, Acute” OR “Cerebrovascular Accident, Acute” OR “Acute Cerebrovascular Accident” OR “Acute Cerebrovascular Accidents” OR “Cerebrovascular Accidents, Acute” OR “Brain Infarctions” OR “Infarction, Brain” OR “Infarctions, Brain” OR “Brain Infarct” OR “Brain Infarcts” OR “Infarct, Brain” OR “Infarcts, Brain” OR “Venous Infarction, Brain” OR “Brain Venous Infarction” OR “Brain Venous Infarctions” OR “Infarction, Brain Venous” OR “Infarctions, Brain Venous” OR “Venous Infarctions, Brain” OR “Brain Infarction, Venous” OR “Brain Infarctions, Venous” OR “Infarctions, Venous Brain” OR “Infarction, Venous Brain” OR “Venous Brain Infarction” OR “Venous Brain Infarctions” OR “Anterior Cerebral Circulation Infarction” OR “Infarction, Anterior Cerebral Circulation” OR “Anterior Circulation Brain Infarction” OR “Anterior Circulation Infarction, Brain” OR “Brain Infarction, Anterior Circulation” OR “Infarction, Anterior Circulation, Brain” OR “Infarction, Brain, Anterior Circulation” OR “Brain Infarction, Posterior Circulation” OR “Posterior Circulation Brain Infarction” OR “Posterior Circulation Infarction, Brain” OR “Infarction, Brain, Posterior Circulation” OR “Infarction, Posterior Circulation, Brain” OR “Hemorrhagic Strokes” OR “Stroke, Hemorrhagic” OR “Intracerebral Hemorrhagic Stroke” OR “Hemorrhagic Stroke, Intracerebral” OR “Intracerebral Hemorrhagic Strokes” OR “Stroke, Intracerebral Hemorrhagic” OR “Intracerebral Hemorrhage Stroke” OR “Hemorrhage Stroke, Intracerebral” OR “Intracerebral Hemorrhage Strokes” OR “Stroke, Intracerebral Hemorrhage” OR “Subarachnoid Hemorrhagic Stroke” OR “Hemorrhagic Stroke, Subarachnoid” OR “Stroke, Subarachnoid Hemorrhagic” OR “Subarachnoid Hemorrhagic Strokes”)

上記は一例ですが、『脳卒中』についてしっかり調べようとすると、このような検索式が必要になります。

実際の検索式はもっと長くなる
上記は『脳卒中』の同義語・類義語・関連語の一部です。これらの用語を網羅しようとするともっと長い検索式になりますが、今回はページの都合上、割愛しました。

つまり、Google Scholarで脳卒中について調べようとするなら、本来はこのような検索式を作らないといけないということです。

『Stroke』のように1単語だけで調べると、抜け漏れだらけになります。

でも、こんなにたくさんの類義語や関連語、同義語を調べて整理するのは大変ですよね。

PubMedのMeSH検索なら、たった1語でこの検索式と同じ検索をすることができます。

“Stroke”[MeSH]

です。

上述の通り、PubMedでは、関係者の方々がStrokeに関する文献には“Stroke”[MeSH]というMeSH(SNSでいうハッシュタグ)をつけています。

そして、“Stroke”[MeSH]で調べると、『Strokes』という用語が用いられている文献も、『Cerebrovascular Accident』という用語が用いられている文献も、『Brain Infarctions』という用語が用いられている文献も、『Hemorrhagic Strokes』という用語が用いられている文献も、すべて丸ごと検索してくれます。

便利ですよね。

これがGoogle ScholarよりもPubMedで検索すべき一番大きな理由です。

文献検索における抜け漏れを最小化し、自分の臨床に必要な情報を入手しやすくなります。

MeSH検索には『余計な文献をヒットさせない』という役割もある
今回は『MeSH検索によって検索の抜け漏れを少なくする』に焦点を当てて説明しましたが、実はもうひとつ、『余計な文献をヒットさせない』という役割もあります。例えば、Strokeには『脳卒中』という意味以外に『打つ』という意味もあります。また、人名としてのStrokeもあります(”Stroke博士”のような)。このため、Strokeで検索すると、Stroke博士が執筆した脳卒中とはまったく関係のない文献がヒットしたり、文献の中に『打つ』という動詞としてStrokeが使われている動物研究などがヒットしたりします。しかし、MeSHとしてのStrokeは、脳卒中に関連する文献に付与されるものなので、Stroke博士が執筆した脳卒中と関係のない文献や、動詞としてのStrokeが文中に使われている脳卒中と無関係の文献には付与されていません。このため、”Stroke”[MeSH]で検索すると、脳卒中と関係のない文献は除外され、脳卒中に関連する文献だけがヒットしてくれます。

