リハビリは日進月歩です。

日々、新しい論文が投稿され新しいリハビリの情報がアップデートされています。

これは私の意見ですが、専門家であれば常に世界最先端の情報をキャッチし、患者さんへは最新のエビデンスに基づいたリハビリを提供できるようになっておいた方がいいと思っています。

なので脳卒中リハビリの各分野において定期的にシステマティックレビューをやっているのですが、最近は失語症の論文ばかり読んでいます。

今回は、2011年以降のランダム化比較試験でよく見かける失語症リハビリを紹介します。

2011年以降によく研究されている失語症リハビリ

①集中的言語聴覚療法

1週間あたりのリハビリ時間を長くとり、集中的に言語聴覚療法を行うものです。

有名な研究はLancetに掲載されたBreitenstein C (2017) のランダム化比較試験で、集中的な言語聴覚療法の有効性を報告しています。

②Constraint-Induced Aphasia Therapy

CIATというのは、2001年にPulvermuller Fによって開発された言語のリハビリです。

CIATの元々のプロトコルには3つの原則があります。

(1) 制約(constraint)
CIATでは患者さんはジェスチャーなどの非言語的な方法ではなく、言語によるコミュニケーションアプローチを使用することが強く推奨されます。
(2) 大量の練習(massed practice)
元の CIAT プロトコルには、1 日 3 時間、合計 10 日間の介入でした。
(3) シェーピング(shaping)
課題の難易度は、患者さんに合わせて徐々に難しくなっていきます。

今はこれらの原則で不要なものがあるのではないかと色々と検証されている最中です。

③コンピュータ言語聴覚療法

名前の通り、コンピュータのソフトウェアやWebアプリを使った言語聴覚療法です。

海外ではStepByStepというソフトウェアが有効だったという報告があります(Palmer R 2012, Palmer R 2019)。

日本では花鼓というソフトウェアがあります。

自宅で、患者さんのペースで実施でき、リハビリの量を確保することができる点がメリットです。

慢性期の脳卒中患者さんでリハビリの量が確保できない、という方に対しては良いソリューションになるかもしれません。

④遠隔言語聴覚療法

理学療法領域や作業療法領域でも2019年前後から遠隔リハビリの研究が増えていますが、言語聴覚分野においても例外ではありません。

Virtual realityと併用した研究もあります(Maresca G 2019)。

⑤反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)

頭の上から磁気刺激を与える治療方法です。

rTMSだけ行う場合と、rTMSと言語聴覚療法を組み合わせる場合があります。

⑥経頭蓋直流電気刺激(tDCS)

頭の上から微弱な電気刺激を与える治療方法です。

tDCSだけ行う場合と、tDCSと言語聴覚療法を組み合わせる場合があります。

rTMSとtDCSの研究数はとても多いです。

⑦従来の言語聴覚療法

絵カードを見て描かれている物体の名前の呼称をしたり、描かれている状況の説明をする、フリー会話課題、ジェスチャーなどの代償戦略の学習などです。

ランダム化比較試験は介入群と対照群に分けてリハビリを行います。

従来の言語聴覚療法は、対照群で行われていることがほとんどでした。

ちなみに、先日出版された脳卒中治療ガイドライン2021では、失語症・構音障害へのリハビリとして

● 言語聴覚療法を行うこと(推奨度A)
● グループ訓練やコンピュータ機器を用いた訓練(推奨度B)
● CIAT(推奨度C)
● rTMSやtDCS(推奨度C)

