脳卒中患者さんの失語症へのリハビリは、言語聴覚士さんの代表的な仕事ではないでしょうか。

失語症について、今回紹介するBrady MC (2016) から引用し簡単に解説させていただきますと、失語症というのは一般的に優位半球損傷(例えば右利きの人であれば左の大脳半球の損傷)によって生じ、話すこと、読むこと、書くこと、ジェスチャー(身振り・手振り)の理解と表出が障害される症状です。

脳卒中患者さんの1/3が失語症を経験するとされています。

脳卒中治療ガイドライン2015では、言語障害に対するリハビリテーションのところで、言語聴覚療法は推奨グレードAとされています。

推奨グレードは、A、B、C1、C2、Dの5つがあり、Bは「行うよう強く勧められる」を意味しています。

言語聴覚士さんであれば、一度は必ず失語症のリハビリを行うことがあると思います。

今回は、2020年に出版されたBrady MC (2016) のコクランレビューを参考に、脳卒中患者さんの失語症への言語聴覚療法のエビデンスを紹介したいと思います。

Brady MC (2016) のコクランレビューの概要

まず、Brady MC (2016) のコクランレビューの概要を紹介します。

研究のリサーチクエスチョンは「脳卒中患者さんに対する言語聴覚療法は言語聴覚療法を行わない場合、もしくは社会的支援と刺激を行う場合、もしくは代替の言語聴覚療法を行う場合と比べて、機能的なコミュニケーション能力をはじめとする言語聴覚領域の能力を向上させるか」でした。

このレビューでの言語聴覚療法の定義は次のようになっています。

“言語、コミュニケーション能力、活動、または参加を改善することを目的とした、目的が明確なあらゆる実践課題または方法論” です。

※わかりやすくするため、少し意訳しています。

また、機能的コミュニケーションというのは、現実世界の設定でのコミュニケーション能力、ということを意味していて、話す・書く、あるいは非言語のコミュニケーションなどを組み合わせた能力のことです。

なお、機能的コミュニケーションを反映する検査バッテリーとして、Communicative Abilities of Daily Living (CADL)やCommunicative Effectiveness Index (CETI) が例に挙げられています。

システマティックレビューなので文献を収集するのですが、このレビューではランダム化比較試験のみを対象にしています。

検索対象になった電子データベースはCENTRAL、MEDLINE、EMBASE、CINAHL、LLBA、SpeechBITEなど複数のデータベースが使用されていました。

最終検索日は2015年9月ですので、6年前までに出版されていたランダム化比較試験が取り込まれているということになります。

検索した結果、取り込まれた研究数は64件でした。

この中で、「言語聴覚療法 vs 言語聴覚療法なし」で比較した研究は27件でした。

つまり脳卒中患者さんの失語症に対し、言語聴覚療法が、言語聴覚療法をしない場合と比べて機能的なコミュニケーションを改善させるかどうか、を調べた研究が27件だったということです。

今回は、この「言語聴覚療法 vs 言語聴覚療法なし」のメタアナリシスの結果を紹介します。

言語聴覚療法の種類とエビデンス

最初に、このレビューに取り込まれたランダム化比較試験でどのような言語聴覚療法が行われていたか、紹介します。

9種類報告されていまして、次の通りになります。

①従来の言語聴覚療法
②constraint-induced aphasia therapy(CIAT)
③melodic intonation therapy
④集中的言語聴覚療法
⑤集団言語聴覚療法
⑥ボランティアによる言語聴覚療法
⑦computer-mediated 言語聴覚療法
⑧コミュニケーションパートナーが関与する機能ベースの言語聴覚療法
⑨言語聴覚療法+鍼治療

言語聴覚療法は一般的に言語聴覚士さんが提供するものですが、国によっては言語聴覚士という資格がない国もあり、世界ではボランティアとか、コミュニケーションパートナーとか、そういう言語聴覚士ではない人が言語聴覚療法を行うことがあります。

こういった9つの言語聴覚療法が、言語聴覚療法をしない場合と比べて、機能的コミュニケーション能力を向上させるか、ということを検証しています。

メタアナリシスの結果として、脳卒中患者さんに対する言語聴覚療法は、言語聴覚療法を行わない場合と比べて、機能的コミュニケーション能力を向上させる、という結果になりました。

また、コミュニケーションに関わる各モダリティについても解析されています。

こちらについては、読みの理解、一般的な表出、書字の表出に対しては有効であるという結果になりましたが、聴覚の理解、物品の呼称、復唱、文章のコピーについては、残念ながら効果があるとはいえない結果になりました。

コミュニケーション能力の向上につながる

まとめになります。

脳卒中治療ガイドライン2015では、言語障害に対するリハビリテーションのところで、言語聴覚療法は推奨グレードAとされています。

また、コクランレビューでも、言語機能のモダリティによる部分はあるものの、大局的にみると脳卒中患者さんの機能的なコミュニケーション能力を向上させるという結果になっています。

今回はあくまで9つの言語聴覚療法を統合し、年齢や病期が様々な脳卒中患者さんに対する効果を調べたものです。

もう少し解像度を上げて、対象者の方を絞ったり言語聴覚療法の方法を限定することで、今回のレビューでは効果があるとはいえないとされた、聴覚の理解や物品の呼称などに対しても効果を期待することは可能です。

失語症はじめ、高次脳機能障害というのはメカニズムが未解明な部分が多いので、メカニズムが明らかになっていくとともにさらに有効なリハビリ方法も確立されていくのではないかと思います。

今後の研究に期待がかかります。

今回は「脳卒中後の失語症への言語聴覚療法のエビデンス」というテーマでお話しさせていただきました。

BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。

2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!

参考文献

Brady MC, Kelly H, Godwin J, Enderby P, Campbell P. Speech and language therapy for aphasia following stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Jun 1;(6):CD000425.