失語症患者さんへのリハビリは日本では言語聴覚士さんが担当される領域になると思います。
日本では、言語聴覚士さんがリハビリを行う時間は、1回あたり40〜60分が多いのではないでしょうか。
一方、海外の研究では1回あたり60分以上行われているものも少なくありません。
一般的にリハビリは量が大切と言われますが、失語症のリハビリにおいてはどうでしょうか。
今回は失語症リハビリにおけるリハビリの量の効果について、Brady (2016) のコクランレビューをもとに紹介します。
Brady (2016) のシステマティックレビューの概要
Brady MC (2016) のコクランレビューでは、脳卒中患者さんに対する言語聴覚療法が、日常生活でのコミュニケーションや失語症の改善に有効かどうかを調査しています。
2015年9月までに出版されたランダム化比較試験を収集し、取り込まれた研究数は64件でした。
これらの64件の研究データを使い、各種解析を実施しています。
例えば、次のような解析です。
● 言語聴覚療法 vs 言語聴覚療法なし
● 個別的な言語聴覚療法 vs グループ言語聴覚療法
● 専門家による言語聴覚療法 vs コンピュータによる言語聴覚療法
多くの解析がされていますが、その中に「高強度の言語聴覚療法 vs 低強度の言語聴覚療法」があります。
高強度とは、週あたりのリハビリ時間が多いこと、低強度とは週あたりのリハビリ時間が短いことを意味します。
つまり、失語症に対する言語聴覚療法は、週あたりのリハビリ時間が多い方がいいのか短い方がいいのかを調べた解析です。
ちなみに、高強度として提供された週あたりのリハビリ時間は4時間〜15時間、低強度として提供された週あたりのリハビリ時間は1.5〜5時間でした。
週5回リハビリを実施する場合で1日あたりの時間に換算すると、高強度は1日あたりおよそ50分〜3時間、低強度は1日あたりおよそ20分〜1時間、ということになります。
高強度の方が有効であるという結果に
解析の結果、”日常生活でのコミュニケーション” と “失語症の重症度” という2つのアウトカムにおいて、高強度の言語聴覚療法が有効であるという結果になりました。
なお、日常生活でのコミュニケーションは、Communicative Abilities of Daily Living(以下、CADL)などの指標が用いられています。
失語症の重症度は、Western Aphasia Battery(以下、WAB)、Aachen Aphasia Test (以下、AAT)などの指標が用いられています。
つまり、高強度は低強度と比べて、CADLやWAB、AATなどの成績がよくなる、ということを意味しています。
大局的にみると高強度の方が有効だが、注意点も
このように、大局的にみると週あたりのリハビリ時間が多い方が、失語症およびコミュニケーション能力に対しては有効であるという結果になりました。
一方で、注意点が2つあります。
ひとつ目は、取り込まれた研究が古いものが多いという点です。
お伝えした解析では7件のランダム化比較試験が取り込まれているのですが、2011年以前の研究しかありません。
古いものだと1981年の研究が含まれています。
2011年以降も失語症に対するリハビリのランダム化比較試験はたくさん出版されているので、それらを含めて解析し直すと違う結果になる可能性があります。
もうひとつの注意点は、脱落率の高さです。
脱落というのは、研究に途中で被験者が研究から抜けてしまうことを意味します。
何らかの疾患の発症などにより止むを得ない事情の場合もありますが、キツイからやりたくない、といった理由で脱落する場合もあります。
臨床的にどういう影響があるかというと、脱落率が高いリハビリをする場合、リハビリの途中で患者さんが「できない」「やりたくない」と訴える可能性が高くなるということです。
この脱落率について、高強度の方が脱落率が高かったと報告されています。
せっかく効果があるリハビリを提供したとしても、途中でリハビリをやめてしまっては効果が期待できないので、リハビリ開始前に患者さんに説明し、合意形成する必要がありそうです。
まとめます。
● 海外では失語症に対する高強度の言語聴覚療法が研究されている
● 高強度の方が失語症やコミュニケーション能力向上に有効
● 取り込まれた研究の発行年、脱落率には要注意
大局的に見たときは高強度の方が有効であるエビデンスがあるので、注意点を考慮しつつ、原則的には高強度で進めた方がいいと思います。
本日は「失語症へのリハビリは1回あたりの時間が多い方がいいのか?」というテーマでお話しさせていただきました。
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2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。
ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。
それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!
参考文献
Brady MC, Kelly H, Godwin J, Enderby P, Campbell P. Speech and language therapy for aphasia following stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Jun 1;(6):CD000425.