の記載があり、先ほど紹介したリハビリと多くが一致しています。

集中的言語聴覚療法や遠隔リハビリについては記載されていないので、システマティックレビューやランダム化比較試験を読んで、有効性について判断したいところです。

こちらについてはまた機会があれば紹介します。

また、失語症のリハビリとして、国内でよく行われるのは刺激法・遮断除去法、PACE、AAC、認知神経心理学的アプローチ、などがあります。

これらは伝統的なリハビリとして以前から行われており、言語聴覚士さんには馴染みが深いものではないかと思います。

ただ、残念ながらこれらの方法については2011年以降のバイアスリスクの低い研究で見かけることはありませんでした。

再現性に課題がある

最新のリハビリで、かつ効果があると報告されているものであれば、なるべく早く取り入れて患者さんに還元したいところですが、日本では再現性の点で課題があります。

例えば集中的言語聴覚療法やCIATは実施する上で時間がかかります。

多くの研究では1回あたり2時間以上は実施されており、これを日本の医療保険・介護保険内で再現することは難しいです。

また、コンピュータ言語聴覚療法やrTMS、tDCSなどは機器やソフトウェアがなければ取り扱うことができません。

遠隔リハビリはZOOMなどを用いることである程度再現可能かもしれませんが、日本の法制度上、完全に法的にホワイトで進めていくことはなかなか難しいです。

特に保険制度内では再現が難しいので、紹介した新しいリハビリを提供するのはしばらくは保険外リハビリを提供する人たちになるか、研究をするために特別に時間をとる、という方法を取るしかないのかなと思いました。

いずれにせよ、良いリハビリが患者さんに届くよう、臨床・研究ともに頑張っていきましょう!

本日は「2011年以降によく研究されている失語症リハビリ7選」というテーマでお話しさせていただきました。

BRAINでは脳卒中EBPプログラムというオンライン学習プログラムを運営しております。

2021年前期はおかげさまで満員御礼となりましたが、後期は10月から開始、募集は7月〜8月ごろから開始する予定です。

ご興味がある方はよかったらホームページを覗いてみてください。

それでは今日もリハビリ頑張っていきましょう!

参考文献

Breitenstein C, Grewe T, Flöel A, Ziegler W, Springer L, Martus P, Huber W, Willmes K, Ringelstein EB, Haeusler KG, Abel S, Glindemann R, Domahs F, Regenbrecht F, Schlenck KJ, Thomas M, Obrig H, de Langen E, Rocker R, Wigbers F, Rühmkorf C, Hempen I, List J, Baumgaertner A; FCET2EC study group. Intensive speech and language therapy in patients with chronic aphasia after stroke: a randomised, open-label, blinded-endpoint, controlled trial in a health-care setting. Lancet. 2017 Apr 15;389(10078):1528-1538.

Stahl B, Mohr B, Büscher V, Dreyer FR, Lucchese G, Pulvermüller F. Efficacy of intensive aphasia therapy in patients with chronic stroke: a randomised controlled trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2018 Jun;89(6):586-592.

Martins IP, Leal G, Fonseca I, Farrajota L, Aguiar M, Fonseca J, Lauterbach M, Gonçalves L, Cary MC, Ferreira JJ, Ferro JM. A randomized, rater-blinded, parallel trial of intensive speech therapy in sub-acute post-stroke aphasia: the SP-I-R-IT study. Int J Lang Commun Disord. 2013 Jul-Aug;48(4):421-31.

Palmer R, Dimairo M, Cooper C, Enderby P, Brady M, Bowen A, Latimer N, Julious S, Cross E, Alshreef A, Harrison M, Bradley E, Witts H, Chater T. Self-managed, computerised speech and language therapy for patients with chronic aphasia post-stroke compared with usual care or attention control (Big CACTUS): a multicentre, single-blinded, randomised controlled trial. Lancet Neurol. 2019 Sep;18(9):821-833.

Palmer R, Enderby P, Cooper C, Latimer N, Julious S, Paterson G, Dimairo M, Dixon S, Mortley J, Hilton R, Delaney A, Hughes H. Computer therapy compared with usual care for people with long-standing aphasia poststroke: a pilot randomized controlled trial. Stroke. 2012 Jul;43(7):1904-11.

Maresca G, Maggio MG, Latella D, Cannavò A, De Cola MC, Portaro S, Stagnitti MC, Silvestri G, Torrisi M, Bramanti A, De Luca R, Calabrò RS. Toward Improving Poststroke Aphasia: A Pilot Study on the Growing Use of Telerehabilitation for the Continuity of Care. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2019 Oct;28(10):104303.