理由② 検索フィルターが豊富

Google ScholarよりもPubMedを使うべき理由の2つ目は、『検索フィルターが豊富』です。

検索フィルターが充実している方がよい理由

検索フィルターが充実している方がよい理由は、『スクリーニングすべき文献数を最小限にできるから』です。

検索の結果ヒットした文献が少なければ少ないほど、その後のスクリーニング作業が早く終わります。

医療従事者は忙しい中で文献検索をし、臨床に適用できるエビデンスを見つけなければなりません。

例えば、検索した結果、500件の文献がヒットしたとします。

『500件すべてに対してスクリーニングを行う』のと、『絞り込んで300件を除外し、残った200件にだけスクリーニングを行う』のとでは、後者の方が早く終わります。

図 検索フィルターとスクリーニング

この絞り込みに役立つのが検索フィルターです。

したがって、検索フィルターが豊富=絞り込みの方法が豊富であり、文献検索を効率的に行うことができます。

Google Scholarの検索フィルター

以下、Google Scholarの検索フィルターです。

図 Google Scholarの検索フィルター
  • 期間指定
  • 言語(すべてか日本語・英語か)
  • 種類(すべてか総説か)

の3つしかありません(並べ替えはソートなので検索フィルターには入れません)。

PubMedの検索フィルター

以下、PubMedの検索フィルターです。

図 PubMedの検索フィルター
  • 期間指定
  • テキストの有無
  • 記事属性
  • 記事の種類
  • 言語
  • 年齢

…など、たくさんのフィルターがあります。

なお、PubMedはフィルターを追加することが可能です。

図 PubMedの追加検索フィルター

このように、PubMedには豊富な検索フィルターが用意されています。

これによって、

  • 自分の臨床疑問のカテゴリーは『介入』だから、『ランダム化比較試験』に絞ろう!
  • 動物研究は除外してヒトを対象にした文献だけに絞ろう!
  • 対象者が高齢者である研究だけにしよう

といった絞り込みが可能になり、スクリーニングが早く行えるようになります。

これはGoogle Scholarでは行えません。

PubMedはGoogle Scholarよりも検索フィルターが豊富であるため、スクリーニングが早く終わり、効率的に文献検索をすることが可能です。

理由③ 質が低いジャーナルや文献がない

Google ScholarよりもPubMedを使うべき理由の3つ目は、『質が低いジャーナルや文献がない』です。

『質が低い』の定義は色々あると思いますが、ここでは『プレプリント』『ハゲタカジャーナル』を指します。

つまり、PubMedにはプレプリントやハゲタカジャーナルが収載されていない、ということです。

プレプリントとは?
研究成果を正式な学術誌に発表する前に、オンラインで公開する論文のことです。プレプリントは、査読が行われる前の段階で公開されるため、研究の速報性が高く、他の研究者や一般の人々に早期に共有することができます。

ハゲタカジャーナルとは?
学術的な基準や倫理を無視し、主に著者からの掲載料を目的に論文を受け入れる不正な学術誌のことです。こうしたジャーナルは、学術界における信頼性や透明性を損なう存在として問題視されています。

PubMedには収載基準がある

どの文献、どの学術雑誌でもPubMedに収載されるわけではありません。

PubMedには収載基準があります。

収載基準の概要(特にMEDLINEへの収載)は以下の通りです。

  • 査読(Peer Review)の実施
  • 倫理的ガイドラインの遵守
  • 科学的および技術的な質
  • 発行の定期性と一貫性
  • 編集方針と編集委員会の専門性
  • MeSH(Medical Subject Headings)の適用可能性
  • デジタル保存とアクセスの確保

詳細について知りたい方はこちらをご覧ください

ざっくり説明すると、PubMed(MEDLINE)は、厳格な基準に基づいて査読や倫理などを評価し、質の高い情報のみを収載しているということです。

これによって、『検索して見つけた文献が信用できない情報だった』という事態を防ぐことができます。

Google Scholarはプレプリントやハゲタカジャーナルの情報も含む

一方、Google Scholarにはプレプリントやハゲタカジャーナルの情報も含まれています

このため、せっかく検索して文献を見つけても、臨床に適用することができないことがあります。

言い換えると、文献検索した時間が無駄になってしまう可能性があるということです。

あるいは、質の低いエビデンスに基づいて医療を提供した結果、患者さんがよくならないという事態を招いてしまう可能性もあります。

このことから、Google ScholarではなくPubMedを使い、質の高い情報を検索するのが望ましいと言えます。

まとめ

最後に本記事のまとめです。

Google ScholarよりもPubMedを使うべき3つの理由は、

  • MeSH検索が使える
  • 検索フィルターが豊富
  • 質が低いジャーナルや文献がない

です。

ぜひ、PubMedを使った文献検索を身につけてください!

【完全初心者向け】PubMedを使った文献検索の記事はこちら

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